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ミステリの祭典

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kanamoriさんの登録情報
平均点:5.88点 書評数:2515件

プロフィール| 書評

No.2435 6点 刹那の夏
七河迦南
(2026/01/24 15:07登録)
いちおうノンシリーズの短編集。5篇収録されている。
「七海学園」シリーズとのリンク(共通する登場人物がいるらしい)との評を見かけましたが、そのシリーズを読んだのはずいぶん前で内容を覚えていないし、本書のあとに出たシリーズの最新作も読んでいないので、その件は全く分かりません。
表題作の長めの作品「刹那の夏」が、不満点もあるが、編中の個人的ベスト。都会から田舎の港町に移住した少年の甘酸っぱく淡い青春物語の美しさに魅了される。ところが一転後半になると、とんでもない展開の本格ミステリに変調した。あまりの強引さや、死体の扱いには前半の雰囲気も台無しにしているようにも感じた。謎解き部分にのみ焦点を当てた読み方をすれば気にならないのかもしれないが。
「魔法のエプロン」は叙述の技巧が冴えた好篇。タイトルがなんとも。
残りの作品も含めて全体的に暗い雰囲気の作品が多いので、読者を選ぶ作品集と言えるかもしれない。あと、これは作者の趣味なのか、言葉遊び(アナグラムや回文)が頻繁に出てくるのは、個人的には煩わしさしか感じなかった。


No.2434 6点 六つ首村
折原一
(2026/01/21 16:51登録)
簡単に言えばタイトル通りの作品です。(簡単すぎて何の説明にもなっていない)

詳しくは的確に評されているメルカトルさんの書評をどうぞ、

部屋に引きこもったままの屋敷の当主、天井裏を徘徊する男、文字どおりの覆面作家、謎の通り魔など、折原ワールドではお馴染みの怪しげな人々が、30年前に大惨劇が起きた北関東の村に集結する。終盤の再現ドラマもそうですが、作者の過去作のガシェットが全部盛りです。好意的に言えば集大成のような作品です。
白兼家を巡る人物の関係が複雑過ぎて整理が大変。500ぺージを越える大作を読み終えるまで、頭のなかで、とっちらかったままだった、人物相関図が必要かも。(あ、それを載せるとネタばらしになるのか)


No.2433 7点 ハウスメイド
フリーダ・マクファデン
(2026/01/21 14:21登録)
裕福な家庭にハウスメイドとして雇われた女性が、やがてその家庭の秘密を知ることになり、ある事件に巻き込まれる、という粗筋紹介を読んで、年配者の大半の人が想起するのは、はいそうです、松本清張原案の昭和のテレビドラマ「家政婦は見た!」(市原悦子主演のほう)と言うことになるでしょう。
しかし実際読むと、かなり異なる。
まず主役の造形で、本作のミリーは前科はあるも美人の若い女性、市原悦子とは大きく違いますw 見た目だけではなく、最終的な立ち位置があんな風になる訳ですから。
ありがちなストーリーで、ある程度は先が読めるものの、やはり最後の処理には驚かされた。
これは読まれている理由がよく分かる、エンタメ小説の会心作でした。


No.2432 6点 我輩はカモじゃない
スチュアート・カミンスキー
(2026/01/17 18:16登録)
私立探偵トビー・ピータース・シリーズの3作目。
トビーは主にハリウッド映画界で、スターが巻き込まれた厄介ごとを解決する、探偵と言うより、トラブル・シューターです。
シリーズの特徴は、40年代に実在した有名人を毎回登場させていることでしょう。今作ではマフィアから強迫されているマルクス兄弟が依頼人。今作のタイトルは兄弟が主演した映画から借りています。
情報収集のために、出所して療養中のアル・カポネにトビーが会う場面から小説は開幕します。
シカゴに舞台を移しての、トビーの窮地の場面で助太刀する、謎の英国紳士のジェームズ・ボンドばりのアクション・シーンが見せ所と言えます。


No.2431 7点 夜と霧の誘拐
笠井潔
(2026/01/17 11:16登録)
矢吹駆シリーズ。また「哲学者の密室」以降は鈍器本シリーズともいわれているらしい。この最新作は650ぺージほどで比較的おとなしめ、片手で持てるので鈍器としての使い勝手もいい
感覚的に第一作から半世紀近く過ぎているかと思っていましたが、作中に「三年前のラルース家の事件」という記述が出てきて、頭がクラクラしました。読み手側の時間の流れる速度と、作中の時間のギャップの大きさが凄いですね。

