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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2006件

プロフィール| 書評

No.1926 8点 同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬
(2025/03/12 13:23登録)
 とても格好良い冒険小説だと思う。
 クローズド・サークルより剣呑な極限状況で、壊れそうになりながら足掻く少女達の苦闘。を読んで熱くならずにいらりょうか。戦争を題材にした表現にありがちな “模範的解釈” を迫る圧が薄いので、遠慮無く血湧き肉躍らせた。
 裏の裏を読んで勝つこともあれば、読みの浅い敵の行動に却って負けることもある。ってのが良い。『地雷グリコ』に欠けていたのはそれだ。


No.1925 6点 罪人よやすらかに眠れ
石持浅海
(2025/03/12 13:22登録)
 あまりに無色透明。大したエピソードも語られていない(ように感じる)のに、唐突に伏線が示されその裏の真実が浮かび上がってびっくり。雑誌掲載時にはそれだけで個性だったかも知れないが、一冊にまとまると、その無から有を生み出すような鮮烈さが却って仇になったか、単調に思えた。最終話だけは “事件” が最初からくっきり描かれていたけれど、他の話ももう少し色分けして欲しかった。謎の中身自体は良い出来。


No.1924 5点 日曜日には鼠を殺せ
山田正紀
(2025/03/12 13:22登録)
 絶体絶命難攻不落呉越同舟裏切り必至――みたいな短編をこの作者は幾つも書いており、それでは物足りないからもうちょっと引き延ばそう、と言うことで中編の祥伝社文庫に一冊、とまぁそれ以上のものではない。あの人が自ら身を投げ出すのは意外だったけど、基本設定が弱い(舞台になる “恐怖城” の情景がイメージ出来ない)ので後半の展開もあまり驚けない。漫画の原作には良いかも。


No.1923 5点 絶望の歌を唄え
堂場瞬一
(2025/03/12 13:21登録)
 語り手のキャラクターがイマイチなんだけど、その周囲の脇役達は色々な方向性の人がいて、惹き付けられる “場” になっている。或る種の諸行無常感を孕みつつもテンポは良く、熟練のカジュアルなハード・ボイルド(悪い意味ではない)。
 しかし読み終えて振り返ると、場当たり的にエピソードを並べた感じ。バランスが悪く、“伏線とその回収” にもなっていない。そういうことだったのか! と認識に快感が伴うような、フィクションとして面白い真相ではないのだ。


No.1922 3点 ハーメルンの笛を聴け
深谷忠記
(2025/03/12 13:21登録)
 何か変だ。
 ネタバレ気味になるが、一連の手紙と犯人のスタンスがおかしくないか。

 たまたま奇特な刑事がいたが、本来ならあんな地味な手紙では黙殺されかねない。単なる不謹慎な悪戯にも見える。“社会状況に対するメッセージがある” なら、マスコミに大々的に送り付けるとかする必要がある。
 勿論そういうことをすれば警戒され実行は難しくなる。実際、最後は情に訴えて見逃して貰っただけで、実質的には詰んでいたのだ。“ラストで示された目的の成就を優先する” なら、犯行予告などすべきではない。
 実際はどちらでもない。あの手紙のやり口はまるで、関係者を不安がらせ、あわよくば警察とゲームをしてみたい、“愉快犯” のようだ。犯人としては、自己正当化の為にも、そうとだけは思われたくない筈である。

 と言うことで、事件の表層的なプロットと、その根底の動機を、上手く寄り添わせることが出来ていないと感じる。そして、物凄いトリックがあるならともかく、本作の場合、“心情” に説得力が無いなら失敗ではないだろうか。

 そぐわない犯行がある点は、私も気になりました。


No.1921 8点 感応グラン=ギニョル
空木春宵
(2025/03/05 14:21登録)
 これはまた純度の高い文章。耽美だけでなく日常も的確に書けた上での夜の夢こそまこと。オリジナリティと言うよりは咀嚼力の高さで、とある嗜好に関する絶妙な良いとこ取りを成し遂げている(悪い意味ではない)。一見さんお断りみたいな顔して、意外にも3ページ頑張ったらその先はスルスル読めた。
 “苦しみが束になって心を焼き切る” とか、“食べてしまいたい” とか、“肉体の変容” とか、使い回しが気にはなる。そりゃあ同じ命題を何度も繰り返す作家なんて珍しくないものの、短編集の編集をもう少し戦略的に考えても良いのでは。


