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ミステリの祭典

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象は忘れない
エルキュール・ポアロ

作家 アガサ・クリスティー
出版日1973年01月
平均点5.21点
書評数14人

No.14 4点 文生
(2024/03/23 09:18登録)
トリックはありふれていても巧みなミスディレクションによって読者の意表を突くのがクリスティの真骨頂ですが、晩年の作品においてはそのテクニックにも衰えがみられます。本作も過去の事件の真相を探っていくという物語自体は結構引き込まれたものの、トリックはバレバレでした。ミステリーの場合、物語はそれなりに面白くても真相があまりにもバレバレだとさすがに興が削がれてしまいます。デビュー時から晩年まで一貫して当たり外れの少ない作家といわれるクリスティですが、個人的には『ポケットにライ麦を』や『葬儀を終えて』を発表した1953年までが全盛期でそのあと20年は衰えが目立つという印象。

No.13 6点 虫暮部
(2024/03/21 11:28登録)
 (多分ネタバレ)夫が妻を殺したのか、妻が夫を殺したのか。
 例えば夫の親類が “彼が加害者か被害者か知りたい” と言うのは判る。しかし娘を経由してその件を見ているなら、どちらでも大して違わないじゃないか。
 と思いつつ読み始めたが、真相に至るととんでもない大違いである。最初から答えを暗示する問いかけだったのである。本来の意図からすれば “第三者による殺人ではなかったことの確認” をこそ求めるべきだった筈で、依頼者はとても勘が鋭い(とでも解釈する他ない)。ヤブヘビになりかねない気もするが……それを踏まえて振り返れば、早々と真相に近付き過ぎないように、会話で或る部分を避けて通っているフシがあり苦しげだ(笑)。

 Elephants Can Remember.
 原題と邦題を見比べて中学校時代を思い出す。英和辞典で remember の意味として【覚えている】と【思い出す】が併記されていて、“それは別の意味では?” と戸惑ったものである。日本語なら “忘れねばこそ思い出ださず” と言うところなのに。

 カップルじゃないけどデズモンドとモリーが登場する(「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」)。

No.12 4点 レッドキング
(2021/08/21 12:30登録)
十二年後に掘り返される元軍人夫婦の心中事件。「あれ一体何だった」Whatダニット。双子とカツラときたら「あれ」で、当然そのまんまのはずなく驚きのツイスト予想するが・・・まんま「あれ」で逆に驚かされた。象は忘れない、でなく、犬は忘れなかった、のオチであった。クリスティー長編最後の採点で1点オマケ。
 
  てことで、アガサ・クリスティーの全長編ミステリ66作(メアリなんたらロマンス除く)の採点修了したので
  大変に僭越ながら、私的アガサ・クリスティー長編ベスト15
     
     第一位:「ポワロのクリスマス」
     第二位:「シタフォードの秘密」
     第三位:「ゼロ時間へ」
     第四位:「ゴルフ場殺人事件」
     第五位:「メソポタミヤの殺人」
     第六位:「書斎の死体」
     第七位:「忘れられぬ死」
     第八位:「予告殺人」
     第九位:「葬儀を終えて」
     第十位:「 アクロイド殺し」
     第十一位:「ホロー荘の殺人」
     第十二位:「そして誰もいなくなった」
     第十三位:「死との約束」
     第十四位:「終わりなき夜に生れつく」
     第十五位:「五匹の子豚」

No.11 5点 tider-tiger
(2018/10/11 01:31登録)
~1972年イギリス
いつだったか『象は忘れない』というタイトルに魅かれて購入したものです。当時はまったく聞いたことなく、クリスティ最晩年の作品ということも知りませんでした。そんな状態で読んでの感想は「真相が陳腐だし強引だしでミステリとしては凡作だけど、リーダビリティはそこそこ高く、読み心地はよい。読んでよかった」でした。採点はこの感想に基づいたものとします。
クリスティが八十代になって書いた作品だと知って、驚いたのと同時に納得できました。ある程度の知識を入れた状態で再読すると、オリヴァが象たちを訪ねる旅は、そのままクリスティ自身が古くからの友人たちを訪ねて最後の挨拶をしているような気がしてしまいます。どうしてもクリスティとオリヴァが被ります。
ドロシー・セイヤーズはラス前の作品『学寮祭の夜』で筆を折ることをほのめかしていました。クリスティにはそういう気配は感じられませんね。年を取ってミステリを生み出す力は衰えたかもしれませんが、筆力そのものはそれほど衰えていないように思えます。強引で御都合主義に過ぎるところがたくさん目に付く作品です。それがどうでもよく思えてしまう不思議な魅力と感動があります。
高得点はつけませんが、好きな作品です。

