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ミステリの祭典

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崩れた直線

作家 陳舜臣
出版日1986年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 kanamori
(2016/07/18 09:24登録)
ミステリ系の作品8編からなる短編集。個々の書誌データが掲載されていないのですが、”あとがき”の内容から推して昭和40年代の直木賞受賞前後の、作者が精力的に短編を量産していたころに発表された作品を収録したものと思われます。

表題作の「崩れた直線」は、作者の創造した名探偵、中華料理店主の陶展文が登場するやや長めの短編。身内が殺人事件に巻き込まれたことで展文が探偵に乗り出す。中国拳法の弟子である新聞記者の情報収集に依存する部分が目立ち、ダイイングメッセージの真相も含めて、読者が推理に参加できる形になっていないのが少々残念ですが、ファンなら十分楽しめる作品。
富豪の未亡人で美術商でもある謎めいた女性ルー夫人の思い出が語られる「ミセス・ルーの幽霊」が編中のベスト。その過去のエピソードが、意外な形で現在の隠された犯罪に結びつく構成の妙を評価します。
そのほかでは、「縞の絵筆」や「闇に連れ込め」のようなトリッキィなものもありますが、作者と思しき「わたし」が、神戸の華僑社会で生きた印象深い人物の過去の物語を、当時を知る老人から聞くという構成の作品がいくつかあり、それらはミステリ要素があまりないです。

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