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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1468 7点 七週間の闇
愛川晶
(2023/06/09 12:45登録)
 浮世離れした価値観に金銭欲が絡む曼荼羅。どっちでどっちをカムフラージュしているのか。もはや渾然一体。
 ホワイダニットには驚き、しかし確かに平仄は合うと納得もし、但し私は血縁にこだわる気持にはまるで共感出来ず、別次元から眺めている気分だった。
 記述が曖昧で不確定な事柄だが、福島で一度会っただけの相手を東京で探し出せるか、その人と更に偶然再々会出来るか。この点は御都合主義だな~。


No.1467 5点 九龍城の殺人
月原渉
(2023/06/09 12:44登録)
 殺人周りのアレコレはたいしたことない。多指の件もあまり上手く使えていない。本格ミステリではなく、“主人公のルーツへ向かう魂の遍歴に伴う異郷冒険活劇” みたいな読み方のほうが楽しめたかも。その場合このタイトルは不適格だ。

 もう一つ。英題が単数形、つまり殺人は一件のみ? ならば普通は溺死が事故だろうが、そこは裏をかいて来るだろう。事件の責任を問われて苦しい死を賜るよりはと、潔く自らを処したところ、恨みを持つ者が遺体を辱めたのである。と私は推測した、虚しく。


No.1466 7点 あと十五秒で死ぬ
榊林銘
(2023/06/09 12:43登録)
 変なことばかり考える人だ。いいねいいね。十五秒でどこまで出来るか。それは厳しいだろうって部分もある。でも些細なことだ。
 短編1作目から単行本デビューまで6年。執筆速度が課題? 頑張ってもっと変な話を読ませて欲しいな。


No.1465 6点 四万人の目撃者
有馬頼義
(2023/06/09 12:42登録)
 高山検事、大した根拠も無いまま暴走してるな~。誰が訴えたわけでもないのに。目立つ形の “官憲横暴!” ではないが、矢後選手にはえらい迷惑だし、独断で家捜しやら押収やらするし、容疑者は撃たれるし。穏やかに描かれた権力批判として読んだ。見込み捜査が別の事件を誘発する話か、とも予想した。
 そして結局、毒物に関しては決定的な記述が無く曖昧なまま。殺人罪で起訴は難しいと思う。そもそも、銃器犯罪の隠蔽で殺人、って割に合わないのでは。ミステリとしてはスジを通し切れていない。
 ただ、読後感は必ずしも悪くなかった。それは検事の気持自体はまっとうだからか。切れ者ではない “才人気取り” の右往左往する様が、想定外の(?)愛すべきアンチヒーロー的ユーモアを醸し出しているようだ。


No.1464 7点 ルームメイト
今邑彩
(2023/06/03 12:54登録)
 第一部が何だか曖昧な構造じゃない? Zさんに関して、AさんがBさんに話す。知り合ったばかりの人の言うことをBさんは鵜呑みにしてCさんに話す。みたいな感じで事実確認をなおざりにしたまま基本設定が示されて、“これどこまで確かなの?” と思った。そのはっきりしない気持悪さは都市伝説系ホラーでも読んでいるような味わい。
 そんなモードで入っちゃったから以降も今一つ記述が信用出来なく感じたりして、まぁそれはそれで面白い気分だったが、ミステリ的な仕掛けにつながってはいないので、作者が意図的にそんな風に書いたわけじゃないんだろうね。


No.1463 6点 SAKURA 六方面喪失課
山田正紀
(2023/06/03 12:53登録)
 読んだ印象は “B級” で、まさに作者の狙い通りだ。最後の大ネタは噴飯もの(良い意味)だが、盆暗刑事達の逆転劇はやや唐突で、個々のキャラクターが十二分に生きているとは言いがたい。一話ごとの小ネタを無理の無い範囲で小ネタとして上手く使っているとは思う。
 でも、後藤とか佐藤とかは駄目だろう、イントネーションが全然違う。第五話とその延長は、血の滲むような愛憎がショッキング。


