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ミステリの祭典

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大樹館の幻想

作家 乙一
出版日2024年09月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 7点 レッドキング
(2025/05/23 23:54登録)
乙一の、「史上初となる本格ミステリ」(表紙煽り)とのことで、さっそく。「大樹を囲んで建てられた怪館」「密室」「一族」「連続殺人」・・おお、ド本格に新本格の香り付き設定。「パラレル未来から来た胎児(!)」・・ああ、SFミステリ風の新々本格を加味ね、てことで・・・
     密室殺人の未遂顛末に、3点。
     幾何学的な精密密室に、2点。
     館構造秘密トリックに、1点。
     魅惑的な大道具設定に、1点・・計:7点。
うーん、この試み、大いに買うよぉ。でも、やっぱり、乙一の本領読ませどころは、グロテスクにして淡泊、残酷にして透明な、胸キュン「メルヘン」・・この「本格ミステリ」においても・・であった。
※ところで、この館、京極「絡新婦」の織作屋敷なみに魅惑的だが、本の表紙絵、「時計回り斜め昇り」とは逆でない?

No.3 7点 虫暮部
(2025/02/14 14:45登録)
 いやしくも本格ミステリを謳いながら、こんなに舞台の構造が曖昧なのも珍しゅうございます。
 常に靄がかかったように、ふわふわと無効化される境界条件。一つの館に “無数の部屋” が存在するパラドックス。発想もさることながら、それを成立させてしまう乙一先生の筆致は見事と言う他ございません。

 しかしながら、犯行の骨格だけ抜き出せば、ツボを押さえているとは言え、良くある本格のプロットだと言わざるを得ないのではないでしょうか。
 更に話が進むと存外に俗っぽい事情も顔を見せ、あまりと言えばあまりの落差に眩暈を覚えました。

 それこそが狙いなのやも知れませんが、私は幻想のまま、天上界のまま押し通しても宜しかったかと思惟致します。ミステリの枠など突き抜けて戴きたかった! 御主人様の至高の世界の終焉には、もっと高尚で形而上的な動機を期待していたのでございます。

No.2 6点 文生
(2025/01/19 09:33登録)
館もの、連続殺人、迫り来る山火事、華麗な大トリックの数々と設定だけを並べると面白そうですが、実際は非現実的な展開にサスペンスは盛り上がらず、複雑な機械トリックには納得しがたくとどうにもパッとしません。その一方で、幻想的な雰囲気は悪くなく、図解入りのトリック解説もガジェットとしてはワクワクするものがあります。したがって、純粋な本格ミステリとしては高い点数はあげられませんが、ミステリー風味の幻想小説としてはそれなりに楽しませてもらいました。

No.1 6点 メルカトル
(2025/01/12 22:11登録)
ーー決して解かれえぬ謎と共に炎に包まれ、この世から消え去った「大樹館」。
この館に住み込みの使用人として働く穂村時鳥は、「これから起こる大樹館の破滅の未来」を訴えるおなかの胎児の声を頼りに、その未来を塗り変える推理を繰り返すがーー!?
Amazon内容紹介より。

持ち前の切ない作風を封印した乙一の、初挑戦館ミステリ。とは言え一筋縄では行きません。大樹館の家政婦時鳥(ほととぎす)は未来から来たと云う胎児の声と共に事件解決に挑んでいきます。名前も与えられていない御主人様、幽霊が見える少年、樹齢何千年の大樹をそのまま取り込んだ館等いわゆる特殊設定物と捉える事も出来ます。しかし実際は繰り返し差し挟まれる図解に表れる様に、ガチガチの物理トリックを駆使した本格ミステリです。

ただ、読めども一向に盛り上がらない展開には冗長さと退屈さを覚えました。それでもメインとなる密室トリックの要はある○○を応用したものではあるものの、考え尽された新味を含んだ物理トリックと言っても良いと思います。これには素直に感心させられました。
多少のアクセントとなる蘊蓄も楽しく読めました。期待通りとはいかなかったものの、乙一の新たな可能性を感じ取る事は出来ました。

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