home

ミステリの祭典

login
つきまとう死
クルック弁護士シリーズ

作家 アントニー・ギルバート
出版日2006年01月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 mini
(2016/07/07 09:56登録)
論創社からイーデン・フィルポッツ「守銭奴の遺産」とアントニイ・ギルバート「灯火管制」が刊行された、こういう本格派だとはっきりしている場合だと即登録になるのね(大笑)
「守銭奴の遺産」は以前に「密室の守銭奴」の邦題で抄訳だったものの完訳で、「闇からの声」の探偵役ジョン・リングローズ再登場である
フィルポッツの中では不可能犯罪を扱ったものらしいが、密室ものの研究家ロバート・エイディの引用として森事典でも酷評されていた
一方の「灯火管制」は、ギルバートの既訳作品「薪小屋の秘密」の次に書かれた作である

偶然にも今回刊行された2人の作家フィルポッツとアントニイ・ギルバートにはある共通点が有って、活躍年代にズレは有るがとにかく息の長い作家だという点である
A・ギルバートの名義でのデビューは1927年で、これは「アクロイド」や「ベンスン」の翌年でクイーンなどもまだ登場していない
30年代にはクリスティやナイオ・マーシュ等と共にコリンズ社クライムクラブ叢書の看板作家の1人だった
ギルバートは男性名義だが実は女性作家で、年齢的にはクリスティよりたった1歳年上なだけである、晩年は1970年代まで書き続けており、活躍時期的に言えばクリスティと非常に被ってると言えよう
ただ残念な事に、30年代にも凄い作品を次々と世に送り出し続けたクリスティに対し、現在ギルバートが高く評価されているのは40年代以降の作品だけで、おそらくこの作家の中では評価の低い20~30年代の作品が今後紹介される可能性はかなり薄い
元々作品数の多い作家だけに、定評ある40年代以降の作品の中から次の翻訳作品がセレクトされるのが読者側からも望まれるところだ

国書刊行会から刊行された「薪小屋の秘密」が作者が本領を発揮し始めた1942年の作なのに対して、この「つきまとう死」は1956年で言わば作者の最も脂の乗っていた時期なのだろう
実際にサスペンスと本格を合わせたような作風と謎解きとしての出来の良さが一体となって、全体としては「薪小屋の秘密」を上回る出来である
惜しいのはこれはkanamoriさんも指摘されておられるが、死がつきまとう女性の過去の事件というのが曖昧な語られ方をされている
これによって終盤の真相解明時に何か効果がもたらされるとか大きな伏線になっているとかなら分かるが、別に過去の死について思わせぶりじゃなくてはっきり書いたとしても問題があったとは言えず、曖昧に書いている事があまり意味を持っていない
サスペンスと本格を合わせたような作風だけに、サスペンスの醸成を狙ったのかも知れないがそれもあまり効果を上げていなくて、ただ序盤が読み難いだけになってしまっている
ここは女性の過去にまつわりつく死に対して、はっきり状況説明をしておいた方がプロット的にも結果的に良かったのではないかと思える

おそらく本格派に定型を求めるような保守的な読者にはこちらの方が受けが良いと思う、「薪小屋の秘密」はちょっと終盤がグダグダだったからね
ただ私は定型嫌いな読者なので、個人的には作者の持ち味が露骨に出ているという点で、「薪小屋の秘密」のあの完全に定型をわざと外したような感じが好きだ、

No.2 6点 kanamori
(2016/02/27 20:06登録)
父親と夫が不審な状況で死亡するも、2度とも証拠不十分で無罪放免になった過去をもつ若い女性ルースは、吝嗇で強権的な女主人が支配するディングル家に雇われる。やがて、ルースを気に入ったレディ・ディングルは、巨額の遺産を彼女に譲ると家族の前で宣言するが--------。

お屋敷に家族が集まった状況下、遺産相続が絡む軋轢が原因で殺人が起きるというのは、古典探偵小説の典型的な設定ですが、そこに”死がつきまとう”謎めいた女性が絡むことで、サスペンスを高めています。
ルースの”過去の2つの事件”が語られる序盤は、説明が少しモタツキぎみで物語に入り込みずらいのですが、ディングル家に舞台を据えてからの中盤は、ルースをはじめ登場人物たちの内面描写を最低限に抑えた三人称多視点が効果的で、なかなか事件が起こらないストーリーでも退屈はしません。 
〈私の依頼人はみな無罪〉をモットーとするシリーズ探偵・クルック弁護士の推理が冴えており、関係者を一堂に集めた終盤の謎解き場面も非常にスリリングで、これは、なかなか良質の本格ミステリです。
アントニー・ギルバートといえば、個人的に、ジョン・ロード、ECR・ロラックと並んで、新・3大”作品数はやたらと多いのに邦訳が少なく、ようやく翻訳された作品を読むと大したことなかった英国作家”、の一人なのですが、50作以上あるクルック弁護士シリーズで本書レベルのものが他にあるなら、ぜひ訳出してもらいたいですね。

ちなみに、バークリー書評集Vol.3(英国女性ミステリ作家編)に取り上げられているアントニー・ギルバートは全部で8作品あり、全てクルック弁護士もの(偶然にも「つきまとう死」の次作以降の8作品)でした。バークリーの評には、デビューから30年以上経つベテラン作家に対する敬意が感じられます。
面白いと思ったのはバークリーによる敬称で、当初は”ミス・アントニー・ギルバート”だったのが、途中から”ミスター”に変わっているところ。うっかり未公表情報を書いてしまったのを軌道修正したのか、それとも特に意味はないのか、この辺の裏事情を妄想するのは楽しい。

No.1 7点 nukkam
(2010/09/10 11:10登録)
(ネタバレなしです) ギルバートが1956年に発表したクルック弁護士シリーズ第30作にあたる本格派推理小説です。わがままで大金持ちの家長、それに振り回される家族、謎めいた過去を持つ女性とミステリーネタとしてよくあるネタを使っていますがそれらをうまく組み合わせて新鮮な驚きとサスペンスを提供することに成功しています。クルックも登場場面が少ないながらしっかり存在感を示しており、謎解き伏線の張り方も巧妙です。

3レコード表示中です 書評