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ミステリの祭典

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擬傷の鳥はつかまらない

作家 荻堂顕
出版日2021年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2024/02/22 15:22登録)
主人公のサチは、表の顔はネイルサロン経営者だが、裏では顧客に偽りの身分を与える「アリバイ会社」を新宿歌舞伎町で営んでいる。そんな彼女の更に裏の稼業は、この世に居場所を失い絶望した人間を「門」の向こうの異界へと逃がすこと。サチはある日、二人の少女から「門」の向こうに逃亡したいと懇願される。だが数日後、そのうちの一人が転落死した。
サチは依頼者を逃がし、なおかつ暴力団幹部からある指示に従うという難題をこなすべく危うい綱渡りを開始するが、関係者の誰もが裏切る可能性がある状況下、一歩判断を間違えれば命を奪われかねない剣呑な騙し合いが火花を散らす。そして中盤からは、「門」の向こうの世界へ行った人間はどうなるのかという秘密を軸に、絶望と希望のあわいで自分の重い過去と真摯に向き合おうとする人々の姿が描かれる。特殊設定とハードボイルドが見事に融合された作品。

No.1 6点 虫暮部
(2023/02/03 11:55登録)
 特殊設定サスペンス? 読者に対して伏せる部分の匙加減が巧みで上手く引っ張り、冷静な文章でエモーショナルな切迫感を的確に描き出している。第3章まではとても面白かった。
 ところが、設定が明確になって来て、さてこれをどう着地させるのかの第4章~終章。観念的な台詞や心象が連なり始め、しかしそれで納得とは行かない。ここは久保寺や語り手の気持に読者を巻き込んで説得してしまうだけの力が欲しいところ。

 これだけしっかり “物語” を書けるのだから、ラストをこうするくらいなら特殊設定無しのノワールもので貫徹した方が良かったのではないか。いや、それがあってこその個性だ、と言うなら説明的でない着地点が必要だ。どっちにせよ惜しいと強く思う。

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