文生さんの登録情報 | |
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平均点:5.86点 | 書評数:500件 |
No.260 | 7点 | 闇祓 辻村深月 |
(2022/07/22 05:49登録) 闇の一族によって人々が破滅していく伝奇ホラーですが、超能力や霊能力といった超常的な力は一切出てきません。それではどうやって人々を破滅させるのかというと、地道なハラスメントです。設定は壮大なのに中身は普通のイヤミスという点が逆に新鮮ですし、こけおどしの描写がない分ぞっとさせられます。特に、いい人を演じつつ、周囲の人を死に追いやっていく”お父さん”のキャラが秀逸。ただ、最後の決着があっけなかったのがちょっと残念ではあります。 |
No.259 | 4点 | 脱北航路 月村了衛 |
(2022/07/22 05:22登録) 祖国に裏切られた男たちの亡命劇を拉致問題と絡めて描いた作品であり、潜水艦での戦闘シーンは迫力満点で読み応えがあります。ただ、歴史上の偉人とかではなく、リアルタイムで実在している人物を(名前を変えているとはいえ)登場させるのは逆にリアリティが損なわれる気がしてあまり好みではありません。クライマックスが浪花節展開なのも好みに合わず。 |
No.258 | 8点 | 同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬 |
(2022/07/22 05:00登録) 実際に存在したソ連の女性スナイパー部隊を題材とした一級のエンタメ小説です。母をナチスに殺されたヒロインの復讐心を起点としての緊迫感あふれる狙撃シーン、仲間との友情、ヒロインの成長などが良く描けています。また、女性キャラたちがキュートに描かれており、シリアスな物語における緩急の付け方も見事です。後半テーマ性が前面に出すぎている点は個人的に好みではありませんが、それを差し引いても究めて完成度の高い作品だといえます。 |
No.257 | 7点 | #真相をお話しします 結城真一郎 |
(2022/07/21 21:20登録) 前半で伏線を張り巡らせて後半でどんでん返し及び仕掛けの解説をしていくスタイルの短編集。 まず最初の「惨者面談」は比較的真相を予想しやすいものの、シチュエーションの異様さにぞっとさせられます。その後もテンポの良いサスペンス展開や二段構えのどんでん返しなどで楽しませてくれますが、なかでも白眉なのは最後の「#拡散希望」です。離島で暮らす4人の小学生の物語が根底から覆される壮大などんでん返しに驚かされました。 ただ、どの作品も真相自体にリアリティはあまりないのでどちらかといえば、一種の寓話だと思って楽しむのがベターです。 |
No.256 | 6点 | 雷神 道尾秀介 |
(2022/07/21 14:49登録) 道尾作品らしい錯綜した謎で楽しませてくれるものの、トリックは小技の寄せ集めといった感じであっといわせるような仕掛けがなかったのが残念。それでも、現在と過去における事件の真相を怒涛の伏線回収で明らかにしていくプロセスについては十分読み応えがありました、 |
No.255 | 5点 | うまたん ウマ探偵ルイスの大穴推理 東川篤哉 |
(2022/07/05 08:14登録) 関西弁を話す元競走馬と女子高生の掛け合いが楽しい連作ミステリ ただ、関西弁キャラがベタすぎでもう一工夫ほしかったところ ミステリとしても全体的に小粒ですが、金目のものには目もくれずに馬の置物だけを盗んでいった泥棒の動機を推理する「大山鳴動して跳ね馬一匹」はホワイダニットものとしてよくできています。 |
No.254 | 6点 | 真夜中のマリオネット 知念実希人 |
(2022/06/09 10:59登録) いかにもライトユーザー向けで、マニアックな面白さに満ちていた『硝子の塔の殺人』と比べるとものたりません。しかし、テンポ良く起伏のある展開、読者の興味を持続させるためのサスペンス、終盤の二転三転といった具合にそつのない作りはさすがです。 暇つぶしには最適な、売れっ子作家のお手本のような作品。 |
No.253 | 4点 | かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖 宮内悠介 |
(2022/06/09 10:52登録) 『黒後家蜘蛛の会』のパスティーシュ作品であり、推理合戦のメンバーをニューヨークの名士から明治時代の実在の芸術家たちに置き換えた設定にはそそられるものがあります。 しかし、肝心の真相がふわっとしすぎて説得力が感じられないのがものたりません。唯一論理的に納得のいく推理が披露された「さる華族の屋敷にて」だけは面白かった。 SF的なオチもあまり効果的だとは思えず。 |
