| kanamoriさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.88点 | 書評数:2515件 |
| No.2495 | 6点 | ウィリアム メイソン・コイル |
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(2026/08/01 14:50登録) これはネタバレなしでの内容紹介がちょっと難しい作品です。また、どうしても事実と違う記載が入ってしまう。 米国の閑静な住宅街。古風な外観ながら、扉や窓の開閉などコンピューターで制御されシステム化された邸宅で暮らすヘンリーとリリーの夫婦が巻き込まれる惨劇を描いたサスペンス。リリーの元同僚の男女二人をブランチに招いたある日、ロボット工学のエンジニアのヘンリーは初めて彼の手作りのAI搭載ロボット「ウィリアム」を披露した。ところが、突如ウィリアムは妊娠中のリリーに暴力を振うなどして、次々と邸宅のコンピューター制御に異変が起こり始め、彼らは邸宅内に閉じ込められてしまう。そして招待客の二人の姿が何処かに消える。 今年になって、AIをテーマにしたミステリを読むのはこれで3冊目です。まあ、自律型AIの暴走によるパニック小説、スリラーというのは書かれるべくして書かれた作品と言える。SFとサスペンス・スリラーのハイブリッドですが、惨劇の内容はホラーに近い読み味です。ただ、それだけならそれほど新味を感じないが、最後に明らかになる真相は想定の範囲外、まさに衝撃のどんでん返しと言えるでしょう。 内容は全然共通点はないけど、評判になった「ハウスメイド」同様、登場人物が少なく読みやすい文章なので、翻訳モノが苦手な人も抵抗なく読めるのはいい。 |
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| No.2494 | 7点 | 余命一週間の探偵として ホリー・ジャクソン |
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(2026/07/29 14:08登録) 米国バーモント州ウッドストック。地区のハロウィーン・フェアで住民・知人らと交流を持った夜、帰宅したジェットは後頭部を何者かに何度も殴打され意識を失う重傷を負う。脳動脈瘤の破裂の恐れがあり、医師から余命一週間を宣告される。彼女は幼馴染みの親友ビリーの手を借り、残された時間で自分を「殺した」(襲撃した)犯人を見つけると誓う、文字通りの究極のデッドライン物のフーダニット・ミステリ……………。 主人公のマーガレット・”ジェット”・メイソンは、ロースクールを退学し無職でモラトリアムな27才の女性。これまでの女子高生を探偵役にしたシリーズとは設定がやや異なるものの、語り口は同様で、やはりYA(ヤングアダルト)向けのテイストで、600ぺージを超える大作ながらスルスルと読めます。こういう外傷で医学的に余命日数を正確に診断出来るものか?とか、安静にするべきなのに活動的に探偵したりで、確かにツッコミ処はあります。ウッドストック地区という狭いコミュニティが舞台ということもあって、浮かび上がる容疑者が、家族を含め全て身近な人物ばかりというのが、フーダニット物としては、終盤を迎えるところで、ネガティブな予感しか出てこないw ロスマク風の”家族の悲劇”をテーマとして、その中の人が探偵役だと、ある程度は真相が制限されてしまうのですが、最終盤の多重解決的な展開はやや無理があるとはいえ、なかなか読ませます。そして、好感が持てる青年ビリーの立場などは後味がいいとは言えない。読む人によって色々と感想が別れそうな作品です。 |
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| No.2493 | 6点 | 死体を無事に消すまで 都筑道夫エッセー集成 評論・エッセイ |
