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ミステリの祭典

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かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖

作家 宮内悠介
出版日2022年01月
平均点6.00点
書評数5人

No.5 6点 パメル
(2025/01/31 19:19登録)
舞台は明治末期。登場人物の多くは木下杢太郎、北原白秋、吉井勇など実在の人物である。彼ら若き芸術家たちは、ベルリンの芸術運動の会名にちなんだ「牧神の会」を結成する。彼らは、隅田川沿いの西洋料理屋「第一やまと」に集い、そこで語られた事件を巡り、推理合戦を繰り広げる。
「菊人形遺文」公衆の面前で菊人形が日本刀を突き立てられた。白秋の一言を皮切りに、あれやこれやと推理する。作者はアイザック・アシモフの「最後家蜘蛛の会」の形式に倣ったという。つまり参加メンバーが、推理をぶつけ合い、様々な可能性をロジカルに排除した上で意外な真相に着地するパターンである。この作品の場合、店の給仕・あやのが鮮やかに謎を解き明かす。以降もこの様式美に則って謎解きが展開していく。
「浅草十二階の眺め」は、関東大震災で崩れた凌雲閣が舞台。「さる華族の屋敷にて」は、実際に起きた当時の猟奇事件をモチーフにしている。「観覧車とイルミネーション」は、夏目漱石が登場し、東京勧業博覧会を舞台にした殺人事件。「ニコライ堂の鐘」は、東京に現存している聖堂が舞台。「未来からの鳥」は、いくつもの暗示的な鳥と謎、パンの会の面々の先行きが折り重なりながら、大胆な趣向によって芸術が孕む危うさも浮き彫りにされていく。本書の全体を通じての趣向や、あやのの秘密も明らかになる。明治ロマンをたっぷり纏った謎と事件の先に待ち受ける真相と青春小説としても読ませる。

No.4 7点 ◇・・
(2023/08/08 19:43登録)
本書の着想の土台は、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」シリーズ。
レストランに集まった男たちが、ゲストの話に潜む謎について議論を交わすものの、いつも真相を言い当てるのは、給仕のヘンリーだった、というパターンの短編シリーズ。
この形式の物語を、明治期に実在した芸術家の集まり「牧神の会」を舞台に描いて見せるのが本書である。謎を解き明かすのは女中・あやの、というところも原点を踏襲している。
史実に寄り添った作りだけに、最終章の大胆な飛翔が心に残る。ミステリという枠組みから、明治とその先の時代を、そして美と社会を照らし出している。

No.3 7点 人並由真
(2022/09/26 07:47登録)
(ネタバレなし)
 宮内作品はこれまで『アメリカ最後の実験』(2016年)を新刊刊行時に読んだきり。独特の作風はちょっと印象に残ったが、今となっては内容も作品の魅力も、人に語り伝えられるほどは記憶にない。広義のミステリだったとは思うが、むしろブンガクの尺度で語られるような一冊で、そういう意味では評者などとは縁が薄い感覚もあった。

 で、久々に手にとった本作だが、こちらはいささか癖のある設定で時代背景なれど、中味の方はギンギンにまっとうな連作ミステリ。
 しかも大好きな「ブラックウィドワーズ・クラブ」(すまんな。もともと最初の出会いがHMM誌上だった世代人なので、この呼称の方が落ち着くのだよ・笑)の本歌取りというのがウレシイ。
 第一話の本文を読み終えた直後、原典のパスティーシュ&大元へのリスペクトとして、あそこまで真似てあるのに爆笑しつつ感激した。最高じゃん、宮内センセイ(嬉)。この一冊で見直した。

 ちなみにそういった独特の趣向とこの本書の書名タイトルからもうバレバレなのだが、毎回の探偵役はズバリ、そういうポジションにある女性。これも原典の形質の踏襲だが、しかしながら毎回の物語の(それぞれの事件の謎が回想されて語り合われる)場にいながら、登場人物表に名前も載っていないレギュラー探偵というのも前代未聞であろう。
(で、最終話ラストのオチも近代史に疎いこちらのスキを突く感じで、ああ、そうだったのね……という感慨。しかしこれじゃもう、シリーズ二冊目は難しいだろうな。いい意味でのマンネリで、続巻を何冊も出してくれてもいいんだけどね。)

 個人的なベストは、まとまりのいい第3話と、もうちょっとうまく演出して弾みをつけて話を転がしてくれていたら、もっともっと傑作になったろうにと思える第5話。第1話、第2話も悪くない。
 
 繰り返すが、何らかの形で、あと1~2冊くらい続けてくれんかな、このシリーズ。(中略)を交代させるといった大技をやってくれたっていいのよ。

No.2 4点 文生
(2022/06/09 10:52登録)
『黒後家蜘蛛の会』のパスティーシュ作品であり、推理合戦のメンバーをニューヨークの名士から明治時代の実在の芸術家たちに置き換えた設定にはそそられるものがあります。
しかし、肝心の真相がふわっとしすぎて説得力が感じられないのがものたりません。唯一論理的に納得のいく推理が披露された「さる華族の屋敷にて」だけは面白かった。
SF的なオチもあまり効果的だとは思えず。

No.1 6点 虫暮部
(2022/06/04 13:51登録)
 登場する明治の文人達については知識が乏しく、また特に最初の2話の謎が妙に観念的なせいもあって、どうも無理に背伸びしながら読んでいるような居心地の悪さを感じた。
 作者もそれを感じたのか3話目からは即物的なミステリに変化し、やはりこっちの方が良い。核がしっかりあれば文芸趣味も美味いスパイスなのである。でも作者の意図は逆(ミステリがスパイス)かな? 北原白秋は清家雪子『月に吠えらんねえ』の白さんのイメージそのままだ。

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