kanamoriさんの登録情報 | |
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平均点:5.89点 | 書評数:2426件 |
No.2346 | 6点 | 失踪 ドン・ウィンズロウ |
(2016/02/24 20:02登録) ネブラスカ州の平穏な田舎町で5歳の少女ヘイリーが行方不明になる。前科のある男が捕まるも、少女の所在は依然として不明。地元警察が被害者死亡の結論に向かう状況のなか、当初から捜査を担当していた刑事フランク・デッカーは、少女の生存を信じ、職を辞して単独の捜索行に出る---------。 本国でも出版されていないウィンズロウ作品が角川文庫から2冊同時に刊行されると知ったときは、朗報というより、なにかイヤ~な予感がしたのですが、読んでみると普通に面白かった。 デッカー刑事の一人称の語り口は、他のウィンズロウ作品と比べてクセがなくオーソドックスなため、主人公の個性はさほど際立ちませんが、その分読みやすくリーダビリティもあります。 面識もない少女の失踪事件のために、職と家庭をなげうって、一年かけ米国中を捜索に駆け回るという、主人公の根本の行動原理には「なぜ、そこまでして?」という疑問がありますが、前半の重厚な警察捜査小説から、後半ニューヨークに舞台を移してからは、ハードボイルド風の展開になる構成が面白く、田舎者の元刑事が大都会の華やかなファッション写真業界や、上流階級社会に入り込み、妨害に遇いながらもワイズラックを交えて捜査で掻き回す様は、やはりハードボイルドですよね。 現代のアメリカ社会が抱える闇の部分に踏み込む重いテーマで、デッカー個人にとっても必ずしもハッピーエンドを迎えるわけでありませんが、爽快感があって余韻が残るラストで読後感はそう悪くはありません。 |
No.2345 | 7点 | ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド 事典・ガイド |
(2016/02/23 18:42登録) 連城三紀彦が2013年秋に亡くなって以降、雑誌掲載のままだった短編をまとめた作品集『小さな異邦人』や2冊の遺作長編の出版、”このミス”での復刊希望アンケート1位獲得、さらには人気作家が選ぶ傑作短編アンソロジーの出版などあり、”ミステリ作家・連城”の再評価、復権の兆しがみられるのは嬉しい。ただ、直木賞を受賞した「恋文」の影響か、いまだに一般には”恋愛小説作家・連城”というイメージも強いらしい。 本書は、連城三紀彦の全長編(含む未刊行作)と、確認できたすべての短編を取り上げ、そのミステリとしての読みどころを、”ミステリ読者のために”徹底紹介した文庫本サイズのガイドブックです。(今回読んだ”増補改訂版”には、雑誌掲載のまま未刊行になっている長編3作のレビューなど、かなりの加筆修正があって、旧版から100ページほど分量が増えています)。 連城作品には、ミステリと謳われていなくても恋愛小説に擬態したミステリだったり、また実際に恋愛小説であってもミステリの技巧を取り入れたものも多いことは、過去に出たガイド本や文庫解説などでも触れられているところですが、本書でその全貌が明らかにされている。 著者・浅木原忍氏による傑作認定の作品を見ていくと、短編では『戻り川心中』『夜よ鼠たちのために』『宵待草夜情』の三大傑作短編集の各収録作は当然として、「白蘭」(『たそがれ色の微笑』収録)や「喜劇女優」(『美女』収録)のように、マニアックながらも読み逃せない隠れた作品が傑作として多く挙げられている。長編でも、有名作とはいえない『美の神たちの叛乱』などはナルホドと思えるし、連作短編集『落日の門』も、いまだに文庫化されないのが不思議な逸品で、個人的にかなり首肯できる部分が多い。 