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ミステリの祭典

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奏で手のヌフレツン

作家 酉島伝法
出版日2023年12月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点 虫暮部
(2024/01/27 12:34登録)
 私は漢字マニアなので、たまに漢和辞典を読み耽ってしまう。
 常用でない漢字と言うのも当然ながら沢山あり、それら見慣れぬ文字(全くの未知ではなく個々のパーツには見覚えがあるところがミソ)を眺めるのは或る意味で至福の時。本書はそんな目眩く感覚で貫かれた作品。

 視覚的説明を極力排して言葉のイメージで築かれた世界は、やがて必然的に言葉そのものの基盤を失ってしまう。例えば、彼等は人らしいし顔の横には耳が付いていて頭には髪が生えるらしい。しかし耳の形状は判らず髪は痛覚を持っている。そうなると顔とは? 頭とは? となって、信用出来る言葉がどれなのか混迷に向かう。それが読んでいるうちに、判らないなりにイメージが固まり、曖昧なまま確からしく思われて来る。イヤこれは頭が歪むぜ。
 生態が曖昧な “人” でも日々の営みや親子の情は普遍なんだな~、と言った甘い感慨は、作者にとってきっと目的ではなく手段。ハードとソフトが逆転して、この異世界構築自体が主目的なんじゃないかと思う。
 それでもやはり大団円はやって来る。(通常の)物語的なカタルシスに飲み込まれて、それはそれで暫し感泣。涙石が落ちる身体でなくて助かった。

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