「キングの身代金」オマージュな誘拐事件から始まり、ナディア主役の身代金受け渡しを巡るスリリングな展開、並行して起きる別個の殺人事件と、畳み掛ける前半の展開はリーダビリテイがあります。
途中で一度、目次に戻って各章題を眺めていたら、中盤でカケルが提示する「意外な構図」が閃いて来ました。まあ私の場合は本質直観ではなく「本質山勘」なのですが、
エド・マクベインのアイデアを謎解きミステリに取り入れて、このような良質なパズラーを書き上げた点は素直に称賛したい。
あと1つ、翻訳ミステリがらみのウンチクを披露しておくと、ナディアがマルティン・ベック・シリーズを読んでいることが判る、年代的にも整合性はある。


No.2430 6点 ユーモアミステリ傑作選
アンソロジー(国内編集者)
(2026/01/15 18:56登録)
風見潤編のアンソロジー、おなじ頃に様々なテーマのアンソロジーが講談社文庫から出ていて、一部のマニアにはたまらない探求本といえそう。
ユーモアといっても色々あって、軽妙洒脱な語り口の本格ミステリから、ブラックユーモア、お色気ハードボイルド、ドタバタ喜劇、パロディ、クライム・コメディなど、9編いずれもそれなりに楽しめる。収録作については、以下に簡単に書いておきます。

グルーバーは人間百科事典もの「ソングライターの死」、これは後にジョニー&サムものの長編に転用されたようだ。
ブリテン「クリスティを読んだ少年」は、「読んだ男」シリーズの一篇。
フィッシュはお馴染みシュロック・ホームズもの「エリート・タイプの怪事件」
スラデック「見えざる手によって」は、サッカレイ・フィンが密室殺人に挑む。
ジョイス・ポーターは「ホンコンおばさん、正義を行使す」
アーサー・ポージス「イギリス寒村の謎」は名探偵セロリ・グリーン登場、国名シリーズのパロディですが、オチが分かりにくい。(これは山口雅也のアンソロジーにも収録)
プラザー「ストリップ戦術」は、私立探偵シェル・スコットと恋人がドタバタ騒動を起こす、お色気ハードボイルド。
ウェストレイクの「殺人の条件」は、完璧な計画の妻殺しのはずが、思わぬ事態に展開していくクライム・コメディ。これは笑える。
ジョシュ・パークター「サム、シーザーを埋葬す」は、ちびっ子探偵ネロ・ウルフ&アーチィが愛犬の轢き逃げ事件を追いかけるが、、これはアイデアが秀逸といえるかな。

後発のアンソロジーや短編集で読めるものもあるけど、これでしか読めない作品が結構あるのでポイント高し。


No.2429 5点 うたかたの娘
綿原芹
(2026/01/15 09:13登録)
昨年の横溝正史ミステリ&ホラー大賞の受賞作。
よく知りませんが、もともとあった二つの新人賞を数年前に統合させた賞です。名前から、閉ざされた因習の村で猟奇的な事件が起こり、背後には謎の集団が、、みたいなホラーミステリ系を対象としている様に思いましたが、募集要項を見ると、対象は広義のミステリと、広義のホラーと並記されていました。
ところが、巻末の選評を見ると今回最終候補に残ったのは全てホラー小説で、ミステリがないのです。選考委員の一人は「ミステリを読みたい」と露骨に不満を表明する始末です。主宰のKADOKAWAとしては恩義のある横溝の名を冠した賞を存続させたいと苦肉の策で合併したんでしょうが、なんか裏目にでた感がありますね、

それで肝心の受賞作ですが、評判はいいようですが、私の嗜好には合わなかった。若狭地方を発祥とする人魚伝説をモチーフとしたオムニバス形式の連作長編で、3話目の水族館の怪異現象がインパクトがあった、ただ全体を通してメッセージ性が前面に出ているのがどうも苦手、
昨年は、ちょっとホラーミステリにはまっていたので、阿泉来堂の一連のシリーズや「鬼神の檻」「羊殺しの巫女たち」のようなもの期待していたこともある。


No.2428 6点 名探偵登場 5
アンソロジー(国内編集者)
(2026/01/11 18:21登録)
前巻からなんと5年ぶりの初期ポケミス名物シリーズの5巻目