No.1462 6点 哄う北斎
望月諒子
(2023/06/03 12:51登録)
 個々のキャラクターはしっかり描かれていると思う。好ましい奴はいないが、絶対悪もいない、一長一短たちの群像劇。
 騙し合いの話なので、後半は本当に入り組んで状況が読み切れなくなってしまった。裏事情をどのように読者に判らせるか、工夫の余地がある。驚愕の真相!と言う感じでもないしね。
 美術関係の薀蓄は面白いが、こういう書き方をされると書画もお金もただの紙切れに思えて来るな。


No.1461 5点 体育館の殺人
青崎有吾
(2023/06/03 12:51登録)
 緻密、と言うよりはチマチマしたロジック。リ-ダビリティも微妙に高くない。心意気は買うが、それに免じて一歩歩み寄った上で、こちらが楽しみ方を心得ているからこそ楽しめた、との印象である。

 体育館はサイズが大きく、抜け道なんかは色々ありそうで、“視線の密室” を納得しづらい。実際、見取図に描かれている二階通路が作中で軽視されてない? 皆が死体に注目している隙に通路から飛び降りて外に逃げた、との可能性もあるのでは。


No.1460 5点 ネメシスの契約
吉田恭教
(2023/06/03 12:50登録)
 現在進行形の事件はともかく、過去の事案の再調査を始めた途端に新しい手掛かりが都合良くポロポロ出て来る。事件当時は真面目に調べてなかったのかと失笑を禁じ得ない。
 最後の銃撃事件(=ダミーだけど)は必要? 別にその人が疑われていたわけではない。寧ろトリックが露見したせいで犯人も特定されている。余計なことしなきゃ良かったのに。
 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞からデビューしただけあって島田荘司系のトリックだが、ストーリーの不自然さまで真似しなくてもいいんだってば。


No.1459 7点 戦物語
西尾維新
(2023/05/26 13:16登録)
 “何も起こらなさ” はシリーズ中屈指ではないか。悩んで考えて議論を戦わせるだけ。静けさは微風に戦ぐ木の葉の如し。しかし怒ったひたぎさんには戦いた。


No.1458 7点 蘆屋家の崩壊
津原泰水
(2023/05/26 13:13登録)
 旅情ホラーにしてグルメ小説(豆腐、蟹、蟲など)にして舌先三寸の与太話。言葉の積み上げ方が味わい深い。同作者の長編の体力を削られるような感じは無くて助かる。
 白髪になったり、拒食になったり、語り手は踏んだり蹴ったり。見た目はどういうことになっているのか。 


No.1457 6点 シュレーディンガーの少女
松崎有理
(2023/05/26 13:12登録)
 この作者は、秀逸なアイデアを示しつつも、ズバッと切れ味鋭いタイプではなく、寧ろややナマクラでデレッとした部分に味わいを感じさせる、と私は認識している。
 その作風が生きているのが「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」「ペンローズの乙女」。
 一方、「六十五歳デス」の、世界設定。そこでは(偽薬効果と承知の上で)ああいう稼業が成立する、そこまではいい。しかし、施術のパフォーマンスがあまりにチャチ、あの程度で大金を稼げる、非合法である、しかも警察があそこまでしつこく追いかけて来る、となると疑問符が幾つも頭に浮かんで来たのだった。


No.1456 5点 赤い矢の女
山田正紀
(2023/05/26 13:10登録)
 山田正紀作品にトラウマを背負った主人公が登場する度 “またか” と苦笑したものだが、それは必然的なキャラクター設定なんだな~と反語的に良く判った。
 これと言った傷跡の無い本作のヒロインが、一体どのような動機付けで事件の渦中に踏み込んで行くのか、さっぱりピンと来ない。そこまで彼氏のことを深く愛していた感じではないし、ソ連に対する因縁があるわけでもない。単なる意地と勢いに流されて何度も殺されかけているのであって、しかしそんな意地を張るような性格にも見えない。こういう不自然さがここまで不気味だとは。

