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ミステリの祭典

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希望の糸
加賀恭一郎シリーズ

作家 東野圭吾
出版日2019年07月
平均点6.67点
書評数6人

No.6 7点 HORNET
(2023/03/31 21:23登録)
 2人の我が子を災害で亡くしたのち、新たに授かった娘を育てるシングルファーザー・汐見行伸。夫と離婚後、一人で喫茶店を営んでいた女性・花塚弥生の殺人事件。離れた場所で起きている、全く関係のなさそうな事案が、加賀恭一郎らの捜査によって結び付けられていく―

 著者の作品群では、特に加賀恭一郎シリーズが好きで好んで読んでいるのだが、本作では加賀の従弟であり部下である松宮脩平が前面に出ている作品。その松宮自身の問題も複線的な物語となっており、厚みのある作品ではあったが「加賀の鋭い推理による事件解明譚」を期待して手を付けた身としてはちょっと肩透かしだった。
 ただ、喫茶店経営の女性殺害事件と、その裏にある父子家庭の家庭事情が結びついていく過程は予想できる類のものではなく、相変わらずの著者の多彩なアイデアには感嘆した。

No.5 8点 take5
(2023/03/04 13:30登録)
ミステリーの技巧はさほどでなく、
文体も連城作品等ほど流麗でなく、
状況設定も確率高いものではなく、
しかしこうして読後感が高い故は、
自分が親であり、また子でもあるからでしょう。
親子のつながりはよく糸に例えられますが、
本作品では、様々な糸が織り成す人間模様が、
書き込まれています。
東野圭吾氏も還暦なんですね。
テーマは年月と共に変遷するのですね。

No.4 6点 E-BANKER
(2022/10/02 13:45登録)
「祈りの幕が下りる時」に続く、加賀恭一郎シリーズ作品。当シリーズも数えて十作目に突入。随分と長いシリーズとなったものだ。
それだけ作者の思い入れも強いシリーズだろうし、「ガリレオ」シリーズと並ぶ作者の代表的シリーズとなった。
2019年発表。

~小さな喫茶店を営む女性が殺された。警視庁捜査一課の加賀警部補と松宮が捜査しても、被害者に関する手掛かりは「善い人」というだけ。彼女の不可解な行動を調べるうち、ある少女の存在が浮かび上がる。一方、金沢の地でひとりの男性が息を引き取ろうとしていた・・・。彼の遺言書には意外な人物の名前があった。彼女や彼が追い求めた「希望」とは何だったのか?~

前作で、追い続けていた家族の問題に一応のケリをつけた加賀に代わり、本作では松宮が自身の「家族」の問題に直面するとともに、「家族」そして「血」にまつわる殺人事件に深くのめり込むこととなる。
本作、本格ミステリーとしては語るところは少なく、特に見るべき個所もない。真犯人は中盤から終盤に差し掛かる辺りで確定してしまうし、何かしらのトリックや仕掛けがあるわけでもない。
なので、他の方も書かれているとおり、そこら辺に期待してはダメだ。

本作のキーワードはやはり「親子」ということになるのだろう。特に、「親」が「子」にかける想い。
世の中には「子」を追い求めても叶わない人もいる。苦労して手に入れた「親子関係」に苦悩し、傷つけあい、壊れていく「親子」もある。
それは人それぞれ、様々なケースがあると言ってしまえばそれまでなのだが、作者は「親子の絆」こそ永遠であり、特別なものなのだと言いたいに違いない。
私も2人の子を持つ親なのだが、同時に「子」でもある。そんなの当たり前だろっ!って思っていたのだが、それは決して当たり前ではなく、決して得難い存在であり、ある意味「奇跡」なのだ。物語の終盤、金沢で息を引き取る寸前の男「芳原真次」が、かつて1度しか話したことのない息子に対して「それでも、長くても、切れさえしなければ糸がつながっている。」と話していたという場面がある。まさに本作のタイトルにつながるシーンなのだが、うーん「糸」かぁ・・・
そうなんだろうな。われわれは親から子へ、そして子が親となり、親から子へと、切れない糸をつないでいるということなんだろう。

ラストシーンを迎え、本作の登場人物たちは殺人事件という荒波を潜り抜け、「希望の光」「希望の糸」を見つける。捜査にのめり込んでいた松宮もまた、「希望の糸」の存在に気付くのだ。
東野圭吾氏も60歳をこえ、作家として円熟期を迎えたということじゃないかな。もはや、トリックメーカーや斬新なプロットではなく、「人間」というものを深く洞察していく、心の琴線に訴える作品を紡ぐ、そんな年齢になったということと感じる。

「新参者」から第二シーズンに入った本シリーズも本作で何となくすべての片がついたような雰囲気。次作からは新たなシーズン、新展開が待っている予感もしてきた。(違うかな?)

No.3 8点 makomako
(2022/09/03 07:11登録)
 久しぶりに感動した東野氏の作品です。
 氏は本来優しさと悲しみを本格推理小説としての形態で実に巧みに表現できる方と思っていますが、最近あまりにも多作で内容が薄まっているのが気になっていました。とにかく新作を発表すれば売れるのでどんどん書かざるを得ないのでしょうかね。作者の若い頃の作品は本当に素晴らしかった。リアルタイムで読んできたものとしては最近の傾向はちょっと心配な感じもしていました。
 この作品は作者が初めから書き続けている加賀シリーズです。トリックとしてはさほどのことはないのかもしれませんので、がちがちトリック好きの方にはあまり評価されないかもしれません。
 しかし人間のせつない望み、どうしようもないさだめや運の悪さ、それらから何とかもがいて脱出せんとする姿などを美しく描いている素敵な小説です。

No.2 6点 nukkam
(2022/07/29 16:56登録)
(ネタバレなしです) 2019年発表の加賀恭一郎シリーズ第10作ですが加賀は脇役で主人公は従弟の松宮脩平です。加賀(警部補)は松宮(刑事)の上司として、また年長の親族として松宮をサポートします。殺人犯の正体は中盤あたりで早々と明らかになり(ここは加賀が美味しいところを持って行きます)、後半は犯行動機に関わる秘密を松宮が調べていく展開が「悪意」(1996年)に通じるところがあります。その過程で形成される複雑な人間ドラマは実に読み応えがあり、個人的には文学的でさえあると思います。タイトルも内容をよく反映しています。一方で加賀の出番が少ないことや謎解き本格派推理小説としては物足りないところは(厳密には推理で犯人が判明したわけではない)読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。

No.1 5点 mozart
(2019/09/12 20:44登録)
加賀恭一郎シリーズ(メインキャラは松宮ですが)としては、全体的にやや「薄味」だったかな、という印象です。松宮の出生に纏わる話もそれほど感動的ではなかったし。
事件を取り巻く「糸」の中心にいた人物が、最後に真実を知った上で「それって、そんなに大事なこと?」と言い放った後、「とりあえず、今は」と付け足したのは、いずれ事件の当事者たちや松宮のように彼女も「血の繋がり」の重さを知る時が来る、ということなのかも。最後の松宮の話も含めて、結局はそれが大きな位置を占めているというストーリーになっていたし。そう考えると行延や哲彦の「糸」はどうなってしまうのかと、ちょっと気が重くなってしまいました。
全然関係ないですが、中学生に対する「脂肪が全くついていない身体」という表現に、著者も自分の腹回りを気にしているのかなと思うと、妙に「共感」してしまいました。

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