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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.85点 書評数:456件

プロフィール| 書評

No.436 6点 グッド・バッド・ガール
アリス・フィーニー
(2024/07/20 09:15登録)
ロンドンのケアホームに勤務する娘とそこに入居している80歳の老女との年齢差を越えた友情を軸に、2組の母娘の関係を(ケアホームでの殺人事件を絡めながら)掘り下げていくサスペンス小説です。
小刻みに視点を変えながら4人の関係が徐々に明らかになっていく展開はなかなかに読ませます。キャラクター的には外見が若い娘にしか見えないチャップマン警部が魅力的です。フィーニーの作品にしては後味も良くて全体的に悪くない作品だとは思います。ただ、期待していたどんでん返しが『彼と彼女の衝撃の瞬間 』などと比べると大したことがなくてその辺は残念かな。


No.435 4点 密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック
鴨崎暖炉
(2024/07/15 09:18登録)
シリーズ第3弾の本作は、昭和密室八傑による8つの密室トリックに多重解決の趣向、そしてなんといっても、最後に明かされる壮大すぎるトリックといった具合に、今まで以上にアイディアがぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。それだけに、一つ一つが練り込み不足でアイディアを垂れ流しているようにしか思えないのが残念です。最後の大トリックにしてもイメージの壮大さに反し、使われ方がなんだかみみっちくてバカミス的な魅力が全く伝わってきませんでした。それに、一見奇抜な動機もミステリオタ的にはむしろ凡庸で読んでいてうんざりしてきます。

あとは、今までも指摘してきた、「使う意味がないと蔑まれてきた密室トリック」「密室トリックが解明できなければ被告は無罪という判決に日本中が騒然とした」「日本ではそれまで密室殺人は起きたことがない」といったミステリーに関する一連の言説の乱暴さについてですが、今回は「社会派の作家に密室トリックは考えられない」というセリフが引っ掛かりました。森村誠一とか読んだことがないのかと。

とはいえ、アイディアや発想には光るものがあるだけに、それらをもっと練り込んで完成度が高まっていくことを期待しつつ、今後も作品を追っていきたいと思います。


No.434 7点 明智恭介の奔走
今村昌弘
(2024/07/09 06:04登録)
時系列的には『屍人荘の殺人』以前の話で、主な舞台は神紅大学。そこで起きるちょっとした事件に自称名探偵の明智恭介と助手の葉村譲が挑む剣崎比留子シリーズの番外編です。
本作の面白さのポイントなんといっても明智恭介のキャラクター性にあります。重度なミステリーオタクでトラブルメーカー。迷走しつつも完全なポンコツというわけではなく、たまに見せる鋭い推理と見当違いの暴走を繰り返しながら徐々に真相に近付いていく姿が魅力的です。葉村譲との掛け合いも面白く、優秀すぎるために(出ずっぱりだとすぐに事件が解決してしまうので)途中で行方不明になったり、閉じ込められたりする剣崎比留子よりも探偵としての面白みという点では上かもしれません。
ミステリーとしてもよくできており、5つの短編はどれも高水準。特に大学生らしいノリが楽しい「泥酔肌着引き裂き事件」が個人的にお気に入り。逆に、明智が大学の1回生時における興信所でのアルバイトの様子を描き、唯一葉村の登場しない「手紙ばら撒きハイツ事件」はいつもとノリが違うためか、他のエピソードと比べるとイマイチに感じました。


No.433 7点 奇岩館の殺人
高野結史
(2024/07/01 20:24登録)
犯人役が被害者役として雇われたバイトを殺害して、富裕層のゲストに探偵役を楽しんでもらうリアルミステリーゲーム。
そのカラクリに気が付いた主人公がなんとか殺されるのを回避しようとし、また、運営側もアクシデント続出のイベントを完遂すべく場当たり的な対応に追われるという悪戦苦闘ぶりが楽しい。一方で、本格ミステリとしては最後にちょっとしたどんでん返しはあるものの、そこまで凝った仕掛けがあるわけではありません。しかし、ブラックユーモアを散りばめたクローズドサークルミステリーのパロディとしては十分に面白い作品でした。


No.432 4点 推理大戦
似鳥鶏
(2024/06/23 19:42登録)
個性豊かな名探偵たちが特殊能力を活かしてそれぞれ別の難事件を解決していく前半の展開は結構ワクワクしました。しかし、彼らが集結して共通の事件の解決を競い合う後半になると途端につまらなくなります。展開の都合上、名探偵たちはポンコツと化し、肝心のトリックも凡庸そのもの。前半が面白かっただけにガッカリ感も大きかったです。