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(2026/07/24 13:24登録) 日本版「EQMM」誌の初代の編集長にして、創作・翻訳・評論に多くの足跡を残した悕代の知識人・都筑道夫のエッセイ類を、日下三蔵の編集で集成する全三巻(予定)のうち、第一巻の本書はミステリ専門誌に発表された論考を中心に収録されています。1973年の晶文社版「死体を無事に消すまで」とタイトルは同じですが、丸々の復刊ではなく、晶文社版の第一部を収録しながら単著未収録だった原稿が多数収録されているので、全く別物と言えます。 晶文社版の再録部分の「パート1」では、やはり自作の「天狗起こし」(なめくじ長屋捕物騒ぎ)と、物部太郎ものの「七十五羽の烏」をテキストにした、ミステリの創作手法の”講座”というか舞台裏の話が興味深く楽しい。アイデアが意外な方向から舞い降りて来たエピソードは実体験なんだろうか? 「パート2」以降は、都筑がEQMM誌に書いてきた原稿が中心になっていて、”編集ノート”には福島正実や小泉太郎(のちの生島治郎)という当時のスタッフが執筆している回もある。また英米の出版関係のニュースが中心になる「望遠レンズ」は、事実を伝えるだけなのでエッセイ的な要素はあまりないが資料としては必要だろう。 「パート3」の”辛味亭辞苑”になると都筑の持論が多く見受けられるようになっている。ハードボイルドに対する姿勢は当時から変わらない感じがする。また主題の話の途中から話題が横道に逸れていって、ウンチクを披露しながらなかなか本題に戻らないという”都筑節”が全開の処が楽しい。 |
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| No.2492 | 6点 | そして物語のおわりに 小松立人 |
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(2026/07/21 11:38登録) 医大生の張田はバイト先の店長に誘われ、友人の久郷と共に離島に立つ店長の父親で大手ゼネコンの会長・柏谷が隠遁する屋敷を訪れる。親族や知人が集まるなか柏谷が余命が幾ばくもないと明かされた翌朝、四肢を切断され池に浮かんだ彼の死体が発見される。さらに柏谷の部下も同様に惨殺されていた。屋敷中の通信設備が破壊され、船も2日後まではやってこない。警察と鑑識が介入出来ない状況下、張田は医学的知識を活かしたある提案をする…………。 鮎川哲也賞最優秀賞受賞のデビュー作である特殊設定ものの前作とは打って変わって、今作は孤島もの+猟奇殺人の王道のフーダニット・パズラーになっています。とくに最近は孤島ミステリが次々と出版されている感じがあって、それらとどういった点で差別化されているかの興味で読んで見ました。 まずホワイダニット面では、なぜ容疑者が限定されてしまう状況下で犯行を行うのか、死期が近い人物をわざわざ殺す理由は?、時間と労力をかけて死体を切断するのはなぜか?の三点はある程度納得がいくものです。で、ある事実を犯人が知ることでスイッチが入るという経緯は、ある古典ミステリを連想させます。ただ、ある程度用意がされていたとはいえ、こんな手間が掛かる複雑な工作を短時間で考えつくものなのかという疑問はありますね。ほとんど事件の解明に関心がなさそうだった久郷の探偵する動機が独特で、解決編前の”ワトソン役の張田には意味が不明な探偵の行動”いわゆる「名探偵しぐさ」や、コロンボの「二枚のドガの絵」のバリエーションとも言える意外な証拠など、内外の古典ミステリの趣向を忠実になぞるオマージュ的な要素も楽しい。 |
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| No.2491 | 6点 | どんでん返しミステリガイド 事典・ガイド |
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(2026/07/17 10:05登録) 「どんでん返し」をテーマにしたミステリの読書ガイドなんて、ずいぶん難しいところを攻めて来たなと思いながら、ヤジウマ根性で眺めて見ました。人によっては「どんでん返し」があるという情報自体がネタバラシらしいけど、最近は書店に並ぶミステリ本の帯には普通にキャッチコピーとしてのキラーワードになっているので、こういったミステリ・ガイドもアリかなと思います。 取り上げている作品は、海外編20作、国内篇40作で、第一部で各作品のネタバレなしの内容紹介。個別のタイトルを挙げるのは差し控えますが、本格ミステリだけでなく、SFからスパイ小説まで、本サイトのヘヴィユーザーならほぼ読んでいる有名作品が多いです。で、第ニ部では、各作品のどんでん返しに至る手法に関してかなり踏み込んだ内容の分析・論考が行われています。このガイド本がどの程度の読者層を想定しているかは分かりませんが、このあたりはガイドというより、ネタバレを含むマニア向けの評論に近い感じがします。なかには目から鱗が落ちるような指摘があって感心させられことが多かった。 書き漏らしましたが、この本の冒頭には著者から大きく「注意!」として、ネットなどの感想・書評に、記載内容について晒すことを禁じる旨の言及があります。なので、叙述トリックやバカミスと「どんでん返し」の関連などを書きたいことがありましたが、控えることにします。 |
