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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2060件

プロフィール| 書評

No.1980 8点 ZOO
乙一
(2025/05/31 14:15登録)
 ゾゾッ! アウチ! おっしゃー! ずば抜けて掟破りなオリジナル。ゼウスも驚くオラトリオ。全部が面白恐ろしい。
 収録作どれもが紛う方無く乙一の作風でありつつ、短編集として瞠目すべきバラけ具合を顕現している。その中でも「神の言葉」と「SEVEN ROOMS」がファッキン・グレイト。

 「カザリとヨーコ」、双子としては不思議なネーミングが気になる。
 「陽だまりの詩」「SO-far そ・ふぁー」と並ぶとどう見てもル・クプル。何か言いたいことでもあったのかい。
 「落ちる飛行機の中で」は基本設定がおかしい(“突っ込んで死ななければ殺すぞ” は脅しにならない)けどまぁいいや。


No.1979 6点 早春賦
山田正紀
(2025/05/31 14:15登録)
 時代小説と言うよりも、慶長年間の八王子郷を舞台に『謀殺のチェス・ゲーム』のようなスーパーアドベンチャー・シリーズをやったもの?
 主人公達が具体的な命を受ける、つまりは事態の進行方向が定まるまでの前半部分は、キャラクター紹介の要はあるにしても少々くだくだしいかも。狭い共同体だから、幼馴染同士でああなってしまう、時代の習いは非情である。


No.1978 6点 デッドマンスイッチ ~警視庁トリタテ係~
幸村明良
(2025/05/31 14:14登録)
 “ジェットコースタークライムノベル” と謳っているが、読後に残っているのは全編に亘るユーモア。単純なギャグではなく、性格俳優が擦れ違いと中途半端な理解による齟齬を真顔で演じた。判り易く安っぽい書き方ではあるが良く出来たコントになっていると思う。一抹の人生論的哀愁と言うかもっともらしい性格分析を最後に挿んでみせたのも、意外と様になっていて良い。


No.1977 4点 ウッドストック行最終バス
コリン・デクスター
(2025/05/31 14:13登録)
 “普通” だなぁと思った。高評価の作品だと言う先入観が仇になったか。どうもポイントが上手く摑めず。
 “惨殺” だそうだが事件の様相は地味だし、目を惹かれるような展開や真相があるわけでもない。暗号の手紙だけは初級英語パズルってことで楽しめたけど……。


No.1976 4点 まっすぐ進め
石持浅海
(2025/05/31 14:13登録)
 イマイチ。推論を立てるに際して、“普通はこうだ” と一般論を踏まえないと先へ進めないのは判るが、その基準が狭量に感じる。見た目で判断している事項が多い。説明が長い割りに結論があまり面白くない。
 「いるべき場所」。曲がりなりにも一千万円用意出来るなら、別の選択肢もありそうなものだけど……?


No.1975 8点 GOTH リストカット事件
乙一
(2025/05/23 14:52登録)
 気持悪い思想を気持悪いまま甘美な夢に置き換えてしまう、これは危険な催眠薬だ。真相はありがちだが、手掛かりの設定がとても上手い。


No.1974 7点 ゾンビがいた季節
須藤古都離
(2025/05/23 14:51登録)
 粗筋紹介でネタバレしちゃ駄目だよ講談社。予備知識無しで読めば2章でまずサプライズがあるんだから!
 3章で困惑。4章で更に困惑。笑いこらえつつ第二部。錯綜が生み出すコメディを、さて何処に着地させるのかと読み進むと結構な力技で捻じ伏せてしまった。人々が皆それなりのところに上手く片付いたとは思う。教会のバーンダウンを撮れなくて残念だったね。登場人物が多いので、プロフィールを思い出し易く書く工夫は欲しかった。


No.1973 7点 COVERED M博士の島
森晶麿
(2025/05/23 14:51登録)
 改題版で再読。旧版でおかしいなと思った部分が修正されていた。やれば出来るじゃん。
 結構強引な美の理論(人の審美眼の単純さを前提にしているような)に読者を巻き込み、外見も内面もそこまでいじれるなら何でもアリになりかねない境界線上で戯れつつ、ギリギリ箍を外さずにミステリに踏み止まったスリリングな実験は、それなりに成功した模様である。


No.1972 5点 模造人格
北川歩実
(2025/05/23 14:50登録)
 長い長い。しかも視点がコロコロ入れ替わるので必要以上に混乱する。人格とか記憶とか、曖昧さを内包した題材のせいもあって、真相がどうでも良くなってしまう。
 そもそもこの真相は二者択一に近いし、それほどヒントが示されているわけでもない。ルーレットの玉が赤黒どっちに止まるか眺めていただけ、みたいな気分だ。


No.1971 7点 死の迷路
フィリップ・K・ディック
(2025/05/23 14:50登録)
 これはもしやSF版『そして誰もいなくなった』か? と思ったりもしたが、ミステリ的な緻密さを具えているわけもなく、反転に次ぐ反転に次いで、“そりゃないぜ” ってオチに堕ちてもディックだからなぁと言う曖昧な理由で許しちゃうけど、そのあとの理不尽な駄目押しが Oh, My God! と効いて私の心は不安定なまま本は終わってしまった。総合的に見ると纏まりは良くて読み進め易い。この設定、或る意味でクローズド・サークル?


