埋葬された夏 |
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作家 | キャシー・アンズワース |
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出版日 | 2016年05月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | YMY | |
(2024/05/13 22:33登録) 二十年前の夏に、イングランド東部のスモールタウンで残虐な殺人者として断罪された少女。被害者の名を伏せたまま。元刑事の私立探偵が新たな証拠に基づき再調査する現代パートと、ゼロ時間に向かって邪悪なエントロピーを増大させていく過去パートを切り替えて「あの夏いったい何が起きたのか」という核に向かって収斂させていく手際は実に見事。 終盤、とある人物が放つ、「秘密は人を殺せるのよ」という一言に、思わず身がすくむ。秘密を植え付けた者と抱えざるを得なかった者たちの織り成す、やるせなくも目をそらすことの出来ない犯罪小説。 |
No.2 | 5点 | 人並由真 | |
(2016/12/13 04:31登録) (ネタバレなし) 小さめの級数で約480ページの大冊。場面場面は適度な呼吸で転換するから読むのにシンドクはないが、本書の場合は少し疲れた。 とはいえ<被害者捜しの趣向>(本書の扉より)をミステリ的な売りにするにしては、作劇上の必然や技巧的な工夫があるわけではなく、その部分の過去の事実をただ読者に見せないだけ。当たり前だけど、20年前の事件を追っている主人公の探偵ショーンは、その作中事実を物語冒頭からとっくに知ってるんだよね? 彼自身の内面描写からも、ほかの登場人物の三人称視点の叙述からも<誰が殺されてどのような事件が起きたのか>を作者の都合だけで単に伏せる、というのはミステリとしてどうだろう。 ラストの実は…のくだりも作者が何をやりたかったのかは理解できるし、作中のある主要人物に思いを馳せるなら、この趣向自体はアリだとは思う。でもその一方で、この構想をちゃんと効果的に見せるのならその該当の人物をもっと良い歩幅の存在感で作中に配置しておけば良いのにな、と思う。いやロス・マクの『さむけ』ほど絶妙なバランスでやれとは言わないけれど。個人的には最後はああ、そうですか(&こういうことをするなら、もっと仕込めよ、もったいない!)であった。 とまれ小説としては細部の描写におおむね緊張感があり、悪くはないんだよね。その意味では楽しめたけど、先述のこれってミステリとしてどうなの? の部分でそれなりの評価。なんか、ざわざわ残る作品ではある。 |
No.1 | 7点 | kanamori | |
(2016/07/05 18:21登録) イギリス東部の海べり、リゾート・ビーチのある町で殺人事件が起き、16歳の少女コリーンが犯人として裁かれ療養施設に入れられる。そして20年後、新技術によるDNA検査によって新たな証拠が出てきたことにより、弁護士から再調査を依頼された元刑事の私立探偵ショーンは、悪徳が潜む町アーネマスを訪れる---------。 現代と過去の2つのパートが交互に並行して描かれる。 ショーンが地元新聞社の女性編集長の協力を得て関係者を訪ね巡り、事件を洗い直す私立探偵小説としての現代パートと、3人の少女を中心にした友情と愛憎関係、思春期ならではの心の葛藤を描くノワールな青春小説としての過去パート。この2つのパートのエピソードを交錯させながら、徐々に事件の背後にあるものを明らかにし、ゼロ時間に収斂させていく構成が非常に効果的です。 ”20年前の夏、この町で本当は何が起きていたのか?”という謎を中核に置きながら、読者に対して”誰が殺されたのか”を明示しない「被害者探し」の趣向も組み込み、さらには、当時の重要人物である残りの2人の少女は今はどこに?という副次的な疑問が終盤近くまで読者につきまとう、これらの重層的な謎がサスペンスを高めて、否が応でも読む者を駆り立てます。 過去の事件の真相自体は(途中からある人物の側からの視点が入ることもあり)予想の範疇を超えるものではありませんが、一応の幕が下りたあと、ラスト2ページで明らかになる事実が衝撃的で、これには心が震えるほどの深い感銘を受けました。ああ、そういう物語だったのか....と。 |