No.1920 7点 うそつき、うそつき
清水杜氏彦
(2025/03/05 14:21登録)
 “嘘発見器に伴うコミュニケーションの変容” と言った世界設定は良く考えられている。失い続けて哀しめないことの哀しさよ。誰の話が嘘か真か、主人公はこんがらがったが私にも判らない。
 終盤、“ピースが嵌まる” と言うよりは、流れるままに諸行無常エンディングへ着地したのは少々残念。ミステリ的な捻りを期待し過ぎた。
 これらを纏めて牽引する文章と、その向こうに感じられる世界へのまなざしや距離感は、とても心地良い。第5回アガサ・クリスティー賞受賞作と言われれば成程、ハヤカワ文庫JAに似合いそうな作品である。


No.1919 7点 臨床法医学者・真壁天 秘密基地の首吊り死体
高野結史
(2025/03/05 14:20登録)
 いや~、全然気付かなかった。三人称みたいな一人称記述がキャラクター設定とピッタリで、尚且つ作品成立上有効に機能しているあたり只者ではない。パズラーと言うよりは、児童虐待ネタの情緒的な雰囲気に流され気味なのがちょっと残念。しかしそれ故に反転の驚きが大きかったとは言えるので、それも有効な演出だろうか。


No.1918 5点 猫の耳に甘い唄を
倉知淳
(2025/03/05 14:19登録)
 読む前に題名を見てアレみたいだな~と思ったら本当にそうだとは。因みにインスパイアされてるのは題名だけじゃないよ。話の内容と無関係な装画がグッド。
 物語としてはまあまあだけど、加えられた仕掛けが面白さを増幅する方向へは働かなかった、と思う。“チラシ裏の怪文書” のエピソードは狙いがさっぱり判らない。


No.1917 4点 嗅覚異常
北川歩実
(2025/03/05 14:18登録)
 イマイチ。もともと情緒豊かな書き手ではないけど、それにしても “必要なことだけでいいでしょ” とばかりに速足で駆け抜けてしまった。書き下ろしの中編と言う企画に対してアイデアのサイズを見誤ったか?


No.1916 7点 花嫁は二度眠る
泡坂妻夫
(2025/02/28 12:39登録)
 泡坂妻夫っぽい遊び心は影を潜め、なかなか上手く “普通のミステリ” に擬態してみせた。首吊りのトリックはナイス(タイミングを図るのは難しそうだが)。読み返すと伏線も色々細かく張られていて楽しい。
 ただ、それよりも私が引き込まれたのは人物造形の妙。この人がこう思ってこう動く、それに反応してあの人がああ動く、と言う絡み合い方に非常に説得力を感じた。普通じゃない選択をする状況もしっかり設定されている、と思う。
 ラスト・シーンについて。犯人は二人殺して、死刑を回避出来るのだろうか。情状酌量の余地があまり無い気がするんだよね。つまるところ動機は保身と金だし。そして、出席者の顔ぶれ。事情は伏せたんだろうけど、いずれ知れるでしょう。残酷だよ……。


No.1915 7点 蜘蛛の糸は必ず切れる
諸星大二郎
(2025/02/28 12:38登録)
 怪奇小説第二弾。殺人事件が起きたり、記憶が曖昧だったり、叙述トリック(と言う程でもない)だったり、追う者追われる者だったりと、ミステリ的趣向……なのかと思わせておいて全然そうではない。黒々と墨でにゅるりと象ったような語りの密度は高く、中でも「船を待つ」の寂れた港の空気感とあやふやな結末が良かった。


No.1914 6点 北の椿は死を歌う
皆川博子
(2025/02/28 12:38登録)
 椿姉妹を始め事態の原因となったアレコレが面白いのに、最後に駆け足で説明されるだけ。裏側に引っ込め過ぎではないか。斎原家を訪ねるあたりまでは表側から描くのも仕方ないが、後半は倒叙っぽくして殺しの過程や心理をしっかり書いて欲しかった。暴走して殺しのハードルが下がるあの人と、“ついて行けん” と見切ってしまうあの人と。だいたいそっちの方が作者の得意技じゃないか。

 はっきり書かれてはいないが、万起子は “ずっと熱心に妹を探していた” と言うより、“ちょっとした偶然をきっかけに火が点いた” みたいに思える。その結果がアレでは非常に据わりが悪い。故に却って残酷なインパクトを感じた。
 新婦失踪の真相はかなりの綱渡り。ただの失踪で良いのにリスクを冒して成りすましをする必要は無いよね。