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| No.2490 | 6点 | 隣人 シャロン・ボルトン |
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(2026/07/15 14:16登録) イングランド北西部の湖水地方の閉ざされた村。三つの棟が連なるテラスハウスに住む「わたし」は、隣家に移住してきてパン屋をオープンしたアナに近づき、やがて毎年催される教会の怪しげな集会堂から逃げてきた少女を助けるうちに、二人は共に多数の信徒が集まるキャンプ場に興味を持ち、過去に起きた複数の少女の変死に気付く。 一方、一年前のドーセット州では教師を刺した17才の少年が精神科医の女性に執拗に付きまとっていた。どうやら少年はアナと何らかの関係があるように思われるが…………。 いわゆる”信頼できない語り手”による多くの騙りに満ちたサスペンス・ミステリですが、信頼できないのは名前が出てこない語り手の「わたし」だけではなく、隣人のアナをはじめとして表面上の顔が終盤になると次々と変転していく。読者の先入観、思い込みを利用したサプライズが連打される終盤の演出はなかなかのものです。ただ正直なところ、全600ページのうち400ページぐらいまでは、展開がモタモタしている感じがあって、完成度とリーダビリティの点では前作の「身代わりの女」には及ばないかなと感じていました。不穏な雰囲気の村ホラーに、サイコ・スリラーの要素が加わり、最終盤の教会キャンプ場の「ヘルハウス」の場面は圧巻と言えます。巻末解説で川出正樹氏が表現している「嘘を絵筆に秘密を絵具に描かれた大胆かつ巧緻な騙し絵」はまさに言い得て妙です。 |
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| No.2489 | 6点 | 絞首台のある庭 リチャード・デミング |
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(2026/07/09 13:40登録) 私立探偵ムーンの事務所に富豪の令嬢グレースが訪れる。会社を経営していた父ローソンを事故で失くし莫大な遺産が彼女と兄ドンに遺されるはずだが、兄は失踪し、グレースの身にも不可解な事故が続発していた。ボディガードを依頼されたムーンはローソン一族の屋敷に乗り込むが、そこには疑わしい人物が勢揃いしていた。 昨年翻訳出版された、陽性ハードボイルド✕本格謎解き物の中編集「私立探偵マニー・ムーン」で評判になった、ボクサーあがりの義足の探偵マニー・ムーン・シリーズの1952年発表の初の長編作品です。 準レギュラー・キャラクターとも言える、殺人捜査課のウォーレン・ディ警視や、ムーンの”もと婚約者”でカジノのディーラーからクラブの女性経営者になっているファウスタ・モレニも重要な役割で再登場します。 先の中編集の収録作はナイトクラブや弁護士事務所など、都会派のハードボイルドの雰囲気が目立ちましたが、今作はアガサ・クリスティなどの英国のクラシック・ミステリを思わせる遺産相続絡みの「お屋敷」もののになっています。 高台にある屋敷の裏側の崖で、グレースの兄が変死体で発見され警察が介入してからは、一族や使用人、関係者の事情聴取と諸々の情報収録などにページが費やされていて(まあ、それらも英国クラシック・ミステリ風でもあるのですが)、中編とは違って、トリッキーでもなく、ゆったりとした展開が焦れったく感じました。終盤近くになって、二組のギャングを相手の活劇・銃撃戦とハードボイルドらしい派手な展開から、最後は関係者一同を集めての、ムーンの「仮説」の披露と、最終的には旨く纏めています。巻末の法月綸太郎氏の解説にありますが、G・K・チェスタトンの詩の一節から採ったタイトルの意味が分からなかったのですが、最後の最後に明らかになります。 |