聖者サイモン・テンプラー、トラント警部、マローン弁護士、奇術師グレート・マーリニ、リュウ・アーチャーなどの有名探偵の登場作よりも、名探偵が登場しない、ロバート・アーサーのオー・ヘンリー風の「大金」(別題「マニング氏の金の木」)や、バカミス・トリックが炸裂するフレドリック・ブラウン「スミス氏、顧客を守る」が面白い、そのシーンを想像すると笑える

次の最終第6巻はハードボイルド系の名探偵らしい
リチャード・デミングが「このミス」の1位を取るご時世でもあるし埋もれた佳作があるかも

アンソロジー「名探偵登場」は1956年初めから半年間で1巻から4巻までほぼ続けて刊行されました。この年の夏には日本版EQMMの創刊も予定されていて、この二つに関わったのがマニアックな若い編集者・田中潤司です、
田中は名探偵登場の作品選定・編集をしながら、EQMMの掲載作品の選定や発刊準備をしていたが、創刊の直前に退職したのです。(理由は諸説あり)
この「名探偵登場」の5巻の刊行が大きく遅れたのはおそらくそのためです。
急遽EQMMの編集長として都筑道夫が招聘されましたが、その時点で創刊号から3号までの作品選定は終わっており、都筑が担当したのはフレドリック・ダネイのコメントの翻訳だけだったようです。(都筑のエッセイ風半自叙伝「推理作家の出来るまで」を参照)


No.2427 5点 ホワイトハートの殺人
クリス・チブナル
(2026/01/09 16:16登録)
牡鹿の枝角を頭に乗せて裸で椅子に縛られた死体っていう猟奇的な発端は、今人気のクレイヴンのワシントン・ポーシリーズを連想させますが、読み進めると単に虚仮威しのように感じます。タイトルは本格ミステリ風でもオーソドックスな警察小説といえます
生まれ故郷に戻った女性刑事ニコラと新人刑事のコンビが田舎のパブをめぐる複雑な人間関係を紐解いていきます
英国のパブを中心にしたミステリだと米国人作家マーサ・グライムズの一連のシリーズがありましたが、比べると主人公の個性がいまいちですね


No.2426 5点 十四年目の復讐
中町信
(2018/03/17 17:30登録)
作者後期のレギュラーな探偵役である和南城夫妻と、「浅草殺人案内」の寿司屋の鬼ちゃん親子という、二組4人の探偵役が共演する豪華?版で、本作は講談社ノベルスで450ページを超える大作です。

複数の密室殺人と、ダイイングメッセージのダブルミーニングによるミスディレクションなどを織り交ぜつつ、バッタバッタと事件関係者が殺されていく例によって中町ミステリのテンプレートどおりの作品に仕上がっています。
ただ、二組の探偵役が別々に調査活動を行い、コンビの会話で事件の整理をしたり、推理を開陳するパートは、情報内容が重複しており、読者は二度同じ情報を読まされている感があります。二組の探偵役を登場させた設定を上手く活かせきれておらず、そのあたりはやはり冗長に感じられました。


No.2425 5点 太閤殿下の定吉七番
東郷隆
(2018/02/03 21:41登録)
大阪で見つかった太閤秀吉の黄金の隠し財宝が忽然と消えた。東京の秘密組織”NATTO”の関与を疑う大阪商工会議所は、殺人許可書を持つ秘密諜報部員・丁稚の定吉を捜索に送り込むが-----。

”なにわの007”こと、定吉七シリーズの第5弾。
時事ネタを材料にしたパロディと、社会風刺のギャグの部分は、さすがに今読むとピンとこないというか、意味不明なところも多いのですが、松竹新喜劇風のユーモアが愉しいシリーズです。また普通だとドタバタ喜劇で押し通してしまうところを、よく読むと活劇シーンなどは意外と真面目になっていることが分かりますね。

同系統のパロディ・ミステリ「オヨヨ大統領」シリーズが今月復刊されるらしい。定吉七番シリーズもどうかな?(こっちはちょっと難しいか)


No.2424 6点 32台のキャディラック
ジョー・ゴアズ
(2018/01/27 15:45登録)
信用詐欺で盗まれた大量の高級車を回収してほしい。保険会社からの依頼を受けたカーニーは、サンフランシスコのジプシー社会の中の詐欺師一族に目を付けるが------だいたいこんな調子で始まるDKA(ダン・カーニー探偵事務所)シリーズ、前作から10年ぶりぐらいの久々の長編4作目です。

