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ミステリの祭典

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録音された誘拐
大野糺&山口美々香シリーズ

作家 阿津川辰海
出版日2022年08月
平均点6.57点
書評数7人

No.7 7点 よん
(2024/10/23 11:28登録)
探偵事務所の所長が誘拐されるというのがまずユニーク。さらに依頼を受けた犯罪請負人が犯罪を美しく実行するというのもユニーク。そんな誘拐事件に、大野探偵事務所の他の二人の探偵、耳が良い探偵とカウンセリングを得意とする探偵が挑む。
という具合に、そもそもの事件の構図がユニークだし、そこからの展開もユニーク、そして真相は意外というものだが、それだけでは終わらない。終盤の終盤でこうだろうと思っていた光景が実はそうではなく、全く異なる綱渡りだったことが明かされる。二種類の衝撃を味わえる作品となっている。

No.6 7点 zuso
(2024/06/30 22:15登録)
探偵事務所の所長・大野が誘拐された。助手の美緒は、自慢の耳の良さで犯人との通話から相手の様子を探ろうとする。誘拐された大野も、わずかな機会を活かして情報を伝えようとするが。
現在進行形の誘拐と並行して、大野の一家が巻き込まれた15年前の事件が掘り起こされる。分断された二人の探偵がどのように連携して犯人との駆け引きを繰り広げ、真相に辿り着くのかの緻密な展開の頭脳戦を堪能できる。

No.5 7点 ぷちレコード
(2023/10/23 22:23登録)
大野物産の御曹司でありながら家を飛び出して探偵事務所を開いている大野糺が誘拐される。大野の右腕ともいうべき山口美々香がたまたま大野家を訪ねていて、警察とともに事件を追求していく。
特徴的なのは美々香が飛び切り耳がよくて、微妙な音も聞き逃さないという点。しかも大野もまた名探偵的な推理力を持ち、誘拐犯と戦うのだが、この誘拐犯が極めて狡知に長けていて、探偵と犯罪者の頭脳戦が繰り広げられるからたまらない。
大野家の深い謎、美々香と家族の秘密などのサイドストーリーがメインストーリーを支えて劇的な展開を生み、度重なるどんでん返しに繋がるのがお見事。

No.4 7点 HORNET
(2023/02/12 16:02登録)
 大野探偵事務所の所長・大野糺が誘拐された。驚異的な聴力をもつとされる助手・山口美々香は様々な手掛かりから、微妙な違和感を聞き逃さず真実に迫るが、その裏には15年前におこった大野家の隣人の誘拐致死事件の影があった。誘拐犯VS.探偵たちの息詰まる攻防、二転三転する真相の行方は……。

 とらわれた大野糺と誘拐犯とのやり取りと、警察・美々香側の捜査が交互に描写され、両者の攻防が臨場的に描かれている。複線として美々香の家族にまつわるストーリーもあり、物語に広がりをもたせている。
 終盤にはさまざまな事柄について裏の裏があり、ちょっと仕掛けに凝りすぎている感じもしないではないが、糺&美々香コンビに望田を加えた大野探偵事務所3人の温かな関係性は心地よく、よく作られた話だと思った。

No.3 5点 虫暮部
(2022/11/10 12:17登録)
 事件の様態は面白いが、真相はスッキリしない。
 複数の思惑が絡み合っているにしても、過剰な演出。それがどういう形で犯人の復讐心を満たしたのか今一つ納得出来ず。二つまとめて決行した方が無防備で確実だろうに。未確認情報を当てにしてそこまでやるかと言うのも疑問。

 糺が犯人に対して美々香の有能さをアピールすると、彼女が狙われるリスクは高まるわけで、無神経では。と見せ掛けて、糺はそのように犯人を操って美々香を殺させようとしているのでは、と本気で疑った。