象の中に一人キーパーソンがいて、その象がすべてを知っていたという点がどうにも不細工に見えてしまいます。『象は忘れない』ではなく、『象は知っていた』になってしまっているようで違和感ありました。
作中で少しネタバレされている『五匹の子豚』は誰かが嘘を吐く、もしくは事実を隠さなければ成立しない話でしたが、本作は全員が事実(だと信じていること)だけを話し、その断片を組み合わせることによって真相が明らかになるという結構にもできたように思えます。

以下ネタバレ



夫は妻を大切にはしていたが、本当に愛していたのは実は精神障害を患っていた姉の方だったという結末を予想しておりました。読後感は悪くなりますが、こちらの方が整合性は取れるのではないかと感じたのです。妻だけを愛していたとすると、どうしても夫の最後の一連の行動に無理がでてきます。
クリスティは両方を愛していたとしました。正直なところ、なんじゃそりゃと思う気持ちもいくばくかありました。これはバランス感覚なのか、最初からこういうオチにするつもりだったのか、あるいは私がひねくれているのか。

No.10 5点 ALFA
(2017/04/07 09:14登録)
(ネタバレします)




数あるミステリのおきての一つに「双子を登場させないこと」というのがある。この場合の登場とは終盤になっていきなり、という意味だろうから本作品はルール違反とは言えない。しかし「双子」が決定的な意味を持つことに変わりはない。その意味でトリックの半分以上は最初からバレている。
あとはフ―&ホワイダニットを追って読むことになるが、真相は解き明かされるというよりは、告白によって最後に開示される。したがってミステリとしての緊張感はあまりない。
一方ミステリ風味の悲しい愛の物語として、あるいは「罪とは何か」を問う物語として読むと味わい深い。この視点から見ると評点7。

No.9 6点 青い車
(2017/03/09 13:17登録)
 同じ回想の殺人をめぐる『五匹の子豚』より話題にならない本作ですが、解決編の反転の見事さはそれに劣らない質を維持しています。夫婦の心中事件と若い男女のロマンスを、雑多な感じは全くなくまとめ上げているプロットが実に巧みです。現在進行中の事件がない、しかも過去の事件は一応解決済み、という派手さのない題材を好んで使用するあたりがアガサ・クリスティーならではと言えるでしょう。また、ポアロの結びの一言が爽快で、そこも作者らしさが滲み出ています。

No.8 5点 makomako
(2016/11/11 19:42登録)
 最近クリスティーの作品をよく読むようになりましたが、これは本当に最晩年の作品で、やはり年寄りが書いたの作品といった感じは拭い去れませんでした。
 悪くはないのです。
 作家がファンからあまりに称賛されると気恥ずかしくていやだといったところは、多分作者自身の感慨からのものであろうと思います。クリスティーは謙虚な人だったようですから。
 高齢になっても筆力が衰えないことをある意味証明したような作品ではありますが、うまくまとめてはいるが若いパワーがないなあとしみじみ感じるところもあります。
 私だけかもしれませんが、ことに前半ではセリフのうけとりの場面が長く続き、誰がしゃべっているのかよくわからなくなるところが多くありました。ひょっとしたら翻訳のせいかもしれませんが、これが重なってくるとかなり読みにくい。原文はどうなのかな。

No.7 6点 りゅうぐうのつかい
(2016/05/02 19:22登録)
ポアロとオリヴァが、過去の出来事を忘れない"象"を探し出して聴き取り調査を行い、過去の事件の真相を追求する話。
私は普段、ミステリーを読んでいて、ほとんど真相がわからないのだが、この作品に関しては、マーガレットとドロシアの関係がわかった時点である疑いを持ち、それ以降、それを補強してくれる事実が次々と出てきたので、最終章の手前では真相の大部分を予想できていた。
ヒントがわかりやすく、真相が予想しやすい作品ではないだろうか。
事件の背景にあるもの、時間的拡がり、人物配置、真相のまとまりなど、よくできた作品だと思う。

No.6 7点 クリスティ再読
(2015/09/22 00:17登録)
晩年のポアロというと「クラシックな私立探偵」のイメージにクリスティ自身がリアリティを感じなくなっていったことに加え、クリスティの作家的成熟を通じてどんどんとサタスウェイト氏に近づいていくわけだが、評者は晩年の方が初期のエキセントリックな空威張りの外国人よりもずっとイイと思うのだ。

