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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.85点 書評数:456件

プロフィール| 書評

No.376 5点 解剖学者と殺人鬼
アレイナ・アーカート
(2023/11/15 06:38登録)
死体に次の犯行のヒントを残していく挑発的なシリアルキラーと解剖学者の女性が対決するサイコサスペンス。
作者は犯罪専門の解剖学医ということで検死描写は非常にリアルです。主人公サイドと犯人サイドを交互に描きながらテンポよく進んでいく物語も読みやすく、ストーリー半ばでひねりを効かせているのも好印象。しかし、いまどきの海外ミステリーにしては薄い本だなと思っているとあからさまに次巻に続くことを前提とした結末でがっかりでした。それから、さかんに頭の良さをアピールしている犯人が全然頭がよさそうにみえないのもマイナス点です。

以下ネタバレ












自分は頭が良いと思い込んでいる自惚れ屋な犯人という設定なら別にそれはそれでいいのだけど、有能そうに見えないのに最後は逃げ延びて主人公の宿敵っぽくなっているのがちょっと納得いかない。このあたりは作者がリアルさにこだわった弊害ではないだろうか。


No.375 6点 8つの完璧な殺人
ピーター・スワンソン
(2023/11/05 09:24登録)
作者のミステリ愛溢れる1本で、読む側としても『ABC殺人事件』や『赤い館の秘密』などの名前が出てくるだけでワクワクしてきます。主人公が過去にブログで紹介したミステリー小説を摸した殺人が次々に起きるというプロットも申し分なしです。ただ、主人公が妙に冷静なのでサスペンスがいまひとつ盛り上がらないという難点があります。真相もそれなりにまとまってはいるものの、はっきりいってパンチ不足です。HORNETさんの指摘にもあったように、ピーター・スワンソの趣味的な側面が強い作品だといえます。
ちなみに、作中で名前が挙がっているミステリー作品は全力でネタバレがされているので未読の人は要注意です。


No.374 6点 鵼の碑
京極夏彦
(2023/11/03 10:40登録)
お馴染みのシリーズキャラクターがそれぞれの立場から戦前に起きた怪事件の真相に迫っていく物語は捜査小説としてなかなかの面白さです。
ただ、『姑獲鳥の夏』や『魍魎の匣』のような強烈な怪奇性は感じられず、終始淡々としていたのは物足りなかった。事件の真相もそこまでの衝撃はなく、あの長さを支えるには少々薄味の感あり。


No.373 5点 超新星紀元
劉慈欣
(2023/10/31 10:02登録)
三体シリーズの劉慈欣の長編デビュー作。
超新星爆発による放射線バーストを浴びた大人たちが死に絶え、子供だけの世界になるというアイディアや、そのことによって巻き起こる混乱を描いていくというプロットはユニーク。 
ただ、年齢によってそんなにきっちり生死は分かれないだろう、子供だけとはいえそんな意味不明なことはやらないだろうなどツッコミどころが満載でイマイチ乗り切れません出した。面白いところもないわけではありませんが近年の劉慈欣作品と比べると完成度は大きく落ちる感じ。


No.372 7点 怪物のゆりかご
遠坂八重
(2023/10/28 17:45登録)
明朗闊達な優等生・滝蓮司とイケメンだけど落ちこぼれで変人な卯月麗一のコンビが探偵役を務めるシリーズ第2弾。
今回はイジメを告発したのちに公開自殺を図った高校生の事件に端を発し、そこからさまざまな事件が明らかになっていくというもの。最初はイジメを苦にした自殺(未遂)だと思われていたものが、自殺を図った本人がイジメを受けるような人物ではないことがわかり、調べれば調べるほどつじつまが合わなくなっていく展開が秀逸。捜査小説としてかなりの面白さです。コミカルさとイヤミス的な側面のギャップも相変わず魅力的で調査の末にとんでもない怪物を探り当ててしまったくだりなどはぞくりとさせられました。というわけで、傑作といって差し支えない出来でなのですが、自殺を図った高校生の母親の二面性を示す描写が個人的にいまひとつわかりにくかったのが減点対象。