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| No.2488 | 6点 | 交番相談員 百目鬼巴 長岡弘樹 |
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(2026/07/06 11:06登録) 県警を定年退職し非常勤で県内各所の交番の相談員(補助員)を勤める60代の女性、百目鬼巴(どうめき・ともえ)を探偵役とする、6編収録の連作短編集。名前は恐そうだが、見た目と性格はいたって穏やか。しかし噂では本部の刑事部長さえ彼女に頭があがらないらしい、県警の上層部はみな、彼女が只者でないと知っている。 これはなかなか面白かった。探偵役の設定がユニークですし、各篇の事案もバラエティーに富んでいて飽きさせない。「ものごとをほじくり返すと、ろくな事がない」と言いながらも、断罪すべきときは容赦がない。 鋭い観察眼と洞察力で、隠されていた罪を暴き、いくつもの伏線を回収のうえ鮮やに謎解きが行われる。若い警官が絡む事案が多いので、「教場」の風間教官を彷彿とさせるところもある。 個別に見ていくと、轢き逃げ事件の目撃者である急死した老齢の外科医が残した手掛かりと意外な結末の「冬の刻印」が個人的にベスト。最後の倒徐形式のミステリ&かなりユニークな手間暇をかけたダイイングメッセージもの「土中の座標」も印象に残った。 |
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| No.2487 | 5点 | 微笑する悪魔 多岐川恭 |
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(2026/07/03 13:50登録) 1984年に光風社から出たノン・シリーズ作品8編を収録した短編集。書誌情報が掲載されていないのでよくわかりませんが、比較的古い作品をまとめたような感じがあります。 裏表紙の内容紹介がやや抽象的ですが、男女関係の軋轢を背景に、様々な罠が仕掛けられた犯罪小説が中心になっていて、表題作の「微笑する悪魔」や「地獄へ行け」なんかが典型的です。気弱な男と多情で強かな女の組み合わせというパターンが多い。ただ意外に定型を外し、読者の先入観の裏をかくテクニカルな作品もあります。印象に残ったのは、色仕掛けで銀行の支店長と融資課長を騙すコンゲーム風の「柔らかい唇」、初期のトリッキーな作品を思わせる「窓の死神」あたりです。 多岐川恭と言うと、1958年の短編集「落ちる」収録の表題作ほか3編で直木賞を取っており短編の旨さには定評があるものの、1960年代前半の面白そうな短編集が文庫化もされず、ことごとく絶版・入手難の状態なのが残念です。2018年に日下三蔵編の中公文庫で「落ちる」と「黒い木の葉」の最初期作2冊のカップリングで傑作選が出ていますが、「死体の喜劇」「悪人の眺め」「夜の装置」の収録作など、まだまだ傑作選の続編の余地がありそうです。 |
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| No.2486 | 5点 | 後宮の呪術妃 白川尚史 |
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(2026/06/30 12:01登録) 漢軍に一族を滅ぼされた翠玉は、敵討ちのため後宮に潜入するも、病床の皇帝に近づく機会は訪れず絶望していた。 一方、若い女性文官の雪花は、妃嬪の葬儀の様を記録中に遺体の首が切断され別人の頭部が縫い合わされいることを指摘するも、相手にされず逆に高官の怒りを買ってしまう。命を落とす処罰を免れるには、いま後宮で頻発している妃嬪の急死・失踪事件の情報を集めることで放免されると、若い官吏・明達から助け船を出される。「事実を記す」を信念とする雪花は調査を開始するが………。 このミス大賞受賞のデビュー作「ファラオの密室」に続く第2作は、古代エジプト文明に替わって、古代中国(後漢時代)の宮廷を舞台にした、ダブル・ヒロインを主人公とする後宮ミステリです。雪花の父親の冤罪・獄死のもとになった不可解な殺人事件の謎解きや、首の差し替えなどのミステリ要素はあるものの、毒殺や呪術を使った謀略が渦巻く伝奇小説風のプロットなので、読者の嗜好によって評価は大きく変わりそうです。況してや、中盤すぎには、額に呪符を張り付けた跳び歩く死体、咷屍(いわゆる「キョンシー」)の集団が出てくるは、意外な男女のロマンスが事態を複雑にしたりで、まさに「カオス状態」になります。この時代は、皇帝は傀儡で皇太后が実質的にトップ、外戚や宦官が権力を握っていた謀略小説モノに打ってつけな舞台なわりに、そちらの方面にさほど拡がらなかったのは残念です。 |