 彼女以外の登場人物はそこそこ生きているし、80年代のソ連紀行文としての面白さは感じた。


No.1455 4点 小樽湊殺人事件
荒巻義雄
(2023/05/26 13:08登録)
 期待外れ。作中のミステリ談義で黄金時代に対する共感をアレコレ述べているが、それに見合う実作では全然ない。前半、やる気ありそうでなさそうな主人公と事件との距離感が、私小説とミステリとエッセイの混合みたいな、ちょっと今まで読んだことの無い独特な感じではあったものの、進行につれてどんどん散らかって興味が雲散霧消してしまった。


No.1454 8点 まず牛を球とします。
柞刈湯葉
(2023/05/19 13:13登録)
 ぶっとんだアイデアをシレッと描く理系(風)作家? いまのところ、この平熱の文体が(レトリックの下手な文章家の逃げではなく)作風に必要な一部として成立している。森博嗣の非ミステリ系コメディにSF色を追加した感じ。

 「犯罪者には田中が多い」は、キャラクター小説化が著しい昨今のミステリに対する批評? 「家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています。」、微笑ましい “恩返し” だろうと思っていたら、ただ一点に釘を打つだけで彩色不明なホラーに変換! 「大正電気女学生」、流行りのパターンは面白いから流行りになるんだよな。と開き直って “このノリ、好きだ” と言おう。


No.1453 6点 回樹
斜線堂有紀
(2023/05/19 13:11登録)
 「回樹」「回祭」は、軸になる世界設定はともかく百合紋様にウズウズする。「BTTF葬送」、映画関係は素養が無いのでさっぱり。「不滅」、同作者のミステリ長編を連想してネタが割れてしまった。愛読者ほど損をするシステムってのはどうなんだろう。

 感情を描く為の触媒として異物を持ち込んでいるが、ジャンル性は希薄で、ミステリ作品と共通した “斜線堂有紀の世界” だと感じた。逆に言えば、果たしてSFだけ集める意義があるのだろうか?


No.1452 6点 南海ちゃんの新しいお仕事 階段落ち人生
新井素子
(2023/05/19 13:09登録)
 新井素子が新口語体を引っ提げて登場した時、読者は驚きつつ、その効用は認めつつ、こう思ったのではないか――“若気の至り”。
 実際に、一時期見受けられた亜流は姿を消し、もしくはより広義のライトな文体へ収斂した。あれはあくまで “現象” だったのだ。
 本家以外は。
 デビューから45年を経て、新井素子は変わらず新井素子なのである。しかも本作は二十二歳女子の一人称なので、嫌と言う程あの語り口に浸れる。微妙にくどくてわざとらしくて、しかしこの緩めの設定のSF世界には不可欠。ふわふわと頑固職人道を貫く様に勇気を貰った。

 文体と裏腹に物語作家としてはしっかりした基盤を備えた人であり、ミステリ読みとしては当然、貫井徳郎を連想して、途中で浮かんだ疑問点が最終パートでちゃんと取り上げられていたので深く頷いた。作者も言うように謎は謎のままであるが、この延長で南海ちゃんに謎が解けるかと言うとそういうものではない気がする。


No.1451 6点 魔術の殺人
アガサ・クリスティー
(2023/05/19 13:07登録)
 事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。

 しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。
 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。

 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」
 「メタな話はやめなさい」
               (森博嗣「ゲームの国」)


No.1450 5点 世界が終わる灯
月原渉
(2023/05/19 13:06登録)
 密室やアリバイのトリックは確実性に欠けるなぁ。
 “因果応報とでもいうような、運命的ななにかを求めた〈儀式〉である”。
 成程、その解釈はかなり説得力を感じる。グッジョブ! あっ、でも結局は自らの手で射殺しちゃったじゃないか。納得したのに台無しだよ。

 件のヨットに乗り合わせたらどうしよう。
 水も食料も平等に分ける、但し、君が死んだら肉を食うことを許してくれ。
 これがフェアだ。


No.1449 7点 大雑把かつあやふやな怪盗の予告状: 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル
倉知淳
(2023/05/09 12:48登録)
 これはなかなか良く出来ている。良く出来ているだけ、と言う皮肉ではなく、素直な良い意味で。この違いはどこで生じるんだろうか。ぶっとんだような飛躍は無いが、基礎をきちんと備えた作者による端正な本格ミステリに仕上がっていると思う。

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