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ミステリの祭典

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ハーメルンの笛を聴け

作家 深谷忠記
出版日1989年05月
平均点4.00点
書評数2人

No.2 3点 虫暮部
(2025/03/12 13:21登録)
 何か変だ。
 ネタバレ気味になるが、一連の手紙と犯人のスタンスがおかしくないか。

 たまたま奇特な刑事がいたが、本来ならあんな地味な手紙では黙殺されかねない。単なる不謹慎な悪戯にも見える。“社会状況に対するメッセージがある” なら、マスコミに大々的に送り付けるとかする必要がある。
 勿論そういうことをすれば警戒され実行は難しくなる。実際、最後は情に訴えて見逃して貰っただけで、実質的には詰んでいたのだ。“ラストで示された目的の成就を優先する” なら、犯行予告などすべきではない。
 実際はどちらでもない。あの手紙のやり口はまるで、関係者を不安がらせ、あわよくば警察とゲームをしてみたい、“愉快犯” のようだ。犯人としては、自己正当化の為にも、そうとだけは思われたくない筈である。

 と言うことで、事件の表層的なプロットと、その根底の動機を、上手く寄り添わせることが出来ていないと感じる。そして、物凄いトリックがあるならともかく、本作の場合、“心情” に説得力が無いなら失敗ではないだろうか。

 そぐわない犯行がある点は、私も気になりました。

No.1 5点
(2015/03/22 21:57登録)
深谷忠紀はこれまで倉敷や伊豆の情景を丁寧に描いた壮&美緒のトラベル・ミステリ・シリーズしか読んだことがなかったので、本作はストーリーだけでなく架空の町を中心舞台にしたところも意外でした。1982年乱歩賞候補作になった後、1989年に初出版されたものだそうです。その間にどの程度改稿されたのかは不明ですが。
途中まではハーメルンの笛吹き男を名乗る人物からの謎の手紙を中心に置いたミッシングリンク系の本格派という感じで、作者自身がサスペンスと定義している理由がわからなかったのですが、クライマックスに突入してからは、納得できました。ただ、事件が長期に渡っていて、最後近くになるまでむしろじっくり型なのは、この終わり方にはあまり合っていないように感じました。
あと、第4の事件の起こし方については、犯人の意図にはそぐわないはずだという問題は少々気になりました。

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