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| No.2485 | 6点 | 死の絆 赤い博物館 大山誠一郎 |
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(2026/06/27 14:54登録) 警視庁付属の犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子と部下の寺田聡が未解決事件などの再捜査を行なう連作シリーズの第3弾で6編収録。文藝春秋社の販売戦略なのか、石持浅海の殺し屋探偵シリーズと同様に、第1作は単行本で出し、2作目からは文庫オリジナルになっています。6編のトリッキーな本格ミステリを収めた短編集を今どき八百円代で読めるのがありがたいですね。 作者が「あとがき」に書いていますが、他のシリーズと比べて設定が現実的な分、よく考えられたトリックが際立っている感じがあり、ホワイダニットの良作も目立ちます。ただ”論理のアクロバット”を追求するうえで、どうしても偶然の活用と強引な推理の飛躍が多くなっているのが気になるところです。 個別に見ていくと印象に残ったのは、動機が独創的な「三十年目の自首」と、最後まで緊迫感があって読み応えがある表題作の「死の絆」、”キャリア警察版の「教場」”を思わせる警察学校を背景にした緋色の若い日の”日常の謎”的な事件「春は紺色」の3篇になります。 |
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| No.2484 | 6点 | 鬼門の村 櫛木理宇 |
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(2026/06/23 13:50登録) 大学生の友部は、社会民族学の嘉形教授の依頼で夏休みのあいだR県の山奥の村に滞在し、教授が担当しているラジオ番組の怪談コーナーに投稿された実話怪談の整理を行なうことになった。この高額のアルバイトの条件は、昭和30年代に一家六人の惨殺事件が起きた家に住み込むこと、そして注意点としてその土地の水や地元で採れた食べ物を決して口にしないことだった。作業を続けていくうちに、友部は村に隠されていたおぞましい真実に気付いていく。 最初はよくある因習の村を舞台にしたホラー・ミステリかと思っていましたが、あまり謎解きの要素になるような事件が起きることもなく、ラジオに投稿された実話怪談をオムニバス形式で紹介されていくのですが、その合間を縫うように、友部の廻りで不穏な雰囲気が漂い出します。具体的に書かない方がいいのでぼやかしますが、視覚、聴覚、臭覚、触覚を刺激し、怪異が少しづつ読者を包み込む様な書き方は独特な感覚で不思議な読み味があります。 ミステリ的な視点で読んでいると、やや消化不良感がありますが、ホラーとしては十分に及第点を与えられる。 |
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| No.2483 | 5点 | 対決・開発殺人事件 辻真先 |
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(2026/06/19 16:56登録) ルポライターの可能キリコは、沖縄のリゾートホテルの高層階のベランダで、銀座のホステス朱美が奇妙な状況で死体で発見された現場に出くわす。一方、ミステリ作家の牧薩次は長野県の別荘地で、対立する二つの企業のリゾート計画にまつわる殺人事件に巻き込まれる。バブル末期を舞台に、薩次とキリコが活躍するお馴染みの長編ミステリ。 日本経済新聞出版社から1991年に「ユートピア計画殺人事件」のタイトルで出版された作品を改題し創元推理文庫で復刊されたものです。 版元の要望なのか、少し時流に合わせた様な経済推理的な要素があって、プロットの方も中盤すぎまで、とっ散らかったギクシャクした感じがありましたが、そこはそれ”ポテト&スーパー”シリーズならではの趣向が関係しているからです。ただ、今作の場合は、その仕掛けがそれほど旨く機能している様には思えませんでした。あと、村の祈祷師の老婆の孫娘が一応の中心人物なわりに、それほどの意味を持ってなかったのは拍子抜けです。 |
