home

ミステリの祭典

login
文生さんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:510件

プロフィール| 書評

No.490 8点 死んだら永遠に休めます
遠坂八重
(2025/04/08 20:09登録)
パワハラ上司が突然失踪し、続いて「私は殺されました」と記されたメールが送られてくる。しかも容疑者として彼の部下である総務経理本部全員の名前が挙げられており…。

限界会社員ミステリと銘打たれた本作はなんといっても事件の謎を追う女性2人のコンビがが秀逸です。仕事に疲れ果てて今にも倒れそうな主人公と、底抜けに明るく空気を読まない派遣女子のかけ合いはブラックなコメディとしてよくできています。そして、紆余曲折の末、最後に明かされるあの真相。これがもう犯人の意外性とかトリックの独創性とかとは全然別の意味で衝撃的です。完全に読者の心をへし折りにかかってきています。
エグい話をユーモアで包み込んで苦みのあるエンタメ作品に仕上げ、そこに意表を突く真相をぶち込んでさらにエグさを引き立てるという作風はもともと作者の十八番ですが、本作ではその持ち味が最大限に引き出されています。デビュー3作目にして才気が大きく花開いた傑作です。


No.489 6点 終着点
エヴァ・ドーラン
(2025/04/07 21:01登録)
ロンドンの集合住宅に住む年配の女性・モリーは母娘のように親しくしている活動家のエラに呼び出される。彼女の待つ空き部屋に行ってみると、そこに男の死体が転がっていた。エラは男の顔に見覚えはなく、突然襲われたので身を守るために返り討ちにしたのだという。2人はエレベーターシャフトに死体を隠して隠蔽工作を図るが...。

以上が物語の冒頭部ですが、それ以降、モリーのパートでは時系列順に事件後の経緯が描かれていくのに対し、エラのパートでは事件を起点として過去に遡っていくのがユニークです。そして、その構成を利用して意外な真相を演出してみせた手管にも感心させられました。ただ、本作は読者の意表を突こうとして、普通に描けばどうということもない事件をわざと特殊な構成で描いている故に、読者からすれば少々回りくどく感じてしまう点は否めません。実際、前半から中盤は結構冗長で、本格的に面白くなってくるのはかなり終盤になってからですし...。


No.488 4点 口外禁止
下村敦史
(2025/04/06 13:31登録)
近年急速に普及し、人類社会を大きく変容させる可能性を秘めた生成AI。それを用いて「あなたの人生をプロデュースします」という勧誘メールが冴えない青年のもとに届くという導入部は興味を惹かれます。実際にサービスを利用してからは運が向いてくるも、次第にトラブルに巻き込まれていくという展開も割と面白い。しかし、この仕掛けは到底うまくいくとは思えません。絶対にグダグダになってしまいます。そもそも、仕掛けの準備段階からして運任せの要素が強すぎます。ちなみに、個人的に一番ガッカリしたのはAIのすごさを証明するためにワールドカップにおける両チームの得点を3試合連続で当てるトリック。詐欺の常套手段というべき手法であり、多くの人が読んだ瞬間に見抜いてしまったのではないでしょうか。というわけで、リーダビリティはそれなりに高いものの、内容的には凡作の域は出ていないというのが結論です。


No.487 6点 7人殺される
周浩暉
(2025/04/05 10:43登録)
刑事羅飛シリーズの一篇で、『邪悪催眠師』の続編。前作を未読のまま読んだわけですが、次から次ととんでもない凶悪事件が起き、サスペンスとして大いに楽しめました。ただし、読んでいる間は楽しかったものの、犯人の催眠術がなんでもありすぎて改めて振り返ってみると大味感が拭えません。作中では「催眠術も万能ではない」といった感じの台詞がありましたが、とてもそうは思えない無双ぶりです。小説より映画にした方が面白いように思います。映画といえば連続殺人の手口が某映画にそっくりだなと思っていると、実際に某映画の模倣だったというオチだったのですが、大した意味があるとは思えず、ちょっと首をひねってしまいました。


No.486 6点 パンドラブレイン 亜魂島殺人(格)事件
南海遊
(2025/04/02 17:13登録)
前作『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』のような特殊設定ミステリを期待するとちょっとがっかりな作品。永劫館のようなこれぞっといった大ネタはないし、なんなら特殊設定ミステリーというよりはミステリーの皮を被ったSFといった方が近いかもしれません。また、中二ラノベのような作風も好みのわかれるところでしょう。それでも、新本作の要素を切り貼りしつつ、怒涛の展開で突き進む物語はそれなりに楽しめました。清涼院流水などのファウスト世代の作風を彷彿とさせます。


