home

ミステリの祭典

login
花嫁は二度眠る

作家 泡坂妻夫
出版日1984年04月
平均点5.73点
書評数11人

No.11 7点
(2020/07/03 10:35登録)
 母方の祖父・蘇芳善蔵の死をきっかけに会社を辞め、世田谷の豪徳寺に小さなレコード店を開いた富樫幹夫。コレクションの引き取りを切っ掛けに恋人の島夕輝子を得、挙式を明日に控えて一路米沢へ向かうところだった。明日の婚礼は、従姉妹である蘇芳貴詩(たかし)と二組揃っての合同結婚式なのだ。
 式自体は仙台で催されるが、貴詩の頼みでその途中、蘇芳本家の「まいまい屋敷」へ荷物を取りに行かねばならない。その「まいまい屋敷」も約四ヶ月前のオオバこと蘇芳カナの変死以来、住む者もなくなり寂れ果てている事だろう。善蔵の後妻に入ったオオバと、先妻の子である母の勝江とは犬猿の仲だったが、それとは別に昔から貴詩の頼みだけは断れないのだ。
 その朝山形の貴詩からまた連絡があり、新宿のホテル スピネルに寄って欲しいという。びっくりするような人がそこで待っているというのだ。まさか貴詩の後に電話してきた、警察の小野口ではないだろう。幹夫は夕輝子と一緒に車でホテルに向かうが、待ち人は現れず、ロビーにいたのは県警捜査課の小野口だけだった。
 彼を大宮駅まで送り届け、安達太良のサービスエリアで一旦休息したのち、米沢の駅前から市街を外れて山道を登る。多岩(おおいわ)のまいまい屋敷には叔父の龍太と、婚約者の色摩将樹がいた。家出した貴詩を探しに来たのだという。サービスエリアで会った「味鴨」の情野恵利子も、確かそんな事を言っていたが。
 彼女が最も長く暮らした多岩村落で、必死に行方を探す幹夫たち。だがそれも虚しく蘇芳貴詩は雪迎えの降る昌桂寺境内で、首にスカーフとロープを巻き付けられた絞殺死体となって発見された。彼女もまた祖母のオオバ同様、二度に渡って殺害されたのだった・・・
 アリバイトリックと意外な犯人が用意された、『妖女のねむり』に続く第八長編。書き下ろしの形で1984年4月刊行。短編では亜愛一郎シリーズを書き終え、曽我佳城シリーズ『花火と銃声』や『ゆきなだれ』後半所収の各編を執筆している時期にあたります。
 紡績業で産を成した米沢の素封家の後添いが、喜寿の祝いの当夜に絞め殺されたのち、翌朝鴨居に吊るされた事件。その四ヶ月後彼女が溺愛した孫娘がこれもまた念入りに二度、絞め殺されて放置されていた事件。相続争いからオミットされた東京に住む従兄弟の視点で、物語は進んでいきます。
 多彩なトリックと趣向に彩られた初期の作品群から、よりシンプルに驚きを魅せるようになる転換期の作品で、どちらかと言えば仕上がりはコンパクト。泡坂らしさの薄さが低評価の理由でしょうか。とはいえカッパ・ノベルズ版の「著者のことば」を見るまでもなく造りは念入りで、細部に至るまで手抜きは見られません。
 『斜光』と同じく個人的には好きな作品。巧みなプロットによる犯人隠しと手掛かりの配置がメインで、しょっぱなから大胆にぶらさげておく遣り口は、横溝正史『獄門島』を思わせます。場面ごとに諸々のアヤがあり、再読時により面白さが深まる小説でしょう。