No.431 8点 永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
南海遊
(2024/06/07 07:01登録)
若き貴族の主人公が妹の死を回避するために魔女の力を借りて過去に戻るも、何度繰り返しても妹が殺されるのを阻止できないという、西澤保彦の『七回死んだ男』に似たプロットの作品です。とはいえ、真相自体は『七回死んだ男』とは全くの別物であり、しかも、先行作に負けず劣らず意外性に富んでいるのが素晴らしい。加えて、2つの密室殺人もなかなか凝っており、サブトリックとしては十分満足できるものでした。殺人現場の詳細な見取り図が用意されているのもうれしいところで、探偵趣味を存分に味わえる傑作だといえます。


No.430 4点 迷宮の扉
横溝正史
(2024/06/05 05:29登録)
ジュブナイル作品だとは知らずに読んだので物足りなさを覚えました。
ストーリーや謎解きはそれなりにまとまっているものの、横溝ワールドを期待していた身としては大いに肩透かし。物語には外連味の欠片も感じられず、トリックもジュブナイルということを抜きにして考えれば凡庸そのもの。とはいえ、小学生高学年あたりがミステリーの入門書として読むのであればおすすめです。


No.429 5点 天狗屋敷の殺人
大神晃
(2024/06/04 14:23登録)
第10回新潮ミステリー大賞最終候補作
山奥の村の旧家において遺産を巡って連続殺人が起きるという横溝正史のオマージュ作品です。それに加えて超絶イケメンの主人公やすぐに包丁をちらつかせるヤンデレヒロインなどキャラが立っていてなかなか読ませます。ただ、小説としての完成度は低くないものの、本格ミステリとしての出来は凡庸。ミステリを読み慣れている人ならこのあたりが怪しいというのはすぐにわかりますし、真相に関しても特に驚くべき点がなかったのが残念です。


No.428 6点 四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング
早坂吝
(2024/05/23 08:09登録)
キャラクター小説としては安定の面白さでしたし、真相の意外性も着想自体は非常にユニークです。ただ、いくらSFミステリーだとしてもこれはありなんでしょうか?まあ、確かに伏線は張られていますが、少々やりすぎな気もします。なんでもあり一歩手前の問題作。


No.427 4点 雛森寧子のミステリな日々 コンビ作家の誕生
紺野天龍
(2024/05/21 20:37登録)
ミステリー作家志望で文章力はそこそこあるものの、まともなトリックを創出できない主人公と、トリックの創出に秀でている代わりに文章力が壊滅的な引きこもりのヒロイン。この2人がコンビ作家を結成しつつ、身の回りで起きた日常の謎を解きあかしていくという話です。
キャラは結構立っていてキャラクター小説としては悪くもないのですが、ミステリーとしては今ひとつ。北村薫の「砂糖合戦」のオマージュになっている第1話はまずまずの出来ではあるものの、話が進むにつれて謎解きがつまらなくなっているのが印象を悪くしています。第3話とか単なるクイズですし、最終話の推理も無理があるような。


No.426 4点 さよなら妖精
米澤穂信
(2024/05/20 03:55登録)
確かにラストはグッとくるものがありますが、作者の他の日常もの学園ミステリーに比べると謎解きもキャラも弱く、全体としてはいま一つ響かない作品でした。


No.425 5点 毒入り火刑法廷
榊林銘
(2024/05/19 07:08登録)
審問官と弁護士の攻防は逆転裁判のような小気味よさがあって楽しめます。裁判に勝つためには手段を選ばない弁護士のスタンスも面白い。枝葉の部分は悪くないんです。でも、最終的な着地がどういうことなのかがよく分からない。まとめ方の悪さによって評価を大きく落としているという印象です。


No.424 6点 密室法典
五十嵐律人
(2024/05/17 05:46登録)
前作『六法推理』のように法律を使った推理を展開するものと思っていると、その路線はすっぱり切り捨てられ、単なる法律絡みのミステリーになっていました。そもそも、今回は六法推理の使い手である古城行成自体の出番も少なかったですし。まあ、個性的な趣向が失われた反面、古城の推理ミスがあからさますぎるという前作の欠点もなくなったので一長一短といったところでしょうか。
ちなみに、今作ではエピソードごとに主人公が交代し、前作ではサブキャラだった登場人物の掘り下げが行われている点も読みどころになっています。
個人的ベストは法律絡みのホワイダニットが見事な「閉鎖官庁」で、他の3作はまずまずといったところ。


No.423 8点 対怪異アンドロイド開発研究室
饗庭淵
(2024/05/14 11:11登録)
心霊現象を調査するのに人間が現地に赴くと精神がもたず、かといって、機械にまかせると心霊現象が発現しないということで、それなら人間に近い存在ながら心を持たないアンドロイドに調査をさせようという発想がユニーク。
心霊ホラーというと普通、登場人物が精神的に追い込まれていくのが見どころののひとつなのですが、本作の場合、アンドロイドのアリサが表情一つ変えずに淡々と調査を続けていくさまがシュールで逆に面白い。人間の研究員が悪霊に襲われて助けを求めているのに、研究員の安全確保より調査を優先しようとするシーンなどは笑いました。また、心霊現象を科学的アプローチで解明しようとするSFとしての側面も興味深く、SFホラーとして非常によくできた作品です。


