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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:424件

プロフィール| 書評

No.404 5点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2024/03/29 14:13登録)
中途の家という殺人現場の設定は面白く、裁判シーンなどもまずまず楽しめたのですが、犯人を指摘するロジックにはあまり感心できませんでした。なかには鋭い指摘もあるものの、どうしてもこじつけめいた推理が少なからず含まれている点が気になります。自分がロジックものが苦手なのは、こうした断定できない根拠を積み重ねて犯人を特定してしまうところにあります。ロジックの切れ味自体も『オランダ靴の謎』などに比べると劣る印象で、全体的な評価は低めです。


No.403 6点 災厄の宿
山本巧次
(2024/03/27 23:05登録)
大型台風が接近している最中に散弾銃を持った男が旅館に押し入り、疑惑の人物をテレビに出演させろと要求。さらに、クローズドサークルと化した旅館では殺人事件が起き、土砂崩れの危機までといった具合にイベント盛りだくさんでリーダビリティの高さはかなりのものです。その反面、一つ一つのネタは小粒だったり、ご都合主義的に感じたりともの足りなさを覚えました。面白かったけれどミステリーとしての満足度はいまひとつといった感じでしょうか。


No.402 4点 象は忘れない
アガサ・クリスティー
(2024/03/23 09:18登録)
トリックはありふれていても巧みなミスディレクションによって読者の意表を突くのがクリスティの真骨頂ですが、晩年の作品においてはそのテクニックにも衰えがみられます。本作も過去の事件の真相を探っていくという物語自体は結構引き込まれたものの、トリックはバレバレでした。ミステリーの場合、物語はそれなりに面白くても真相があまりにもバレバレだとさすがに興が削がれてしまいます。デビュー時から晩年まで一貫して当たり外れの少ない作家といわれるクリスティですが、個人的には『ポケットにライ麦を』や『葬儀を終えて』を発表した1953年までが全盛期でそのあと20年は衰えが目立つという印象。


No.401 4点 殺める女神の島
秋吉理香子
(2024/03/21 16:53登録)
イヤミスの女王がクローズド・サークルに挑戦ということで、外部との連絡を断たれた孤島にて連続殺人&美女7人によるドロドロ展開が始まります。このイヤミスとクローズド・サークルの組み合わせはなかなか相性が良くて読ませますし、どんどん謎が深まっていく展開にも引き込まれるものがあります。意表を突いた動機もホワイダニットものとして悪くありません。しかし、事件の真相といい、犯人の計画といい、あまりにもあり得なさそうなことが多すぎます。スケールが大きいが故に本格としては大味で、納得度の低さがかなりのマイナスポイントです。


No.400 5点 チャイナ蜜柑の秘密
エラリイ・クイーン
(2024/03/16 05:19登録)
あべこべ殺人は謎の魅力に対して真相があまりにも凡庸。もう一つのトリックも発想はユニークではあるのですが、文章で説明されても分かりづらいのが難点です。着想の面白さは随所にみられるものの、総合的な評価としては凡作どまりといったところではないでしょうか。


No.399 5点 無人島ロワイヤル
秋吉理香子
(2024/03/15 12:42登録)
無人島に置き去りにされた8人が特技を活かして殺し合いを始めるという、まんま『バトル・ロワイアル』な話です。
元ネタと比べてあっさり風味でコクがない分、テンポがよくて気軽に楽しめるので暇つぶしには最適。ただ、メタ的に考えると結末が容易に予想出来てしまうのが残念ではあります。物語の構造と作者の作風を考えるとまあ最後はあれしかないでしょうって感じで。


No.398 7点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2024/03/09 10:12登録)
幽霊屋敷の石室で血まみれになって絶命した霊媒師、完全な密室状況に意表を突くトリック、加えてヘンリー・メリヴェール卿の初登場作品と、カーの魅力が初めて完全な形で出揃った記念碑的な作品です。同時に、不可能犯罪ものの教科書的な傑作だといえます。また、密室トリック以外にも交霊術の蘊蓄や意外な犯人、巧みなミスリードなどミステリーとしての魅力が満載です。ただ、中盤までがやや冗長で読みづらく感じた点が難。


