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ミステリの祭典

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幽玄F

作家 佐藤究
出版日2023年10月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 7点 みりん
(2024/11/14 08:51登録)
傑作
戦闘機に魅入られて自衛隊に入隊した主人公透。透は自衛隊に入隊し、あれほど夢見た戦闘機を操縦することになるが、音速飛行における原因不明の窒息に悩まされる。
自衛隊を辞職し、観光用フライトのパイロットに転職した透。なぜ戦闘機に心を奪われたのかと改めて自問する。透は重力や地上のしがらみの束縛を断ち切り、血の補色である空を切り裂く力が欲しかった。領土の奪い合い(戦争)が水平的であれば、それを脱してはじめて垂直的。それが少年期に夢見た自由な飛翔。あの窒息は地上(水平)のしがらみにまみれた「護国の空」の息苦しさからくるものであった。フライトがただの仕事と割り切れるほどに、自分を見失っていた透は、バングラデシュで様々な人物に出会ったことで、とある転機が訪れる。結末は…まさにこれ以外ない!!!

ミステリか疑わしいが、純文学寄りのアクション系エンターテイメント作品として逸品。三島由紀夫が好きな人や戦闘機に詳しい人は更に楽しめると思われる。私は知らなくても楽しめた。

No.2 6点 虫暮部
(2024/01/05 13:34登録)
 航空機の名称が具体的なイメージにつながらないので、マニアックな趣味の話を意味不明なまま雰囲気だけ聴いているような気分。舞台がタイに移って以降、人も動き始めて気持が乗って来た。でもちょっと美化し過ぎ、詩的に書き過ぎじゃない? 森博嗣のあのシリーズにも通じるところがあるけど、題材が題材だからこういう風になっちゃうのかなぁ。薀蓄小説として色々盛り沢山なあたりは実にミステリ的だ(皮肉ではない)。

No.1 8点 人並由真
(2023/11/30 02:59登録)
(ネタバレなし)
 2008年。東京の四谷。8歳の少年・易永透は、高空を飛ぶ飛行機に憧れていた。そして操縦士になる人生の目標に憑りつかれた透は高校で、同じく空と飛行機に強い思い入れを抱く級友・溝口聡と出会う。それを機にまた、透の運命は大きく変わっていった。

 ポリティカルフィクションや航空冒険小説の要素も部分的にはあるが、主題は空に憑りつかれ、その憧憬の念の強さゆえにとんがった人生を送る主人公の結晶化されたドラマーー。
 狭義どころか広義のミステリとさえ言いにくいような作品だが、前述のようなある種の冒険小説的な後半の作劇も踏まえて非常に面白かった。
 というより、地の文のほぼ大半が「~だった」「~た」で終わる叙述や、人物描写の絶妙な積み重ねで織りなされていく、独特の個性を感じさせる小説としての味わいが素晴らしい。

 評者は作者の長編はこれで三冊目(『テスカトリポカ』のみ未読)だが、一作一作個々の興趣があり、その上でたぶん今回が一番、書きたいことの結晶感が高い。
 二重の意味で余韻のあるクロージングも心に染みた。
 
 特化した主題(航空もの)の作品ではあるが敷居はかなり低く、良い意味で口当たりは良い。
 作者が標榜する三島由紀夫作品への傾斜も、読者に三島文学の素養がないと楽しめないなどということもない(現に三島作品なんてまだ数冊しか読んでない自分も、何ら問題なく最後まですらすら読めた)。まあ三島世界に通じている読者の方が、本作のより深い読解ができるとかといったことはあるかもしれないが。

 今年の収穫といえる一冊、なのは間違いないであろう。

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