No.371 7点 ドールハウスの惨劇
遠坂八重
(2023/10/28 17:22登録)
主人公コンビとその仲間たちの掛け合いが楽しい学園ものとしての側面とドロドロとした事件との温度差が魅力となっている作品。
双子の姉妹に両極端な生き方を強いる毒親が殺される事件が起き、当然、娘たちが疑われるのだがそこから高校生コンビの活躍によって意外な真実が明らかになっていく展開が面白い。密室トリックなども出てきますがそこに期待すると肩透かしを覚えることになります。もっとも、本作の主眼はそこではありません。最後に明らかになるぶっ飛んだ真相こそが本作における最大のサプライズであり、個人的にかなり驚かされました。ちょっとリアリティに欠ける点は減点対象ですが、そこに目をつぶれば青春ミステリとして大いに楽しめる作品です。


No.370 7点 ハンティング・タイム
ジェフリー・ディーヴァー
(2023/10/23 19:30登録)
妻・アリソンのDV告発で逮捕された元刑事のジョンが刑期よりも早く出所。そのことを知ったアリソンは娘とともに姿を消すが、ジョンは刑事のスキルを駆使して確実に2人のもとへと近づいていく。一方、アリソンの友人から依頼を受けたショウもまた、彼女たちを保護すべく2人の行方を追い…。

コルター・ショウシリーズの第4弾であり、個人的にはシリーズで1番好きな作品です。まず、それぞれの視点から描かれる逃走劇&追跡劇が面白い。刻一刻と変化する状況をスピーディーに描き、飽きさせません。しかし、それ以上に素晴らしいのが終盤におけるどんでん返しです。見えている風景がガラリと変わる瞬間の鮮やかさはディーヴァーならではといえます。ただ、これは作者の責任ではないのですが、「どんでん返し20回以上」というキャッチコピーのせいでいろんなパターンのどんでん返しを考えてしまい、結果、当てずっぽでオチを当ててしまいました。それさえ、なければもっと驚けたのですが…。そもそも、どんでん返し20回以上というのがハッキリ言って誇大広告ですし、こういう売り方はちょっと考え直してほしいところです。


No.369 4点 鏡の国
岡崎琢磨
(2023/10/14 21:30登録)
大御所ミステリー作家の死後に見つかった幻のデビュー作。
それは彼女が若い時に巻き込まれた事件について描いたノンフィクション小説だった。
そこに隠された驚くべき秘密とは?

この手のどんでん返し系ミステリーを成功させる鍵は、読者に誤認させたい箇所をいかに違和感なく描き切るかにかかっています。しかし、本作の場合は最初から違和感だらけですぐにピンときてしまいました。一方、作中作の中で起きた事件の真相に関しては意外性抜群なのはよいのですが、いくらなんでもリアリティがなさ過ぎて納得しがたいものがあります。さらに、原稿の一部が欠落していた謎に関しては大したサプライズもなくて、はっきりいって蛇足です。作品の狙い自体は嫌いではないものの、粗が多すぎるように感じたので点数は低めです。、


No.368 8点 好きです、死んでください
中村あき
(2023/10/14 10:02登録)
2023年は『十戒』や『ちぎれた鎖と光の切れ端』などクローズドサークルの力作が数多く発売されましたが、その中で個人的に一番気に入っているのがこれ。
密室の謎をはじめとして恋愛リアリティーショーに絡めた仕掛けが見事ですし、首なし死体を巡るロジックもよくできています。話も波乱万丈でテンポよく、最後まで緊迫感に満ちていました。


以下ネタバレ






ただ、(これはトリックや謎解きとは直接関係のない部分ですが)恋愛リアリティショーにおいて相手を突き飛ばした方が視聴者のバッシングを受けたのには納得できないものが。あの場合、さんざん嫌がらせをした結果突き飛ばされたのは視聴者にもわかるはずなので、普通バッシングを受けるのは突き飛ばされた方ではないでしょうか?