No.397 7点 孔雀の羽根
カーター・ディクスン
(2024/03/09 01:43登録)
警察の捜査メインの作品のため、物語の起伏に乏しく盛り上がりに欠けるのは残念ですが、不可能犯罪ものとしてかなりの良作です。銃を用いたトリックが秀逸で、32の手がかりも過剰演出気味ではあるものの、カーらしいサービス精神ぶりを堪能することができました。


No.396 3点 時計の中の骸骨
カーター・ディクスン
(2024/03/09 01:02登録)
ドタバタ劇としては面白いがミステリーとしては見るべきものがないという、戦後ヘンリー・メリヴェール卿作品の典型例。特に、不可能状況での墜落死事件における真相は脱力ものでした。その他のミステリー要素もイマイチで全体的にまとまりに欠ける駄作といった印象です。


No.395 2点 大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵
山本巧次
(2024/03/08 10:21登録)
タイムトンネルを使って江戸時代にやってきたミステリマニアの女性が、現代科学を駆使して難事件を解決していくシリーズ第10弾。

江戸の風俗や歴史上の人物を絡めたストーリーはまずまずですが、タイトルに密室を謳っておいてあまりにも肩透かしの真相にがっかりしました。


No.394 8点 家畜人ヤプー
沼正三
(2024/03/03 09:55登録)
日本人男性とドイツ人女性の婚約カップルが、極端な白人至上主義&男性蔑視社会である未来帝国に連れてこられるSFストーリー。

日本3大奇書(あるいは4大奇書)をミステリーに限定しないのであれば間違いなくその一角をなすであろうカルト傑作です。さまざまな言説からの引用や蘊蓄が散りばめられていながら『黒死館殺人事件』より格段に読みやすく、奇想天外な物語ながら『ドグラマグラ』より遙かにエンタメ性が高い。性風俗雑誌の奇譚クラブに掲載されたSM小説なので激しく読者を選ぶものの、そのイマジネーションの豊かさは他の追随を許しません。その代わり、物語は単なる添え物であり、あくまでも緻密に構築された壮大な世界観を堪能する作品です。


No.393 6点 推しの殺人
遠藤かたる
(2024/02/13 09:17登録)
崖っぷちの地下アイドル3人組の一人がはずみで人を殺してしまい、グループ存続のために他の2人と一致団結して隠蔽工作を図る話。
お互い仲が良いわけでもなく、グループの先行きも絶望的なのになぜ共犯者になるのかに関しては説得力にかけるものの、語り口が巧くてテンポが良いのでなかなか楽しめました。犯罪を通して互いの絆が強まっていく展開にはちょっとぐっときたりもします。どんでん返しからラストに至る流れもなかなかに感動的。


No.392 7点 君が手にするはずだった黄金について
小川哲
(2024/02/10 16:51登録)
序盤は完全に私小説のノリでしばらくするとインチキ占い師の嘘を暴くという話になったのでここからミステリ展開が始まるのかと思ったら全くそんなことはなかった。
間違っても狭義のミステリなのではなく、どちらかといえば文学色が強い連作短編なのですが、これはこれで面白い。
承認欲求に踊らされる人々のエピソードをユーモアを交えて描かれており、人間の業について考えさせられると同時に、エッセイのような軽い語り口には独特の心地良さを感じました。


No.391 7点 シャーロック・ホームズの凱旋
森見登美彦
(2024/02/04 23:57登録)
ジャンルとしてはミステリというより、ファンタジーです。したがって、謎解きを期待して読むと肩透かしを覚えることになります。その代わり、ホームズのパスティーシュとしては抜群の面白さです。モリアーティー教授、アイリーン、メアリ、ハドソン夫人、レストレード警部といった具合にオールスター総出演なうえにみんなキャラが立っています。加えて、それぞれの役どころもなかなかにユニーク。ただ、ヴィクトリア朝京都という異世界設定をはじめとして少々癖のある作風は、元ネタを知っていてこそ面白味を感じられるものなので、ホームズを読んだことのない人には厳しいかも。


