| kanamoriさんの登録情報 | |
|---|---|
| 平均点:5.88点 | 書評数:2487件 |
| No.2467 | 6点 | 勝機 フェリックス・フランシス |
|
(2026/04/22 15:26登録) 元騎手のシッド・ハレーは、旧知の調教師から、今競馬界で密かに行われているレースの不正行為に関して命がけの告発の電話を受ける。 一方、義手を外し他人の手を移植手術した左手に馴染めず今でも違和感を感じていて、それが原因で妻マリーナとの関係にも暗雲が立ち込めていた…………。 不屈の男、シッド・ハレーが登場するシリーズの通算6作目です。父ディック・フランシス名義で4作(ただし4作目の「再起」はフェリックスが代筆)、版元が文春文庫に移り、フェリックス名義の新競馬シリーズとしては「覚悟」に続く2作目になります。 原題は”Hands down”、文句なしでとか、問題なくといった意味ですが、もともとは競馬レースで、騎手が手綱を強く引くことなく余裕で勝利することから転じた慣用句です。本作の内容とは微妙にずれている感じもありますが、おそらく、「ハンド」の複数形(両腕)が入る競馬用語をタイトルに使いたかったのではと思います。 さて、内容についてですが、家族が事件に直接巻き込まれた前作「覚悟」が明確ですが、「家族愛」がテーマのひとつになっているのがフェリックスの個性と言えるでしょう。本作のラストシーンが顕著です。ただ、スリラーとしてはどうでしょう、探偵社時代の同僚チコ・バーンズに協力を頼んでからの、中盤の関係者から情報収集の過程がテンポが悪く平板に流れていて、往年のフアンはともかく、新しい読者には冗長に感じるのではないかと思います。本作の中心となる舞台、北ヨークシャーにある廃墟、ミドルハム城跡における終盤の対決が唯一の山場と言えるでしょう。 |
||
| No.2466 | 6点 | 封鎖館の魔 飛鳥部勝則 |
|
(2026/04/17 10:00登録) 人里から隔離された僻地に立ち、増改築を繰返し、多くの開かずの間を持つ歪な形態の「封鎖館」。持ち主や居住者を変えながら、過去、昭和平成の時代に妖しげな殺人や、不可解な事件が起きていたが、令和になって再び血塗れた連続殺人が起きる………。 昨年出たばかりの乱歩の通俗スリラー風の大作「抹殺ゴスゴッズ」に続く作者の復活作の第2弾は、一転して割とオーソドックスな”舘もの”の本格ミステリです。芸術家探偵・妹尾悠二が登場するシリーズの3作目になるのかな。 館の形態からして、いかにも”斜め屋敷”系のトリックが予想出来てしまうのがアレですが、出入り可能な部屋の中での餓死という不可解な事件や、密室の首切断死体、容疑者全員が部屋に封印された逆密室状態の殺人など、魅力的な謎の連打が読ませます。 関係者が画家や彫刻家・画廊オーナーと、絵画教室に来た高校生で、エキセントリックで個性的な人物が揃うのも作者らしい。なかでも車椅子の美少女の豹変ぶりには笑った。 狂言回しというか、二人の語り手がいて、屋敷に長年住み込んでいる物語の中心人物でもある洋画家・館真一と、高校生の小玉正に関して、それぞれ「恣意的な語り手」と、「客観的な語り手」と見抜く妹尾の洞察力がなかなか面白い。 |
||
| No.2465 | 4点 | 粘膜大戦 飴村行 |
|