またコラムの章では、『造花の蜜』の(蛇足という意見も多い)最終章の”隠された意図”を考察した論考が非常に興味深かった。連城愛が高じた末の妄想という感もなきにしもあらずですが、構図の反転を得意とする連城マジックさながらの”真相”はインパクトがあります。 とにかく、著者の”連城愛”がすごくて、取り上げた作品をこれだけ熱く激賞しているガイドブックは、他には内藤陳氏の「読まずに死ねるか!」以外に思い浮かばない。どのレビューにも「傑作」というワードがあふれていて、ざっと数えて5万回ぐらい「傑作」という言葉が出てくる。まさに連城三紀彦に宛てた”恋文”のようなガイドブックなのです。 ただ、多くの人に読んでもらいたい労作なのですが、同人誌ゆえに一般書店やAmazonなどで手軽に入手できないのが難。大手出版社から出してもおかしくないぐらいのクオリティなんですけどね。 |
No.2344 | 6点 | シンデレラとギャング コーネル・ウールリッチ |
(2016/02/22 00:08登録) 白亜書房版のウールリッチ=アイリッシュ傑作短編集。3巻目の本書には、長編第1作「黒衣の花嫁」刊行の直前にあたる、1939年から40年に書かれた中短編6編と、最初期の非ミステリ短編1編が収録されています。 「黒い爪痕」は、長編『黒いアリバイ』(未読)の原型となったスリラーで、中盤のサスペンスはそれなりに読ませますが、逃げた黒豹の扱いが見方によってはバカミスのように思えてしまう。 「ガラスの目玉」は、小学生の男の子が手に入れた義眼から隠れた犯罪を突き止めようとする冒険譚。どことなく仁木悦子の子供探偵ものに似た味わいがあって、ハートウォーミングな結末が良い。 表題作の「シンデレラとギャング」では、背伸びした16才の少女がギャングの抗争の渦中に巻き込まれる。ギャングの符丁をめぐる誤解が醸し出すユーモアと、中盤のサスペンス、人情話という三つの要素がバランスよく配され、ラストシーンではニヤリとさせてくれる佳作。「ガラスの目玉」もそうですが、こういうのを読むと、かつてアイリッシュの多くの作品が子供向けにリライトされていた理由がよくわかります。 「アリスが消えた」「送っていくよ、キャスリーン」「階下で待ってて」は、創元版で既読のため今回はパス。いずれもアイリッシュらしさが発揮されたサスペンスですが、(作品の発表順に収めた叢書とはいえ)同じようなプロットの作品を3編並べるのはいかがなものか、という感もあります。 |
No.2343 | 5点 | 下北の殺人者 中町信 |
(2016/02/20 20:48登録) 中町信の再読マラソン、今年の1冊目。 専業作家になって最初の作品、しかも当時のミステリ出版の舞台としては花形といえるメジャー・レーベル・講談社ノベルズ初登場ということで、気合が入ったであろう力作だと思います。 宝くじのグループ買いで当てた大金が絡む”下北半島温泉バスツアー連続殺人事件”という、基本のプロット自体はこれまで書いてきたものとそう変わらず、中町ミステリのテンプレートどおりの展開。 容疑者候補の県人会メンバーがどんどん減っていくのに、簡単には読者に真犯人を絞り込ませないミスリードのテクニックが読みどころです。 ただ、今作では動機の面から真相に気付かせないよう作者が採った方法が、アンフェアとまでは言えないまでも、あまり好みのものではありませんでした。これだとスッキリと騙されたという感じを受けないので、採点は少し厳しめになりました。 ところで、文庫解説によると、推理作家の津村秀介氏が中町氏と教科書出版会社で同僚だったとのこと。 妄想ですが------- 津村「猪苗代湖、もらっていいかな?」 中町「どうぞどうぞ、こっちは温泉シリーズでいくから」 二人の間で、そんなやり取りがあったかもしれないw |
No.2342 | 6点 | アントニイ・バークリー書評集Vol.3 評論・エッセイ |