No.485 4点 伊根の龍神
島田荘司
(2025/04/01 18:28登録)
京都の伊根湾で巨大な龍神が目撃されたという話を聞いて石岡とネッシー研究会の一員で大学院生の藤波麗羅が現場に急行。すると伊根湾に向かう陸路は自衛隊によ封鎖されており…。

この時点でいやな予感はプンプンしています。これだけ大風呂敷を広げてはとてもまともな解決を期待できそうにはありません。加えて、島田荘司の作品をある程度読んでいれば、「どうせ××が××して自衛隊に関しては××××××だろう」といった具合に全体の仕掛けがだいたい予想できてしまいます。石岡と麗羅の掛け合いメインでテンポ良く読めるのはいいのですが、リアリティのない真相なのに意外性も乏しいというのはどうにもいただけません。


No.484 7点 あかずめの匣
滝川さり
(2025/03/31 11:59登録)
自室、トイレ、風呂といった閉鎖空間にいるときに中の人間を閉じ込め、そのまま窒息死させるあかずめの呪い。その呪いの謎に挑む連作ホラーです。ホラーとしての怖さはぼちぼちで、呪いの騒動のなかで人間の醜さが浮き彫りになっていくプロセスが読みどころになっています。しかし、白眉なのは最終章。それまでに張り巡らせていた伏線が一気に回収され、見えていた風景が次々と反転していくプロセスが実に心地よい。呪術系ホラーには違いないのですが、むしろ謎解きミステリーとしての要素に魅力を感じた逸品です。


No.483 5点 めぐみの家には、小人がいる
滝川さり
(2025/03/30 16:35登録)
美少女の主人公を庇護する無数の小人たちが人々を襲っていくというシチュエーションはゾッとするものがあり、なかなかそそられたのですが、実際に読んでみるとあまり怖くありませんでした。問題は被害者がいじめっ子や毒親ばかりでむしろ小人たちを応援してしまいたくなる点。復讐ものならともかく、ホラー小説の筋立てしてはどうにも盛り上がりません。終盤でようやくこちらの期待するような流れになるも時すでに遅し。その先が読みたかったのにここから先は読者の想像にお任せします的な結末だったのが残念です。


No.482 5点 さかさ星
貴志祐介
(2025/03/28 11:38登録)
著者らしい綿密な取材に基づいた作品であり、次々と語られていく呪物に関する蘊蓄が興味深い。とはいえ、蘊蓄がいささか長すぎで中弛みを起こしているのは否めないところ。それに貴志ホラーといえば、『黒い家』といい、『天使の囀り』といい圧倒的な怖さがウリだったはずですが、本作は蘊蓄が続くせいで全然怖くない。最初の惨劇は事件の概要が語られるだけで具体的な描写はありませんし、クライマックスの惨劇も不完全燃焼に終わってしまいます。ちょっ怖かったのはラストぐらいでしょうか。中盤におけるフックの効いた展開はゾクゾクしましたし、全然つまらないということはないものの、蘊蓄が多すぎて物語としての起伏が乏しい印象を受けました。


No.481 6点 スミルノ博士の日記
S・A・ドゥーセ
(2025/03/26 23:44登録)
ご多分にもれず、私もあの有名作の解説やら評論やらのなかでネタバレを喰らった後に読んだクチですが、思ったよりも楽しめました。なんといっても、探偵と犯人のキャラが立っているので2人のせめぎ合いが面白い。そして、そのうえで迎える犯人指摘のクライマックスがなかなか印象的です。ああいうパターンは結構珍しいのではないでしょうか。
真犯人の行動が怪しすぎという点は個人的にはあまり気にならなかったですね。ミステリー小説の世界では怪しい奴ほど犯人の可能性は低いという鉄則があることから、もし私が例のトリックを知らないでこの作品を読んだとすれば真犯人を無条件で容疑者から除外し、結果、犯人の意外性はいささかも損なわれないと思うので。以下ネタバレ