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| No.2482 | 6点 | 瞬きすら許さない ジョー・キャラハン |
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(2026/06/17 12:00登録) 休職明けの警視正キャット・フランクが任命されたのは、人工知能の捜査体”エイド・ロック”を使った試験的な捜査班「パイロット・プロジェクト」のチーフだった。ベテラン刑事としとしての直感を重視するキャットと、あくまでも合理的で瞬時にデータ分析が可能なAI捜査体ロックが、相反する捜査手法で、サンプルとして取り上げた二つの未解決失踪事件に取り組むことになるが…………。 刑事とAIのバディ物の捜査小説だと、ひと昔前ならSFミステリに分類されるところですが、ディープ・ラーニング手法による最近のAI技術の進展具合が凄まじく、chatGPTも身近なアイテムになった現状なら結構リアルな捜査小説と言えそうです。そのうち安楽椅子探偵チャッピーなるものも出てきそうw さてストーリーのほうですが、もともとAIの活用に懐疑的だったキャットと、人間の心情の機微が解らず、その場の”空気を読めない”AIのロックとのすれ違いが面白いところです。捜査のほうは、二つの失踪事件に不可解な共通点が判明してミッシング・リンクものとして劇的な展開になりますが、捜査班の家族が、その中に巻き込まれている状況など安易な偶然の活用が気になります。読み進めていくと、最終的に本作のテーマはAI捜査よりも、犯人側の異様な動機にあるように思われてきました。 CWA(英国推理作家協会)最優秀新人賞をはじめ幾つかの賞を取って、日本でも各種媒体で、宮部みゆき他多くのミステリ書評で取り上げられている話題作で、確かに読み応えが有りますが、社会派的なシリアスなテーマを含め個人的にはちょっと嗜好に合わなかった点があるのでこの評価。シリーズとして続編が書かれているので次に期待したい。 |
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| No.2481 | 5点 | 消えた犠牲(いけにえ) ベルトン・コッブ |
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(2026/06/15 10:00登録) 人気ミステリ作家のリチャーズが出版社を訪ねると、いつもの話し相手で経営者のウィルキンズは不在で、共同経営者のスカーブリックから気分転換な執筆に彼の別荘を勧められ鍵を渡される。しかし、翌日その別荘を訪れたリチャーズが部屋で目にしたのはウィルキンズの刺殺死体だった。 身代りの犯人にされるのを恐れたのか、リチャーズは隣家の管理人夫婦宅に公になっていない本名を使って間借りし、事件の動向を見守り、ミステリ作家の本性で経緯を小説形式の手記にしていく……と、ここまでが第一部で、「探偵物語」と題された第二部に入ると、視点人物がロンドン警視庁のバーマン警部に変わり、典型的な捜査小説になります。 大昔に読んだときには、少ない関係者ながらも、アリバイと動機の両面で仮説を立てては崩れていく、バーマンの犯人を特定しようとする捜査過程が面白く感じたことを覚えていますが、オチを知って読むと、なんか核心部分をあえて避けてモタモタした展開が、やや退屈に感じられますw 植草甚一セレクトのクライムクラブ叢書の中では、確かにネタとしては面白いミステリと言えますが、前半に出てくるある人物の心理描写など普通にアンフェアな部分が気になり、先行作の劣化版ぐらいの評価、絶版のまま文庫化されなかった理由も分かるような気がします。 |
