スリー・カード・マーダー 不可能犯罪ミステリー |
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作家 | J・L・ブラックハースト |
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出版日 | 2024年03月 |
平均点 | 5.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 人並由真 | |
(2024/05/16 07:31登録) (ネタバレなし) その年の2月5日。英国のブライトン。11階建ての高層共同住宅の上階から、喉に傷のある男=41歳のショーン・ミッチェルが落下した。だが捜査が進むにつれて、ミッチェルは何者かに殺害されたが防犯用の、防犯用の記録映像から、その犯行現場に容疑者が入った形跡がない? ということが明らかになる。サセックス警察の女性警部補テス・フォックスは、警部への昇進をかけてこの事件に取り組むが、それと前後してテスは、異母妹で、そして実父のフランク同様、熟練した詐欺師であるセアラ・ジェイコブズと15年ぶりに再会した。 2023年の英国作品。 刑事と詐欺師の姉妹コンビが主人公というキャラ設定の妙(ちょっと、懐かしの探偵ドラマ『華麗な探偵 ピート&マック』を思い出す)、それに不可能犯罪の連続という趣向を聞き及んで、それは面白そう、と読んでみた。 読んでいる間は、設定とプロットの割にちょっと小説が長めかと感じたが、最後まで通読すると、さほどでもなかったかと思い直す。むしろもうちょっと書き込んでおいてほしい部分もあったが、その辺はシリーズ化も決まっているというので、二作目以降のお楽しみか。 謎解きミステリとしては最初の事件の解法がまあまあで、あとの方はああ、おなじみのあれね、という感じだったが、真相がわかるまでは主人公コンビや捜査陣がそれなりに騒ぎまくるので、テンションは高く、そこそこ楽しかった。 作者がミステリファン向けのアイコン風に、劇中に『三つの棺』などカーの諸作を引っ張り出すのも、田舎芝居のハリボテ的な外連味でたのしい。 登場人物は多めだけど、主要キャラ&バイプレイヤーキャラは割と書き込まれていて、なかなか好ましい。なお解説ではテスの署内の味方は年下の美男刑事のジェロームのみだ、と話を盛ってるけど、実際にはそんなことないでしょ。同僚連中はいい奴らばかだし、上司のオズワルド主任警部もこの上なくあれこれ融通してくれてるじゃないの。 最後の真相というか犯人の設定には、なんか日本の21世紀のラノベみたいだな、と思ったが、精神的には近いものがあるかもね。まあこれはこれで、でしょう。 7点にはちょっと足りない、という意味で6点。でもそれなりには楽しめた。 いずれ刊行される(本国で)という2冊目は、(翻訳されたら)事件の設定や趣向が面白そうだったら、あるいは、先に読んだ人の評判が良かったら、読むでしょう。 |
No.2 | 6点 | 文生 | |
(2024/04/27 07:56登録) 第1の事件では封鎖された5階の部屋から喉を切り裂かれた男が墜落し 第2の事件では誰も乗っていないはずのエレベーターで男が刺殺され 第3の事件は施錠されたホテルの一室で男が射殺される といった具合に不可能犯罪の尽くしの作品なのですが、重大犯罪班の警部である姉と詐欺師である妹の関係を描いたドラマに重点が置かれていて思ったほど本格していないのが惜しい。 とはいえ、現代の英国でこれほどまでに真正面から密室殺人を描いたミステリー作品は珍しく、それだけでもうれしいところ。 密室トリックとしては、第2第3の事件は凡庸で数合わせ感が強いののだけど、第1の事件における盲点を突いた仕掛けはなかなかではないでしょうか。 |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2024/04/27 05:29登録) (ネタバレなしです) 2010年代に心理サスペンス小説家としてデビューした英国の女性作家ジェニー・ブラックハーストが別名義で(といっても大きい違いはない名前ですが)2023年に発表した新シリーズ作品で(本国で「The Impossible Crimes」と紹介されています)、創元推理文庫版巻末の作者の謝辞では「《奇術探偵ジョナサン・クリーク》ミーツ《華麗なるペテン師たち》のような、やりたい放題のとても愉快な密室もの」と紹介されています。もっとも「愉快な」といってもユーモア・ミステリーではありませんが。主人公である姉妹のやり取りの中で詐欺師の妹セアラが警部補(但し警察習慣的に警部と名乗ります)の姉テスをからかう場面もありますけど全般的にはとげとげしくダークな雰囲気で、ちょっとハードボイルド風でもあります。被害者が姉妹の過去に因縁のある人物らしいのですが、どういう因縁なのかが小出しに読者に情報が与えられる展開なのは評価が分かれそうです。密室トリックについては様々な推理が飛び交い、特に第一の事件のトリックは綱渡り的ながらも状況証拠と辻褄が合うように謎解きされていて感心しましたが、一方で犯人当てとしては読者が推理しようもない真相になっており、本格派推理小説としてはやや型破りの作品です。 |