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ミステリの祭典

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ブラウン神父の秘密
ブラウン神父シリーズ

作家 G・K・チェスタトン
出版日1957年01月
平均点6.15点
書評数13人

No.13 7点 虫暮部
(2024/01/27 12:30登録)
 意外にも全編をミステリとしてそこそこ楽しく読めた。中でも「ヴォードリーの失踪」が見事。

 ネタバレするけれど、「マーン城の喪主」は何か変だ。病死、と思ったら実は決闘、と思ったら実は謀殺。
 でも、対外的に病死で押し通すなら、どんな殺し方でも構わない筈。なぜ芝居じみた “決闘” の形を取ったのか?
 関係者の意図について記述が曖昧で断定はしづらいが、このトリック(=謀殺をフェアな決闘に見せかける)はさしあたり相手方の介添え人ただ一人を標的として行われている。それを世間に対するカムフラージュとして機能させるには、“実は決闘” と言う秘密がもっと人々の口の端に上る状況が必要。ところが “病死” で片付けたいなら、もはやそんなカムフラージュは、病死ではないと知る人間を増やすだけの邪魔者なのである。
 結局、犯人はどういう決着を目指していたのか。“病死” にしたいなら決闘プレイは不要。“決闘だけどフェアなものだったからそんなひどい罪ではないんですよ” と言うことにしたいなら病死を装うのは不要。と言うことになる。読者の視点と作中人物のソレを混同した作者のミスだと思う。

 「メルーの赤い月」。成程、この駄洒落の為にブラウンと命名したんだな。

 もう一点。“棍棒のような握りのついた太く短い蝙蝠傘” とあるので、装画の傘は違うね(笑)。

No.12 4点 レッドキング
(2022/06/26 10:13登録)
ブラウン神父第四短編集。 オープニング「ブラウン神父の秘密」、エンディング「フランボウの秘密」付き
  「大法律家の鏡」 ” 検察のハゲ頭が被告人無罪の論拠となります・・” (^O^) 7点
  「顎髭の二つある男」 幽霊瓜二つの変装姿で射殺された怪盗。遺したもう一組の変装具からのWhy 6点
  「飛び魚の歌」 二人の人物の監視下「密室」より消失した奇貨宝飾品の謎。7点
  「俳優とアリバイ」 ” 窓の外でなく、鏡の中を見る人間・・これこそが最悪の・・”  哲学者罵倒のオマケ付き 2点
  「ヴォードリーの失踪」 喉を裂かれ不気味に転倒した笑い顔の死体で発見された館主。6点
  「世の中で一番重い罪」 ” 一人笑いをする人間は、非常な善人か非常な悪人です・・” 5点
  「メルーの赤い月」 インド聖者とルビー盗難と耶蘇教及び西洋人倫優越感誇示と。1点
  「マーン城の喪主」 カトリック神父の対プロテスタント赦し度量合戦うっちゃり・・2点
で、全体で、7+6+7+2+6+5+1+2=37÷8=4.625 切り下げて、4点。
※ネットり練り込んだチェスタトン饅頭コクあるが・・俗流ニーチェ学徒を罵倒し、基督教西洋倫理の捻くれた弁護にムキになり、対プロテスタント深甚対決に熱弁ふるうあたりが、チト興醒めやね。

No.11 6点 クリスティ再読
(2020/05/01 21:09登録)
順番は前後したがブラウン神父も評者はこれでコンプ。というか、なぜか本作だけ昔読み落としていたと思う。初読感を感じるのがうれしい。
でもね、この短編集、バランスの悪い作品が多い...というか、ミステリとしてはヌカリの多い作品が多くて、意外にミステリとしては??となることが多かった。加えてこの人の「話の作り」が結構パターン化していて、以前の作品の無限のバリエーションを見せられるような気がすることもあるよ。まあそれでも、「ヴォードリーの失踪」はやや新機軸もあって、ミステリとして面白いと思う。

