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ミステリの祭典

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屍の記録
南郷宏/別題『屍臭の家』

作家 鷲尾三郎
出版日1957年01月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 5点
(2021/05/17 15:56登録)
 京都伏見の老舗醸造元・本間酒造には明治・大正・昭和の三代に渡り、由緒ある「新左衛門」号を襲名した当主が失踪を遂げるという恐ろしい呪いがあった。新進探偵作家・牟礼順吉は一高時代からの親友・本間新也の懇請で彼の家に赴き、自らの手で連続消失事件の謎を解こうとするが・・・。果たして、お山の狐の祟りとされる伝説に隠された真相とは何か? 鮎川哲也『黒いトランク』と〈書下ろし長編探偵小説全集〉「十三番目の椅子」を争った幻の本格ミステリ、ついに復活!
 本書の脱稿は昭和三十(1955)年二月。三十一年、藤雪夫『獅子座』と共に最終選考まで残ったものの惜しくも落選し、翌三十二年に至って春陽堂書店より刊行された、鷲尾三郎の長編第一作。発表時のタイトルは『酒蔵に棲む狐』。通俗スリラー風の展開の狭間に戦火を免れた古都の風情を点描した小説で、主人公のロマンス含めたサスペンスを、緩急伴うゆったりした筆致で描いています。作者としては「オカルティズムの匂いを、強烈に盛りたかった」そうですが、これはこれでなかなか。本家の三代目・新左衛門、新宅の先代・徳松失踪の謎も、当時の社会情勢などと絡めて合理的に設定されています。
 ただ現在パートにおける新也の実兄・新一郎消失のメイントリックは脱力もの。そのアホらしさはさて置き、取り返しのつかぬルビコン川を渡った直後、コレの成立に全人生を賭けるかと訊かれれば問答無用でNO!でしょう。少々の失点は勢いと美点で許すタイプですが、そんな評者でも「これはちょっと」と思ってしまいます。途中までの結構な読み味の〆に大バカトリックを持ってくる妙な作品で、まあ椅子には座れんわなと。
 それでも無理なく読ませるリーダビリティと構成はかなりのもの。あまり大っぴらには薦めませんが、古式床しい探偵小説のムードを味わうには良いでしょう。

No.4 6点 ボナンザ
(2021/04/24 00:16登録)
本格ミステリ好きであれば某作品の解説等で一度は目にしたことがあるであろうこのタイトルが遂に復活。
確かにあれと張り合った名作かと言われると・・・だが、謎の提示はこの上なく魅力的だと思う。

No.3 6点 蟷螂の斧
(2021/04/04 15:26登録)
酒造会社の社長が、二人の目撃者がいるにもかかわらず、突然目の前から消えてしまった。社長の弟は友人である作家探偵に調査を依頼。探偵は美人秘書と行動するうちに彼女に惚れてしまう。実は社長の弟も彼女に惚れていた。二人の間の恋のさや当てが実に面白い。古典的展開?ですかね。失踪トリックは子供だましのようで笑えます。過去の二つの事件の動機は納得できるのですが、メインの動機がいまいちだったかなあ。

No.2 6点 kanamori
(2016/07/21 18:31登録)
京都伏見にある老舗の造り酒屋・本間家に招かれた探偵小説作家の牟礼順吉は、旧友の新也から、社長である実兄が不可解な状況下で失踪した事件の相談を受ける。話を聞けば、本間家では日露戦争当時の三代目当主をはじめ、都合3件の失踪事件が発生しているという(表題作の長編)---------。

日下三蔵編”ミステリ珍本全集”の最終巻になった第12回配本は、短編「文殊の罠」などで知られる鷲尾三郎。本書には「屍の記録」と「呪縛の沼」の長編2本に、中短編4作品が収録されています。(ここでは表題作のみ寸評します)
「屍の記録」は、講談社が企画した書下ろし長編探偵小説全集の公募枠いわゆる”十三番目の椅子”を、鮎川哲也(中川透)の「黒いトランク」等と争った応募作を改題した作品(のちに「死臭の家」と再度改題された)。
地方にある名家の広大な敷地を舞台に、狐様の祟りという怪奇趣向を交えて、衆人環視下の人間消失という不可能トリックを主軸に置いた古色蒼然たる探偵小説です。現代的作風の”推理小説”「黒いトランク」とは、かなり対照的な作風なんですが、ひとつ珍しい共通点があって、「黒いトランク」では鬼貫がトリック解明に際して例えた”風見鶏のロジック”が有名ですが、「屍の記録」でも、順吉が人間消失トリックの真相に気付くきっかけが風見鶏なのです。これは面白い偶然の一致ですね。
その肝心のメイントリックの真相がかなり脱力感を伴うのがアレですが、過去の失踪事件にそれぞれ時代を反映する動機が隠されているのが面白いですし、古き良き探偵小説の雰囲気が十二分に味わえます。

No.1 6点 nukkam
(2015/03/03 11:48登録)
(ネタバレなしです) 1957年に出版された本書は私立探偵・南郷宏シリーズの第一長編の本格派推理小説です。南郷の登場場面は極めて少ないのでシリーズ入門編としては傑作と評価の高い短編「文殊の罠」(1955年)あたりがお勧めかもしれませんが本書は本書でなかなか面白い作品です。不可能犯罪要素あり伝奇要素あり、起伏に富んだストーリー展開で飽きさせません。サービス過剰になっていて現代ミステリーに慣れた読者には犯人当てとしては少し容易な部類になってしまったかもしれませんけど。どこか間抜けな印象のある人間消失トリックもユニークです。しかし大きな問題があり、それはハンセン病(作中表記は癩病)の人物を登場させていることです。その描写は現代社会では容認しにくいだろうし、さりとてプロットに影響を与えずに削除することも難しく、復刊は難しいかもしれません。(後記:何と2016年に復刊されました)

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