(2016/02/19 18:05登録) 本誌は、バークリーがフランシス・アイルズ名義で「ガーディアン」紙上に1956年から70年まで月1回のペースで連載したミステリー時評を、翻訳・編集した同人誌です(編訳者は三門優祐氏)。第1巻はクイーン、カー、クリスティ御三家の後期作品、第2巻がシムノンを中心としたフランス・ミステリでしたが、第3巻の本書は、英国出身(含む豪州ほかの旧統治国)の女性ミステリ作家のものを抽出し、掲載日順に並べた構成になっています。 本巻の特徴は、30作家150作品と、収録された作家と作品数が前2巻と比べて格段に増えていることです。 バークリーがこの書評の連載を開始した後にデビューしたルース・レンデル、PD・ジェイムズら、日本でも人気が高い実力派作家の作品が高く評価されているのは順当としても、ジョイス・ポーターのドーヴァーシリーズを、第1作から順次採りあげているのは個人的に嬉しい。ただ、なぜか一番人気の「ドーヴァー④切断」だけが抜けているのが残念な点で、バークリー的には嗜好が合いそうでも、アイルズ的にはダメ出しもありそうな、この作品の書評は読んでみたかったですね。 その他の有名作家では、エリザベス・フェラーズ、グラディス・ミッチェル、パトリシア・モイーズあたりが多く採られていましたが、「死後」のガイ・カリンフォードや、「蛇は嗤う」のスーザン・ギルラス、「飛ばなかった男」のマーゴット・ベネットといった、邦訳が1作限りで日本ではマイナーな作家の未訳作品が取り上げられているのも個人的にポイントが高いです。この辺はどこかで翻訳出版してもらいたいものです。 ただ、これは総体的に言えることですが、一回に多くの作品を取り上げている関係上、作品内容に深く踏み込んだ書評が意外と少ないという印象があります。”バークリーはこの作家をどう見ていたか”、”バークリーの作品嗜好はどうだろう”というように、紹介作品の内容より、あくまでも書評家バークリー像を楽しむ書評集という感じがします。 バークリー像といえば、とにかく正確な文法に対する拘りがハンパないのですが、文法ミスをネチネチと指摘する姿勢に「推理日記」の佐野洋氏を思い浮かべましたw どちらもご意見番タイプという感じ。 |
No.2341 | 6点 | リカーシブル 米澤穂信 |
(2016/02/17 21:00登録) 中学生の少女ハルカは、父の失踪により、母と弟の三人で過疎化が進む母の故郷に引っ越してきた。だが、その町では、高速道路の誘致をめぐる暗闘と、未来予知にまつわる江戸時代からの伝承で不穏な空気が漂い出していた--------。 少年少女を主人公にした青春ミステリは作者の十八番とするところですが、本書は、古典部シリーズや小市民シリーズのようなライト系のテイストは感じられず、ハルカの複雑で貧困な家庭事情や、町に伝わるオカルトじみた伝説が絡むことで、作品全体がうす暗い雰囲気に包まれています。個人的には、設定が三津田信三のノンシリーズのホラー小説風、作風は道尾秀介の文芸路線ものを連想させるところがありました。 ミステリとしてのキモは、町に移り住んだとたんに、弟のサトルが未来予知や過去視が可能になったような奇妙な言動を繰り返すことにつきますが、伏線をふくめ、その真相の部分は非常に面白いと思います。ただ、なかなか核心の事件が起こらないジワジワした展開は、好みが分かれそうではありますね。 あと、作品紹介のなかの”あの名作「ボトルネック」の感動ふたたび!”という一文ははたしてどうなんでしょう。キャッチコピーとしては、逆効果のような気がします。 |
No.2340 | 6点 | ミステリ・ウィークエンド パーシヴァル・ワイルド |