悪魔の心のなかでも、ときには真実を告げることが喜びとなるのです。それも、真実が曲解されるようなやり方で告げるということが。

となかなか鋭い機知を見せるけど、この作品のトリックはどうも不自然...まあ、「童心」のバランスは唯一無二なんだな。

しかしね、宗教的寓話の方は結構力が入っている。そっちのが評者は面白い。イギリスでは反体制なカトリックなので、神秘主義だやれ権威主義だと社会的な反感を買っている描写が、シリーズ中にもよく出るわけだがね。その世俗的な社会の方がずっと迷信にとらわれていて、宗教の側が全然迷信を排した一種合理的な一貫性を持つ、というのがチェスタートンの主張で、これをこの短編集だと「メルーの赤い月」とか、作品のネタによく使う。評者に言わせるとここらへん、日本で言うと浄土真宗と結構に似てるね、とも感じるんだ。
真宗王国福井出身の中野重治が上京して「なんて東京は迷信が多いんだ!」と慨嘆した話があるけど、評者も出身地が真宗王国だから、お寺でお守りやらお札やら祈祷やら見ると、とっても違和感を感じるんだよね。オカルトとか精神世界とかそういうのとは、宗教性とは全然関係がないと評者は思う。チェスタートンの立場もそういうこと。でこの短編集のラストに持ってきた「マーン城の喪主」でブラウン神父が「罪」について語るあたり、評者なんぞも「極重悪人唯称仏 我亦在彼摂取中 」とか言いたくなる。そういうことなんだ。
なりゆきだけど、評者のラスト・ブラウン神父が「マーン城の喪主」(とそれに続く同テーマの「フランボウの秘密」)で、何かよかったような気がする...まあこれは個人的感慨。

No.10 6点 弾十六
(2019/08/17 13:01登録)
1927年出版。ブラウン神父ものの連載は年代順に並べると『不信』と『秘密』の収録作品が交互に出てきます。何故、単行本の編纂がこのようになったのか、ちょっと謎ですね。(Cassell’s初出作品は『秘密』にまとまってるのですが、『不信』出版時の最新作Gideon WiseはCassell’s初出にもかかわらず『不信』に収録。) 1925年5月&6月は2誌に新作を同時発表してます。昔の創元文庫(1972年11月9版)で、作品発表順に読みました。本格探偵小説に寄せた感じの作品集。
初出はFictionMags Index調べ。●付き数字は単行本収録順です。収録時に順序をずいぶん変えてます。
献辞は
To father John O’Connor, of St. Cuthbert’s Bradford, whose truth is stranger than fiction, with a gratitude greater than the world
こんな大事なのを省略するのはどーなんでしょう。(後の新訳版では訳されてるかな?)

❷The Mirror of Death (Cassell’s Magazine of Fiction 1925-3 挿絵Stanley Lloyd): 評価6点
この時期のチェスタトンは本格物大好き。冒頭から楽しい探偵小説談義です。(シャーロックとレストレードも登場。) 手掛かりの出し方の描写もいかにもフェアプレイ風。いきなり裁判になっちゃう展開は疑問ですが… (いくらなんでもそこまで口下手?) まー「理由(p53)」を書きたかったのでしょうけど。挿絵がどんなだったか見たい作品ですね。
銃は大型の拳銃(a rather heavy revolver)、自動拳銃(automatic pistol)が登場。音を聴いただけでリボルバーだと判るとは… (一応、合理的な説明を試みると、当時38口径以上のオートマチック45口径コルトM1911は英国では珍しかったのでは?なので45口径クラスの音と判断しリボルバーと言った… 多分、英国Webley拳銃455口径だと思います。)
p30 聖ドミニコ教会の神父(the priest at St. Dominic’s Church): ブラウン神父全集で全文掲載したら該当なし。ここだけの設定でした。
(2019-8-17記載)

❸The Man with Two Beards (Cassell’s Magazine of Fiction 1925-4 挿絵Stanley Lloyd): 評価5点
学問の細分化への難癖はチェスタトンの好きなテーマ。さすがにこれは特殊なケース過ぎて分類に入らないのは仕方ない。本格として考えると手がかりが少なすぎかな。
p58 怪盗バッタのジャック(Spring-heeled Jack): Jumping Jackが正式名称だと思ってました… この訳語はなんか楽しい。
p58 やせた色黒のご婦人(a thin, dark lady): 上の隣にあったので目に入っちゃいました。「やせた黒髪のご婦人」ですね… 続く「やはりやせぎすで浅黒く(also thin and dark)」「やはり身なりのよい浅黒い青年(also dark and exquisitely dressed)」のdarkも同じです。(この表現の間にdark curly hairとあるのに… 保男さんは結構「浅黒い」好きです。)
p63 なにしろ≪サンダーボルト≫級の車でしてね。(You see if she isn’t better than a ‘Thunderbolt.’): サンダーボルトは調べつかず。チェスタトンがでっち上げた架空名か。
(2019-8-18記載)

❾The Chief Mourner of Marne (Harper’s Magazine 1925-5 挿絵Frederic Dorr Steele): 評価5点
この作品は本格ものというより普段のチェスタトンです。技巧的なやり口と神父の巻き込まれ方が趣味に合いません。挿絵は見てみたい。
p235 光ってから音がするまで1分半ほど(About a minute and half between the flash and the bang): 音速を340m/sと仮定して30キロ遠方の雷。
(2019-8-19記載)

