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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1768 8点 切断島の殺戮理論
森晶麿
(2024/08/01 13:35登録)
 おっと麻耶雄嵩かと思ったら白井智之だった、と思ったら実は小林泰三かも。何処までも逸脱した無謀な飛躍を、私はポカンと見上げるしかない。この発想は大好きだ。
 “欠落” を抱えた島民達があまりに記号的なのは如何なものか。様々な不便さがあったり、それを補う慣習が生まれたり、と言った生活感が皆無。ポリコレ的に身体障害者を描きづらい、みたいな事情だったらつまらない。しかし題名通り “理論” の物語ならば、必要なのはまさに “記号” なのだろうか?

 ところで “鷹丘裂季” の発音が “高岡早紀” なのはわざと? イヤ、法月綸太郎じゃあるまいし……。


No.1767 7点 マヂック・オペラ
山田正紀
(2024/08/01 13:34登録)
 歴史には疎いので……勉強になりました。それはつまり、“定説を引っくり返した妄想” に驚くだけの素養が足りないと言うことであって、架空の国の戦争系ファンタジーでも読んでいるような気分だった。


No.1766 7点 ぼくらは回収しない
真門浩平
(2024/08/01 13:34登録)
 総じて良く出来ているし、読ませる引力がある。で、私は殺人を扱った話が好きなので、やはりそちらに目が行ってしまうのだ。特にこうして混在する短編集の場合、ミステリ的な良し悪しより題材で評価しちゃう傾向が強いなぁと改めて気付いた。
 密室の物理トリックは初めて読むパターンで感服した。それでいて真相がアレってのは、“大駒を捨てて、と金で王手” みたいな大胆な戦略じゃないか。


No.1765 6点 蔭桔梗
泡坂妻夫
(2024/08/01 13:33登録)
 泡坂妻夫の職人もの/恋愛小説はどれも、構造と言うかストーリーのリズム感のようなものがワン・パターンだと感じる。ミステリならそもそもパターンに則った文芸形式であるから気にならない部分なのに、ミステリ度が薄まるにつれて鼻に付くようになってしまうのかも。そのへんに関して、こちらから一歩、意識的に作品世界に歩み寄らねば読めなかった。
 とはいえ、直木賞受賞作にしては意外に楽しめた。


No.1764 5点 ランボー・クラブ
岸田るり子
(2024/08/01 13:33登録)
 悪くはないが、こういう話は諸々の作家で何冊も読んだ。“曖昧な記憶” と言う題材は使い勝手が良いのだろうか。
 “回りくどい” と作中人物も言っているが、その真相の説明が最後にドバーッと来て疲れてしまうのは、やはり書き方が拙いのだと思う。二件の殺人事件が “記憶の謎” のついでみたいに感じられてしまい被害者が気の毒だな~。


No.1763 8点 私雨邸の殺人に関する各人の視点
渡辺優
(2024/07/26 12:26登録)
 クローズド・サークルに細かい工夫をアレコレ施した、派手ではないが意義のある果実。私はホワイダニットに注目。あの心理が成立する状況は調っていたと思う。

 途中、某がAC作品を引き合いに出して “子供だからといって侮ることはできない” と思考している。しかし、フィクションを根拠にして現実の一般論を語っても無意味だ。もっとも、その人の浮かれたキャラクターは、確かにそんな風に考えそうでもある。私はこの部分をアイロニーとして受け取ったけれど、それにしてはさりげなく書き過ぎではないか。
 それとも、私の気付かぬところにそういう棘がもっと埋まっているのだろうか。人は見たくないものは見ない生き物だからね。


No.1762 7点 ミステリ・オペラ
山田正紀
(2024/07/26 12:25登録)
 え、これSFじゃないの? ミステリである以上投げっ放しには出来ないのであって、必ずプロローグに立ち戻らねばならない宿命がこの長さと相容れるのか。“ミステリ” と掲げられたタイトルだけを命綱に谷底へいざ降下。 

 確かに神の扱いは神シリーズ(SF)よりも『神曲法廷』(ミステリ)に近いだろうか。不穏な戦時下の空気感は呪師霊太郎シリーズや『機神兵団』。平行世界説は『花面祭』『螺旋』。個人的には、目立たない作品だが『宿命の女』を想起した。更にヴァン・ダイン『僧正殺人事件』へのこだわり(笑)。
 山田正紀マナーの集大成みたいな感じで、それ故に既視感も強い。面白くしたいなら得意技を全部投入すりゃいいんだろ! と良くも悪くも開き直ったか。濃度の割に読み易く、しかし読んでも読んでも終わらないので胃もたれ必至。このバランス感覚の欠如こそ山田正紀、ではある。
 “これ” はそもそも何なのか? と言う謎に埋もれて殺人事件が単なる徒花みたいに見える。と言う事実こそがコンセプトの勝利を物語る。