(2026/04/13 15:53登録) 大戦下、戦況が膠着し苦境を強いられる帝国陸軍。起死回生を図るべく軍部が画策したのは、首都が占領下にある東南アジアの小国「ナムール」の王族アロ族の王女マルテ姫を使い、民衆に一斉蜂起の号令を掛けさせることだった。 だが、マルテ姫は常に黄金の仮面を被っており、それを外すには”久遠ノ爪”という鍵が必要。密命を帯びた大尉の堀川美樹夫は、鍵の捜索を開始するが…………。 2008年に日本ホラー小説大賞を受賞した「粘膜人間」でデビュー、2作目の「粘膜蜥蜴」が評判を呼び、日本推理作家協会賞をとった作者の、「粘膜」シリーズの6作目です。 パラレル・ワールドの戦時中の帝国陸軍を中心に、顔が蜥蜴で体が人間の”爬虫人”が多数登場する、エログロ・バイオレンス・ホラーに、ナンセンス・ギャグを交錯させ、秘境冒険小説や戦争小説の要素もある、ジャンル・ミックスというより、支離滅裂な作風が特徴的です。 ただ、このシリーズを久々に読みましたが、初期の頃の圧倒的な熱量が感じられず、かなり期待外れな出来になっています。主人公を置かず、三人称多視点の群像劇風の構成はいいとしても、どのキャラクターも活きていない感がある。内地編で登場する12歳の孤児の少女キノブが面白いキャラですが、後半になるといつの間にかフェードアウトしてしまうのが不思議です。雑誌連載の関係か事情が分かりませんが、物語の進行がギクシャクしていて、短編をつなぎ合わせた様な感じを受けました。 |
||
| No.2464 | 6点 | 愚者たちの箱舟 綾崎隼 |
|
(2026/04/10 10:46登録) 新潟県北部、本土から35キロの沖合に浮かぶ翡翠島に、ひとりの青年が帰ってきたーーー過去に島を襲った連続放火事件の、すべてを明らかにするために………。 うーむ、これはミステリ小説としては、内容を事実を曲げずに(ネタバレなしで)詳しく紹介するのがちょっと難しい作品。(結果的にアンフェアな説明になっていてもご容赦を) 2014年にYA系の文庫の二部作で出版されていた作品を、大幅に加筆修正し改題し単行本化したものです。 主な登場人物は、同い年の三人の若い男女、島に住み続ける「僕」レンと幼馴染みの”姫”、本土から転入してきた「ノア」で、淡い青春小説の味わいとともに、当初は中学生時代に遭遇した連続放火事件が語られていきます。戦時中から島に住み着いたアメリカ人の意匠建築家の手になる複数の建造物を標的にした、放火事件の犯行動機の説明など色々とモヤモヤした不満点がありますが、 「sid.A」と「sid.B」に分けられカットバック方式で過去と現在が語られる構成や、主人公たちをニックネームで表記する点などで、どうしても30年ぐらい前の新本格系の某作品を想起してしまうのが残念です。帯でアピールされている様な凄い作品とは思えなかった。 青春の輝き、雨の日と月曜日は、トップ・オブ・ザ・ワールド、イエスタデイ・ワンス・モア………物語のBGMとして流れるカーペンターズが印象な、ノスタルジックな青春小説としては及第点。 |
||
| No.2463 | 5点 | 犯人はキミが好きなひと 阿津川辰海 |
|
(2026/04/06 11:48登録) タイトルが表すように、毎回、好きになった女性が実は殺人犯だったり、犯罪を計画している人物だったりする「悪女レーダー」のような”特異体質”を持つ隆一郎と、幼な馴染みの女子の同級生で名探偵を志す・花林のコンビが六つの事件の謎ときに挑む連作短編集です。 まあ一応の特殊設定モノとも言えますが、隆一郎の動向から花林が事件の犯人を察することができてしまうことで、偽の手掛かりやアリバイ崩しなど、一種の倒徐形式のミステリに似た読み味の話もあります。 最初の2編を読んだ時点では学校が事件現場ということもあり、学園ミステリのようなライトな作品集かと思いましたが、途中からは、結構ガチガチの本格モノが続きます。夏の浜辺とリゾート別荘を舞台にした複雜な構図の「海岸通りでつかまえて」と、雪の山荘が舞台の最終話「あなたの愛を……」がまずまずの出来かなと思います。面白い特殊設定を思い付いたものの、それを充分に活かせ切れなくて中途半端になった作品集と言う感じがします。 |
||
| No.2462 | 5点 | 意外な犯人 犯人当て小説傑作選 アンソロジー(国内編集者) |
|