※次の2作The Curse of the Golden Cross(1925-5)、The Doom of the Darnaways(1925-6)は『不信』に収録。

❹The Song of the Flying Fish (Harper’s Magazine 1925-6 挿絵Frederic Dorr Steele): 評価6点
本格もの仕立て。手がかりはちょっと後出し?最終行の洞察が何故か子供の頃からずっと心に残ってます。得意げに東洋の神秘を語る人に対して神父が「盗みは盗み」と喝破するのも良いですね。
p96 ピストル(a pistol): 原文リボルバー?と思ったら違いました。
(2019-9-1記載)

※次作The Arrow of Heaven(1925-7)は『不信』に収録。

❼The Worst Crime in the World (Harper’s Magazine 1925-10): 評価6点
神父の妹(a sister, 原文で上下不明。妹の根拠あり?)の娘Elizabeth Fane(愛称Betty)登場。神父の親戚初登場です。残念ながら他の作品には登場しません。(全文検索って本当に便利ですね。) ゴシック風味。『ユドルフォの秘密』が登場してちょっとビックリ。本格ものの基準だと手がかりの記述がアンフェア。現代美術ネタと笑いの意味が主眼。
(2019-9-18記載)

❺The Actor and the Alibi (Cassell’s Magazine 1926-3): 評価4点
本格もの、と見せかけて全然違ったのでガッカリ。なんか変てこ。(目的がめちゃくちゃです。) シェリダン『醜聞学校』(『悪口学校』が一般的。The School for Scandal by R.B. Sheridan. 初演はLondon, Drury Lane Theatre 1777-5-8)が作中で上演され、重要な手がかりになります。(先日観た映画『ある公爵夫人の生涯』(2008)にちょっと出てました。) 推理に必要な事柄を「その他の些細な問題」と片付けてるので、本格ものを書く気はなかったようです。GKCは何故かラストで怒りを爆発させます。「知識人なる手合いがどういうことをしたがるものか… 権力への意志、生きる権利、経験する権利(Will to Power and the Right to Live and the Right to Experience)… たわけたナンセンスどころか、世を滅ぼすナンセンスだ」最初のは明白にニーチェだけど、後のRight二つもそうなのか。調べてません。
p118 巻き毛の、浅黒い、鼻がユダヤ式の(a dark, curly-haired youth of somewhat Semitic profile):「いくぶんセム系の横顔」で「鼻がユダヤ式」とする分かりやすい翻訳。ポリコレの現在では使えない表現か?(なおここでもdark「黒っぽい髪の色」を誤訳。)
p119 角を曲がった教会: ブラウン神父の教会。地名は書かれてません。(ロンドンっぽい感じ)
p123 不平は世界の果てにこだましてわが身に戻ってくるばかり、沈黙はしっかりさせてくれる(Complaint always comes back in an echo from the ends of the world; but silence strengthens us): まー そーゆー考え方もありますね。でも、こう愚痴るのは普通の愚痴より悪い、とGKCは言う。理由は本篇参照。
(2019-9-22記載)

※次作The Ghost of Gideon Wise(1926-4)は『不信』に収録。

❻The Vanishing of Vaudrey (The Story-teller 1927-1): 評価5点
謎の失踪事件。本格ものというには手がかりが足りず。でも昔読んだ記憶が残ってたほど、印象深い物語。
p147 緑色のレモン水(green lemonade): Leprechaun lemonadeというものか。
(2019-10-4記載)

❽The Red Moon of Meru (Harper’s Magazine 1927-3): 評価5点
手がかりは撒いているものの無理がある感じ。しっくり来ません。
p205 慈善市(bazaar): 回転木馬(roundabouts)、ブランコ(swings)、余興(side-shows, 「怪力男」とかの見世物っぽいイメージか)があるというのだからかなり大掛かりな感じ。
p206 欧州大戦(Great War): 作中時間はWWI以前。
p211 ≪ヤシの実落とし≫(throw at coco-nuts): Coconut shyのこと。
(2019-10-6記載)