(2016/02/15 21:42登録) 「ミステリ・ウィークエンド」と銘打たれた冬の観光ツアーで集まったホテル客の一人が、納屋の中で死体となって発見される。折りしも猛吹雪で外界と隔離された状況下、ホテルのオーナーや長期滞在客らが調査を進める中、なんと密室内の死体が別人に入れ替わってしまい-------。 パーシヴァル・ワイルドのデビュー長編。 代表作の「検死審問」シリーズなどと比べるとユーモアは抑え目で、200ページ足らずのコンパクトな内容ながらも、4人の主要登場人物によるリレー形式の手記という全体構成がユニークな作品です。 いわゆる”吹雪の山荘”もので、密室からの死体消失(死体の入れ替り)というメインの派手な謎のトリックに関しては、やや拍子抜けの感があるものの、そのほかの細かな多くの謎とその伏線の妙味が楽しめました。とくに、不可解で怪しげな言動を繰り返すドウティ夫妻をめぐる謎の真相には、半笑いのやられた感があります。 デビュー作ゆえの粗削りなプロットという感は否めないですが、身元が確認できない”自称”の登場人物たちが集まるホテルという舞台設定を、最大限に利用したところは一番に評価したいですね。 併録された3つの短・掌編もそれぞれ異なる味わいがあっていいセレクトだと思います。なかでも、通信教育探偵もの「P・モーランの観察術」のとぼけたユーモアが相変わらず楽しいです。 |
No.2339 | 7点 | 図書館の殺人 青崎有吾 |
(2016/02/13 14:19登録) 風ヶ丘図書館に夜中に侵入した大学生が、翌朝、撲殺死体で発見される。現場には凶器となった山田風太郎の「人間臨終図鑑」と、2つのダイイングメッセージ。神奈川県警のアドバイザーとして駆出された高校生・裏染天馬は、消去法推理で犯人を絞り込もうとするが--------。 特殊設定や叙述トリックものが氾濫する最近の国内本格ミステリ・シーンの中にあって、当シリーズのようなロジック展開の面白さを中心にした王道のフーダニット・パズラーはかえって新鮮に感じられますね。本作も面白かったです。 ダイイングメッセージの扱いに変化を持たせているのは、作中の天馬の台詞がそのまま作者の考えなのでしょう。本家のクイーンがそれに拘り過ぎて変になってしまった、という思いもあるのではと愚推します。 本書の難点は、やはり動機の弱さ(個人的には理解できないレベル)ですが、これは、”真相の意外性”とロジカルな推理との両立を狙った結果かな。両立できれば、それは”傑作”ということになるのでしょうけど。 あと、本筋とはあまり関連しないですが、図書館本のビブリオ・ネタや、学園もののコメディ部分も愉しいです。とくに”黄色の蛍光ペン”のくだりでは爆笑させてもらいました。 |
No.2338 | 6点 | 弁護士の血 スティーヴ・キャヴァナー |
(2016/02/10 18:16登録) ニューヨークの弁護士エディー・フリンは、ある日、ロシアン・マフィアに脅迫され、組織のボスの裁判で不利な証言をする重要証人を、法廷内で爆殺するよう強要される。要求をのまなければ、マフィアに拉致された10歳の娘エミリーが殺害される-------。 ”ダイ・ハード+ジョン・グリシャム”という謳い文句どおり、リーガル・サスペンスとアクション・スリラーが程よく融合した娯楽作品です。 主人公のフリンは、ある裁判が原因で酒に溺れ、妻にも見放された落ち目の弁護士ですが、スリと詐欺を生業にしてきた過去をもつという変わり種です。その経験を活かして、次から次へと襲ってくる窮地を切り抜けるテクニックが本書の最大の見どころで、まさに”ダイ・ハード”。ただ、凄腕の協力者の存在や、主人公に有利に働く偶然など、かなりご都合主義的な展開が気になるのも事実です。(それも、まさに”ダイ・ハード”的) また、法廷でのフリンが対峙する相手が、検察や裁判官というより、むしろ弁護する被告側のマフィアであるため、検察との法廷バトルは存在感が薄く、リーガル・サスペンスとして読むと物足りない感もありますね。 とはいえ、テンポのいい派手な展開の連続は読んでいる間は十分に楽しめましたが。 |
