虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.21点 | 書評数:2011件 |
No.1391 | 6点 | 大絵画展 望月諒子 |
(2023/02/17 13:38登録) 5分の4まではページを繰る手が止まらない面白さ、だったんだけど真相がなぁ。 共犯者の人数多過ぎでしょ。人海戦術で包囲網を敷けるなら、騙しは何でもアリじゃないか。こういうのは蟻が象を手玉に取るからこそいいのである。 五章。警官がフェイクなら、仕掛け人がプラン変更について言い争う場面があるのは変では。 |
No.1390 | 5点 | 由仁葉は或る日 美唄清斗 |
(2023/02/17 13:37登録) 読み終えてみると、成程プロットや見せ方は悪くないかもしれない。 しかし、好感を持てる登場人物が殆どいない(強いて挙げれば、えにっぺ)。かと言って売りになるようなドロドロ劇でもない。 おっさん達が若い女性に鼻の下を伸ばすのと、特別に誰が誰を好き、と言うのは違うと思うが、同じように書かれているので、“えっ、これってそんなマジな気持だったの?” と戸惑った。 せっかく “由仁葉” なのに平仮名表記じゃネーミングが報われないじゃん。助詞と混じって読みづらいし。 |
No.1389 | 5点 | 盗まれて 今邑彩 |
(2023/02/17 13:37登録) 「情けは人の……」「ゴースト・ライター」は、捻って更に捻って、それがやり過ぎでなく決め手として上手く嵌まっていると思う。因みに、カーネーションの色の意味は初めて知った。 全体的には、上手さが却って仇になったか、どうも印象が弱い。“ミステリ的には駄作でもこの人の世界に浸れて心地良い” と言える空気感みたいなものが無いので、短編集は単なるアイデアのカタログになってしまった。文体のせい、だけじゃないよな……。 |
No.1388 | 4点 | 列車消失 阿井渉介 |
(2023/02/17 13:35登録) 阿呆かッ! 読了後まずそんな言葉が私の口を突いて出たのだった。 無駄に外連味の強い演出と、泥臭い捜査行や民営化問題との食い合わせの悪さよ。トリックには笑うべきか呆れるべきか(特に “歩く胴体”)。共犯者多過ぎ。誘拐に比べて殺人事件が軽視されている印象もある。 これ、ラノベ系の愉快犯として書けば良かったのでは。 第二章の7。列車が十三分遅れで富山に到着。 犯人:福井までに時刻表通りの運行を回復せよ。 刑事:福井までに、しかけてくる気だ。 これはおかしい。この指示では、福井までのどの時点で回復するか判らない。ギリギリで追い付いても指示に反したことにはならない。 犯人の作戦に時刻表通りの運行が必須なら、“福井で回復した後、しかけてくる” と予測すべき。と言うかこの場合は犯人の指示がおかしくて、たとえば “金沢までに” とすべきだった。 |
No.1387 | 8点 | キドナプキディング 西尾維新 |
(2023/02/09 12:41登録) 首をくくって待ってた、シリーズまさかの続刊。あの二人にまさかの娘。あたしを名字で呼ぶなとか言わない丸くなったまさかの潤さん。同窓会にはちと淋しいが新しい設定もガンガン加わって嬉しい。 肝心のミステリ面だが、このキャラクターでこのホワイダニットなら説得力はあると思った(“丸投げ” ってのが特に)。いや、肝心なのはキャラか? 竹さんのイラストも絶好調で年増哀川潤が素敵。 |
No.1386 | 7点 | 呪い人形 望月諒子 |
(2023/02/09 12:38登録) 社会派サスペンス。罪と罰、正義と悪について、登場人物達それぞれの視点で重層的に語られる群像劇。どの意見にも相応の説得力が感じられ読み応えがある。取材が殺人を引き起こしてしまう観察者効果(?)は怖いね。 しかし、これだけ書いておいて肝心のホワイが不明なままなのは、ホラー的な後味を醸し出してはいるが、はぐらかされたような思いをやはり拭えない。あと、“六千万円” とは妙に半端な金額に思えるがどういう基準? 木部美智子シリーズの一冊で世界設定は前2作と共通。と言うことは、超自然現象的な本物の “呪殺” はあり得ない、と読者は最初から諒解せざるを得ないわけで、ノン・シリーズとして書いた方が良かったのでは(本物を期待する本書の読者なんていないか?)。 |
No.1385 | 7点 | アルファベット荘事件 北山猛邦 |
(2023/02/09 12:36登録) この文体は冷静ながら微妙にリリカルで、美久月のキャラクターを描くのには最適かも。 強引なトリック、好きだけど突っ込み:図解を見ると、ルートはジグザグ。でも箱のことを考慮すれば、当然まっすぐの方が確実。それだと見抜かれ易いってことだろうが、そこまで用心する必要あるかな? |
No.1384 | 7点 | i(アイ)―鏡に消えた殺人者 今邑彩 |