No.367 7点 エレファントヘッド
白井智之
(2023/10/08 19:32登録)
狂気とグロの安定の白井ワールドで、前半は本格ミステリというよりはサイコサスペンスのようです。そこからとんでもない展開によって怒濤の推理合戦が始まるわけですが、これがアイデアの宝庫といった感じで次から次へと超推理が飛び出してきます。「空前絶後の推理迷宮」という謳い文句に偽りなしです。ただ、奇抜な推理を導くために特殊設定を用意し、さらにそれをいじくり回すやり方に対しては好みが分かれるかもしれません。少なくとも、自力で真相を言い当てるのはほぼ不可能です。正直、自分は途中からついていけなくなりそうになりました。しかし、それでも本作には特殊設定ミステリの極北というべき異様な魅力があるのは確かです。そうした点を総合的に鑑みて点数は7点ぐらいで。


No.366 4点 蒼天の鳥
三上幸四郎
(2023/10/03 11:21登録)
第69回江戸川乱歩賞受賞作。
作者が『特命係長 只野仁』や『名探偵コナン』などを手掛けたベテラン脚本家ということもあって語り口は非常にスムーズ。田中古代子という全く知らない作家を題材にした物語を興味深く読むことができました。ただ、ミステリーとしてはあまりにも弱く、驚きに欠けます。大正デモクラシーを背景にした母娘のストーリーは悪くないだけにむしろミステリー要素はいらなかったのではないかとすら思ってしまいます。


No.365 6点 でぃすぺる
今村昌弘
(2023/10/03 07:04登録)
小学生の少年少女が謎解きを通して成長していく姿を描いたジュブナイル的な作品です。その点はよくできているのですが、探偵役が普通の小学生なのであまり込み入った推理をさせるわけにもいかず、剣崎比留子シリーズに比べると謎解きが軽量級に感じます。一方、地元の怪談話が事件の鍵を握るホラーミステリとしては節々にぞっとするシーンをちりばめているものの、こちらもイマイチ振り切れてない印象を受けました。全体としてはそれなりに楽しめたものの、やはり剣崎比留子シリーズと比べると一歩及ばずといったところでしょうか。


No.364 8点 あなたが誰かを殺した
東野圭吾
(2023/10/01 09:38登録)
夏の避暑地で行われたバーベキューパーティーで起きた無差別殺人の謎を追う作品ですが、序盤で事件の経緯が一気に描かれるため、とにかく登場人物を覚えるのが大変です。しかし、そこを乗り越えると、関係者と地元刑事、それにアドバイザーの加賀恭一郎が一堂に会した検証会が始まり、俄然面白くなります。状況を整理しながらの推理にワクワクしますし、それと同時に秘められた人間関係が露わになっていく展開も秀逸です。加えて、二転三転の末の意外な真相も申し分ありません。本格ミステリとしては東野圭吾久々の快作です。


No.363 8点 厳冬之棺
孫沁文
(2023/09/26 06:19登録)
富豪の屋敷で起きた奇怪な連続密室殺人に名探偵が挑む!
といった感じのクラシカルな本格ミステリですが、探偵が人気漫画家でヒロインがアニメ声優という現代風の設定なのがユニーク。
3つの密室もそれぞれ凝ったトリックが用意されており、楽しませてくれます。
その他にも本格好きを楽しませてくれる仕掛けや設定が盛りだくさん。
トリックや動機の面でリアリティを犠牲にしている点は好みの分かれるところですが、今まで紹介された華文ミステリのなかでもかなり上位の作品です。
作風は日本の新本格の主流となっている叙述トリック、特殊設定、クイーンばりのロジックなどとは異なり、”ロジックよりトリック”な感じでしょうか(もちろんロジックが皆無というわけではなく、名探偵による推理自体は魅力的です)。日本のミステリー作家でいえば、島田荘司、二階堂黎人、加賀美雅之、小島正樹らに近いといえます。
ちなみに、作者の孫沁文は中国のディクスン・カーこと鶏丁の別名義。2018年に発表された本作が著者の初長編となります。


No.362 6点 ラザロの迷宮
神永学
(2023/09/24 23:08登録)
推理イベントのアトラクションに閉じ込められた参加者が連続殺人に巻き込まれるクローズドサークルパートと、血まみれの記憶喪失男の正体を催眠療法を駆使しながら探っていく刑事パートが交互に語られる物語は非常にスリリング。謎が謎を呼ぶ展開にワクワクしますし、二転三転のプロットもよくできています。話としてはとても面白かったです。しかし、本格ミステリのメインの仕掛けに××××ネタを使っているのはいただけません。アンフェアのうえに陳腐です。ちなみに、どんでん返しにこのネタを使っている作品を読むのは今年だけで3度目になります(残り2作は本格ではなくサスペンスでしたが)。面白かったので7点以上を付けたいところですが、このネタにはいささかうんざりしているのでマイナス1の6点で