でこれはそういう晩年の典型作。これの次が筆力が衰えてしまって何が書きたいのか判然としない最終作の「運命の裏木戸」だから、「最後の読みがいのある作品」になる。結局のところ「真相を知っている人を探し出してその人に真相を語ってもらう」作品なので、ほとんど本格ミステリ的な興味はないが、さまざまな噂話から徐々に浮かんでくる手がかりを追っていく、捜査小説としては面白い上に、いろいろなデテールの妙もあって小説としてはちゃんと成立している。実際大詰めで最後の「象」がポアロの推理を聞くにあたっての会話で評者は結構感動していたりする...さりげない文学的明澄さがあっていいんだよね。

で真相は少しホロー荘風味。でもこっちのがずっと自然で悲劇的。だから小説として読むんだったら文句なし。
でだが、本作はたぶん今のネット環境に合わせて書き直したら凄い作品になるのでは...と思う。互いに矛盾しあう書き込みから、真実を語ってくれそうな「象」を探す電脳の旅...よさそうでしょ!

No.5 5点 了然和尚
(2015/06/20 09:14登録)
またもや過去の事件についての真相解明でした。「五匹の子豚」の方が生々しい感じがあり、本作は少しもの足りない感じでした。推理のピースは細かく、模様も不鮮明で、いかようにも結果が推理できる展開で楽しめましたが、結果は平凡すぎました。特に、話を持ち込んだ義母が、小悪党(にもなってないか)で途中で消滅したのは残念でした。「息子が殺害され、血筋から問題の婚約者の娘が疑われる」などという展開の伏線は存在するのですが。

No.4 5点 ボナンザ
(2015/05/03 13:56登録)
晩年の佳作。過去の事件に対する言及など、シリーズを振り返るポアロもしみじみしてます。

No.3 5点 あびびび
(2014/02/15 20:05登録)
女流推理小説家とポアロ…。クリスティーが82歳の時の作品と言う。エルキュール・ポアロの最後の作品で、小説家とポアロとのやりとりは、ある意味クリスティーが楽しんでいるような部分も垣間見られた。

昔、ゾウの鼻を裁縫の時に針山として使っていた(ひどい!)男が、何年も経ったある日、横を通り過ぎた労役の像に鼻から水を浴びせられたと言う…像はその男を忘れていなかったのだ。

人間もそんな記憶が多々ある。心の奥に閉じ込められているその記憶を徐々に呼び起こして、昔の未解決事件を解決するーそんな物語だが、さすがに82歳となれば、切れ味不足のような気がした。

No.2 4点 nukkam
(2011/01/25 11:39登録)
(ネタバレなしです) 1972年発表のポアロシリーズ第32作となる本格派推理小説です。この後シリーズ最終作として「カーテン」(1975年)が出版されましたがそれは死後発表用として(結果的には存命中に発表しましたが)ずっと以前に書かれており、執筆順としては本書が最後に書かれたシリーズ作品です。後期の作者が得意とする「回想の殺人」を扱っていますが沢山の容疑者の中から犯人を探す通常タイプのミステリーではありません。12年前に崖の上で撃たれた死体となって発見された夫婦のどちらが相手を殺したのかという風変わりな謎解きになっています。謎解きに関しては不満点が多く、特にコナン・ドイルの某作品のネタをそっくりそのまま使っているのはいかがなものかと。とはいえ本書で作者が試みたのは人間ドラマとしてどう決着させるかであり、そのために真相がご都合主義的になったのも納得できました。ルース・レンデルの「死が二人を別つまで」(1967年)をちょっと連想しました。

No.1 6点
(2009/12/23 10:23登録)
このクリスティーが最後に「書いた」ポアロものは、ミステリ作家オリヴァ夫人が今までになく大活躍する作品でもあります。彼女の生活や心情がユーモラスに書き綴られていて、晩年になって私小説的なところが出てきていると思えなくもありません。
ストーリーは、本作の中でも言及されている『五匹の子豚』のようにずいぶん昔の事件の再調査、しかも最初に提示されるのは、「夫が妻を殺したのか、妻が夫を殺したのか」という奇妙な問題です。
終盤近くなって、雰囲気はユーモラスなタッチから悲劇的に転調します。謎解きの意外性はどうということはありません。それよりも、途中でポアロが、真相はショックなものかもしれないが、それでも真相を知りたいですか、と事件関係者に聞くところがありますが、まさにそれが本作のテーマという感じです。

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