No.1913 6点 人形は遠足で推理する
我孫子武丸
(2025/02/28 12:37登録)
 激しく乱高下する語り手の気持の渦に巻き込まれて泣いた。
 しかしミステリ的にはフェザー級。偶然を何処まで許容するかと言う問題で、バスにその人が乗っていた件は蛇足だと思う。


No.1912 5点 訃報は午後二時に届く
夏樹静子
(2025/02/28 12:36登録)
 ツカミのエピソードの上手さに感心した。事件に巻き込まれる自然な流れで、更にオリジナリティもあると思う。
 それだけに真相には失望。作中で言及されているように却ってアリバイが保証されかねないし、もっと確実な口実が何かしらあるだろうに。
 “幻の女” 探しになるかと思ったがそっちへは進まず。決定的矛盾とまでは言わないが、事件関係者は皆多かれ少なかれテンパっていて不合理な行動を取っている。
 最後に明かされるトリックも “そこまでやるか?” と言う印象。例えば “不慮の事故で落ちてしまったものを、これ幸いと利用した” みたいな、心情的にもう少し説得力のある設定に出来なかったものか。


No.1911 8点 撮ってはいけない家
矢樹純
(2025/02/19 12:31登録)
 作者の筆力が十全に発揮されたホラー・ミステリ。新機軸に挑んだ為に想定外のポテンシャルが活性化したのか?
 伏線はそれなりに拾った心算だったが、それを超えて張り巡らされた蜘蛛の糸に翻弄された。オカルティックなのに合理的な語り口が怖さを増幅する。解決編で怒涛の情報量に溺れかけたので、そのへんもう少し余裕を持って整理されていたら、とは思う。


No.1910 5点 あらゆる薔薇のために
潮谷験
(2025/02/19 12:30登録)
 メインの謎は “昏睡病の真実”。それに対して、殺人事件の謎は見劣りする。病気の問題に的を絞って、もっと詳細に書き込んだ上で完全にSFにした方が、真相で驚けたんじゃないだろうか。
 最も魅力的な登場人物は、中盤に差し掛かってようやく前面に出て来るあのアスリートさん。せめて彼女が最初から活躍していれば……否、それはもう別の話になっちゃうか。


No.1909 5点 アラビアンナイトの殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2025/02/19 12:30登録)
 こんなに紙幅を費やすサイズの事件ではない。そもそもこの人、語り手三人を書き分けるなんて器用なことが出来る作家じゃないよね。コンセプト先行で頑張り過ぎたか、長く延びた割に効果は上がらなかった。
 フェル博士の推理の筋道は “搦め手” って感じで邪道? だけど出入り口のトリックや台詞の手掛かりは面白い。せめて3分の2に収めれば疲れる前に読み終われただろうに。


No.1908 5点 東京ー神戸2時間50分 そして誰もいなくなる
西村京太郎
(2025/02/19 12:29登録)
 変な話。やんちゃな権力者が無茶苦茶やって、しかし十津川警部も負けていない。最終ターゲットは勘で判ってしまったが、その手を使うなら、途中経過はもっと真面目にやったほうが良いだろう。
 クイズ付き。イマイチ厳密でない問題文や解答が含まれる気はするが、それはともかく難しい。あんな知識全然持ち合わせが無いよ……。


No.1907 4点 君のクイズ
小川哲
(2025/02/19 12:28登録)
 いやはやクイズを題材にしてここまで人生に切り込む内省的な小説が成立するなんて。
 と言う点では高く評価したいのだが、具体的な事例、と言うか種明かしに関してはイマイチ辻褄が合わない気がするのだ。
 十五問目(仏教において~)の段階でスコアは6-5、コレで勝負が決まる可能性もあった。そして良く見ると、この問題文は疑惑の十六問目(ビューティフル~)と条件が同じなのである。
 “優勝がかかった問題で『ゼロ文字押し』をする” のが狙いなら、何故十五問目で実行しなかったのか。
 因みに十一問目(モンスター~)も同様。要は作者の詰めが甘かったってことだよね。物語の本質に関わることではないが、よりによってそんな問題を採用するなんて……。
 あまりに出来過ぎなポカなので、寧ろ “本庄絆は予知能力者で、全て踏まえた上でこの終わり方を演出した” と言う裏設定を作者が用意しているんじゃないか、と勘繰ってしまう。だって本庄が二問誤答したからこそ十六問目まで縺れ込んだのである。

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