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ミステリの祭典

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すべてはエマのために
ツユリシズカシリーズ

作家 月原渉
出版日2023年06月
平均点6.83点
書評数6人

No.6 6点 ミステリ初心者
(2024/12/23 17:53登録)
ネタバレをしております。また、同シリーズのネタバレも少ししてしまっているかもしれません。

 タイトルからツユリシズカシリーズだと思っていなかった私w 九龍城のほうがそれっぽいタイトルなので紛らわしいったらないですねw まあシリーズ最初の作品は~館の殺人というものでもなかったのですが。
 他の同シリーズ作品と同じように、あまり無駄な部分がなく極めて読みやすい作品です。今回は世界大戦中のルーマニアで、戦争の描写もありますが、鬱屈した感じはありません。読後感もよい感じです。ただ、なんだかシリーズを重ねるごとに、百合的なものが濃くなっている気がします…。露骨なものはありませんが。
 今回のシズカは、あまりロシア語の罵倒もなく、ただ冷静で有能な女性キャラクターになっており、あまり個性を感じませんでした。初期なんて、魅力的な殺人現場を目撃するたびにハラショーとかいって喜んでいたのにw 

 推理小説的要素について。
 人物の入れ替わりが2重になっていました。ネネ←→アル間と被害者←→死体です。それ自体は珍しいものでもないですが、時代背景とその設定から動機面で無理がなく良かったです。リサとネネが双子のように酷似しているのは一種のミスリードだったかもしれません。
 アルが女性だったのは盲点でした。途中のインタールードで謎の女性キャラの描写があり、それが伏線だったのですがまるでアルを女性だと思っておりませんでした。兵士はみな男性だという固定観念がありましたw

 総じて、読みやすく読後感の良い作品でした。非現実的な事象が起こっていても登場人物たちの行動も理解できます。一方で、本格推理小説のトリックやロジックを期待するとややがっかりするかもしれません;

No.5 8点 虫暮部
(2024/01/11 12:51登録)
 転落(二回もある)なんてほんの一瞬だから、意図的に目撃させるにはかなり微妙にタイミングを計らねばならない。従って目撃者二人のうち片方が共犯者で、もう片方を誘導する形だった筈。するとアクロイド方式か、またはシリーズ・キャラクターが犯人、どっちにせよ大胆だ。
 なんて思ったのだが、この指摘は野暮?
 
 それを抜きにすれば、登場人物達の心情が腑に落ちると言う点で、シリーズ中屈指の説得力。

No.4 7点 まさむね
(2023/09/04 23:09登録)
 ツユリシズカシリーズ第6弾。タイトル(「九龍城の殺人」はシズカシリーズじゃないのね…)はもとより、第一次世界大戦中のルーマニアが舞台ということもあって、これまでのシリーズ作品とはちょっとテイストが異なるのかな?と思っていましたが、作者の変わらぬ本格愛を感じる作品でありました。
 決して斬新な大技が炸裂するものではないですが、複数のピースを巧みに組み合わせ、かつ、歴史的背景を絡めた展開には好感。切り上げてこの採点。
 このシリーズ、続けてほしいなぁ。

No.3 7点 人並由真
(2023/08/09 10:11登録)
(ネタバレなし)
 世界第一次大戦前後のルーマニア。18歳の看護学生リサ・カタリンは、2歳年下の妹エマが病魔に冒されており、そして妹のために特殊な型の血液が必要と知った。そんななか、リサは、マラムレシュ地方の金持ちロイーダ家から、名指しで看護婦として働くよう要請を受ける。妹エマを救うことに繋がるさる思惑を込めて同家に向かうリサだが、そんな彼女を待っていたのは、ひとりのロシア系の日本人美女、そして怪異な不可能犯罪との出会いであった。

 シズカシリーズの新章作品・第一弾。
 題名のタイトリングパターンが既存のシリーズ作品とまるで異なるので、当初はシズカものとわからない。
 月原先生の前作『九龍城の殺人』がなんかそれっぽい題名なのに、非シズカものだったのは、作者としては今回のこの作品もまた、非シズカと思わせようと考えていたのかもね。
 白紙の状態でさっさと読んで、え!? と驚けた人が、ちょっとうらやましいかも。

 最初からしばらくは、20世紀序盤の時代の現代史小説を読むような味わいだけど、中盤からミステリとしてのギアがかかって面白くなる。
 一流半のネタをいくつも詰め込んだ手数の多さ、そしてそのネタ群の練り合わせがちょっとどこかアンバランスなのは、ああ、正にシズカシリーズである。終盤はいろんな意味で良くも悪くもサービスしすぎな感じはするし、メインの動機もかなり大昔からあるものだけど、こういう使い方は確かにちょっと珍しいかも? 
 ミステリとしてトータルで佳作。シズカシリーズの新展開、という趣向そのものは歓迎して、この点数で。

No.2 6点 nukkam
(2023/07/19 23:33登録)
(ネタバレなしです) 雪降る中を館へと向かう馬車を描いた新潮文庫版のジャケットがとても素晴らしい2023年発表のツユリシズカシリーズ第6作の本格派推理小説です。第一次世界大戦中のルーマニアが舞台となっており、これまでのシリーズ作品中最も時代性の描写に力を入れているように思います。強健な姉リサと病弱な妹エマを登場させているところはどことなくルイザ・メイ・オルコットの「若草物語」シリーズを連想させますがエマの登場場面は非常に少なく、リサとシズカの2人が主人公です。シズカを使用人役ではなく医者役にしているのはこれまでのシリーズ作品になかった設定ですね。行動を制限されたため医者として優秀なのかどうかを披露する機会がありませんでしたけど。推理はあまり論理的ではありませんが時代社会を反映した動機はなかなか印象的です。ただ真相解明にひねりを入れるためとはいえ終盤は登場人物の水増し感がありますが。

No.1 7点 みりん
(2023/06/30 22:35登録)
あらすじ
第一次大戦末期のルーマニアを舞台に描く愛と献身の悲劇ミステリー
黒い玄昌石の邸で、異様な一夜が開けた……。
黒衣の令嬢、仮面死体、尖塔、墓。
わたしの手を離さないで 


こういうタイトルに弱いもんでつい買ってしまった。
戦時中のルーマニアを舞台にしたことで登場人物の行動理念に説得力が増し、何とも美しい動機に繋がっている。フェアかアンフェアかはよくわかりませんがもうそんな事は素晴らしいエピローグを読んでからもうどうでもよくなりました。
前評判を見ずにタイトル買いしましたが、読み終わった後に良い買い物をしたなと得心しております。ところで、作品追加をする時に初めて気付いたのですがシリーズものだったんですね。シリーズ読者にはもっと楽しめる要素があったりしたのかな?

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