(2026/04/03 12:16登録) 創元推理文庫版の「犯人当て小説傑作選」シリーズ最終の第3巻です。 シリーズ各巻は発表年代順に作品が収録されており、本巻は新本格ムーヴメント以降に発表された近年の作品が対象になっていますが、正統な犯人当てミステリの収録があまりなく変化球ばかりで、バカミス風の物やショートショート、パロディ作品などが目立つ残念なセレクトになっています。序文で編集者が”犯人当て小説の奔放な広がり”と書いていますが、何か言い訳じみた感じさえ受けます。犯人当て小説の系譜をたどることを意図したアンソロジーならば、「傑作選」なるタイトルはピント外れな気がします。 そういった中で、比較的良かった下記の3作品を寸評しておきます。 標題作の綾辻行人「意外な犯人」は、いかにも新本格らしい犯人当てミステリで、新本格を象徴する2つのガシェット”クローズド・サークル(社会性の排除)”と”徐述トリック”を体現した作品です。 白井智之「「少女」殺人事件」は、ノックスの十戒を消去法推理のネタにするというバカミスながらも、発想が面白くて作者らしい作品。 最後の北山猛邦「竜殺しの勲章」は、第二次大戦時のナチス・ドイツに侵攻されたフィンランドが舞台の物語性豊かな作品。ハウダニットが主軸ながらも、意外な犯人を設定した良作です。ちなみに、もともと本作が収録されていたアンソロジー「推理の時間です」(講談社)は、佳作揃いの作品集でお薦めです。 |
||
| No.2461 | 6点 | ハウスメイド2 死を招く秘密 フリーダ・マクファデン |
|
(2026/04/01 11:44登録) 前作の「ハウスメイド」の事件から4年経っていて、ミリーは、車中泊から狭いアパート住まいになるも、相変わらずの金欠状態です。 ”妻に酷い仕打ちをしている男を懲らしめるハウスメイドがいるらしい” そのような評判が密かに流れているなか、ミリーは、大会社のCEO・ダグラスのペントハウスのハウスメイドの職を得るも、何故か妻のウェンディは部屋に閉じ籠ったままで、すすり泣きや、流血の痕跡を見掛けることになるが………。 やはりヒットした作品のパート2になると、期待値が上がり、どうしても物足りなく感じてしまうのはやむを得ないところでしょうか。全体の3分の2を占める第一部の展開がゆったりで、サスペンスが乏しく感じてしまう。 登場人物が限られており、どんでん返しを狙うとすれば……というようなメタ読みをすれば、ある程度は裏の構図を察することが出来てしまう。それでも、最終盤に出て来るある人物の行動は意外性があり、面白く読めました。 |
||
| No.2460 | 6点 | サプライズ・エンディングス 罠 ジェフリー・ディーヴァー |
|
(2026/03/27 09:12登録) 4作品収録されている中篇集。本国では出版されておらず、電子版でバラ売りされている作品を日本で独自に編集したものです。タイトルは編集部ではなく作者自身が命名したようですが、”驚愕の結末”というより”意外な展開”を楽しむ感じのスタンスで読んだ方がいいと思います。 最初の「完全犯罪計画」は、リンカーン・ライムが登場する幕間劇の様なもので、FBIのフレッド・デルレイから得たライム暗殺計画という不穏な情報をもとに、お馴染みのライム・ファミリーがタウンハウスに勢揃いするファン・サービス的な作品です。シリーズの某新作長編のプロモーション版らしい。 「魔の交差点」は、色々な思惑を持った面識のない七人の男女が、犯罪多発地域にある街のコンビニで交錯する群像劇の様な作品。狙いは面白いが、登場人物が多すぎてちょと混乱する面がある。 「麗しきヴェローナ」は、暗黒街が舞台でギャング版の”ロミオとジュリエット”風の物語が、”意外な展開”を見せる、編中では最も好みの作品です。 最後の「どんでん返し」は、やや後半の展開が予想しやすいかな。この中では凡作と言えよう。 |