No.2337 | 5点 | 春夏秋冬殺人事件 斎藤栄 |
(2016/02/08 18:26登録) 横浜市郊外の太陽台団地に住む美大の助教授・菊水桂二郎は、素人の名探偵として警察も一目置く有名人。特技の読唇術を活かして、今日も団地周辺で発生した殺人事件を謎解いていく--------。 春、夏、秋、冬の部と、4つの事件から成る連作ミステリ。 ぶっちゃけ3話目までは本格ミステリとして大した出来ではありません。1話目の「団地美女殺人事件」こそ、”なぜ犯人は裸の死体を路上に放置したまま逃走したのか?”というホワイから、意外な犯人に繋がる仕組みに面白みがありますが、第2話の偽装遺書のトリックは(気付きの伏線に工夫があるものの)仕掛けがミエミエですし、3話目に至っては偽装アリバイがトリックにもなっていないありさまです。いずれも、犯人に罠を仕掛けて....という結末の処理も安直な感じを受けます。 しかし最終話がちょっとした問題作です。茶室の密室トリックは山村美紗の某作のヴァリエーションといえますが、最後に明かされる意外な犯人にはキョトン.......なるほど、だから特技が読唇術www あと、タイトルがベタで損をしていますね。再販することがあるなら、いっそのこと「菊水桂二郎とXYZの悲劇」とかに改題してはどうでしょうか。 |
No.2336 | 6点 | Zの喜劇 ジャン=マルセル・エール |
(2016/02/06 12:53登録) B級映画オタクのフェリックスは、職にも就かず、1歳になる娘の世話をしながら、映画の脚本を書き散らかしていたが、そんなある日、食肉屋のオヤジが彼のシナリオを映画化したいと言ってきた。しかし喜ぶフェリックスのもとに刑事が現れ、意外な事実を告げる--------。 「その女アレックス」が火をつけたのか、昨年は例年になく多くのフランス・ミステリが翻訳出版された印象がありますが、本書はそのなかでも、最も笑撃度が大きかった怪作です。 フェリックスの映画シナリオの登場人物は実在しており、老人ホームに住み込む元端役の映画俳優たちが脚本どおりに次々と失踪していく、というのが本書の謎解きミステリとしての本筋ですが、とにかく、登場人物たちの奇人変人ぶりがハンパない。 妻、娘、姉、母親と周りの強い女性陣に翻弄されっぱなしのダメ男の主人公はもとより、推理小説のデータを参考に確率で犯人候補を次々列挙していく刑事と、そのバカ息子の刑事見習い。100歳を超える元ポルノ俳優の夫婦や、”老い”をネタにしたギャグを応酬する元映画俳優たち等々、まともなキャラクターは一人も登場しないw とはいえ、メタでハチャメチャなドタバタ展開の終幕には、”どんでん返し”による意外な真相も用意されているので侮れません。 |
No.2335 | 6点 | アンデッドガール・マーダーファルス1 青崎有吾 |
(2016/02/04 18:30登録) 19世紀末、怪物が跋扈するパラレル・ヨーロッパを舞台に、怪物専門の少女探偵・鴉夜(あや)と、助手の”鳥籠使い”津軽、メイドの静句のトリオが怪事件に挑む、UGMF(死なない少女の殺人笑劇)シリーズの第1弾。 第1話は、人類親和派の吸血鬼一家が住むフランスの古城で起きた”吸血鬼殺し”というフーダニットもの。古典的トリックを吸血鬼特有の属性に活かしたアイデアが面白い。 後半の第2話では、人造人間の製造に成功した博士が、密室状況の地下研究室で首なし死体で発見される。ベルギー警察時代の”あの名探偵”による「アリバイ」崩しのダミー解決にニヤリとさせられるが、推理の選択肢が少ないので生首消失トリックの難易度はそう高くはないと思います。 謎解き部分以外では、怪奇小説やミステリ作品でお馴染みの名探偵や怪人・怪物の”著名人”の名前が多数出てくるのも愉しい趣向です。”教授”や”ジャック”らが登場するラストの引きで、続編への期待値を高める手際も上手いと感じた。 裏染天馬シリーズほどクイーン流ロジックにこだわっていない分、ギャグあり、アクションありで、キャラの立ったライトノヴェルとしてなかなかの出来映えだと思う。第2弾を楽しみに待ちたい。 |