 ただ――ごちゃまぜのスープが黄金の一滴に “化ける” 瞬間が、ついに訪れなかった。これだけやられても、私は “理解” を手放して飛び降りることは出来なかったのである。


No.1761 6点 国歌を作った男
宮内悠介
(2024/07/26 12:24登録)
 こういう雑多な短編集は好きな筈なんだけど、本書はあまりその点が生きていない気がする。短編のサイズ感と内容のスケールがズレているものや、雰囲気モノに留まってしまったものが混在。中では「三つの月」「十九路の地図」が良いと思った。どこまで本気か読めない「料理魔事件」はミステリ?


No.1760 6点 天の声
スタニスワフ・レム
(2024/07/26 12:23登録)
 読みながら思い出した一節がある。

 【しかし、なぜ締切りまで構想が浮かばなかったかについての物語ばかりになりかねない。いいわけ小説という新分野もしばらくはいいだろうが(後略)】  星新一「いいわけ幸兵衛」

 それがコレだよ。また(孫引きだが)レム自身のコメントから引くと、

 【たとえ最新の科学の装置や知識で身を固めたとしても、そういった現象が偶然なのか、意図的なのか、ということさえ解決できない。】

 と言うことで、“認識の限界” を数々のはぐらかしによって語った本作は、後期クイーン問題についての実践的解説書である。まぁこんなに長々と説かれても扱いに困るんだけどね……。


No.1759 4点 紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と
歌田年
(2024/07/26 12:23登録)
 紙ネタに限定することでクリエイティヴィティを励起させようとする戦略は悪くない。しかし今作には作者のその意図に登場人物の言動が縛られているようなぎこちなさが漂っている。特に心中の経緯を説明的に説明されても何じゃそりゃとしか思えない。


No.1758 7点 ときときチャンネル 宇宙飲んでみた
宮澤伊織
(2024/07/18 11:43登録)
 『裏世界ピクニック』の副産物みたいな作品? あっちでは恐怖心と言うソフトウェアを経由しているところ、こっちでは多田羅さんが無造作に実物をぬっと引き寄せてしまう。理解と混乱をシームレスに記述して読者が一歩遅れてビクッと来る流れは癖になるな。

 私は動画配信って見たことがなくて、それを扱った小説や漫画で “フムフム、今はこういうメディアがあるのか” と間接的な知識として知っているだけなのだが、全般的に変なチキン・レースみたいな話ばかりで何が面白いのか判らない。面白そうだと思った配信の小説は本作がほぼ初。サイエンスの小ネタも意想外の切り口で良し。


No.1757 7点 何故エリーズは語らなかったのか?
森博嗣
(2024/07/18 11:43登録)
 このシリーズにしては結構ミステリ的な “謎とその解明過程とその真相” な感じ。シリーズの予備知識が無くても単独で読めそう。そこが良かった。

 “エリーズ・ギャロワ博士がグアトに会いたがっている” との噂の真相は何だったのか? 博士は自分が消えた後、“究極の恵み” をどうする心算だったのか?“恵み” は同時に “Vで他者を消す方法” でもある。扱いに困って、不確定要素(グアト)を巻き込むことで不測の事態を起こそうとした、天命に委ねようとした、と言うのが最も有力な私の読みであるが……?


No.1756 7点 壁-旅芝居殺人事件
皆川博子
(2024/07/18 11:41登録)
 語り手が無味無臭で、重要な立場の割に部外者っぽい気分(名前が最後まで覚えられなかった)。そのせいで単なる好奇心からフラフラと探偵役じみた行動をしている、と思ったらラストの反転が効いた。
 登場人物の気持を非常に技巧的に扱っているなぁ、心理劇系かぁ、と読み進めると、存外に謎解き的な真相。しかし “ちょっとレコードのところにお行き” の台詞が後出しなのは如何なものか。


No.1755 6点 トラウマ文学館
アンソロジー(国内編集者)
(2024/07/18 11:40登録)
 ひどすぎるけど無視できない12の物語――そんな読み方もある、と新しい評価軸を提案するアンソロジー?
 ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』から一エピソードが抜粋されていてこれは面白かった。いや、語り手が実際に襲われていたらもっと良かったかも。
 深沢七郎の描く無差別殺人犯など “なんじゃそりゃ” なんだけど、こういう並びで読むと単なる脱力では片付けられない深みを覗き込んだような気になる。
 “セレクトのセンスによる付加価値” と言うのは有効なのだろうか。口の上手いセールスマンにまんまとセット商品を売り付けられたような感もあるが。単純に “ひどい話” と言うより、“どういう物語がトラウマになるか” の定義を問うている。