||
| No.2459 | 5点 | 新学期にだけ見える星座 似鳥鶏 |
|
(2026/03/24 09:12登録) 学園ミステリ「市立高校」シリーズの8作目。前作の「家庭用事件」が2016年の作品なので10年ぶりで、随分久しぶりの刊行です。(→追記、これは誤りなので訂正、未読ですが2021年に「卒業したら教室で」という作品が出ていました) 一応の主人公である葉山君が三年生になり美術部の部長になっていて、男女二人の新入生がレギュラーキャラクターとして加わっています。最初のうちは、この美術部の後輩二人のプロフィール紹介が続くので、てっきり、そのひとり中内修太郎と幼馴染みの岩境ひなを主人公として進行していくのかと思っていたら違いました。大学生になっている伊神先輩を含め、誰が探偵役になるのかが不明のまま各編が進行します。 第1章の「日常的な非日常」は、華道部の密室状況の控え部室で、備え付けの壺が壊された事件の犯人捜しで、これがなかなかの難物で、一応の解決があった後に、真相が三転四転と転がる転がる多重解決ものです。密室のハウより動機がポイントでしょうか。続く2章と4章は、葉山君が何故か卒業生の伊神先輩に呼び出されて、ともに不可能犯罪的な日常の謎に関わる話で、全然学園ミステリではないw 三章が、男子バスケ部の部室を巡るトラブルを謎解く話。霊感というか予知能力がある後輩の岩境ひなが目立つ話で、真相はシリアスで、シリーズとしては異色作です。 |
||
| No.2458 | 6点 | 華に影 令嬢は帝都に謎を追う 永井紗耶子 |
|
(2026/03/21 18:11登録) 明治39年の帝都東京。千武男爵家の令嬢・斗輝子は、書生の影森怜司を供に、政府重鎮の黒塚伯爵邸で行われた夜会に当主である祖父の名代として出席した。ところが夜会の最中に黒塚伯爵が何者かに毒殺されてしまう。不当な疑いをかけられた千武家の名誉のため、斗輝子と怜司は、事件の真相を調べ始める………。 2014年の初刊なので、割りと作者の初期の作品を改稿・改題して、2021年に二葉文庫から再販された作品です。 気高く勝ち気な令嬢と不遜ながらイケメンな書生のコンビは、最初のうちは関係性がラブコメの少女漫画やライトノベルのような感じを受けましたが、終盤に差し掛かるとかなり印象が変わります。 謎解きミステリとしては、事件の関係者を訪ね調査を進めるうちに、おぼろげに裏の構図は見えては来るものの、最後の最後に明かされる真相は予想を超えるものです。華族制度と、こういった時代であればこそのトリックと言えるでしょう。作中にしばしば出てくる「婦道の鑑」と言う言葉がポイントと言えるかもしれません。それと「華に影」とは、ある華族の行く末を考えれば、なるほどねーのタイトルで、改題は正解だと思います。 |
||
| No.2457 | 5点 | 濱地健三郎の奇かる事件簿 有栖川有栖 |
|
(2026/03/19 12:02登録) 心霊現象を専門にする探偵・濱地健三郎の事件簿の4作目です。 レギュラーキャラクターの助手の志摩ユリエは、霊視が出来るようになって来て、今作から立ち位置が心霊探偵の弟子に格上げされている感じ。 収録7編のうち、2つが捜査一課の赤波江刑事が持ち込んだ殺人事件絡みで「目撃証言」がまずまず。次の2つがユリエの恋人・進藤からの日常の謎風のネタで、心霊写真もの「観覧席の祖父」がまずまずですが、いずれもホラーと言うにはユルい内容です。 残る3編はいずれも正規の依頼人がいる案件で、うち最終話の「怪奇にして危険な状態」が最も力のはいった作品です。怪異現象が強烈で、読み応えがある。正直なところ、これ以外の作品はホラーとしてもミステリとしても物足りないとしか言いようがなかった。 |
||
| No.2456 | 6点 | 暗殺者の奪還 マーク・グリーニー |