No.252 | 7点 | 死亡告示 トラブル・イン・マインドII ジェフリー・ディーヴァー |
(2022/06/09 10:32登録) 「プロット」は読み応えがあったものの。オチがちょっと凡庸。 それに対して、「カウンセラー」はリーガルサスペンスと思わせておいて話がどんどん変な方向に転がっていくのが面白かった。 「兵器」は薄っぺらい教訓話で、はっきりいってつまらない リンカーン・ライムシリーズの表題作もオチがみえみえでイマイチ しかし、他の作品はどうでもいいと思えるぐらい中編小説の「永遠」が素晴らしかった。 連続心中事件という不可解な謎。統計を駆使する刑事の名探偵ぶり、ディーヴァー得意の二転三転の展開、そしてあまりにも予想外な真相。 文句なしの傑作です。 |
No.251 | 5点 | フルスロットル トラブル・イン・マインドI ジェフリー・ディーヴァー |
(2022/06/09 10:17登録) 最初の2作は思いっきりオチが読めてしまって評価は低め 「バンプ」はオチはともかくポーカー勝負の描写はなかなか面白かった 一方、リンカーン・ライムシリーズの「教科書どおりの犯罪」に関しては、ライムの犯罪教本を参考にする犯人というアイディアは面白いのだけど、ミステリー的にはもうひとひねりほしかったところ |
No.250 | 7点 | 黄色い部屋の謎 ガストン・ルルー |
(2022/06/09 09:56登録) 中学に入ったばかりのころに読んで魅惑の謎のつるべ打ちにワクワクした作品。トリックが段々しょぼくなっていくのはあれですが、最初の密室トリックは発表当時としては考えに考え抜かれたもので十分に楽しめました。個人的には、密室好きになるきっかけを与えてくれた記念すべき作品でもあります。ただ、黄金期以降の本格ミステリと比べると随分と回りくどくて中盤がだるいのがマイナス点。 |
No.249 | 8点 | 爆弾 呉勝浩 |
(2022/05/04 19:55登録) 人を殴って警察に連行された男。 最初は単なる酔っ払いだと軽くみていた刑事たちだったが、彼の予言した時刻に秋葉原で爆弾が爆発したことで色めき立つ。男は、爆発はまだまだ続くと告げ...。 目的も本名もわからない犯人との取調室での駆け引きは手に汗握りますし、犯人がすでに逮捕されているにも関わらず、事態がどんどん悪化していく展開もサスペンス満点です。後半次々と明らかになっていく意外な事実に驚かされ、そのうえ、個性豊かな警察官たちの群像劇としても読みごたえがあります。なにより、和製ジョーカーというべき犯人の存在感が強烈。最初から最後までヒリヒリとした緊張感に満ちた警察小説+サスペンスミステリの傑作です。 |
No.248 | 6点 | 捜査線上の夕映え 有栖川有栖 |
(2022/04/06 12:02登録) 冒頭で、昨今流行りの特殊設定ミステリに対して自分はあくまでも王道を貫くというアリスの宣言が頼もしく、作中の事件も地味ながら二転三転する展開は読み応え満点です。特に、監視カメラと容疑者たちのアリバイを検証するくだりは本格ミステリの醍醐味をたっぷり味わうことができます。 ただ、実際に用いられたトリックはあまりにも無理があり、アリスも作中でツッコミを入れるほどです。その後、なんだか無理があるところに意味があるという流れになっていくのですが、いくら無理のあるトリックを使った理由を力説されても納得はし難く、その辺りが大きな減点対象となっています。話自体は楽しめたので総合的には6点ぐらいが妥当かなと。 |
No.247 | 4点 | クラウドの城 大谷睦 |
(2022/04/05 07:29登録) 元傭兵の警備員が密室殺人に挑むという、ハードボイルドと本格ミステリを組み合わせた物語は興味深く、引き込まれました。 ただ、IT企業のハイテクセキュリティに守られた堅牢な密室という割りに、トリックが単純すぎるのがものたりません。また、犯人の動機にいまひとつ説得力がなく、さらにいうなら犯人のキャラクター自体もちぐはぐな印象で、その結果、クライマックスでの対決シーンが盛り上がりに欠けたのが残念です。 |
No.246 | 2点 | 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック 鴨崎暖炉 |