 録音内容の文字起こしに【……】【!】などが使われていて、えらく文学的だな~(笑)と思った。それとも実際にあんな風に書くのだろうか。

No.2 7点 人並由真
(2022/11/05 06:27登録)
(ネタバレなし)
 資産家である実家を離れ、大学の後輩である美女・山口美々香たち二人の助手と、しがない事務所を営む28歳の私立探偵・大野糺(ただす)。その糺が誘拐され、実家の大野家に3000万円の身代金の要求がある。誘拐計画には、裏社会の謎の犯罪コンサルタント「カミムラ」が関わっていた。超人的な聴覚の主として周囲に知られる美々香は山口家に赴き、捜査陣とともに大野救出のため尽力する。だが、そんな大野家には何か秘密が潜み、そして同家の周囲で殺人事件が生じた。

 評者は短編集『透明人間は密室に潜む』はまだ未読なので、この探偵コンビとは初対面。もともとシリーズキャラにするつもりはなかったものの、生みの親に愛着が生じて再登場させたのだという。よきかな、よきかな。

 誘拐される(された)名探偵という設定を聞くと、ホントーならいくつか類似の趣向の作品が思い浮かぶハズだが、なぜか現状でぱっと頭にタイトルが出てこない。すぐ出てくるのは未訳長編で、ドラ・マールに救われるポール・ベックくらいだな。
 あー「囚われたポール・ベック(未訳)」どこかから翻訳して出してくれ!
(※註釈)

 でまあ、例によって非常に練り込まれた作品で、最後に明かされるサプライズのてんこ盛りと、そこに至るための膨大な伏線の数々には唖然としました。

 でもまー、文生さんのおっしゃるとおり、フーダニットパズラー的には犯人は丸わかりですな。このミスディレクションにひっかかる読者はそうそういないだろうし。というか作中で(中略)が、ソレをそのままスイスイ受け取り、念入りに裏もとらないのが、なんだかなあという感じであった。

 とはいえたぶん作者も、ソコは弱いとわかっていたからこそ、終盤にゲップが出るほど、アッチの方向での仕掛けのカベを厚塗りしたんだと思う。その量感と熱量には、まちがいなく感服。

 ただ、この主役探偵が誘拐されるという設定、もうちょっとシリーズが進んで、読者にしっかりキャラがなじまれてから御馴染み路線の変化球として放った方が良かったんでないの? とも考えた。
 まあ葛城シリーズでも二作目から「名探偵の実家で起きる連続殺人」というオドロキの趣向を採用し、劇中の名探偵のポジショニングには実にクセのあるところを見せる作者なので、その辺はさっさとやってみたかったのかもしれない。
 さらに重要なこととして、美々香のキャラクター設定をミステリファンに十全に浸透させるためには、大野の誘拐~大ピンチという趣向は実に都合がよかったであろうし。
 前述の、とにかく犯人当てとしては弱い、というウィークポイント以外は、いろいろと盛り込まれた秀作。

 なお作者の阿津川先生、Twitterで日々のご近況を窺うとお体の御具合があまりよろしくないようなので(詳細は明かされていないが)、どうぞくれぐれもお大事にと、ファンの末席からひとこと述べさせていただきます。

【註釈】……レビューを一回書いた直後、国内とか海外とかで、長編の該当作品をいくつか思い出した。ネタバレにはならんものが多いと思うが、あえて作品名はどれもあげないでおく。東西で五つ以上あるよネ。

No.1 6点 文生
(2022/08/28 07:36登録)
短編集『透明人間は密室に潜む』に収録されている「盗聴された殺人」の続編。
名探偵である大野糺が誘拐される話であり、探偵サイド・助手サイド・警察サイドと複数の視点から真相に迫っていく展開はテンポがよくてかなりの面白さです。要所要所で繰り出される巧みなロジックを用いた推理も本格ミステリとして読み応えがあります。
ただ、犯人隠蔽のために用いられたミスディレクションやトリックが単純すぎて直感的に犯人がわかってしまったのは残念。それから、裏で糸を引く犯罪請負組織の存在が個人的にあまり好きではありません。いろいろな業界に影響力があって関係者を手足のように動かせるという設定はちょっと都合よすぎるのではないでしょうか。さらに、『蒼海館の殺人』でさんざん言われた”人を自由に操りすぎ問題”はこの作品でも顕著です。
というわけで、十分に楽しめたのだけど、不満点も多いということでこの点数。

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