No.2334 | 5点 | 悪夢はめぐる ヴァージル・マーカム |
(2016/01/25 18:14登録) 刑務所長の”わたし”のもとに、全ての囚人に会わせてほしいという女性が現れたあと、ひとりの死刑囚が謎めいた言葉を残して死ぬ。さらに、郵送されてきた古い手紙の束を読んだ”わたし”は、刑務所長の職を投げ出し、財宝探しの冒険行に旅立つことに-------。 なんだこれは? 頭の中を整理するために”あらすじ”を書いてみたものの、我ながらまったく要領を得ないプロットです。主人公の行動原理がはっきりと説明されないまま、あれよあれよと脈絡もなく物語が展開していくので、ラスト近くまではモヤモヤ感が増すばかり。 ”あの「死の相続」を超える米国黄金時代の最大の怪作”という触れ込みですが、まあ怪作には違いないにしても、個人的にはそれほどスゴイとは思えなかった。とくに、主人公がニューヨークの裏社会に潜入し、ギャングから情報を得ようとする前半部の、だらだらしたストーリー展開が非常に退屈に感じる。 後半になると、これまでの話の流れを完全に断ち切って、なぜか幻想的な雰囲気が漂う湖畔の村を舞台にした謎解きミステリになります。まったくジャンルが異なる2つの小説を強引にくっつけた感じで、”密室状況の小屋のなかの溺死体”という魅力的な謎がでてくるものの、その真相もいささか拍子抜けの感は否めない。 ラストに立ち現れる構図は美しく印象的なだけに、あれやこれや色々と勿体ないと思えた作品。 |
No.2333 | 8点 | 戦場のコックたち 深緑野分 |
(2016/01/23 12:25登録) 特技兵(コック)としてノルマンディ上陸作戦に参加した19歳の新兵ティムは、個性的なコック仲間とともに、戦場や基地で次々と奇妙な事件に遭遇する。その謎を解くのは、いつも沈着冷静なリーダーのエドだったが--------。 2013年に”ミステリーズ!新人賞”佳作入選作「オーブランの少女」を表題にした短編集でデビューした作者による、連作形式の初の長編作品です。昨年の”このミス”国内2位、直木賞候補(惜しくも落選)、さらには本屋大賞の候補と、デビュー2作目にして早くもブレイクした感がありますね。 よく言われているように、戦場という非日常の世界を背景にした”日常の謎”というのが本書のウリです。ミステリ部分だけを取り上げて見れば、さほど傑出しているとは思いませんが、それでも伏線を効かせた、戦場ならではの”ホワイ”が非常に魅力的な作品です。 誇り高き料理人だった祖母のレシピを崇める主人公の「僕」こと、ティムの語り口は、いかにも創元の”日常の謎”らしいライトなものなので、戦況が激化し仲間たちが退場してゆくシリアスな戦争小説には、最初は合わないように思えたのですが、終幕が近づくにつれ、これが効いてきます。青春小説としても素晴らしいです。 |
No.2332 | 6点 | 白魔 ロジャー・スカーレット |
(2016/01/22 18:16登録) クインシー夫人の屋敷に住み込む間借り人の一人、アーサーの部屋に何者かが押し入り、大量の血がまかれる怪事件が起きる。ボストン警察のケイン警視が調査を担当するが、今度はアーサー自身が殺害され、さらに第2の殺人が発生する---------。 女性2人のコンビ作家ロジャー・スカーレットは、著書の5作全てが”館ミステリ”ということで知られていますが、本作は、色々な人物が間借りし集団住宅のように使用している屋敷が舞台なので、館ミステリというよりは、ヘレン・マクロイ「読後焼却のこと」や、エリザベス・フェラーズ「私が見たと蝿がいう」、ステーマン「殺人者は21番地に住む」などと同タイプの、”下宿モノ”と言った方が適切だと思います。 