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ミステリの祭典

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可燃物

作家 米澤穂信
出版日2023年07月
平均点7.00点
書評数5人

No.5 7点 虫暮部
(2024/01/27 12:32登録)
 飛び道具無しで地味。謎のポイントを親切に絞って判り易いが、その結果として小粒な印象。
 葛の思考は地の文で記述されるが、口に出す言葉は少ない。テレパシーじゃ伝わらないんだからさ。意図の共有を図らないこういう指揮官は、たとえ有能でも結構危険なんじゃないだろうか。

 そして巻末。法律的な手続きについて、弁護士が検め済み、とわざわざ断っているのだから、作者はそこに注目して欲しいのだ。
 つまり、諸々のミステリで描かれる警察官の行動は法律上リアルではない、正しくはこう、と実作を以て指摘している。自粛警察に倣って言えば “警察警察” 小説? うわっ、嫌な奴。

No.4 8点 まさむね
(2023/12/23 09:51登録)
 作者の力量を再確認いたしました。どの短編も無駄のない流れですが、決して無機質ではなく、グイグイ読ませます。その中での転換が実にお見事。
 マイベストは思わず唸った「命の恩」。次点はタイトルも秀逸「本物か」。凶器は何か「崖の下」も良作で、いずれも盲点を突く転換がポイント。その後に「ねむけ」「可燃物」と続く印象。
 良質な警察小説短編集と言えるのではないかな。

No.3 7点 HORNET
(2023/11/03 21:50登録)
 太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か?なぜ放火は止まったのか?犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが…(「可燃物」)。連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。(「BOOK」データベースより)

 米澤氏が「警察小説」という新境地に踏み出した一作と言えよう。とはいえそこは十分な力と実績のある作家、間違いはない。組織の中で、上司にとっては扱いづらい有能な刑事という設定はまぁベタではあるが、それが間違いないからベタなのであり、結局…本作も面白い。全体的に、横山秀夫の短編のような雰囲気があった。
 「ねむけ」は、主人公・葛らの不眠不休の捜査ぶりを伏線にしながら、真相と結び付けている企みが〇。ミステリ的な仕掛けでは「命の恩」が一番良かった。どんでん返し的な面白さがあったのは最後の「本物か」。
 しかし、帯にある「本格ミステリ×警察」って何なんだ。警察小説ってだいたいみんなそうだと思うけど。

No.2 6点 sophia
(2023/10/03 00:35登録)
●崖の下 7点・・・まさか×××じゃないよなってみんな思いましたよね(笑)
●ねむけ 6点・・・これはミステリーでよくある話のような 
●命の恩 7点・・・これが一番出来がいいですかね
●可燃物 5点・・・これはがっかり
●本物か 6点・・・注文数を確認した意味があまりないような

多彩な作風の米澤穂信ですが、唯一苦手なのが警察小説ではないだろうかと思っています。本作はミステリーとしても期待を超えてきませんでしたが、それよりも何よりも主人公の葛警部に人間的な魅力が乏しいです。機械的に捜査をして事件を解決しているだけで、彼の経歴や生い立ち、家庭環境や思想・主義など何も描かれていません。警察官に太刀洗万智のような「エモさ」は必要ないという考えなのでしょうか。どうにも物足りない作品でした。

No.1 7点 文生
(2023/07/27 20:18登録)
著者初の警察小説といいながら中身はしっかり本格。この2つの要素の絶妙な組み合わせがミステリとしての面白さを押し上げています。仕掛け自体はそれほど派手なものではありませんが、それが逆に渋い警察小説の雰囲気とマッチしているのです。警察小説と本格の融合という意味では横山秀夫の『第三の時効』あたりを彷彿とさせます。とはいえ、あちらは刑事同士の権力争いを横軸に据えた群像劇だったのに対し、本作は探偵役を葛警部が一人で担っており、他の刑事の出番はあまりありません。しかし、そうしたなかでも短い枚数でそれぞれのキャラの関係性を的確に描き、重厚さを加味していく手管が見事です。5つつの短編はどれも読み応えありですが、特に、死体をバラバラに切断した動機に迫っていく「命の恩」と、ファミレス立て篭もり事件の構図が反転する「本物か」が個人的にお気に入り。

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