No.390 5点 ブラック・ショーマンと覚醒する女たち
東野圭吾
(2024/01/25 17:30登録)
『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』に続くシリーズ第2弾。
今作は全6作の連作集になっており、いずれもトラブルに巻き込まれた女性に対して、元マジシャンのマスター・神尾武史が解決の手助けをするというプロットで統一されています。なにかすごい仕掛けがあるというわけではありませんが、著者熟練の技によって手軽に楽しめる好編に仕上がっています。基本的に各編は独立した話ですが、同じ女性が再度登場し、前後編仕立てになっているなどの工夫も楽しい。ただ全体的なミステリ度は弱めかなあ。ベストはひねりのある展開が面白い「マボロシの女」。


No.389 5点 受験生は謎解きに向かない
ホリー・ジャクソン
(2024/01/21 21:01登録)
ピップ3部作の前日譚という位置付けの作品なので殺人事件は起きません。友人たちと犯人当ての推理劇を行うという極めて平和的な作品となっています。とはいえ、ピップたちが黄金期におけるクローズドサークルミステリの登場人物を演じるメタ的な趣向は楽しいですし、同じく真相のメタ的なヒネりもまずまずです。ただ、本作は中編程度の長さしかなく、作品集の中の一編なら良かったのですが、これだけで1冊というのはどうにももの足りません。


No.388 6点 ファラオの密室
白川尚史
(2024/01/14 10:44登録)
古代エジプトで謎の死を遂げ、ミイラとなった神官が失われた心臓の欠片を取り戻すために蘇るが、そこでファラオのミイラ消失事件に巻き込まれ…。

2024年 第22回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作ですが、本格ミステリとしてはイマイチ。密室状況における主人公の死とファラオのミイラの消失という2つの大きな謎が提示されるものの、真相はどちらもたいしたことはありません。むしろ、ピラミッドの石材運搬にまつわるサブの謎の方が気が利いているぐらいです。しかし、古代の神々が存在する世界での奇想天外な物語のなかに本格ミステリの要素を無理なく溶け込ませており、エンタメとしてはなかなかに読ませます。本格メインの作品だと思わなければ十分に佳品です。


No.387 7点 バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵
真門浩平
(2024/01/10 19:29登録)
第3期カッパツー受賞作ですが、本格ミステリとしての魅力は認めながらも選考会で受賞が持ち越しになったいわく付きの作品です。
なにが問題になったかといえば、登場人物の年齢。物語は主人公が小学3年生の時点から始まるのですが欠片も小学生に見えないのです。その違和感はかなりのもので、自分などは思わず「大人が小学生のふりをした叙述トリックなのでは?」と考えたほどでした。選考会では「登場人物を中学生にして書き直せば」などの案もでていましたがそれはそれで話が成立しなくなるという…。
そういうわけで紆余曲折を経て発表された本作ですがその凄まじい違和感にさえ目を瞑れば、ロジック主体のミステリーとして唯一無二といっていい、個性と魅力に満ちています。双子の兄弟が異なる着眼点から推理を披露し合う趣向がユニークですし、予想の斜め上をいくロジックにも唸らされます。なかでも、密室殺人の解明が思わぬ方向に転がっていく『黒い密室』と、解明すべき謎がどんどんずらされていく『誰が金魚を殺したのか』の2つが傑作です。一方、最終話はかなり衝撃的な展開を見せるのですが、ちょっと唐突すぎて気持ちがついていけませんでした。そういう点も含めてロジック系の本格ミステリが好きな人にとっては必読の問題作といえるでしょう


No.386 7点 真夜中法律事務所
五十嵐律人
(2023/12/26 07:58登録)
この作者の作品は登場人物の行動に納得できないことが多くて相性の悪さを感じていたのですが、本作は素直に面白かったです。地縛霊を成仏させるために犯人を見つけて法の裁きを受けさせるという発想がユニークですし、特殊設定を活かしたトリックもよく出来ています。ただ、話を成立させるために、設定を盛りすぎている感があるのが気になるところ。


No.385 6点 ナキメサマ
阿泉来堂
(2023/12/17 14:08登録)
村の古い因習に基づいたホラー小説で、次第に立ちこめてくる不気味な雰囲気にはゾッとさせられました。一方、著者の特徴であるホラーと謎解きの融合はデビュー作である本作からすでに顕著ではあるものの、ミステリーを読み慣れた人なら真相を見抜くのはそう難しくはないでしょう。とはいえ、二段構えのどんでん返しはそれなりにインパクトがありました。

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