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ミステリの祭典

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人間の証明
証明シリーズ/棟居刑事シリーズ

作家 森村誠一
出版日1977年03月
平均点5.82点
書評数11人

No.11 5点 虫暮部
(2023/02/09 12:34登録)
 全体的に大味な作品。大仰なタイトルでハッタリをかましたのが勝因?
 不倫相手との限られた枠内での純愛、いつの間にかその夫と共闘して奔走する間男、には説得力がある。ナウなヤング達のキャラクターも上手く書き分けている。
 しかし捜査の流れが、重要な手掛かりを都合良くピックアップしているだけ、みたいに見えた。刑事が “人間の心に賭ける” とか言うのも、恵まれた者のヒューマニズムって感じだ。あれはあれで母性の押し付けであろう。
 それに比べると、最後の最後で無意味に死んじゃう冷酷なリアリズムはラスト・シーンとして悪くない。

 複数の事件が平行して描かれるから、時系列入れ替えの叙述トリックかと思ったんだけど……。

No.10 6点 文生
(2020/08/16 05:49登録)
本作を本格ミステリとしてみた場合、解くべき謎が「ストイハ」「キスミー」などといった一種のダイイングメッセージぐらいしかなく、極めて薄味です。
しかし、その一方で、西條八十の詩に絡めた悲劇とそれに伴う人間ドラマは非常に読み応えがあります。
森村誠一による社会派ミステリーのひとつの到達点です。

No.9 6点 人並由真
(2020/06/24 03:58登録)
(ネタバレなし)
 傑作だとも優秀作だとも思わないが、とにかくグイグイ読ませる力場を具えた作品。その修辞が的確かどうかは疑問の余地もあるが、あえていうなら<文芸作品に見せかけた、第一級の通俗ミステリ>?

 先行する別作家の某作品に似ているという噂は耳タコだったのだが、それでも謎解きミステリというよりは、昭和のエンターテインメント小説として面白く読めた。
 むしろ知らないで読んでいたら、途中のどっかで気づいて「なんだこりゃ! (中略)とおんなじやんけ!?」と憤慨してそのまま終わった可能性もなくもないので、ある意味では<これはそういう作品なのだ>と当初から心得ながら通読して、却ってよかったかもしれない(笑)。
(なお上のパラグラフの「(中略)」の中に入るのは、ひとつの作品とは限らないのです。)

 幹となる物語の節々の手前に、小器用に事前エピソードを設け、そこから本筋に乗り入れていく作劇。そのこせこせした反復が、とても効果をあげている。
 一方で世界観というか人間関係の配置がいささか窮屈で、リアルならそこまで綺麗に関係性が成立しないよね? という思いも時に湧くが、同時に物語というかドラマとしてはこういう組み立て方でいいのだ、という説得力もある。だから文句を言うには当たらず、か。

 あとね、中盤からの小山田と新見の奇妙な連合軍は、なんつーか、ほんっとうに、この作者らしい<中年男たちの純情ロマン>。こういうものを直球で描ける森村誠一、やっぱりスゴイ! と実感した。

 最後に、棟居ものは初めて読むハズだけど、この路線って、先行する那須警部シリーズと同じ世界観だったんですな(というかこの時点では一種のスピンオフ?)。ちょっとビックリしました。

No.8 7点 青い車
(2016/11/19 23:59登録)
 このサイトではさほど高得点でなく、そもそも書評自体が少ないのもわからないではありません。推理小説らしさがきわめて希薄なのがその原因のひとつでしょう。しかしプロットは傑作の名に恥じない出来で、親子の問題やスラム街の描写などもうまく織り交ぜています。特に、棟居刑事が被害者への情でなく加害者への憎悪を原動力にするに至った残酷な経験が印象的です。読みにくいという社会派への偏った先入観を払拭してくれた作品で、初めての作者の本がこれだったのは幸運でした。

No.7 4点 ボナンザ
(2014/04/13 01:22登録)
まあ、有名作ではあるが推理小説と言っていいかは疑問。
それでも本格の冬と呼ばれた社会派全盛期の作品で、未だに読まれている作品であることからも、ストーリー自体はなかなか良い。
今だに知られているこの頃の社会派って松本と森村くらいだよね・・・。

No.6 6点 STAR
(2012/04/02 11:30登録)
以下の感想は『人間の証明』と松本清張の『砂の器』のネタバレありなので、ご注意ください!

森村誠一の本で初めて読んだ作品です。代表作として有名なので。
他の方も書いていますが、『砂の器』に殺人に至った背景等が同様です。ただ『砂の器』のほうが泣ける部分が多く感じ、どうしても比較になってしまい、点数はやや低めです。

トリック等はない、人の心を打つ人間ドラマだと思います。

No.5 6点 E-BANKER
(2012/01/05 22:48登録)
2012年、一発目に何を読むかなぁーと思案し、セレクトしたのが本作。
発表当時、角川春樹事務所が大々的にメディアとタイアップし、シリーズ探偵となる棟居刑事が生まれた記念すべき作品。

~「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」 西條八十の詩集をタクシーに忘れた黒人男性が、ナイフで刺され、都心のホテルの最上階に向かうエレベーターの中で死亡した。棟居刑事は被害者の過去を辿って、霧積温泉から富山県へと向かい、ニューヨークでは被害者の父親の過去を突き止める。日米共同の捜査の中であがった意外な容疑者とは? 映画化・ドラマ化され、大反響を呼んだ作者の代表作~