No.422 4点 蠟燭は燃えているか
桃野雑派
(2024/05/11 05:29登録)
女子高生の真田周を主役に据えた『星くずの殺人』の続編です。前作は宇宙を舞台にしたSFミステリーだったのですが、今作はSFっぽさはきれいさっぱりなくなってしまい、京都を舞台にした連続放火殺人を扱っています。しかも、SNSによる誹謗中傷がテーマになっており、胸糞展開が続くのでとにかく読んでいて楽しくありません。謎解き要素もあまりなく、社会派ミステリーといっても差し支えないほどです。最後に意外な動機が明らかになり、終わってみればホワイダニットメインの本格ミステリだなということは理解できるものの、前2作に比べてエンタメ度が低くなっていることから点数は低めとなります。


No.421 7点 ぼくらは回収しない
真門浩平
(2024/05/09 17:06登録)
全5編の短編集。
徹底したロジックのこだわりはデビュー作の『バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵』と同様ですが、小学生の思考があまりにも大人びていて気持ち悪ささえ覚えたバイバイサンタクロースと比べると小説としてはこちらの方が断然読みやすかったです。本作の最大の特徴は現代の社会問題を謎解きに絡めた一種の社会派本格ミステリになっている点で、純粋な事件の謎とその背景にある謎の二段構えのプロットが良くできています。なかでも個人的に一番気に入っているのがお笑い芸人の世界を描いた「カエル殺し」です。意外な手掛かりから始まる推理がユニークですし、蛙化現象をテーマにした動機に唸らされてしまいました。
全体的に、本格としてのインパクトはバイバイサンタクロースの方が上ですが、こちらもなかなかの良作揃いです。


No.420 8点 冬期限定ボンボンショコラ事件
米澤穂信
(2024/05/01 06:38登録)
小鳩君と小佐内さんの物語は今後新作が発表される可能性もなきにしもあらずですが、春夏秋冬の4部作としては本作が完結編という位置付けになります。
物語は冒頭で車に跳ね飛ばされた小鳩が病院のベッドで中学時代のひき逃げ事件について回想をするというもの。
この中学時代の事件はミステリーとして大きな仕掛けがあるわけでもなく、小鳩の探偵ぶりも未熟な部分が見え隠れしています。単体のミステリー小説と考えるならばパッとしたできではないのですが、それによって小鳩の思い上がりを浮き彫りにし、小市民というシリーズのテーマにつなげていく手管が見事です。同時に、現代進行形の小鳩ひき逃げ事件と対比しつつ、小佐内さんとの関係性の変化についても巧みに描き出しています。ラストの着地点も素晴らしく、本格ミステリというよりは青春ミステリーとして高く評価すべき傑作です。


No.419 6点 スリー・カード・マーダー
J・L・ブラックハースト
(2024/04/27 07:56登録)
第1の事件では封鎖された5階の部屋から喉を切り裂かれた男が墜落し
第2の事件では誰も乗っていないはずのエレベーターで男が刺殺され
第3の事件は施錠されたホテルの一室で男が射殺される
といった具合に不可能犯罪の尽くしの作品なのですが、重大犯罪班の警部である姉と詐欺師である妹の関係を描いたドラマに重点が置かれていて思ったほど本格していないのが惜しい。
とはいえ、現代の英国でこれほどまでに真正面から密室殺人を描いたミステリー作品は珍しく、それだけでもうれしいところ。
密室トリックとしては、第2第3の事件は凡庸で数合わせ感が強いののだけど、第1の事件における盲点を突いた仕掛けはなかなかではないでしょうか。


No.418 9点 化物語
西尾維新
(2024/04/26 07:27登録)
主人公の阿良々木暦が怪異に憑かれた少女たちと出会っていく連作短編。
西尾維新の最高傑作との呼び声高い有名作品だけに物語の完成度、キャラの魅力、シリアスとギャグの配分など、すべてが高水準。個人的にも『クビシメロマンチスト』と同じくらい好きな作品。


No.417 4点 鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説
西尾維新
(2024/04/26 06:35登録)
ペットシッターの主人公が世話をすることになったある猫について語る話なのですが、実のところ猫に関する描写はほんの少ししかありません。差別的表現に敏感な昨今の風潮を踏まえてページの大半が「そういう意味で言ったのではなく」という言い訳というか予防線で埋め尽くされています。西尾維新らしい実験的な作品あり、最初は面白かったのですが、そのパターンが割と終盤まで続くのでさすがに飽きてしまいました。

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