本書の構成上で眼を引くのは、(nukkamさんも指摘されてますように)物語が半分も行かない段階で、関係者を一堂に集めたケイン警視による謎解き披露、犯人の特定がありながら、その上でフーダニットの興味を最後まで持続させていることですね。(その意味するところは、さほど大したことではありませんが) 容疑者の間借り人たちのうち、視力障害の人物以外はキャラクター的に印象に残らないのと、邦題の「白魔」のもとになった白いペルシャ猫の手掛かりがアレなのが難点ですが、フーダニットに関わるミスリードが効果的な、まずまず楽しめた作品です。 |
No.2331 | 5点 | 海妖丸事件 岡田秀文 |
(2016/01/21 22:16登録) 横浜港から上海に向かう豪華客船に乗り合わせた探偵・月輪と地方官吏の杉山の腐れ縁コンビだったが、出航直前に届いた不穏な予告状のとおり、船上の仮面舞踏会の夜に殺人事件に遭遇。さらに、宝石の盗難や脅迫事件につづき、第2の殺人までが起きる--------。 探偵・月輪シリーズの3作目。明治時代を背景にした船上ミステリーで、他の船客はオフリミットな一等客室というクローズド・サークルものになっています。 設定自体は大好物ではありますが、前2作と比べると仕掛けの部分が地味で、やや面白さが減退している印象。まあ、前作の「黒龍荘の惨劇」が強烈すぎたというのもありますが。 初っ端に井上馨という大物の特別出演があるものの、明治モノの要素がますます希薄になっているのもマイナス要因です。メインの〇〇トリック自体は、その時代ならではという点で、”明治”の意味はありますが、これはこれで危なっかしい綱渡り的トリックです。あと、豪華客船とくれば伯爵夫人に宝石盗難、というのも定番すぎて既視感がありますね。 なんだか文句ばかり並べた感じですが、ラストの演出はしゃれています。 |
No.2330 | 7点 | 雪の墓標 マーガレット・ミラー |
(2016/01/20 18:26登録) 不倫相手の男を殺害したとして医師の妻ヴァージニアが逮捕される。当時彼女は記憶をなくすほどの泥酔状態で、事実関係が把握できない状況下、ヴァージニアの母親に雇われた弁護士ミーチャムのもとに、自分が犯人だという男が名乗り出てくる--------。 ”東京創元社によるハヤカワ文庫補完計画”w の一環として昨年に新訳復刊された「まるで天使のような」の話題に隠れて、それほど評判に上がらなかった印象があるのですが、論創社から出た本書も良作です。 逮捕されたヴァージニアの弁護のため、現地の空港におりたった母親と付き添いの娘、そして弁護士のミーチャム。 三人の会話のやり取りだけで、キャラクターや設定、状況を読者に知らしめる冒頭のシーンから物語に引き込まれ、巧いです。どこか「まる天」の私立探偵に似たところもある弁護士ミーチャムが、たどり着いた真相には胸に迫るものがありますが、クリスマスを背景にした物語だけあって、”もう一つの愛”で終わる結末で読後感は悪くはないです。 ニューロチック・スリラーと呼ばれた「鉄の門」「狙った獣」などの暗い異常心理サスペンスは苦手。かといって「ミランダ殺し」のようなコメディ・タッチの軽いものは物足りない、という読者には、(ちょうど、その中間にあたるような作風の)謎解きプロットにヒネリがあり、ある程度のサプライズも味わえる本書や「まる天」をお薦めします。 |
No.2329 | 6点 | 片桐大三郎とXYZの悲劇 倉知淳 |