さすがにスケールの大きさを感じる作品。
主人公である棟居刑事を中心として、複数の登場人物の視点でストーリーは進行しますが、1人の黒人男性の殺人事件がこんなにも多くの人物の過去や人生と絡んでいたなんて・・・
本作も、「高層の死角」などの本格ミステリーと同様、刑事たちが靴底をすり減らして丹念に捜査を進め、最後には真犯人に行き着くダイナミズムが描かれてますが、トリック云々ではなく、あくまで「社会派」寄りの作品になってます。
終盤、登場人物の過去が見事に(都合よく?)つながり、犯罪の背景や動機があからさまにされる刹那・・・そして、「人間の証明」という深遠なタイトルの意味に気付かされるとき、やっぱり本作のスゴさは感じましたね。
親子愛を西條八十の浪漫あふれる詩とタイアップさせ、徐々に人間関係が乾いてきた時代の姿を浮かび上がらせます。

ただまぁ、作品の質でいえば「好き嫌い」が分かれる作品でしょうねぇ。
トリックやら仕掛けがあるわけではないので、その辺は期待せぬよう・・・
(読んでると、何となく松本清張作品を読んでるような気にさせられたし、「砂の器」とのプロットの類似性というのも確かに感じた。)

No.4 7点 spam-musubi
(2011/05/29 06:50登録)
誰もが怪しいと思う人物が中盤で捜査線上に浮かび、
結局その人物が真犯人というミステリ的にはひねりのない
ストーリー。トリックといえるほどのトリックも何もない。

しかしながら、西条八十の詩から頭に浮かぶ美しい霧積の
情景、その情景に託した切ない母への想い、戦後の混乱期から
現代まで必死に生きてきた人たちそれぞれの気持ちなどが
ストレートに入ってきて、印象に残る一冊であった。

「人間の証明」というタイトルの意味もまた。真犯人が
人間の証明をしたが、棟居刑事もまた「人を信じる気持ちを
持っていた」という点で人間であることを証明したのでは
ないか。

No.3 5点 江守森江
(2010/05/23 22:57登録)
初期の作風(数作品しか無い)から乱歩賞を受賞し本格ミステリ路線に移行した時期に森村誠一から離れたので、更に作風が変化し代表作をものにしたが、さほど興味が無かった。
それでも、映画化されテレビで観た時期に文庫本を読んだ(当時からファジーな読書生活だった)記憶だけは残っている。
しかし「母さん僕のあの麦藁帽子どこ・・・・」のセリフが印象深い映画CMとジョー山中が歌っていたテーマソングの方が、作品その物より強烈に記憶に焼き付いている。
※追記(12月30日)
MXTVの年末ロードショーでチョー久々に映画版を観た。
松田優作が主演だったのすら忘れていたし、ホントに清張「砂の器」とプロットがソックリだった。

No.2 6点 kanamori
(2010/03/28 14:31登録)
「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」
西條八十の詩をモチーフにして、一世風靡した著者の一般向け代表作と言われる作品。
当時、森村誠一のコアな本格を追いかけていて、この作品で戸惑った人も多かったのではないでしょうか。
本格ミステリとしては不満ですが、まあ楽しめたことは事実です。
(以下ネタバレ)
松本清張「砂の器」のネタバレもしています。


この人間ドラマが清張の「砂の器」とプロットが酷似していることは有名です。
1.栄光を掴みかけた主人公が、過去を知る人物の突然の登場により、身の破滅を恐れ殺害してしまう。
2.被害者は死の直前、主人公との思い出の地名をつぶやくが、標準語に不慣れなため意味が不明となる。
「人間の証明」では被害者が外国人のため霧積がキスミーに、「砂の器」ではズーズー弁のため亀嵩がカメダに・・というふうに。

No.1 6点
(2009/07/09 16:12登録)
森村氏の代表作といえば、『高層の死角』と本作です。前者は本格派推理で、本作はどちらかといえば人間ドラマ風ミステリです。
当時、小説、映画ともにあれだけ話題になったのに、本サイトでコメントがゼロというのは、あまりにもさびしいですね。ミステリとは思われてないのかな。
30年以上前に、2作とも読んだ時点では、間違いなく『高層』派だったのですが、年を重ねた今なら、だいぶ嗜好が変わってきているので、果たしてどちらなのかわかりません。それに、本作はわずかに記憶に残っているのに、『高層』はほとんど記憶にありません。私の場合、本格物は読了時点で面白いと思っても、記憶には刻まれないのかもしれません(笑)。

さて、書評ですが、再読していないので要点だけです。
西条八十の詩や方言、外国人の訛りなど、細かな手掛かりから真相を手繰り寄せていく推理プロセスは読みごたえがあり、ストーリーとしては人間ドラマであるというものの、リアリティのある刑事物(社会派?)ミステリの要素を十分に備えているように思います。さらに犯人側にもスポットが当てられていて、清張の『点と線』に『砂の器』の要素を加味したような(逆かもしれません)欲張りな作品だったように記憶しています。当時は『高層』の印象があまりにも強かったので、森村氏らしからぬ作品だなと感じたものです。

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