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ミステリの祭典

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歌われなかった海賊へ

作家 逢坂冬馬
出版日2023年10月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 8点 人並由真
(2024/04/19 05:10登録)
(ネタバレなし)
 物語全体のスケール観とダイナミズムは前作と到底、比べるべくもないが、小説としての練度は、ところどころ更なる進化を感じたりした。
 物語全体の語り部役を担ったメインキャラも、人間の清濁の混淆の形成として造形されたあのサブヒロインも、とても見事に描出されている。
 ナチズムの狂気と残酷さは前提の上で、それにからむ主義思想やや善悪のありように多面的な相対化を行なった筆致も適切。
 凡人が何に戸惑うって、その悪人の愚かさと非道さの向こうに、また別のもの、が透けて見えたときである。この作品はそのことを改めてしっかりと語り伝える。
 
 フランツ、アマーリエ先生、シェーラー少尉がとてもきっちりとキャラ造形された一方、何名かやや記号的な文芸を感じたキャラがいたのは本当にちょっとだけ残念。フリーデの素性の設定なんか、悪い意味で物語的すぎるとも思った。一方で、それがこのストーリーに必要だったのは、言うまでもないのだが。

 過去編のクライマックス以上に、現代編のまとめのエピローグが応えた。前作も幕引きパートで得点を稼いだが、今回はそれ以上であろう。現代編の狂言回しクリスティアンの記憶に浮かぶあの人物のキャスティングで、この作品は結晶感も豊かに完成した。

No.2 7点 虫暮部
(2024/01/27 12:32登録)
 こういうプロットはジレンマを孕んでいると思う。
 “体制の奴等の言うことを鵜呑みにしてはいけない”、それはそのまま “反体制の彼等の言うことも鵜呑みにしてはいけない” と言うことである。ほんのちょっと視座を変えれば(変えずとも?)これはテロリストの物語。ナチ側にだって個人単位で見れば同じようなドラマがあってもおかしくはない。
 つまり、“戦時下でもこんな風に抗った市民がいた!” と安易にヴェルナーに絆されるようなら、それはそれで危険だ。それが本作の教訓。

No.1 6点 文生
(2023/11/19 16:39登録)
前作『同志少女よ、敵を撃て』と同様、日本ではあまり知られていない、世界大戦下における歴史的事実に材を取った作品です。前作がソ連の女性狙撃兵に焦点を当てたのに対して今作はナチス支配下のドイツで体制に抵抗した若者グループ・エーデルヴァイス海賊団の活躍が描かれています。しかし、個人的には同志少女のエンタメ性の高さを評価していただけに、前作ほどキャラが立ってなくて説明的な記述が続く本作にはあまりのれなかったというのが正直なところです。また、物語が現代から始まるのも本筋の展開が予見できてしまうのであまり好きではありません。ただ、後半に入って物語が動き出すと徐々に盛り上がってきますし、クライマックスの活劇シーンなどはさすがの面白さです。余韻の残るラストも前作と同じく心に染み入りました。というわけでトータル6点といったところでしょうか。

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