(2016/01/19 18:16登録) 聴力を失ったことで引退した元時代劇俳優の大御所・片桐大三郎は、タブレット端末を使って”耳”の役割を務める新人事務員の”のの子”を従え、今日も趣味の探偵捜査に乗り出す-------。 ドルリイ・レーン悲劇四部作をモチーフにした連作本格ミステリ。 通勤ラッシュの山手線車両内でニコチンによる毒殺事件が起きる第1話、マンドリンならぬ、ウクレレで撲殺された画家の事件の第2話。いずれも真相にいたる片桐の推理のロジックには、やや説得力に欠け、納得がいかないところがありますが、クイーンの「X」「Y」の趣向をなぞった設定が愉しい連作です。また、探偵役である片桐をはじめ芸能事務所の面々のキャラクター作りに注力している点も好感が持てます。 幼児の誘拐を扱った第3話は、構図の逆転や意外すぎる凶器にインパクトがあるものの、かなり後味が悪いのが好みの分かれるところですね。「Z」との関連性もよくわからず、これだけ浮いている感じがします。 連作の最後を締めくくる”最後の季節”を読むと、なるほど作者がやりたかったのはコレか、というのがよく分かります。ただ、レーン四部作を下敷きにすることに加え、各話を冬春夏秋の四季モノ連作にすることで、第4話におけるミスディレクションの強化を図っているのですが、そのことが同じ原理のトリックを使った東川篤哉氏の某連作を連想させるために、逆に仕掛けの部分に気付く読者がいるのでは、と思わなくもありません。 |
No.2328 | 6点 | 寂しすぎるレディ ドミニック・ルーレ |
(2016/01/19 00:20登録) 作曲家を志望し田舎からパリに出てきた青年アントワーヌは、雑誌の交際欄で恋人を求める広告を目にし、謎めいた女性レアと出会う。二人は急速に親しくなり、やがて愛し合うが、時々暗い顔を見せるレアには何か秘密があることに気付く--------。 1979年度のフランス推理小説大賞を受賞した心理サスペンス。 最初の章で、アントワーヌが獄中で書いた弁護士宛ての手紙文が開示されているので、物語の後半で何か事件が起こったのだなと推測できますが、主人公と情緒不安定な女性レアとの恋愛模様が中心の前半は、レアの境遇やある行為の説明があやふやなまま物語が進行します。 ミステリの主題としては、"いったい何が起きているのか?" ということになるのですが、ほとんどの読者は、リリーという幼女が登場した段階で、隠された構図が判ってしまうと思います。作者もその陰謀部分を隠すことにさほど重きを置いていないのではと思えるほどです。 抒情的でやるせない深く印象に残るラストシーンを読むと、本書は恋愛を煙幕にしたミステリなどではなく、ミステリ部分を小道具にした恋愛小説なのでは?と深読みしてしまう。 |
No.2327 | 4点 | 消えたなでしこ 西村京太郎 |
(2016/01/17 15:17登録) 女子サッカー日本代表メンバー22名が、オリンピック直前に誘拐された。身代金は100億円。十津川警部は、誘拐を免れた”なでしこジャパンの10番”澤穂希選手に捜査協力を依頼、事件解決に向け動き出す--------。 十津川警部と澤穂希、夢のツートップが遂に実現! というキャッチコピーがすごいですねw 権利の問題とかは大丈夫なんでしょうか。 この”集団誘拐モノ”は作者十八番の題材で、過去の標的には、読売巨人軍の選手たち、東京都民1000万人、さらには日本国民1億2000万人全員なんていうのもあるようです(一億総活躍ならぬ、一億総被害者です)。こういうタイプの事件は、いままで十津川警部より、左文字探偵が担当する場合が多かったのですね。 女子ワールドカップの”なでしこ”優勝をうけてすぐさま連載・出版されたのは、さすがです。読者が読みたいものをいち早く察知し、物するサービス精神は、大作家になっても不変。次は五郎丸選手あたりが狙い目かなw サービス精神といえば、年配の読者のためか各ページ、一行の文字数を少なめにし、非常に読みやすいのもいいですね。内容に関しては、これから読む人の興を削ぐので敢えて触れませんがw あっという間に読み終えるリーダビリティの高さはあります。 |