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| No.2480 | 6点 | 魔都シカモア イアン・ロジャーズ |
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(2026/06/11 11:46登録) 吸血鬼や人狼などの怪物が棲む異世界「ブラックランド」につながるポータル(出入口)が各地に出現するようになった世界線。カナダのトロントで超常現象を扱う事務所を開いている私立探偵のフィリックス・レンは、「血まみれの現場から消えた、夫の遺体を探してほしい」との依頼を受けて、事件があったオンタリオ州中部の都市シカモアへ向かう。 その地では六件の連続殺人が起きており、依頼人スーザンの夫ダグラスも、被害者であるとともに、逃げた犯人と見なされていた…………。 オカルト版の「私立探偵スペンサー」とも書かれているが、元妻でアシスタントのサンドラとの漫才風のやり取りや、ワイズラックとジョークを連発する主人公のフィリックスがなかなか魅力的です。 基本的にはモンスター・ホラー(またはダークファンタジー)と私立探偵小説のハイブリッドと言えますが、前半は作者のジョークや遊び心が目立つ。ボストンのフェンウェイ球場近くに出現したポータルの怪物というのはレフトスタンドの「グリーン・モンスター」のことなんだろうw 超常現象情報局(PIA)の捜査官アリスとの捜査が続いたあとの、残り100ぺージを切ってからの急展開が一番のクライマックスで読み応えがあり、ミステリ的な意外性も用意されています。フィリックスを主人公にした短編集もあれば読んでみたい。 |
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| No.2479 | 6点 | 猫鳴く森で謎解きを 楠谷佑 |
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(2026/06/07 14:48登録) 全寮制の男子校・霧森学院高等部2年の「オレ」兎川雛太(ヒナ)と鷹宮絵愛(エチカ)は寮のルームメイト。夏休みに二人はボランティア部の亜蓮に誘われて、”猫に会えるキャンプ場”にボランティアに行くことに。他校からも生徒が参加しており、高校生計10人でボランティア活動をしていたが、何人かは初対面ではなく、不穏な人間関係が見え隠れしていた。そして、キャンプ2日目、一人の生徒が何者かに殺害される事件が起きる。頭脳明晰な”エチカ”こと鷹宮は、春に起きた寮の事件に続き再び消去法推理で殺害犯人を突き止めようとするが…………。 「ルームメイトと謎解きを」に続くシリーズの第2弾。 多数の学生が集うキャンプ場で発生した殺人事件を、緻密なロジックを駆使して解明するプロットですから、自然と閃いたキャッチ・コピーは、”Z世代の「月光ゲーム」”wです。とは言っても、埼玉県北部には活火山はないので派手なクローズドサークルとはいかず、ダイイングメッセージも出てこない。ましてや今どき手がかりがマッチの軸はないでしょうし。読み進めるにつれ見当違いが分かって来ました。(また、本家は高校生じゃなく大学生だし)。でもひとつ、作業用の軍手というひとつのアイテムだけでなされた中盤のロジック展開は圧巻です。ミステリとしては外連味は乏しく地味ですが、端正な作風は評価されるでしょう。そういえば、最後の最後に夜空に月が出てきました。 |
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| No.2478 | 6点 | ハレー彗星の館の殺人 ロス・モンゴメリ |
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(2026/06/04 11:28登録) 1910年の英国。75年ぶりにハレー彗星が地球に最接近しているニュースが流れている最中、少年院帰りの前科者「ぼく」スティーブンは、謎の手紙に導かれて、英国南西端コーンウォール地方の孤島に建つタイズ館で従僕として仕えることになった。 当主の子爵コンラッドは、彗星による有毒ガスなどのデマ的な被害予測をまともに信じ、屋敷中の扉や窓を密閉させ、さらにスティーブンには嫌われ者の老令嬢”大叔母”ことデシマの世話を任せる。そして、彗星が到達するその夜が明けて、密封された書斎で顔面にクロスボウの矢が刺さった子爵の死体が発見される。 