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ミステリの祭典

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オータム・タイガー

作家 ボブ・ラングレー
出版日1990年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 kanamori
(2016/03/15 20:36登録)
CIA退官を数日後に控えた事務部門の幹部タリーのもとに不可解な要請が入る。東ドイツの諜報機関の大物が、亡命時の身柄受入れ要員に部門外のタリーを指名してきたのだ。訝りながら引き渡しに赴いたパリで、その人物から示された古びたライターが、タリーに終戦直前のある秘密工作の記憶を呼び起こす---------。

山岳冒険小説の傑作「北壁の死闘」に続く1981年発表の長編第5作。今年復刊された新装文庫版で読了。
なぜ今、ボブ・ラングレー?という疑問は、文庫巻末の田口俊樹氏による”「解説」に代えて-------東江一紀さんの思い出”という文章で明らか。本書は一昨年に亡くなった東江(あがりえ)氏による翻訳で、いわば追悼の意を込めた復刊なのです。
名翻訳家といわれる人は、それぞれ”お抱えの作家”を持っていて、読者にとって作家と訳者が一心同体のようになっている人が何人かいます。本書の解説を書いた田口俊樹氏ならローレンス・ブロック、菊池光氏ならディック・フランシスという風に。東江氏なら一般的にはドン・ウィンズロウでしょうが、個人的には”ベルリン三部作”のフィリップ・カーの東江訳にも思い入れがあります。
さて本書ですが、タリーによる終戦直前の潜入工作を描いた回想パートが大部分を占める構成になっていますが、敵地潜入ではなく、ドイツ軍人を装った主人公の潜入先がアメリカ本国ルイジアナ州にあるドイツ軍捕虜収容所という設定がユニークです。「北壁の死闘」と比べると、冒険活劇よりスパイ謀略モノとしてよく出来ていて、ミスディレクションを効かせた”どんでん返し”が鮮やか。また、謀略モノには珍しく、感動的で余韻を残すラストシーンも非常に印象的です。

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