怪しげなジプシーの占い師夫婦や多肢多彩な詐欺師たちと、DKA調査員との駆け引きが軽妙で面白いのですが、ハードボイルド風の捜査小説という感じはあまりなくて、クライム・ノヴェルの側面が強いのは好みの分かれるところでしょう。実は、本書はドナルド・E・ウエストレイクとのコラボ企画で、終盤に人気キャラクター泥棒ド-トマンダーと小悪党仲間たちが特別出演するのです。全体的にポップでライトな作風になっているのは、そのことに配慮した結果かもしれませんね。


No.2423 6点 潮もかなひぬ
赤瀬川隼
(2017/03/04 14:21登録)
熱田津に、船乗りせむと月待てば、潮もかなひぬ、今は漕ぎ出でな (額田王)

万葉集に隠されているといわれる秘密・暗合を謎とくという趣向の歴史ミステリ。
有名な女流歌人・額田王(ぬかたのおおきみ)の歌などはむしろ例外で、特殊な万葉仮名で書かれた歌の多くは解読されていないものも多数あるらしい。この難題に、全く門外漢のスポーツ・ライターが挑むというところが面白い。

政治的に無色な万葉集のアマチュア研究家が戦時中に特高に拘束されたというエピソードが前提にあって、万葉集と治安維持法との関連?謎(ホワイ)が興味を引きます。ただ、本書が発表されたのは今から30年も前のこと。最大のサプライズで、ロゼッタ・ストーンのような役割をするあるもののは今では一般に広く知られる情報となってしまっているのが、まあ仕方がないのですが、ミステリとすれば残念ではありますね。


No.2422 6点 ハイキャッスル屋敷の死
レオ・ブルース
(2016/09/24 10:21登録)
パブリック・スクールの歴史教師で素人探偵のキャロラス・ディーン登場の、シリーズ第5作(1958年発表)。
レオ・ブルースは、ポスト黄金時代のニコラス・ブレイクやマイケル・イネスとほぼ同時代の作家ですが、文学性や教養主義がミステリを薄味にしていると感じることもある”英国新本格派”とは一味違って、(邦訳された作品だけで見ると)純粋に本格パズラーに傾注した作風が好ましいです。作品個別のクオリティは別にして、クリスチアナ・ブランドに対する”黄金時代最後の末裔”(© 森事典)という称号は、レオ・ブルースにも通じるのではと思います(ちょっと持ち上げ過ぎかも?)。とくに本作は、お屋敷モノ、探偵役の聞き込み調査、関係者を一堂に集めた謎解き披露の大団円と、黄金時代の本格ミステリのオマージュ風味が強く感じられます。
”燻製のニシン”を初めとした加工食品の製造販売の成功で財を成した成り上がり貴族の広大な屋敷が舞台なだけに、まかれたレッドヘリングの数が半端ないですw  ただ、これまでの作品を読んで作者の手筋に通じていると、今回の事件の構図はやや判りやすいかなと思います。また、ルパート少年などレギュラー陣の登場が少ないのでユーモアは控えめですが、多くの使用人など端役の登場人物が個性的に描かれていて作者の持ち味はでています。
あと、レオ・ブルースの作風の特徴と本作を詳細に分析した真田啓介氏による巻末解説が素晴らしいです。何となくぼんやりと考えていた点を全て指摘されていてスッキリしました。


No.2421 5点 裁く眼
我孫子武丸
(2016/09/21 18:54登録)
漫画家を目指すも芽が出ず、露天の似顔絵描きをしていた袴田鉄雄の元に、突如テレビ局から、ある裁判の法廷画を描くという仕事が舞い込む。その裁判は、男性2人を謀殺した容疑で逮捕された女の事件だったが、被告女性を描いた法廷画がテレビで流れた直後、袴田は何者かに襲われる。さらに--------。

法廷画家という主人公の設定がユニークな謎解きミステリです。
テレビのワイドショーで扱う事件の法廷場面をスケッチするために、袴田は毎日裁判所に通うわけですが、物語の半分を過ぎても、美貌の女性被告・佐藤美里亜が起こしたとされる事件の詳細や、傍聴席に座る袴田の前で進行する裁判の様子も、ほとんど触れられません。連続謀殺事件を巡る”法廷ミステリ”だと思っていたので、これはちょっと意外でした。(終盤近くになって、ようやく証拠のねつ造を巡る弁護士と検察の法廷バトルがあって、一応法廷ミステリぽくはなるのですが)。
少しネタバレをすると、本作の中核の謎は、法廷画家を連続して標的にした法廷外の事件の”ホワイ”にあるわけですが、本格ミステリを読み慣れた人には、ある伏線が浮いているため、真相の方向性だけは分かりやすいかなと思います。ただ、浮世離れした社会不適合者のような主人公を支える姪で女子中学生の蘭花ちゃんをはじめ、近所の交番詰めの巡査など、脇を固めるサブキャラクターがなかなかイイ味を出していて、物語の読み心地はそう悪くはありません。続編もありそう。