ただ問題は日記の存在をあまりにも強調しすぎている点で、その結果として「台詞以外の地の文章ははすべて真実である」という大前提が揺らいでしまっています。その点、真犯人を指摘するまで、手記の存在感を可能な限り消し去ったクリスティはやはりさすがです。











No.480 9点 テスカトリポカ
佐藤究
(2025/03/24 04:59登録)
麻薬カルテルの抗争に敗れてメキシコから脱出したバルミロ、臓器ブローカーの末永、そして、人間離れした身体能力を誇る土方コシモなど、悪党どもキャラが恐ろしくも魅力的。そんな彼らが織りなす血と暴力の物語は現代を舞台にしながらどこか神話的雰囲気を纏っており、引き込まれていきました。


No.479 8点 目には目を
新川帆立
(2025/03/23 08:22登録)
新川作品といえばフェミニズムの観点から女性差別を描いた作品が多かったわけですが、今回のテーマは少年犯罪。人を死に追いやった5人の少年の心理を主人公の丹念な取材によって浮かび上がらせており、善悪の二元論で安易にカテゴライズしない姿勢が素晴らしい。加えて、最後のどんでん返しにも驚かされますし、やるせなさのなかに一筋の希望が紡がれるラストも感動的。
一皮むけた感のある著者の最高傑作です。


No.478 6点 まず良識をみじん切りにします
浅倉秋成
(2025/03/22 09:32登録)
奇妙な味的な短編集

「そうだ、デスゲームを作ろう」
SFチックなスケールの大きな話になりがちなデスゲームを小市民的なスケールで描いたのがユニーク。

「花嫁がもどらない」
花嫁がお色直しから戻ってこない理由を推理する推理合戦ものかと思いきや、推理にかこつけた本音大暴露大会になっているのがブラックコメディとして秀逸です。

「ファーストが裏切った」
個人的ベストがこれ。2軍あがりのファーストが利敵行為を繰り返す訳のわからなさがシュールで面白い。

他の2編はピンとこず、トータルで6点くらい


No.477 4点 どうせそろそろ死ぬんだし
香坂鮪
(2025/03/18 11:20登録)
第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作。
余命宣告を受けた人間が集う山奥の別荘で怪死事件が起きるという設定はなかなかユニークで、さまざまなトリックがちりばめられているのも好感が持てました。しかし、肝心の仕掛けが雑過ぎます。まず、医者としての知識を活かした医療トリックが用いられますが、これがあまり面白みが感じられず。また、なぜ余命がいくらもない人間の命を狙うのかというホワイダニットものとしても大した意外性はありません。しかし、この辺りはあくまでもサブであり、メインの仕掛けではないので大きな瑕疵ではないでしょう。より問題なのは以下の点です。

※以下ネタバレ












まず、冒頭で探偵と助手が登場しますが、語り手が助手ではなく、探偵なのがいかにも不自然です。探偵と助手が同時に登場すれば語り手を務めるのはまず助手です。凡人である助手の目から探偵の個性や変人ぶりを語ってこそミステリーとして盛り上がるのであって、これを逆にすると助手の存在意義が薄れてしまううえに探偵の天才ぶりを効果的に演出しずらくなってしまいます。したがって、あえて逆にしているというのは何かそこに仕掛けがあるのだなと、ミステリーを読み慣れていればすぐに気付いてしまいます。
しかし、これはまだいいでしょう。怪しいだけでどんな仕掛けなのかはわからないのですから。真の問題点はここからで、探偵は物語中盤で亡くなるのですが、文章は一人称のまま継続されます。もしかしたら、語り手が探偵から助手にバトンタッチされたのかなとも考えましたが、明らかに助手の視点ではありません。これってどう考えても探偵視点のままだよなと思っていたら案の定、探偵は死んだふりをしていただけで生きていました。なぜこんなバレバレの構成にしたのか?そこが最大の疑問点です。
以上、意欲作ではあるのだけど、それが完成度に結びついていないという感じですね。














No.476 5点 雷龍楼の殺人
新名智
(2025/03/08 08:22登録)
冒頭で犯人の名前を堂々とばらし、孤島にある館での連続密室殺人でさんざん期待をもたせておいてのちゃぶ台返し。個人的に嫌いではありません。すべてが反転する仕掛けは大好物ですし。しかし、惜しむらくはトリックの使い方が悪すぎます。大掛かりなトリックに対して得るものが圧倒的に少ない、というか、そんな方法で目的が達成できるとはとても思えない。頭がよさそうに振舞っている犯人がバカにしか思えず、その点が大きな減点対象です。