No.10 7点
(2017/08/10 00:14登録)
Kanamoriさんも書かれているように、泡坂妻夫の場合、このようなオーソドックスなフーダニットはむしろ異色作かもしれません。今回の趣向は真相にも直接関係する「迷信」と言えそうですが、地味な印象です。
しかし、再読してみると4か月前の殺人事件と現在10月の出来事をうまく組み合わせていく手際はさすがだと思いました。この第2の殺人が起こる現在の方は、2日間のみ、それで一気に4か月前の事件も解決してしまいます。この第2の殺人については、早朝幹夫にかかってきた電話の意味を除き、ほとんど記憶に残っていませんでした。
最終的な真相説明の根拠は必ずしもすべて「見る」ことのできない読者にも明確にあらかじめ提示されているわけではありません。たとえばダミー解決(明らかに説明不足で、ダミーだとすぐわかります)を否定する根拠もそうです。しかし多少はそんなところがあってもいいでしょう。そのダミー解決の犯人も相当意外です。

No.9 6点 ボナンザ
(2016/09/12 21:45登録)
なかなかの良作。アリバイトリックも泡坂らしくひねったものが使われている。まあ第二の殺人のトリックは樽や黒いトランクと比べたらあれですが・・・。(あっちが凄すぎるんです)

No.8 4点 蟷螂の斧
(2012/09/26 12:48登録)
犯人が意外というほかは、あまり印象がないような作品です。アリバイトリックも驚くようなものはありませんでした。主人公(男)の行動(従妹との風呂場シーンとラストの教会シーン)は理解しがたいものでした。

No.7 7点 まさむね
(2011/04/09 21:18登録)
芳しくない評価も多いようですが,私は好きです。
伏線もきっちり張られてますし,良質なフーダニット作品と言ってよいと思います。
犯人は,序盤に根拠レスで想像したとおりでしたが,後半の反転・再反転を含めて十分に楽しめました。
確かに,奇抜な謎やトリックがないため,地味な印象は拭えませんけど・・・。

No.6 7点 monya
(2011/02/18 18:27登録)
どうも皆さんの採点が低いような……
個人的には泡坂作品の中でも好きな話なのですが
こんな火曜サスペンスだったら私は毎週欠かさず見ますよ!
伏線の張り方の巧妙さは泡坂作品でもトップクラスですし
貴詩の行動の理由などは、実に泡坂らしい
全体的に地味で、小粒なものの組み合わせなのが低評価の要因かな?

No.5 6点 makomako
(2010/12/12 21:53登録)
初期の泡坂作品はちょうど私が推理小説に興味を持ち始めた頃に出会ったため発表されるたびにリアルタイムで読んでいた。久しぶりに再読したがそれなりに伏線も張ってあり、ストーリーは全く忘れたので犯人もぜんぜん分からなかった。新作が出るたびにわくわくしながら読みいつも見事にだまされていたものです。でもこの作品ぐらいから泡坂作品からちょっと遠ざかってしまった。別に悪いというわけではないが小粒で驚きが少ない。

No.4 5点 kanamori
(2010/08/15 21:10登録)
フーダニットものの端正な本格ミステリで、従来の泡坂作品のテイストがほとんど感じられないという点で、逆説的に異色作です。
伏線が丁寧に張られているところは好印象ですが、アリバイ・トリックは大した出来ではないですね。

No.3 6点 測量ボ-イ
(2010/07/15 17:29登録)
普通に楽しめましたが、やや平凡な印象?
犯人の意外性はそこそこありました。

No.2 4点 こう
(2008/06/18 00:14登録)
 泡坂作品では珍しい安っぽい仕上がりになっています。一族の当主が殺された半年後、従妹と合同での結婚式を予定していた主人公の説明から始まり、途中で従妹が死体で発見され、最後にはどんでん返しが、という泡坂作品らしさはありますが、殺人トリックは安易ですし、犯人も悪い意味でうすっぺらで泡坂作品らしくないと思います。
 どうやって犯人が犯行を実現させたか、という所は一見泡坂作品らしいですが電話のトリックもちょっと今では通用しそうもないですし、犯人の第二の殺人の動機も必然性もちょっと納得しかねます。
 幻想的作品以外では最も個人的に低評価の作品です。

No.1 4点 Tetchy
(2007/10/16 10:36登録)
実に普通のミステリ。火サス・土曜ワイド系。
小粒です。

11レコード表示中です 書評