No.2420 7点 地下組織ナーダ
ジャン=パトリック・マンシェット
(2016/09/19 22:34登録)
半端者の過激派グループ「ナーダ」の一員であるブエナベントゥーラ・ディアスは、アルジェリア解放戦争当時の盟友で、今は一匹狼のテロリスト・エポラールに偶然パリで再会した。彼をメンバーに加えた「ナーダ」は、かねてより準備を進めていた駐仏アメリカ大使の誘拐計画を実行に移すことに-------。

フランス”ロマン・ノワール”の旗手、マンシェットが1972年に発表したクライム・ノヴェル。
出世作である前作「狼が来た、城へ逃げろ」と同様に誘拐犯罪を扱っているのですが、アナーキスト集団によるテロというイデオロギー要素があって、本作には、かつて左翼運動家でもあった作者の信念が覗える部分があるように思います。ただ、グループの犯行動機は、思想的なものというより、どちらかというと社会から受ける閉塞感から、という感じが強いです。組織のメンバー誰もがどこかなげやりで虚無的なところがあるのです。
研ぎ澄まされた文体で短いセンテンスを続ける作風が特徴的で、後半の章割りを多くしたスピーディな展開にマッチしています。とくに、パリ郊外の百姓家に隠れたメンバーの男女5人と、包囲した警察隊との銃撃戦のシーンが大半を占める32章が圧巻で、非常にインパクトがありました。
ちなみに、本書の原題は”Nada”。作中のアナキスト・グループの名称ではあるのですが、訳者あとがきによると「何もない」を意味するポルトガル語ということで、救いようのない結末を踏まえると、シニカルで象徴的なタイトルです。


No.2419 5点 挑戦者たち
法月綸太郎
(2016/09/18 17:41登録)
本格パズラーでお馴染みの趣向「読者への挑戦」を素材にして、パスティーシュ、パロディ、クイズ、評論モドキなどなど、ありとあらゆる形式の挑戦状を創作して遊び倒した文体遊戯集。

本書にはミステリの問題編や解決編はなく、ただただ「読者への挑戦」部分だけを99通り並べています。
97番目の「不完全な真空」のなかで、フランスの前衛作家レーモン・クノーが書いた「文体練習」の推理小説版とありますが、それがそのまま本書の創作意図と思われます。
巻末に引用・参考文献一覧があるので、文体模写の元ネタに関しては読者に分かるよう配慮はされてはいますが、作者の博覧強記ぶりに感心はできても、マニアック過ぎる引用元が多いこともあり、ピンとこないものが散見されるというのが正直なところ。大半の読者には、分かったふうな顔をして読むことが求められますw
そんななかで印象に残っているのを数点挙げると、グリコ森永事件の脅迫状風の「和文タイプ」、「こんな”読者への挑戦”はイヤだ!」、クリスティ作品とノックスのコラボ「十戒」、宣伝付きの挑戦状「最多挑戦記録」、名探偵オルメスもののパロディ「挑戦状盗難事件」、「口述筆記」、「黄金比率」、代作クイーンをネタにした「合作者が多すぎる」、マローン弁護士のパロディ「最後の一撃」あたり。
パロディになるとニヤニヤ笑えて面白いと思えるものの、やはり作者にはそろそろ正統な本格パズラーを書いてもらいたいものですね。


No.2418 7点 暗殺者の反撃
マーク・グリーニー
(2016/09/17 16:02登録)
孤高の暗殺者コート・ジェントリーは、世界各地で5年にわたりCIAの刺客の群れと死闘を繰り広げてきたが、反撃に転じるべく故国アメリカに上陸、ワシントンDCに潜入した。それを知ったCIAの国家秘密本部長カーマイケルは、外国人暗殺集団らを使いグレイマン狩りを開始する--------。

