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ミステリの祭典

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サロメの断頭台
大正ミステリー

作家 夕木春央
出版日2024年03月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 5点 HORNET
(2024/09/15 20:36登録)
 時は大正時代。画家の井口は、元泥棒の蓮野を通訳として連れて、オランダの富豪、ロデウィック氏の元を訪ねた。美術品の収集家でもあるロデウィック氏は井口の作品をいたく気に入り、高額での購入を考えるものの、「そっくりな作品をアメリカで見た」と言い、贋作でないことが証明されれば買い取るという。未発表の絵を、誰がどうして剽窃したのか?蓮野と共に盗作犯を探す井口だったが、その最中に戯曲『サロメ』に擬えたと思われる連続殺人が発生してーー

 井口の作品の剽窃事件から、物語の中心は次第に井口が属する芸術家の集まり「白鷗会」の贋作疑惑に移り、全体の様相が複雑になっていく。「サロメ」に模された殺人が次々に起こるという展開自体は面白かったし、真犯人と真相もなかなか良かったとは思うが、いかんせん井口作品の剽窃については、そのいきさつも理由も最後には適当にされている感じで、ちょっと肩透かしだったかな。
 しかしながら真犯人が最後に仕掛けたからくりは壮絶だったな。なかなか冗長な展開で、退屈さを感じるところもあったが、最後は目が覚めた。

No.4 5点 レッドキング
(2024/07/24 22:32登録)
大正の超美形元泥棒が探偵役の第三弾。己の作品の盗作者を捜す画家と、画壇グループ内で明らかになる贋作。盗作と贋作、二つの事象は、連続「サロメ見立て」殺人へと展開し、驚くべき殺人事件のWhyが明らかになる。やっぱり、この作者の本領は「驚愕Why」・・「Whoロジック」以上に・・であった。面白かったけど、ミステリ要点としては、都築道夫「砂絵」シリーズの、短編1.5作(1作とは言わんが)内に収まっちゃうかなあ。

No.3 6点 虫暮部
(2024/06/27 12:29登録)
 明かされた真相は、意外な道筋でありつつ圧巻。但し、盗作の理由には首を捻った。
 そして、途中の展開はやや退屈だったと言わざるを得ない。判ってみればそれなりの事情があり、希釈したような中盤を経てラストでギュッと濃縮する読み味は、事件の構造上の必然のようだけど、間延びした時間を楽しく読ませるのは難しいね。

No.2 5点 ALFA
(2024/04/14 15:24登録)
シリーズ最新作。
精緻なロジックが張り巡らされているが、そもそもの謎、つまり「誰が何のために贋作を描いたのか。」の真相があまりに貧弱。
そのためせっかくの多彩でドラマチックなトピックが活きてこない。
これでは富豪ロデウィック氏も登場のしがいがないだろう。

大技一発の「方舟」や軽快なテンポの「サーカスから来た執達吏」に比べると今一つ締まりのない読後感になってしまった。

No.1 8点 文生
(2024/04/10 19:18登録)
大正ミステリーシリーズの第4弾であり、内容は、油絵画家の井口が未発表の自分の絵を誰かに盗作されたことを知って犯人捜しをしていると、贋作作りの集団に行き当たり、やがて戯曲サロメに見立てた連続殺人事件に巻き込まれるというもの。
エログロ色の強い乱歩的雰囲気を帯びながら、ミステリーとしてはあくまでも論理性にこだわった作りになっています。たとえば、盗作と贋作と見立て殺人の意外な関係性をロジカルに解きあかしていくところなどは思わず唸らされてしまいました。また、見立て殺人も単なる虚仮威しや単純なカモフラージュではなく、論理的かつ意外性満点の理由が用意されているのが素晴らしい。非常によく出来た本格ミステリです。一方で、残酷すぎて夢に出てきそうなクライマックスは、(好き嫌いは分かれそうですが)忘れ難いインパクトを読む者に与えてくれます。著者の作品としては『方舟』に次ぐ傑作ではないでしょうか。

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