(2022/03/15 10:40登録) 密室殺人が盛りだくさんなのはいいのですが、やたら複雑なものばかりで種明かしをされた時の驚きに欠けるのが難。しかも、事件が起きるやいなや探偵がトリックを解いてしまうのでだんだん密室殺人自体がどうでもよくなってしまいす。一番最後の密室トリックだけはシンプルで悪くないものの、そこに至るまでにすっかり食傷してしまいました。 何より冒頭で、 国内で初めての密室殺人が起こり、容疑者が逮捕されたものの、「どんなに怪しくても現場が密室である限り無罪」という判決が出て日本に衝撃が走り、以後密室殺人が大流行した。 という説明があるのですが、これには納得しがたいものがあります。 犯行が不可能なのに容疑者を有罪にすればそれこそ大問題ですし、容疑者を有罪にしたければ密室のトリックを解明すればいいだけです。その点はアリバイ工作となんの違いもないわけで、ようするに裁判官は極めて常識的な判決を下したにすぎません。それに対して国民が衝撃を感じたり、ましてや密室殺人が大流行したりはしないでしょう。また、作中では行うことに何の価値もない密室殺人と蔑まれてきたとの記述がありますが、密室トリックは事故や自殺に見せかける方法としては大いに有効なはずです(ちなみに、2012年9月の岐阜県各務原市における事件など、現実世界でも密室殺人は発生しており、岐阜県の事件の場合は一時自殺説に傾きつつも、結局捜査員がトリックを解明して犯人を逮捕しています)。 というわけで自分の密室観とはとことん合わず、読んでいてストレスが溜まる作品でした。 |
No.245 | 7点 | 自由研究には向かない殺人 ホリー・ジャクソン |
(2021/11/08 12:51登録) 過去の事件を洗い直していくという警察小説によくあるパターンのプロットですが、それを女子高生の主人公が自由研究として行っていくという形式に新鮮味があります。 関係者へのインタビューと粘り強い調査によって意外な事実が少しずつ明らかになっていく物語は捜査小説として一級の面白さですし、二転三転する終盤の展開も読み応えありです。 主人公の ピップと相棒のラヴィの好感度も高く、青春ミステリとしては申し分ない出来だといえるでしょう。 |
No.244 | 6点 | 居酒屋「一服亭」の四季 東川篤哉 |
(2021/11/06 13:06登録) 初代に代わって2代目安楽椅子(あんらく・よりこ)が探偵役を務める『純喫茶「一服堂」の四季』の続編連作ミステリーです。代替わりしてもやってることは相変わらずで、接客業をしているのが不思議なレベルの人見知りからの毒舌推理は安定の面白さです。また、恒例の猟奇殺人トリックも現実性には乏しいものの、あの手この手で楽しませてくれます。そのなかにあって、個人的には地味な仕掛けながらも盲点を突いたロジックが光る「鯨岩の片脚死体」がベスト。 |
No.243 | 1点 | 月の落とし子 穂波了 |
(2021/11/06 12:27登録) 月面に降り立った宇宙飛行士が謎の死を遂げ、それが未知のウィルスによるものだと判明するまでは緊迫感に満ち、読み応えがあります。 しかし、面白いのはそこまで。 宇宙船のクルーたちが危険なウイルスに汚染された死体を回収して地球に持ち帰りたいと言い出したのには唖然としてしまいました。しかも、その理由が仲間を故郷の土で眠らせてやりたいからという超センチメンタルなもの。とても科学者の態度とは思えません。そのうえ、パンデミックの危険性があることを承知しながら、結局、死体の回収を許可してしまうNASAの判断の甘さも信じがたいものがあります。日本に舞台を移してからも、ヒューマニズムを取り違えた独善的な言動のオンパレードなので読んでいるあいだ常にイライラしていました。根本的に自分とは相容れない作品です。 |
No.242 | 5点 | 倒産続きの彼女 新川帆立 |
(2021/10/29 12:01登録) ベストセラーを記録した『元彼の遺言状』の続編ですが、主人公は剣持麗子の後輩弁護士である美馬玉子にチェンジし、麗子自身は脇に回っています。とはいえ、玉子は麗子と比べると地味ではあるものの、ぶりっ子気質など十分個性的でキャラ立ちという点では申し分ありません。また、ある女が転職するたびに転職先の会社が倒産するという謎も魅力的ですし、作者が弁護士だけあって真相を究明していくプロセスにも説得力があります。 ただ、終盤に謎の組織の存在が明らかになり、しかも、その組織が今後宿敵となっていくような雰囲気になっていったのが個人的には残念でした。途中までは面白かったのですが、ジャンルが本格からスリラーへとシフトした点が好みではないので評価は低めです。 |
No.241 | 5点 | 元彼の遺言状 新川帆立 |
(2021/10/27 21:06登録) 語り手である女弁護士・剣持麗子の強烈な個性と「自分を殺した者に全財産を譲る」という奇妙な遺言状の謎で読者の興味を引きつける手管はかなりのものです。ただ、肝心の遺言状に関する真相は素晴らしいとは言い難いものがあります。「あれだけ強烈な謎を提示しておいて真相がそれ?」って感じで、例えるならクイーンの『チャイナ橙の謎』における逆さ殺人の真相を知った時に似たがっかり感です。 |