❶The Secret of Father Brown (単行本1927): 評価5点
ブラウン神父の方法は所謂「科学」ではない、と主張するGKC。科学否定は神秘主義に陥りやすい。でも科学の冷たさを至高のものと崇めるのも大間違い。アダム・スミスが「見えざる神の手」と「共感」の両方を尊んだ、ということを忘れがち。
p11 本名に返ってデュロックと(resumed his real family name of Duroc): Hercule Durocということですね。
p13 デュパン… ルコック… ホームズ… ニコラス・カーター(Dupin, Lecocq, Sherlock Holmes, Nicholas Carter): 最後でガクッとなりますが、当時の米国代表。(今、選ぶとしたら誰だろう。EQか?)
p14 ギャラップ殺人事件... (Gallup's murder, and Stein's murder, and then old man Merton's murder, and now Judge Gwynne's murder): GallupとSteinは『ギデオン・ワイズ』(1926-4)、Mertonは『天の矢』(1925-7)、Gwynneは『大法律家の鏡』(1925-3) 全文検索って、本当に便利です。最後にもう一つ挙げられているのですが書きません。
p17 レオ13世、若いころのわたしの英雄(Pope Leo XIII, who was always rather a hero of mine): ブラウン神父にここまで言わせる人物って気になりますよね。(まだ調べてません…)
(2019-10-6記載)

➓The Secret of Flambeau (単行本1927): 評価5点
上記のReprise。ブラウン神父の方法をネタバレも交えて語るところが面白い。ところで「彼」が探偵やってた時は問題無かったの?(そーゆー設定じゃ無かったような気が…)
(2019-10-6記載)

No.9 5点 ボナンザ
(2018/10/21 19:05登録)
今回は最初と最後にブラウン神父とフランボウの現在の物語を置いて一冊にテーマを持たせている。とはいえ本編はこれまでの三冊にはやや劣るか。

No.8 7点 ALFA
(2018/04/25 10:08登録)
プロローグとエピローグにブラウン神父とフランボウのそれぞれの「秘密」話を振ってまとめた構成は巧み。しかし中身は「無心」「知恵」から順を追ってにフツーになってくるのはやむを得ないことか。
中では「マーン城の喪主」が舞台設定や宗教観も含めて印象深い。トリックそのものは簡単に推測できるが。
「大法律家の鏡」は「知恵」の同トリックの収録作よりもミステリらしく楽しい。
それにしても「メルーの赤い月」をはじめ時々見られる作者の「神秘の東洋」感にはうんざりする。アメリカ人への偏見もそうだが、この時代のイギリス有数の知識人チェスタトンにしてこれかと思ってしまう。

No.7 6点 斎藤警部
(2017/07/09 11:07登録)
チンマリ纏りの良い、どことなく明るい雰囲気の作品が目立つ。そんな中でラス前「マーンの服喪者」これがいきなりズウンと来るね。後半ロスタイムでまさかのロングシュート、決められました。。。 「最悪の犯罪」も物々しい雰囲気と表題に吸い寄せられるけど、、身の毛までは弥立たない。

プロローグとエピローグを形成する二篇「ブラウン神父の秘密」「フランボウの秘密」の趣深さはなかなか。全体通せばブラウン神父の中ではそう高評価も出来ないが、憎めない、忘れられない一冊だ。

No.6 6点 nukkam
(2016/09/01 11:54登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表のブラウン神父シリーズ第4短編集で10編の短編を収めていますが冒頭の「ブラウン神父の秘密」と巻末の「フランボウの秘密」は非ミステリー作品で、この連作短編集の導入と締めくくりの役割を果たしています。「飛び魚の歌」のようにトリックとその効果演出を重視した作品もありますが、一番印象に残るのは謎解きは単純ながら真相の影にある悲劇性をたっぷり描いた「マーン城の喪主」でしょう。謎を解くのがミステリーに与えられた課題には違いありませんが罪が明らかになった後に来るのは果たして罰なのか、色々と考えさせる作品です。最後の「フランボウの秘密」でも「秘密は何か」というより「秘密を知ってどうするの?」をチェイス氏に問いかけています。

No.5 7点 ミステリーオタク
(2015/11/25 16:03登録)
傑出した作品はねえかもしれねえが、ブラウン神父らしい話が満載だったような気がするぜ
プロローグとエピローグも雰囲気があってよかったぜ 

そうそう、大法律家の鏡での神父の反論根拠には爆笑したぜ

No.4 6点 E-BANKER
(2012/02/05 22:30登録)
「童心」「知恵」「不信」に続く、ブラウン神父の作品集第4弾。
さすがにここまでくると、過去の作品の焼き直し的なものが増えてきた印象はある。