|
(2026/03/13 09:12登録) ジェントリーは、ロシア国内に捕らわれている元ロシアSVR(対外情報局)の女性将校で恋人のゾーヤを救出すべく、東欧諸国で死闘を繰り広げていた。ゾーヤの監禁先が某矯正収容所であることを知った彼は、反ロシア政府派の人脈を頼り、ロシア潜入の行動を開始する。 ”暗殺者グレイマン”こと、元CIA特殊工作員コート・ジェントリーを主人公にした冒険活劇シリーズの14作目です。 今作は冒険小説のタイプでいうと”敵地潜入もの”ということになります。 冷戦時代ならお馴染みなスパイ冒険ものの定番ですが、ソ連崩壊を契機に、すっかり書かれなくなったタイプの小説ですが、プーチンのおかげで悪の帝国が復活したということでしょうかw しかし、内容的には反ロシア政府組織の協力や、CIA時代の元上司ハンリーの後方支援、特殊工作班時代の同僚ザック・ハイタワーの協力もあって、ジェントリーの単独行動ではなく、軍事作戦の中にグレイマンが組み込まれている様なプロットは個人的にはやや不満があります。 最近、グリーニーは軍事オタク作家トム・クランシーと共著で「米露開戦」などの軍事シミレーション小説にも手を出しているので、それが影響しているのではないかと思います。 |
||
| No.2455 | 5点 | じゃあ、これは殺人ってことで 東川篤哉 |
|
(2026/03/09 14:03登録) 烏賊川市を舞台にした5編収録の連作短編集。私立探偵・鵜飼杜夫や、砂川警部&志木刑事などのレギュラー・キャラクターのほか、準レギュラーを含めてお馴染みのメンバーが登場する、脱力系のギャグを交えたユーモア・ミステリです。鯉ケ窪学園探偵部シリーズと並んで、初期の頃から書いてきたシリーズなので作品の出来に安定感を感じます。 表題作の「じゃあ、これは殺人ってことで」は、密室殺人を扱った探偵小説のパロディで、倒叙形式なのがブリテンの「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」を連想させますが、皮肉な結末が面白い。 最初の「李下に冠を正せ」は、ブドウ園を舞台に、河川敷に遺棄された死体をめぐるホワイダニットが面白い作品。 「博士とロボットの密室」も倒叙形式ですが、文字どおり”困難は分解せよ”のハウとともに、犯人自身が密室を逆手に取られる結末が印象的。 「深夜プラス犬(ワン)」は、本来は陳腐な、”替え玉を使ったアリバイ工作”に、ある工夫を凝らしている点が良い。 その他は、ゆるキャラ探偵マイカや、大家の朱美さんが登場する”人間消失”ものなどで、そこそこ楽しめる作品集でした。 |
||
| No.2454 | 7点 | パパイラスの舟 評論・エッセイ |
|
(2026/03/06 09:12登録) 著者の小鷹信光(1936年ー2015年)に対する一般的な認識は、ハードボイルド原理主義者とか、テレビドラマ「探偵物語」(主演の松田優作がアドリブでテレビ越しに小鷹に語りかけたエピソードが有名)の原案者ということになるかと思いますが、ミステリ分野で結構広範囲の業績が有ります。 「ハードボイル小説を中心としたミステリ評論家」が一般的ですが、小説家であり、翻訳家、アメリカの短編を中心としたアンソロジスト、ペイパーバックのヘビィな収集家でもあります。とくに、ビブリオグラファー(書誌学者)としての側面が多く見れるのが本書です。 本作は、1970年から早川の「ミステリマガジン」に同タイトルで連載されたエッセイをまとめて、1975年に出した単行本を50年ぶりに文庫化したものです。(著者没後10周年ということもあるのでしょう) 海外ミステリという未知の大海を、海図も無い自由気ままに漂う航海は、軽い語り口ながらも、ディープな内容に溢れていて、読み終えるのに時間を要しましたが、多くの示唆に富むものでした。 