ウナギの罠 ドゥレル警部シリーズ |
---|
作家 | ヤーン・エクストレム |
---|---|
出版日 | 2024年03月 |
平均点 | 7.80点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 8点 | レッドキング | |
(2024/08/13 23:47登録) "北欧のジョン・デイクスン・カー" と聞き、さっそく。けしてカーではないが、かくもユニークな「ウナギ密室」、堪能させて頂きました(^^♪ わが長編採点基準(あくまでも原則ネ)では、密室二つ以上が、8点クリア必要条件なんだが、スウェーデン寒村の、むせる様な体臭・体液臭・獣臭・草木臭・ぬめり臭描写が良く、8点あげちゃう。 |
No.4 | 7点 | メルカトル | |
(2024/08/05 22:31登録) 1960年代のスウェーデンに、こんな不可解な密室殺人が眠っていたとは……。 ウナギのように「つかみどころ」がなく、解決不可能に見える奇怪な現場の状況。 ディクスン・カーも青ざめるほどの「つなわたり」のトリックに啞然、そして呆然。 ――折原一氏(作家) Amazon内容紹介より。 本サイト現役最強の二大巨頭と今最も勢いのある気鋭の書評家お三方が、揃って8点を付けているならば、これは読むしかありませんね。 しかし、全体的に冗長で、この内容ならば半分の量で十分書けたと思います。事件が起こるまでの約100ページ、少々退屈でした。事件に関係ありそうな事柄は少なく、関係ない事ばかり書かれている気がしましたし、ミステリ云々ではなく読み物として面白くなかったですね。 その後も事件の調査に乗り出すドゥレル警部ですが、あまり鋭いところを見せず、推理しているのかどうかも判然としません。後半、自分自身に問いかけ、真相を掴もうとする描写は良かったですが。 解決編で、犯人の決め手になった切っ掛け、理由や動機が説明されていないのは、かなり不親切だと思います。それまでに説明されているから省略、では私の様なん読解力の無い読者に対して優しくないと感じざるを得ませんでした。 しかし、密室の作り上げ方は見事なもので、このトリックだけでプラス1点を献上します。 |
No.3 | 8点 | みりん | |
(2024/07/23 21:54登録) 去年「中国のジョン・ディクスン・カー」で美味しい思いをしたので、「スウェーデンのジョン・ディクスン・カー」も賞味することに(←いや本家読めよ) 事前評判8点×2で私で3人目というのもなぜか一致。いやあ、いつも後乗りばかりして申し訳なく思います… 豪華絢爛三連密室『厳冬之棺』と違って納得のいく一本密室勝負!映像として容易に想像できるというか、密室のHowでここまで納得感のあるのは久々でした。登場人物の多さ・やや冗長な展開・苦手な翻訳文を補ってなお余りある密室トリック。WhoとWhyがともにショボいとは思いますが、すげえ不可能トリックには脳死で8点以上を付けろと教育を受けてるのでこの点数で。 ヤーン・エクストレムの既訳作品があと1つあるそうで、そちらも読んでみたい。てか全部翻訳してくれ。 |
No.2 | 8点 | 人並由真 | |
(2024/05/08 07:08登録) (ネタバレなし) 1967年9月。スウェーデンのポーラリード地方では、親類から莫大な土地資産を相続した49歳の大地主ブルーノ・フレドネルが土地の権力者として君臨。多くの住民を経済的、精神的に支配して苦しめていた。そんなある夜、何者かに殺害されたフレドネルの死体が、河川のウナギ罠の装置の中で見つかる。赤毛の小男でオペラ愛好家の刑事、バーティル・ドゥレル主任警部が捜査を進めるなか、被害者に悪感情を抱く関係者が続出するが、やがてとある新事実が発覚。殺人現場はいっきに、不可能犯罪(完全密室)の様相を呈した!? 1967年のスウェーデン作品。ドゥレル主任警部シリーズ第5弾。 往年のファンが待ちに待った伝説的作品が、ついに翻訳。 で、また期待が先走り過ぎて、アレな結果になる一縷の危惧の念も湧いたりしたが、それは杞憂。翻訳の滑らかさもあって、予想以上にスラスラ読める。 登場人物はやや多いが、メインキャラは、嫌われ者の被害者の周辺に複数の家庭が並んでいる人物配置が基調で、キャラシフトの構造をいちど掴めばわかりやすい。 例によって登場人物メモを作りながら読んだが、話が進むに従って各キャラのデータメモが増えていくのが楽しくなるような物語の造り。個人的には、黄金期~近代の英国女流作家系の面白さに近いストーリーの転がし方だった。 正直、犯人のフーダニットに関しては登場人物の多さが悪い方に出た感じだが(その理由はもちろんここではナイショ)、ギリギリまでその真犯人の名を秘匿する小説テクニックは〇(マル)。 (欧米の大家の、あの名作を思わせる。) で、キモは ①なんで犯人は密室にしたか、の理由付け ②唖然、呆然の密室トリック ③そのための伏線の張りよう ……で、非常に楽しかった。特に②は久々のヒットだね(笑)。いや、個人的に、かもしれないが(笑)。 ミステリの練度としてマトモに評価すべきなら、①のポイントの方か。 『17人』ともども、エクストレム、ぢつに面白い。 ぜひともこのあとも、この作家の作品の発掘紹介を続けてほしいモンです。 |
No.1 | 8点 | nukkam | |
(2024/03/31 11:08登録) (ネタバレなしです) 広告業界で成功を収めていたスウェーデンのヤーン・エクストレム(1923-2013)がミステリー作家として活躍したのは1960年代から1990年代前半にかけてで、1967年発表のドゥレル警部シリーズ第5作である本書(扶桑社文庫版)の巻末の作品リストにはわずか15作しか紹介されていませんが、スウェーデン・ミステリー・アカデミーの創設にも関わるなどスウェーデンミステリー界の重鎮と目されていたようです。本書は施錠されたウナギの罠の中で死体が発見されるというユニークな設定の密室殺人事件が扱われ、作者が「スウェーデンのカー」と称されるきっかけになった作品で、第3章では作者直筆の立体図で罠の構造が説明されています。しかし密室の謎解きに期待をかけ過ぎると前半は拍子抜けを感じるかもしれません。なぜなら罠は外から施錠する構造で、単純に犯人が鍵を持って行ったという仮説が成立するのです。中盤になって被害者の衣服のポケットから鍵が見つかってもドゥレルは別に予備鍵があるだろうと推理しています。しかしその可能性も否定されてついに強固な不可能犯罪の謎が立ちはだかり、第9章でドゥレルが密室トリックを次々に考案しては自ら否定していく推理の自問自答は密室好き読者ならきっとわくわくするでしょう。犯人当てとしても充実していて様々な証拠と証言が集められ、一体どれが真相につながるのか読者を大いに悩ませます。終盤の劇的な展開も印象的だし密室トリックも個性的、難点を挙げるならミステリー作品として注目を集めそうにないタイトルですがスウェーデン最高の本格ミステリーのひとつと評価されているのも納得の内容です。 |