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ミステリの祭典

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呪われた穴
ナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ

作家 ニコラス・ブレイク
出版日1955年04月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 kanamori
(2016/06/13 18:56登録)
ドーセット州の村で、複数の住人たちの秘密を暴く匿名の手紙が配達され自殺者まで出ていた。その村にある館に息子たちが住んでいる資本家アーチバルド・ブリック卿は、探偵のナイジェルを雇い事件の真相解明を依頼するが、ナイジェルが調査を進めているさなか、石切場の穴底でブリック卿が変死体で発見される----------。

これは傑作。英国の片田舎を舞台にした匿名の中傷の手紙を発端とするミステリといえば、アガサ・クリスティ「動く指」、ジョイス・ポーター「ドーヴァー③誤算」wなどが思い浮かび、さほど新味はありません。脅迫の手紙を受け取った当人や関係者をナイジェルが一人一人訪ね、手紙の犯人を特定しようとする第1部は地味な展開なのですが、そこからブルック家の兄弟と、近隣のリトル・マナ荘に住むシャンメール姉妹の複雑な関係や、過去からの因縁という事件の背景が徐々に見えてくる構成が見事です。なによりも、車椅子の姉セランディンをはじめ主要人物の造形がしっかりと書き込まれているのが本書の強みです。
第2部に入り、本格的に殺人事件のフーダニットが謎解きの中核になるわけですが、犯人の工作以外に、複数の第三者の善意と悪意による行為が巧妙なミスディレクションになっており、かなりあからさまな手掛かりがありながらも、真相は見抜けにくくなっています。
ナイジェルが事件を再構成しながら推理を開陳するシーンに併せて、村の容疑者たち各々の密かな行動がカットインで描写され悲劇に至るという、終幕の演出もドラマチックで効果絶大です。

No.1 6点 nukkam
(2015/07/05 22:26登録)
(ネタバレなしです) 「旅人の首」(1949年)から久しぶりとなる、1953年に発表されたナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ第10作となる本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で「人物描写と堅実な推理」を誉めていますが私もそれに賛同します。ジョン・ディクスン・カーを彷彿させるところがあり、村を舞台にした匿名の手紙事件というプロットがカーター・ディクスン名義の「魔女が笑う夜」(1950年)と共通していますし、ある小道具で某作品(作品名は伏せます)のメイントリックを思い浮かべる読者もいるでしょう。しかし全体の仕上げはやはりブレイクならではのもので、特に最終章でのナイジェルの推理と村人たちの行動を交互に描写した構成と劇的な結末の効果は見事です。長らく絶版状態のハヤカワポケットブック版(ナイジェルがナイゲルと表記されています)は半世紀以上前の1955年翻訳なのでそろそろ新訳版が待ち望まれます。

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