やはりハードボイルド御三家への言及が多いですが、途中チャンドラーの「プレイバック」の項で、例の「優しくなければ……」を小鷹がダメ出しする所で、大昔に図書館で借りて読んでいたことを思い出しました。ハードボイルド派では、御三家の次世代のスピレイン、ブレット・ハリデイの言及が多いが、まだ翻訳がほとんど出ていなかった、クェンティンのダルース夫妻シリーズを詳しく言及しているが印象的だった。 ひとつ留意すべき点は、本作が書かれた70年代は、インターネットが無い時代ということです。それはネットでなく紙(パパイラス)を相手ということで、作家や作品に関する資料を集める作業が現代とはケタ違いに大変なことだったと想像出来ます。「幻影城」の編集長でもあった島崎博氏のエピソードが書かれていますが、書誌学的な話も面白いです。 巻末に、小山正氏の解説と読書ガイドが掲載されていますが、初出から50年経っているので、資料としては大幅なアップデートが必要な訳なので、その気の遠くなるような捕遺の作業の大変さが分かります。この功績も大きい。 因みに、小山氏のパートナーは若竹七海女史ですが、葉村晶シリーズの中の「店長」が巻末に載せる作中のビブリオ・ネタの解説とは大変さはだいぶ違いますw |
||
| No.2453 | 7点 | 悪党たちのシチュー ロス・トーマス |
|
(2026/03/04 09:12登録) 落ちぶれていた辣腕ジャーナリストのシトロンは、くせ者政治屋のヘールに雇われる。現政権の大きな弱みともなるスキャンダル情報を入手すべく、協力を求められたのだった。勇躍、中米の軍事国家ヘと調査に向かったシトロンは、隠蔽されていた同国での過去の不祥事の内実を探りにかかるが…………。 あらゆる面白さをごった煮(シチュー)にし、思わぬ展開と粋な対話で編み上げた、騙りと企みのタペストリー。(裏表紙の内容紹介から) 新潮文庫の「海外名作発掘シリーズ」では3冊目となるロス・トーマスのクライム・ノベル。書かれたのが、エドガー賞を受賞した「女刑事の死」のひとつ前ということで、自然と期待が高まるというものです。 ダブル主人公の一方の政治屋へールが、次期州知事に決まっている人物を、大統領候補にすべく動いている序盤の展開だと、また「ポーク・チョッパー悪徳選挙屋」(立風書房)や「狂った宴」と同タイプの選挙ネタかと思いましたが少し違った。怪しげで個性的な人物が次々と登場する、全く先が読めない展開に振り回されます。特に三人の女性の存在感が際立ちます。マイアミの大富豪で麻薬王の娘ヴェルヴィータ、次期知事の妻でへールの愛人でもあるルイーズ、そしてシトロンの母親で伝説的ジャーナリストのグラディスが強烈。 しかし、300ぺージが過ぎても、上のあらすじ紹介にあるような状況がいっこうに出てこないw 途中でへールが言うように「全て、なにかしらで繋がっている」謀略小説の様相になって行き、終盤は怒涛の展開に雪崩れ込みます。 なお、原題のMissionary Stew(宣教師のシチュー)は、この小説の冒頭のエピソードで、シトロンがアフリカ某独裁国家の刑務所内で食べた物のことでしょうか。 |
||
| No.2452 | 7点 | 迷宮 マイクル・コナリー |
|
(2026/02/28 09:12登録) ハワイ出身で趣味が早朝のサーフィンという、ロス市警の女性刑事レネイ・バラードを主人公とする、警察小説シリーズの第6作。2作目の「素晴らしき世界」からは、ハリー・ボッシュ(ずいぶん前に市警を退職している)がサポートするダブル主人公のような形になっています。 初登場の「レイトショー」でのバラードは、懲罰人事でハリウッド署に飛ばされ、深夜勤務の平刑事でしたが、今作ではコールド・ケースを担当する未解決事件班のチーフになっています。