ウナギの罠 ドゥレル警部シリーズ |
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作家 | ヤーン・エクストレム |
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出版日 | 2024年03月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 8点 | 人並由真 | |
(2024/05/08 07:08登録) (ネタバレなし) 1967年9月。スウェーデンのポーラリード地方では、親類から莫大な土地資産を相続した49歳の大地主ブルーノ・フレドネルが土地の権力者として君臨。多くの住民を経済的、精神的に支配して苦しめていた。そんなある夜、何者かに殺害されたフレドネルの死体が、河川のウナギ罠の装置の中で見つかる。赤毛の小男でオペラ愛好家の刑事、バーティル・ドゥレル主任警部が捜査を進めるなか、被害者に悪感情を抱く関係者が続出するが、やがてとある新事実が発覚。殺人現場はいっきに、不可能犯罪(完全密室)の様相を呈した!? 1967年のスウェーデン作品。ドゥレル主任警部シリーズ第5弾。 往年のファンが待ちに待った伝説的作品が、ついに翻訳。 で、また期待が先走り過ぎて、アレな結果になる一縷の危惧の念も湧いたりしたが、それは杞憂。翻訳の滑らかさもあって、予想以上にスラスラ読める。 登場人物はやや多いが、メインキャラは、嫌われ者の被害者の周辺に複数の家庭が並んでいる人物配置が基調で、キャラシフトの構造をいちど掴めばわかりやすい。 例によって登場人物メモを作りながら読んだが、話が進むに従って各キャラのデータメモが増えていくのが楽しくなるような物語の造り。個人的には、黄金期~近代の英国女流作家系の面白さに近いストーリーの転がし方だった。 正直、犯人のフーダニットに関しては登場人物の多さが悪い方に出た感じだが(その理由はもちろんここではナイショ)、ギリギリまでその真犯人の名を秘匿する小説テクニックは〇(マル)。 (欧米の大家の、あの名作を思わせる。) で、キモは ①なんで犯人は密室にしたか、の理由付け ②唖然、呆然の密室トリック ③そのための伏線の張りよう ……で、非常に楽しかった。特に②は久々のヒットだね(笑)。いや、個人的に、かもしれないが(笑)。 ミステリの練度としてマトモに評価すべきなら、①のポイントの方か。 『17人』ともども、エクストレム、ぢつに面白い。 ぜひともこのあとも、この作家の作品の発掘紹介を続けてほしいモンです。 |
No.1 | 8点 | nukkam | |
(2024/03/31 11:08登録) (ネタバレなしです) 広告業界で成功を収めていたスウェーデンのヤーン・エクストレム(1923-2013)がミステリー作家として活躍したのは1960年代から1990年代前半にかけてで、1967年発表のドゥレル警部シリーズ第5作である本書(扶桑社文庫版)の巻末の作品リストにはわずか15作しか紹介されていませんが、スウェーデン・ミステリー・アカデミーの創設にも関わるなどスウェーデンミステリー界の重鎮と目されていたようです。本書は施錠されたウナギの罠の中で死体が発見されるというユニークな設定の密室殺人事件が扱われ、作者が「スウェーデンのカー」と称されるきっかけになった作品で、第3章では作者直筆の立体図で罠の構造が説明されています。しかし密室の謎解きに期待をかけ過ぎると前半は拍子抜けを感じるかもしれません。なぜなら罠は外から施錠する構造で、単純に犯人が鍵を持って行ったという仮説が成立するのです。中盤になって被害者の衣服のポケットから鍵が見つかってもドゥレルは別に予備鍵があるだろうと推理しています。しかしその可能性も否定されてついに強固な不可能犯罪の謎が立ちはだかり、第9章でドゥレルが密室トリックを次々に考案しては自ら否定していく推理の自問自答は密室好き読者ならきっとわくわくするでしょう。犯人当てとしても充実していて様々な証拠と証言が集められ、一体どれが真相につながるのか読者を大いに悩ませます。終盤の劇的な展開も印象的だし密室トリックも個性的、難点を挙げるならミステリー作品として注目を集めそうにないタイトルですがスウェーデン最高の本格ミステリーのひとつと評価されているのも納得の内容です。 |