No.1970 7点 アトポス
島田荘司
(2025/05/16 14:58登録)
 “人魚” のエピソードがビミョーだなぁ。世界設定がファンタジーではなく我々のこの現実に準拠している以上、ことの真相はああいうものにならざるを得ない。そしてそれは、冷静に考えれば最もありそうで、最もつまらない仕掛けである。
 動機に繫がってはいるがそこはどうとでもなりそうな部分だし、身体的特徴が殺人のトリックと無関係な点もエピソードの必然性を低めている。

 プロデューサー二人の死に方についても、現場の様相はもっと違ったものになるのでは。摂取出来るものは血液だけではない。一人を犠牲にして、もう一人は生き延びられるだろう(救助が間に合うかどうかはともかく)。


No.1969 7点 サイコトパス
山田正紀
(2025/05/16 14:58登録)
 “広義な意味でのミステリー” とは作者の弁。前半は、連作長編としては変則的ながら、比較的狭義のそれの枠に嵌まっていたと思う。“「森の小人」事件” のトリックは山田正紀作品の中で最も素晴らしいかも知れない。
 後半どんどんバラけて行って “広義な意味” に拡散するさまには焦った。判らなさがとても良く判った。


No.1968 5点 トライロバレット
佐藤究
(2025/05/16 14:58登録)
 こんな意味不明な題名にするとは強気だこと。でもこの作者の本はそんなんばっかだ。その意気や良し。それを手に取らせる信頼感を佐藤究は既に確立している。

 さて内容。やりたかったことは判る気がするものの、“三葉虫” は、作者が期待する程には、普遍的なイメージ喚起力を具えてはいないのではなかろうか。やや硬直気味のエピソードが収斂する先、即物的な爽快感をつい感じてしまったことは認めざるを得ないが、物凄く面白いとまでは言えない。


No.1967 6点 ペルソナ・ノン・グラータ
夏樹静子
(2025/05/16 14:57登録)
 5編中3編が佳品だからまぁOKだろう。阿漕な商売とカビ研究の二題を手際良く纏めている「カビ」。
 真実の更に先を行くオチにゾクッと来た「俯く女」。
 「宅配便の女」の真相は新本格みたいでびっくりだ。しかも箱の中にしっかり手掛かりが残されていたと気付いて悔しい。
 しかしこの作者、文章自体にもう少し個性が感じられると良いのだが。


No.1966 7点 ディプロトドンティア・マクロプス
我孫子武丸
(2025/05/16 14:57登録)
 世界観の変動に驚かされた。このジャンル誤認こそ、本作で作者が仕掛けた最大のトリックである(かも知れない)。あんな依頼が重なる偶然はどうかと思うが、キャラクター造形(の適度な緩さ)が良いのでまんまと乗せられてしまう。何じゃこりゃと苦笑しつつも、読んでいる時は楽しかった事実を否定してはいかんな。


No.1965 7点 Wi-Fi 幽霊
乙一・山白朝子
(2025/05/09 14:17登録)
 乙一と山白朝子の抱き合わせによるホラー傑作選。全9編中、書き下ろし1、今までアンソロジーだけで読めたものが1。あとは二人の既刊から採られていて、熱心な読者にとってはそこまでありがたい構成ではない。まぁ私が編者でも「SEVEN ROOMS」「神の言葉」は当然セレクトするさ。
 しかし何故今こんなものが編まれたのだろうか。ポップ・ミュージックの場合、新作の制作が上手く進んでいない時にツナギとしてベスト盤が出たりもするが……ちょっと心配だなぁ。

 書き下ろし作は両者の共通点を増幅したような雰囲気で、作者名を伏せたらどちらが書いたか判別不能であろう。そんな気持悪いスマホはさっさと捨ててしまえ、とのツッコミは成立しない。ネットワークとの接続を切るなど思いもよらない世代の寓話なのである。

 ところで、表紙は Adobe Stock だって。この本より先に、わざわざあんな写真を撮ってネットに上げた人がいるのか……。


No.1964 7点 毒入りコーヒー事件
朝永理人
(2025/05/09 14:17登録)
 “推理の不備” を予め宣言して無駄にハードルを高めておいて、緻密な騙しでキチンと期待に応えてくれた。
 綺麗に整い過ぎじゃないかと言う気もしたが、最後に気持悪いエピソードが飛び出したので良かった。
 結果的に、金持ち(?)と再婚して家を乗っ取ってしまったように見えるけど、そういう話じゃないのね……。


No.1963 6点 卒業のための犯罪プラン
浅瀬明
(2025/05/09 14:17登録)
 良い意味で陽性な、そこそこのリアリティ。個々のキャラ立ちが良く、各々それを踏まえた屁理屈を述べていて、ちゃんと別々の人が作者の頭の中で競い合っていたんだろうと感じさせる。
 概ねプラスマイナスゼロになる落としどころも、この世界観なら正解。大衆を統計的に十把一絡げで扱う会話はイヤなんだけど、経済学なら仕方が無いか。


No.1962 6点 闇に蠢く
江戸川乱歩
(2025/05/09 14:16登録)
 前半、御都合主義的に主要人物が集まり、かと言って特段何をするでもなく、話がどっちへ進んでいるのか判らんな~。たいしたことはない。まぁ拾った原稿だそうなので、乱歩の責任ではない。
 と思っていたら、命の危険を覚えてから俄然スリリングになる。これは私も大好物だ。まぁ乱歩が偉いわけではない。
 後年から振り返って見ると、乱歩はこの謎の作家の影響をかなり受けているように思われる。無事連絡は付いたのだろうか。

 蠢く春の虫は蝶、と洒落たネーミングである。


No.1961 6点 詩人と狂人たち
G・K・チェスタトン
(2025/05/09 14:16登録)
 作品の核に据えられた逆説とそれを囲む物語が何かチグハグなんだな。サイズが違っていたり配置が斜めにズレていたり。正しくない在り方こそが正しいのだ、と言う逆説なのだろうか。版元が “幻想ミステリ” と銘打っているおかげで少し飲み込み易くなったかも。

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