由仁葉は或る日 |
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作家 | 美唄清斗 |
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出版日 | 1994年11月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | 虫暮部 | |
(2023/02/17 13:37登録) 読み終えてみると、成程プロットや見せ方は悪くないかもしれない。 しかし、好感を持てる登場人物が殆どいない(強いて挙げれば、えにっぺ)。かと言って売りになるようなドロドロ劇でもない。 おっさん達が若い女性に鼻の下を伸ばすのと、特別に誰が誰を好き、と言うのは違うと思うが、同じように書かれているので、“えっ、これってそんなマジな気持だったの?” と戸惑った。 せっかく “由仁葉” なのに平仮名表記じゃネーミングが報われないじゃん。助詞と混じって読みづらいし。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/11/06 16:13登録) (ネタバレなし) 目の不自由な人たちがメンバーの多くを占める文芸サークル。参加メンバーは随筆や俳句、短歌や小説などそれぞれ関心の向く分野で活動し、一部の者は公的な文学賞・文化賞を受賞の栄誉に輝いていた。そんななか、「私」こと外科病院でベテランの物理療法士(マッサージ師)を務める42歳の明石馨は、サークル仲間で同じ盲人学校の友人だった末畑淳一が事故に遭い、耳が損傷したかもしれないという悲報を聞いた。それと前後して、サークルは晴眼者(視力の健常な人)である20代後半のOL・苦瓜由仁葉(にがうり ゆには)を、仲間に迎えるが。 第五回鮎川哲也賞で、最終選考にまで残った作品。ちなみにそのときの受賞作品は、愛川晶の『化身』で、のちに愛川は本書の作者・美唄清斗(びばい さやと)と合作作品を著している。 眼の不自由な方(盲人、蔑視的な意図はまったくなく、その呼称を使わせていただく)が登場、あるいは主役探偵や主人公を務める作品はいくつかの類例があるが、本書は盲人の方々が集う(健常者の仲間もいるが)文芸サークルを舞台にしたかなり特異な長編ミステリ。実は作者ご自身も若い時から眼が不自由だそうだが、それでも努力されて東西のミステリを含む無数の文学作品に接し、創作者としての力量を育てられたそうである。 聞くところによると当時の鮎川哲也自身は『化身』よりも本作を受賞作品に推挙されたそうで、その辺の興味もあって、本書を手にしてみた。 物語は、ある作中作(短編小説)を全文紹介するプロローグを経て「私」こと主要人物のひとり、明石の述懐で開幕。以降は章ごとに話者が交代しながら、ストーリーが進んでいく。 非常に平明でかつ起伏に富んだ文章と筋立てで、ある種のキーパーソンとなるタイトルロールのヒロイン・ゆには(劇中でも次第に、ひらがな表記で名前を記述)に自然に重点が置かれていく。 人との親和テクニックが巧みな一方で、どこかファム・ファタール的なゆにはのキャラクターは物語をある部分で牽引するが、全体的には群像劇的な性格も強い作品で、中盤で殺人事件が発生。 後半は加速度的にいくつかの謎を織り交ぜながら、クライマックスに向けて物語が進行する。 いくつかの中規模な(大技っぽいものもある)ミステリギミックと、読ませる小説的な活力を兼ね備えた作風は、昭和でいえば新章文子あたりに近いものを感じたが、終盤の反転の構図とその切れ味、さらに何とも言い難い殺人の動機(というか事件の形成の経緯)はなかなかの手ごたえ。 ラストのエピローグ、小説そしてミステリとしての仕上げぶりまで踏まえて、相応のミステリセンスを十二分に感じさせる良作だったと思う。 御当人のご事情か、本作のあとは、前述の愛川との共著を残されたのみで文壇から去られてしまったようだが、実は第五回鮎川賞以前にも最終選考に残った別の長編を執筆されていたようで、本書のレベルからするなら、可能ならそちらも読んでみたいとも思わされた。秀作。 |