No.475 6点 踏切の幽霊
高野和明
(2025/03/02 17:40登録)
前半の正統派心霊ホラーの怖さと、後半の哀愁漂う泣ける社会派ミステリー。どちらもよく出来ていて読み応え十分なのですが、2つの魅力が相乗効果でより面白くなっていくというより、個人的には2つの良さが相殺されているように感じたのが残念です。自分の趣味からいうと、前半の心霊ホラーの路線のままホラーミステリーとして着地した方が良かったかも。


No.474 6点 時空犯
潮谷験
(2025/02/22 07:00登録)
時間が巻き戻るという設定は面白く、SF小説としてもなかなか楽しめる作品に仕上がっています。加えて、謎解きも極めてロジカルに行われており、本格ミステリとしても悪くありません。ただ、壮大な設定の割にSFとしての決着があっけなく、本格ミステリの仕掛けもこじんまりしている点には物足りなさを覚えました。


No.473 7点 世界でいちばん透きとおった物語2
杉井光
(2025/02/18 13:55登録)
レジェンド級の仕掛けが炸裂する前作はもはや別格的な存在ですが、本作もなかなか凝った作品で大いに楽しめました。王道的な本格ミステリが好きな人なら、むしろ前作よりこちらの方に高い評価を下す可能性もあるのではないでしょうか。まず、作中作である未完の遺作ミステリーが非常に面白い。先が気になると同時に、その真相に辿り着かんとする主人公サイドの調査やディスカッションにも引き込まれました。真相自体も意表を突くもので、現実世界での謎とリンクしているのも素晴らしい。ただ、問題の未完ミステリーが途中から展開が雑になり、無理やり話を畳んだ感があるのは少々残念。話の構成上仕方がないとはいえ、中編ぐらいの長さにすればもっと面白くなったのではなった気がします。


No.472 6点 図書館に火をつけたら
貴戸湊太
(2025/02/11 13:21登録)
市立図書館で火事が発生し、火元の地下書庫で身元不明の焼死体が発見される。しかも、頭部に殴られたあとがあるにも関わらず、現場は密室で...。

密室殺人ものですが、トリック自体は大したことはありません。メインはなぜ現場を密室にしたのかというホワイダニットと図書館に残っていた人間のうち誰が犯人かというフーダニットです。そして、その答えを導く推理がなかなか凝っています。関係者を一堂に集めて犯人ではありえない人物を一人一人除外していく消去法推理なのですが、容疑から逃れるために偽の手がかりを残すといった後期クイーン問題まで踏み込んで推理しているのが面白い。それに、ホワイダニットがフーダニットと密接に繋がっているという趣向も秀逸です。ただ、この推理はあくまでも犯人が論理的に正しい行動を選択し続けることが前提になっており、愚かな行動をとる可能性は視野に入れていないのが苦しいところ。それに、共犯の可能性も最初から除外して何故か単独犯である前提で推理が進んでいきます。加えて、証拠がないので推理をぶつけて犯人を揺さぶってみようというのも、素人探偵ならともかく、刑事が行うには乱暴すぎです。


No.471 4点 バスカヴィル館の殺人
高野結史
(2025/02/05 00:19登録)
孤島に集めた人々を実際に殺してその犯人を当てるリアル犯人当て推理ゲームの第2弾。
前作の『奇岩館の殺人』は殺され要員として雇われたた主人公の反撃などによって当初のシナリオが狂い、運営側がなんとか辻褄を合わせようとしてぐだぐだになっていくところにブラックコメディとしての面白さがあったのですが、2作目で似たようなことをやられてもすでに飽きてしまってさほど面白みを感じられず。もちろん、まったく同じというわけではなく、今作では主人公が運営側に回っているという違いはあります。加えて、ミステリーの仕掛けは前作以上にいろいろ用意されているものの、マンネリ感を覆すには至っていません。そもそも、前作の面白さというのはミステリーの仕掛け云々ではなく、あくまでも毒のある笑いにあったことに改めて気づかされました。そういう意味では、さんざん殺人計画に加担しておいて急に良い人ぶる展開があるのもマイナス要因です。「いやいや、あなたの立ち位置で今さら良い人ぶるのは無理があるでしょ」って感じで。

510中の書評を表示しています 21 - 40