満潮時には本土から切り離されるクローズド・サークルなお屋敷で起きる密室殺人、腹に一物を抱える男女三人の一族親族、怪しげなドイツ人科学者、広大な領地にある迷路などなど、黄金時代の”クラシック・ミステリあるある”な設定とギミックを全部盛りしたような愉しい作品です。 探偵役の車椅子の老嬢デシマと、その手足となって動くスティーブンと探偵小説好きの若いメイド・テンペラスの探偵トリオも注目です。証拠や証言の収集方法にはやや疑問が有りますが、解決編に入る直前の(水力発電機の停止工作による)暗闇の中のサスペンス溢れる展開と轟く雷鳴など雰囲気作りはなかなかです。 作者は児童向け小説の書き手でもあったからか、ライトで読みやすい文章はリーダビリティがあります。 |
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| No.2477 | 5点 | 花嫁と殺し屋 石持浅海 |
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(2026/06/01 10:00登録) 上場企業の平均年収を目安とした報酬で殺人を請け負う、冨澤充を一応の主人公とした殺し屋探偵シリーズの第5弾。標的の人物の奇妙な行為や、依頼内容に付いたオプションなどの謎に対して、ついつい「推理」をしてしまう、異色な”日常の謎”ものとも言える連作短編集です。 このシリーズを読んでいて連想したのはアメリカ産の二つの連作ミステリ。殺し屋の何でもない日常や殺人の準備と実行シーンを淡々とした語りで描くローレンス・ブロックの「殺し屋ケラー」、もうひとつは請け負うのは殺しではなく盗難ですが、奇妙な依頼対象のホワイと、巻き込まれた事件の謎解きを行うホックの「怪盗ニック」。こちらはシリーズの途中から女性の同業者を登場させマンネリ化を避ける手法も本シリーズと共通していますね。 収録作中のベストは、同業者のシングルマザーの殺し屋・鴻池知栄と冨澤が、新婚夫婦の夫と妻の殺害を各々が同時に請け負う表題作で最終話の中編「花嫁と殺し屋」ですが、作者の作品で時々感じる点ですが、動機に納得感がないのが気になりました。 |
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| No.2476 | 6点 | 兇悪の浜 ロス・マクドナルド |
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(2026/05/29 10:08登録) ”ミラー夫人のあのパッとしない亭主”wこと、ケネス・ミラーが何度か筆名を変えて最終的にたどり着いたペンネーム「ロス・マクドナルド」名義で出した第1作で、1956年の作品です。この年には、マーガレット・ミラーは前年に出した「狙った獣」でエドガー賞(MWA最優秀長編賞)を獲っており、翌年にはMWA(アメリカ探偵作家クラブ)の会長に就任しています。今で言うところの格差夫婦? ロスマクの初期作はほぼ創元推理文庫で出ていて、これらは本国・日本ともにハードボイルド小説としては評判がイマイチらしいということは知っていましたが、このたび創元推理文庫の”名作ミステリ新訳プロジェクト”の一環として田口俊樹訳で復刊されたので読んでみました。 記憶が曖昧ですが、たぶん瀬戸川猛資の「夜明けの睡魔」のロスマク論に感化されたのか、ロスマクは1950年代末にブレイクした内省的で家庭の悲劇をテーマにした謎解き興味の強い作品を中心にハヤカワ版しか読んでいなかったので、初っ端から”拳と拳銃”の暴力・アクション・シーンが続いて出て来てやはりと思いつつ、新訳でも”リュウ・アーチャー”ではなく”リュー・アーチャー”表記なのも違和感がありました。 物語は、マリブ・ビーチにある会員制クラブを中心にしたセレブとヒスパニック系の人達の関係や、ハリウッドを目指し内外から集まる男女などが絡む複数の殺人にアーチャーが関わる話。表面的な構図はよくある内容で、最終盤までは本当に”パッとしない”。重要人物なハリウッド撮影所オーナーのセレブ夫人イゾベルの造形などに、2年後に書かれたブレイクのきっかけと言われる「運命」を連想させるところが有り、またマーガレット・ミラーの影響も窺えます。 |
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