No.361 6点 梅雨物語
貴志祐介
(2023/09/24 09:12登録)
ホラーミステリー系の中編3編収録。
なかでもインパクトがあるのが「皐月闇」で、物語としては社会人となった教え子から相談を受けた元教師が、教え子の弟が作った句集に秘められたメッセージを紐解いていくというもの。最初はオーソドックスな安楽椅子探偵ものかと思っていると、だんだん不穏な空気が高まっていく展開にゾクゾクします。ただ、謎解きを懇切丁寧にやりすぎて途中で話の展開が読めてしまうのが惜しいところです。他の2編も「皐月闇」ほどのインパクトはないものの、なかなかの良作。


No.360 6点 ナイフをひねれば
アンソニー・ホロヴィッツ
(2023/09/15 00:17登録)
謎に魅力がなくて冗長だった前作に比べると、今作はかなり楽しく読めました。ホロヴィッツ自身が逮捕される展開はスリリングですし、仕掛けも小技が効いていて悪くありません。ただ、後半の展開によってメインのミスディレクションがバレバレになってしまう点は少々物足りなく感じました。


No.359 7点 ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
(2023/09/02 08:03登録)
孤島で起きた連続殺人の物語を描いたあとでさらに第2部が始まるという凝ったプロットを採用し、本格ミステリとしての充実度ではデビュー作の『此の世の果ての殺人』を遥かに凌駕しています。
特に、死体発見者が必ず次の犠牲者になるという殺人連鎖の謎を第一部及び第二部に提示し、それぞれ別の解答を用意しているのが素晴らしい(加えて第一部におけるダミー推理もなかなかユニーク)。
一方、不満点としては安易な伏線のせいでかなり初期の段階で犯人の予想がついてしまった点が挙げられます。いくらフーダニットが主眼の作品ではないとはいえ、最初から犯人がバレバレでは興が削がれてしまいます。それがなければ8点を付けたかったところなのですが。
とはいえ、小説として読ませる力もあり、全体的には非常によくできた作品であることは確かです。1998年生まれの24歳でこれだけの作品をものにした作者の技量に唸らされます。今後が楽しみな作家です。


No.358 6点 処刑台広場の女
マーティン・エドワーズ
(2023/08/22 05:30登録)
1930年のロンドンを舞台にした波乱万丈の物語はなかなかの面白さです。特に、名探偵レイチェル・サヴァナクの謎めいたキャラクターが素晴らしい。
ただ、出版社がさかんに喧伝しているような謎解きミステリとはどうしても思えない。確かに、冒頭から名探偵が登場し、密室での奇妙な自殺があり、ショー上演中の奇怪な焼死事件ありと古典的な探偵小説のガジェットはふんだんに盛り込まれています。しかし、それらを起点とした推理が始まることはありませんし、あっと驚くようなどんでん返しやトリックも皆無です。そもそも、犯人は最初から明らかで、その犯罪の全貌が次第に明らかになっていくプロセスに本作の面白さがあります。そのプロセスも謎解きとは明らかに異なるもので、どちらかといえば、アルセーヌ・ルパンシリーズのようなスリラーもしくはクライムノベルといった方が近いかもしれません。一応、レイチェルの過去のエピソードにどんでん返しが用意されていますが、ミステリーを読みなれていれば簡単に真相を見破ることができるでしょう。そういうわけで、十分に面白い作品ではあるのだけど、無駄に本格を期待させた点がマイナスでトータル6点といった感じです。


No.357 3点 紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と
歌田年
(2023/08/15 12:17登録)
3つの不可能犯罪謎を解いていく連作ミステリですが、トリックがありきたりというかヒネリがないというかとにかく全く魅力を感じられず。最後に明らかになる推理クイズ企画の仕掛けもちょっと無理があるように思います。

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