”グレイマン”(人目につかない男)の異名を持つ元CIA特殊工作員で凄腕の暗殺者コートランド・ジェントリーを主人公とするシリーズの第5弾。マンネリ感なく、今作も面白く読んだ。
シリーズ各話はいちおう独立していますが、”目撃しだい射殺”というCIAのグレイマン抹殺指令が常に物語の背景にあり、今回はその謎の部分を明らかにすることが中核になっているので、シリーズ第1ステージの最終作という趣きがあります。
序盤の、武器や資金の調達という準備段階のディテールから、中盤以降は、例によって多彩な活劇・戦闘シーンの連続で全く飽きさせません。ワシントン・ポスト紙の男女記者や、CIAの女性上級局員、ジェントリーの特殊工作員時代の仲間など、わき役陣とジェントリーとの絡ませ方のさじ加減も絶妙で、(終盤の、女性記者による活躍が都合よすぎるのが気になりましたが)、往年のエスピオナージュ物を彷彿とさせるラストまで、スリリングな展開を堪能することができました。
上下巻850ページを超える長尺なので、一気読みとはいかないものの、スティーヴン・ハンターのスワガー・シリーズなどが好きだった人には躊躇なくお勧めできる冒険小説の傑作シリーズです。


No.2417 7点 血の季節
小泉喜美子
(2016/09/12 18:12登録)
昭和12年の秋、父親の事業の失敗で、その街に引っ越してきた小学生の〈ぼく〉は、某国公使館の屋敷に住むフレデリとルルブルの兄妹と運命的な出会いをする。彼らと夢のような日々を過ごす一方で、兄弟の母親の死や怪奇な事象の目撃、そして戦争の爪痕が、〈ぼく〉の精神を徐々に現実から引き離していく--------。

3年前の「このミス」の特別企画、”復刊希望アンケート投票”で国内部門第2位に入った小泉喜美子の第3長編で、「弁護側の証人」から18年ごしの3部作完結編でもあります。このたび版元が責任を取って?宝島社文庫でめでたく復刊となったので再読してみました。
青山墓地近くで発見された幼女の殺害犯として収監されている死刑囚のもとに、弁護士からの依頼を受けた精神科医が訪れるシーンで幕を開けますが、小説の大部分は死刑囚が語る戦前の少年期の物語で占められています。ドラキュラ伝説がモチーフになっていることは早めに分かるのですが、記憶していたような怪奇性は今回あまり感じられません。外国人の兄妹ら一部の人物を除き、主人公の〈ぼく〉をはじめ、捜査をする警部、精神科医など、主要登場人物の名前が一切明示されない趣向が特徴的で、この小説をメルヘンチックで幻想的な作品にしていると思います。(作者は、のちに別の長編でも同じような趣向を使っています)
以下ネタバレぎみになりますが、最終章での、精神科医による分析結果が、本作を幻想ホラーから合理性のある”謎解き”に反転させたかと思うと、さらに・・・という(ディクスン・カーやヘレン・マクロイの某作を想起させる)多重反転プロットが印象的で、余韻を残すラストと併せて個人的には評価します。ただ、このリドル・ストーリー的な仕掛けは、読者によっては好みが分かれるかもしれませんね。


No.2416 6点 幻の屋敷
マージェリー・アリンガム
(2016/09/09 22:59登録)
英国上流階級の高等遊民にしてアマチュア探偵、アルバート・キャンピオンが登場する、1938年から55年までの作品11編を発表順に収録した日本オリジナル編集の短編集2巻目。

ロンドン警視庁のオーツ警視のアドバイザーとして殺人事件に関わる〈本格編〉や、上流階級の揉め事の処理にあたる〈日常の謎〉〈コンゲーム物〉、さらにはクリスマス・ストーリーまで、今回もバラエティに富む内容になっています。
〈本格編〉を中心に印象に残ったものを挙げていくと、表題作「幻の屋敷」では、”家屋の消失”という大掛かりで魅力的な謎が提示される。序盤の伏線が丁寧で(そのため真相は見えやすいですが)まとまりのいい佳作。
守衛が監視する密室状況下で絞殺死体が見つかる「見えないドア」は、小品ながらも切れ味鋭い不可能殺人もの。この盲点をつく手筋は名作「ボーダーライン事件」に似ている感じがする。
「ある朝、絞首台に」も完成度の高い本格パズラー。凶器の拳銃の隠し場所トリックのアイデア(=他の作家も使っていますが本作が元祖かも)だけでなく、キレのあるラストの処理が抜群に光ります。
本格編以外では、キャンピオンが隠れた犯罪を暴く「魔法の帽子」「極秘書類」が印象に残りました。そのほか、ルーク警部から過去の事件を拝聴する2編をはじめ、後期の作品になると謎解きの妙味が薄れてきますが、全体的には前作より楽しめる作品が多かった。

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