(2023/02/09 12:35登録) これ書くとネタバレしちゃうなぁ。 Ⅱ章に挿入された現場見取り図で、作者はちょっとミスをしている。 死体と足跡を180度回転させると、本棚のある壁にぶつかるでしょ。ならば本棚の位置を替えて、そこから数歩先のベランダに続く窓を開けておく、と言う手がある。 また、回転を90度にすると、隣の洋間なら窓の位置に合わせられる。但しサイズが合わないから少し切る必要がある。 どっちにせよ不自然さは残るが、鏡よりはマシだ。 つまり、作者はこういう揚げ足取りの余地の無い現場を設計すべきだった。 ついでに。事件の現場と短編小説の内容がリンクしたのは、小説を読んだからではなく、あくまで偶然? うーむ。 |
No.1383 | 5点 | 人間の証明 森村誠一 |
(2023/02/09 12:34登録) 全体的に大味な作品。大仰なタイトルでハッタリをかましたのが勝因? 不倫相手との限られた枠内での純愛、いつの間にかその夫と共闘して奔走する間男、には説得力がある。ナウなヤング達のキャラクターも上手く書き分けている。 しかし捜査の流れが、重要な手掛かりを都合良くピックアップしているだけ、みたいに見えた。刑事が “人間の心に賭ける” とか言うのも、恵まれた者のヒューマニズムって感じだ。あれはあれで母性の押し付けであろう。 それに比べると、最後の最後で無意味に死んじゃう冷酷なリアリズムはラスト・シーンとして悪くない。 複数の事件が平行して描かれるから、時系列入れ替えの叙述トリックかと思ったんだけど……。 |
No.1382 | 8点 | 謀殺の弾丸特急 山田正紀 |
(2023/02/03 11:57登録) 超冒険(スーパーアドベンチャー)シリーズ第三弾、だそうな。第二弾『火神を盗め』は、キャラクターの身上や動機付けがアレコレうざったかった。対して本作は、否応無しに巻き込まれて “生き延びたい” だけの設定が、玄人相手の無茶な逃走劇に却って説得力を持たせている、と私は思う。相手を死なせても精神的な呵責がいつの間にか有耶無耶になっているあたりも、判る。 “機関車 VS 攻撃ヘリ” では素人ならではのアイデアが炸裂して痛快無比。一方、ジャングルの中で一晩停車しても無事(なのに翌朝にはあっさり追い付かれる)、と言う流れには首を傾げた。 尚、計画的殺人は起きていないわけで、タイトルは “無謀な自殺行為” の略、かな。 |
No.1381 | 7点 | 光の塔 今日泊亜蘭 |
(2023/02/03 11:57登録) 人類の危機が進行しているのに語り手の家庭問題を同一線上で延々綴る語り口。最初は突っ込みどころに思えたが、読み進むにつれて血肉を具えた人間としてのキャラクター造形に引き込まれるように。一人一人の顔が見えるようなやりとりが、侵略戦争を単なる概要の説明ではなく、一段身近な物語へと引き寄せてくれた。第三部のSF的展開(転回?)も楽しい。 解説の通り右翼っぽい雰囲気は確かにあり、その部分は作者の意図はどうあれ大仰な冗談のように思えてしまった。 1962年に刊行されたSFだが、探偵小説的趣向も盛り込まれ、初刊が東都ミステリーなのはあながち牽強付会ではない。 |
No.1380 | 6点 | 擬傷の鳥はつかまらない 荻堂顕 |
(2023/02/03 11:55登録) 特殊設定サスペンス? 読者に対して伏せる部分の匙加減が巧みで上手く引っ張り、冷静な文章でエモーショナルな切迫感を的確に描き出している。第3章まではとても面白かった。 ところが、設定が明確になって来て、さてこれをどう着地させるのかの第4章~終章。観念的な台詞や心象が連なり始め、しかしそれで納得とは行かない。ここは久保寺や語り手の気持に読者を巻き込んで説得してしまうだけの力が欲しいところ。 これだけしっかり “物語” を書けるのだから、ラストをこうするくらいなら特殊設定無しのノワールもので貫徹した方が良かったのではないか。いや、それがあってこその個性だ、と言うなら説明的でない着地点が必要だ。どっちにせよ惜しいと強く思う。 |
No.1379 | 6点 | シミュラクラ フィリップ・K・ディック |
(2023/02/03 11:53登録) “ディックの長編中、もっともプロットが複雑と評される” とのこと。 複雑と言うか、“プロット” は考えてなかったんじゃないか、頭の中に幾つかの陣営のキャラクターを設定して好き勝手に動き回らせただけじゃないか、と思えて仕方がない。エピソード同士の絡み方がいかにも無計画で、きちんとしたオチは無いままカット・アウト。政界サスペンスと呼んでは誇大広告だろうし、シミュラクラが主要なテーマと言うわけでもない。 しかしその、いわば必然的な支離滅裂さが妙な面白さを生み出してしまった。個人的には、先祖返りのチュッパーについてもっと突っ込んで欲しかったな。 作中に出て来る “ジャグ” とは、酒瓶に息を吹き込んでぶぉ~と鳴らす奴。それでバッハとかを演奏する、と言うのはジョークとして書いてるんだよね、ディック先生? |