とはいっても市の予算削減の影響下で、正規職員はおらず、スタッフはボランティアばかりという貧弱なチームでした。そこに、市警の巡査になっていたボッシュの娘マデリン(マディ)が加わることになります。 一方、父親のボッシュはどうしているかと、バラードが連絡をとってみると、Netflixで「リンカーン弁護士」シリーズを一気見しているヒマ老人をしていました。コナリーは意外と遊び心というか、読者サービス的な小ネタを時々放り込んでくるので面白いです。過去作では、ロス市警つながりでコロンボ・ネタだったり、ロスの私立探偵エルヴィス・コール(ロバート・クレイス作品の主人公)をカメオ出演させていたりします。今作は2024年の作品で、ドジャース・ネタが散見される。17番のレプリカ・ユニフォームを着た怪しげな故買屋が登場したりしますw さて、本編は、バラードがサーフィン中に車上荒しにあって警察バッジと拳銃を盗まれる事件から始まります。 このシリーズは、いつも複数の事件の捜査が並行して進行するモジュラー形式が多いので、読んでいて混乱する事もあります。さらに本作は三つの事件が絡んでいますので、下記に整理してメモっておきます。 ①バラードのバッジ盗難犯をボッシュと探す過程で、テロ・グループの襲撃計画にぶつかるエピソード ②別件のDNA鑑定から20年前の連続レイプ犯の手掛かりを追い、「DNAパズル」を解く未解決事件班の本来の仕事 ③マデリンが偶然手に入れた写真ファイルから、あの「ブラック・ダリア」事件の真犯人に迫る捜査 特に③の、ロサンゼルスの犯罪史上最も有名な、1947年に起きた未解決事件「ブラック・ダリア」ことエリザベス・ショート惨殺事件が興味深かった。 今作でボッシュ・サーガとしては、ますます拡がっていますが、加齢と病魔を抱えるボッシュに精彩がないのが気になった。今後はマディ・ボッシュが中心になっていくのだろうか。 |
||
| No.2451 | 6点 | 怪盗ニック全仕事(6) エドワード・D・ホック |
|
(2026/02/26 09:12登録) 価値のない物(あるいは奇妙なもの)を専門に盗みを請け負う「怪盗ニック」こと、ニック・ヴェルヴェットの冒険&探偵譚の全87作品を6巻で収めた全集の最終巻です。 本作には、74作目から最後の87作目までの14作品(うち8作品が初訳)が収録されています。 さすがに、目新しい趣向のものは特になく、過去作に類似したプロットの作品も目立ちます。ひとつ取り上げるとすれば、ニックと恋人グロリアの出会いのエピソードでもある「グロリアの赤いコートを盗め」になります。グロリア視点で語られる上に、彼女自ら推理する点などが面白いです。最終作になった「仲間外れのダチョウを盗め」は、トラブルにあったサンドラ・パリスを助けてコンビで活動する話で、最終話と言っても特別な趣向が有るわけではありません。 あと、巻末に全作品の書誌データが載っているのは嬉しい。本国EQMMに1966年に掲載された第1作「斑の虎を盗め」から2007年の最終作までで、つまり40年以上に渡って書き継がれている。改めてすごいです。ほとんどがEQMM初出ですが、初期には「マイク・シェーン・ミステリマガジン」に載ったものもありました。 一方、日本での翻訳出版状況を見ると、1976年のポケミス「怪盗ニック登場」(小鷹信光・編訳)を発端として、早川から出した独自編集の4冊が先駈けになるようです。 最後に、無理やり個人的ベスト3を挙げておきます。 ①「プールの水を盗め」(1巻収録)ハウダニット&ホワイダニットともに秀逸。 ②「何も盗むな」(2巻収録)ホワイが魅力的。 ③「レオポルド警部のバッジを盗め」(5巻収録)ホックの2大キャラクターの共演作です。 |
||
| No.2450 | 6点 | 横丁の名探偵 犯人当て小説傑作選 アンソロジー(国内編集者) |
|