 人は皆、自分だけのトラウマ文学館を持っていて、それを他者に押し付けたい性質があるのかもしれない。いっひっひ。


No.1754 6点 創星記
川又千秋
(2024/07/18 11:39登録)
 本作の大部分(終章以外)は “宇宙時代の金星を神話の世界に構築し直す為の手続き” であって、実は『創星記前史』とでも呼ぶべきものではないか。芋虫が蝶に変わる際、蛹の中で一度ドロドロになると言う。それがコレ。
 スケールの大きな骨格には惚れ惚れするが、間を埋めて動かす筋肉たるべき文章が意外に通俗的。それ故に読み易くもあるので一概に非難は出来ないが、もう少し味わいが欲しいと私は思った。
 “無計画に増築されて迷宮状になってしまった衛星基地” と言う非常に魅力的なガジェットが、あまり生かされていないので勿体無い。確かにそこは本題じゃないんだけどさ。


No.1753 7点 望月の烏
阿部智里
(2024/07/12 12:11登録)
 人は(人じゃないけど)概ね大局観よりも自らの利で動く。しかしその私利私欲の総体が、個を翻弄する強い流れを作る。疲労困憊するしかない相互作用、ますます今日の外界の鏡像めいて見えて来た。
 個々の登場人物がちゃんと別々に造形されているので、四姫の鞘当てや澄生 vs 博陸侯の丁々発止の読み応えも半端ではない。ただ今作では主要キャラクターの中に気持をいれこめる相手がいなくなっちゃったなぁ。浜木綿の出番は?


No.1752 7点 オーラリメイカー
春暮康一
(2024/07/12 12:09登録)
 ジャンルとしてミステリでなくとも “謎とその解明” を内包する小説は少なくないわけで、本作も複数視点・時制トリック・多重人格ネタまで駆使して謎の種族を壮大なスケールで描き出している。しかも水面下にはぎっしり裏設定が詰まっていそうだ。
 まぁ人間だって “変な生き物” ではある。文庫版は〔完全版〕で改稿&新作短編追加、これが面白いので是非こちらで。
 ところでハードSFは特に、作品に関する解像度が作者の説明力と読者の理解力の鬩ぎ合いで決まるようなところがある。なので、もうちょっと判り易く説明して欲しい部分もあったが、“自分の無知を棚に上げて……” と言われたら反論出来ないかな。


No.1751 7点 氷雨
山田正紀
(2024/07/12 12:08登録)
 サスペンスフルなハード・ボイルドではあるが、パーツの組み合わせ方が結構パズラー的で、そこが良い。石投げ勝負は名場面。
 主人公の妻子に対する思いが、結局は “自分に都合の良い範囲” に落ち着いてしまった感があり残念。そこはちょっと説教臭く感じた。妻がこの結婚で得たのは苦労だけみたいなのに……。


No.1750 6点 枯草熱
スタニスワフ・レム
(2024/07/12 12:08登録)
 題名の読みはコソウネツ。
 真面目なまま気が触れたような冒頭から、中盤の鮮やかな反転でびっくり。下手するとバカミスな真相も、イメージのアップ&ダウンの波と上手く共鳴して面目を保った。思索的な作者だが本作は変に深読みしなくとも成立する立派なミステリだ。
 ただ行換えが少ないので非常に読みづらい。レトリックは楽しめる程々のところでバランスが取れているのに、書き付け方(? どう呼べばいいんだろう)のせいで大損してる。


No.1749 5点 地雷グリコ
青崎有吾
(2024/07/12 12:05登録)
 こういうややこしさは苦手。『カイジ』なんかもゲーム自体には今一つ乗り切れなかったなぁ。
 “ルールに則った読み合い” ならば、理屈としては何処までも裏の裏を読めるのであって、結局ストーリー展開上作者に都合の良い段階の読みを採用して勝敗を決しているに過ぎない、とか思ってしまう。
 良く出来てはいるのだろうが、まぁ好みの問題ってことで。

 〈地雷〉は、かなり確実に踏むけれど、最大でも計30段のダウンに留まるわけで、実はジャンケンの勝敗の方が結果に直結すると思う。真兎の勝利は、あの仕掛けのおかげと言うより、中盤で地道に巻き返したからでは?

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