No.1378 | 5点 | 首切り島の一夜 歌野晶午 |
(2023/02/03 11:51登録) 話がどっちへ進むか見当が付かない点は良かったが、それをアクロバティックな論理でつなげるでなく、読み終えてみると期待外れ。それは “歌野晶午にこういう方向性を期待しているわけではない” と言うことでもある。この人は過去にも幾つかそういう長編を書いて読者を困らせているな……。 |
No.1377 | 7点 | オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case 森博嗣 |
(2023/01/26 13:08登録) Last Case とか言って大上段に構える程のものではない。期待半分諦念半分の心持で臨んだのは良かったと思う。事件の雰囲気がいいし上手にまとめた感はあるが、“彼女の友人を容疑者から外した根拠” や “サイカワ先生が招待された理由” は強引で苦しい。 エピローグが書籍化の際の加筆だってのは大胆。「メフィスト」誌上で読んで満足している読者はアレを知らないんだ。実はあの部分、勘で気付いてました。ヒントは、外国人が記述者である効果? “ドクタ・マガタ” と表記されるとぱっと見 “ドグラ・マグラ” のようで、何回間違えたことか。 |
No.1376 | 7点 | ぼくらの時代 栗本薫 |
(2023/01/26 13:07登録) これはミステリの形をした別の何かだと思うのである。だから、真相は物足りないけれど、それはたいした問題ではない。寧ろ時代を切り取るための必然。 理屈と膏薬は何処にでも付く、と言うとちょっと違うか。誰にでも何がしかの言い分があって、それが正しくはなくとも、これしかない! と成り立つ瞬間がある。栗本薫はそれをほじくり出すのが抜群に上手いので、ついついラストでグッと来てしまう。 本人の言う “美しさということを知っている人が書くのと、そうでないのとで決定的にちがってくる” とはそういうことかな、と思った。 |
No.1375 | 5点 | ウインター殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2023/01/26 13:06登録) 月下のスケーターとか背骨を傷めた少女とか、絵になるキャラクターなのに、その設定が事件には殆ど絡んで来ないなぁ。 鍵を盗んだ時、犯人は鍵束から目当ての一本を見分けられたのか。何故鍵束ごと持ち去らなかったのか。伏線だと思ったんだけどなぁ。 ヴァン・ダインの末期作品は期待値が低いので相対的に意外と楽しめた。 ところで、ジョン・F・X・マーカムの X ってなんだろう。Xavier ? |
No.1374 | 6点 | グレイシー・アレン殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2023/01/26 13:04登録) 被害者の身許……ヴァン・ダインがこんな形で読者を引っ掛けに来るとは想定外だ。グレイシーの喋り方は赤毛のアンみたい。ヴァンスもマーカムも少し遠巻きに、背伸びする姪っ子をあしらうように対応しているでしょ。実は彼女が14歳であった、と言う叙述トリックかも? “瀕死の狂人” のキャラクターもかなり美味しいけれど、あまり生かされていないなぁ。 |
No.1373 | 7点 | カシノ殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2023/01/26 13:03登録) 毒物が見付からないと言う謎は魅力的。しかし半分を過ぎてからようやくそこへ辿り着くなんて遅い。 毒物や水云々の薀蓄はもっとやって良かったんじゃない? 真相は期待した程ではない。 どこがどうと言うことではないが雰囲気的な面白さは感じた。特に賭博の場面がこんなに楽しく読めたのは自分でも意外。 |
No.1372 | 8点 | 殺人者 望月諒子 |
(2023/01/19 15:09登録) 事件の大枠をプロローグで明かしちゃって、残りの300ページ超は大丈夫なの? 大丈夫なのである。大トリックや大どんでん返しは無いが、それでも大丈夫なのである。とにかく読者の気持を呑み込む度合いが凄い。 “○○は人の姿に見えるが、実際はもう、人ではないのかもしれない” 人を殺した人非人、と言うニュアンスではない。孤独に濾過されて昇華してしまった魂について、この記述がストンと腑に落ちた。しかもそれ故に包容力に富み魅力的な人物であると言う逆説。 そして犯人は逃げ切り、いや、逃げさえせず、その結末に私はまず何よりも “良くやった” と思ってしまった。作者の力業に浸蝕された気分である。 |