①「大法律家の鏡」=殺人現場に2時間も留まっていた1人の詩人が容疑者にされるが、「詩人というものは同じ場所に2時間留まっても何ら不思議はない」というブラウン神父の解釈がきれいに嵌まる。
②「顎ひげの二つある男」=過去の作品でもよく出てきたプロットのように思える。まぁ短編らしい切れ味は感じるが・・・
③「飛び魚の歌」=これは確かにチェスタトンらしさ全開の作品で、ロジックがきれいに嵌った印象はある。ただ、いくら夜目&先入観ありとはいっても、そこまで感ちがいするかなぁーというのが現実的感想では?
④「俳優とアリバイ」=これは一応「密室殺人」を志向した作品なのだろうか? アリバイトリックというほどのものではないが、架空の人物の使い方はさすがにうまい。
⑤「ヴォードリーの失踪」=この殺害方法は相当大胆なもので、大胆なだけに死角をついていると言える。最後に明かされる動機もなかなか・・・
⑥「世の中で一番重い罪」=これも度々登場するプロット。要は「入れ替わり」なのだが、ブラウン神父が現場の些細なことからそれに気付く辺りが作者のうまさ。
⑦「メルーの赤い月」=これは何だかよく分からなかった。ブラウン神父は結局何が言いたかったのか? 本筋とは関係ないが、「東洋」に対するこの時代の欧米人の捉え方が垣間見えるのが興味深い。
⑧「マーン城の喪主」=プロットの肝はまたまた「入れ替わり」なのだが、本作はそんなことより、ブラウン神父が最後に力説する宗教感とでも言うべき主張が読み所。これって、要はチェスタトンの宗教感ってことだよね。

以上8編。
本作は上記の8編について、ブラウン神父がフランボウとアメリカ人観光客・チェイス氏に語って聞かせるという形式になっている。
冒頭では、事件を決して外面から見ず、内面から感じるのだというブラウン神父の「推理法」が語られるのが面白い。
そして、終章「フランボウの秘密」では、ラストの1ページが何とも気が利いてる。

ただ、1つ1つの作品のレベルは、やっぱり前3作よりは劣後してるのは否めないかな。
(中では①③辺りが、「らしさ」を感じられる作品だとは思う)

No.3 6点 kanamori
(2011/02/10 19:56登録)
ブラウン神父シリーズの第4短編集。隠退してスペインに住むフランボウらに、神父が語る8編の探偵譚が収録されています。
逆説的ロジックを具現化させる必要上、人物の入れ替りや一人二役トリックを使った作品が多いのですが、いずれも設定に工夫があり飽きさせません。
なかでは、プロットにヒネリがあり動機が特異な「ヴォードリーの失踪」が個人的ベスト。「マーン城の喪主」が準ベスト。

No.2 7点
(2009/07/30 19:56登録)
確かにトリックは以前の作品の焼き直しが多い感じはしますが、『大法律家の鏡』については、同じアイディアを利用した『~知恵』の中の作品よりも勘違いした原因が納得できる傑作だと思います。ブラウン神父の反対弁論の論拠には笑わせられました。
『顎ひげの二つある男』のムーンシャイン、『俳優とアリバイ』のマンドヴィル夫人、『ヴォードリーの失踪』のアーサー卿等、意外な人物像を明らかにしていく語り口もさすがです。『メルーの赤い月』『マーン城の喪主』の宗教テーマも重いものがあります。
ただ、プロローグで語られるブラウン神父の推理方法については、収録作を読んでみると必ずしもあてはまらないように思えました。この犯人への同化ならば、メグレ警視の方がぴったりくるでしょう。
エピローグ『フランボウの秘密』のラストがなかなかいい味を出しています。

No.1 7点 Tetchy
(2008/09/25 19:20登録)
本作ではまず冒頭の「ブラウン神父の秘密」においてブラウン神父の推理方法について開陳されているのが興味深い。
それは「自らを犯人の立場に同化させて、犯人ならどうするか?と考えること」とある。
つまりこれは現代の世で行われているプロファイリングそのものなのだ。こういう推理方法を既に1926年の時点において創作しているこのチェスタトンという作家の冴えに素直に驚かされる。

とはいえ、冒頭にも述べたように過去の作品に似た短編が多いのが難点。
「大法律家の鏡」は「通路の人影」の別ヴァージョンのようだし、「顎ひげの二つある男」、「ヴォードリーの失踪」などはチェスタトンが好んで使った○○トリック物。

しかし、「世の中で一番重い罪」のブラウン神父が真相にいたった解釈は、あっと声が出るし、「メルーの赤い月」の人間の立場による思考の特異性なども興味深い。
「マーン城の喪主」に至っては、○○トリックを実に上手く応用した作品で、一見子供だましのようだが、実はこの手の手法は現代の映画や諸作でも未だに使われている。

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