(2026/02/24 09:11登録) 創元推理文庫版「犯人当て小説傑作選」の2巻目。今巻は昭和後期から平成初頭あたりに発表された作品から精選されたもので、前巻と比べて分量がある作品が多いので、読み応えがあります。特徴としては、消去法推理や、秘密の暴露などのオーソドックスなものは少なく、いわゆる仕掛けものが多い印象があります。 他のアンソロジーや個人短編集で読んだ覚えがある作品が少なからずありますが、内容を憶えていないので全く問題はありませんw 収録7編のうち、気に入った5編を下記に書いておきます。 表題作の仁木悦子「横丁の名探偵」は、長屋のご隠居が、八っつぁんや熊さんを前にして、掛軸の盗難事件を、安楽椅子探偵で謎解きする愉しい作品です。 泡坂妻夫「ダイヤル7」は、元刑事が講演で話す昔の事件が問題編になる構成で、平凡なアリバイ崩しものが、ラストで大仕掛けが炸裂する作品です。蛇足として明かされる小ネタは、鮎哲の某犯人当て短編のオマージュでしょうか。 今邑彩「時鐘館の殺人」は、作中作である下宿屋仕様の舘で起きた殺人事件の謎解きが終わったあとに、読者への挑戦ではなく、読者から作者に対する挑戦状があるのが面白い。 中西智明「ひとりじゃ死ねない」は、あの長編「消失!」の作者と言うことから方向性は推察出来るが、あざといばかりの騙りが賛否が分かれそうです。 巽昌章「埋もれた悪意」は、読者の先入観や思い込みを利用したミスディレクションが冴えた傑作と言えよう。とてもアマチュア時代に書いたものとは思えない。 最後の二人は、犯人当てパズラー創作の「虎の穴」こと、京都大学ミス研出身で、収録作品は在学時に書いたもののようです。 |
||
| No.2449 | 5点 | 新・黄色い部屋 犯人当て小説傑作選 アンソロジー(国内編集者) |
|
(2026/02/22 09:52登録) 全三巻になる「犯人当て小説傑作選」の一巻目です。各巻の収録作はだいたい年代順になっていて、本作は昭和30年代から50年代のものが中心です。昭和55年に文藝春秋社から出たアンソロジー「ホシは誰だ!」と重複する作品が多い印象があります。 目玉作品は高木彬光「妖婦の宿」かもしれませんが、さすがにこれは、今さら感がありますね。 表題作の陳舜臣「新・黄色い部屋」は、軽妙な語り口の中に手掛かりを紛れ込ませた手筋はいいですが、これはネタが判りやすいかな。 あと、江戸川乱歩、坂口安吾、土屋隆夫、笹沢左保、佐野洋とビックネームが揃い、全10作品ですが、ほとんどが推理クイズなみの短い作品なので物足りない。それと、こういう企画には欠かせないと思われる鮎川哲也が抜けているのは、どうしたことか。「達也が嗤う」あたりを採っても良かったのでは。 |
||
| No.2448 | 7点 | 花束は毒 織守きょうや |
|
(2026/02/20 09:23登録) 「二度読み必至」とか、「世界が二度反転する」(反転二回だと元に戻るw)とか、出版社としては読者の注目を得るために、様々なキャッチコピーを考える訳ですけど、本作も「100パーセント騙される!」と帯で過激に煽っていて、必然的に、いわゆる「メタ読み」に誘導されそうになりますが、普通に読むほうが楽しめるのは間違いない。 脅迫状めいた手紙の出し主を探すフーダニットの要素がありますが、基本的にはサスペンス小説です。個人的に作中で一番感心した点は、その脅迫状を巡るカラクリではあります。 主要登場人物が限られているので、メタ読みして真相の一歩手前まではたどり着く読者は多そうですが、ただそれだと中盤の4年前の事件の関係者を尋ね歩き、事実関係を調査する数章は退屈に感じる人もいるのでは。でも、さすがに最後の最後には驚きました。 父親が検事で祖父は判事と言う家系の法学部学生で、正義感が強い善性の主人公が、最後に選んだのは「女か虎か」、それを読者に委ねるエンディングが印象的です。 |
||