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ミステリの祭典

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クラウドの城

作家 大谷睦
出版日2022年02月
平均点5.75点
書評数4人

No.4 6点 猫サーカス
(2024/09/02 18:46登録)
主人公は、イラク帰りの元傭兵の鹿島丈。心に傷を負った彼は、北海道の田舎で恋人と共にひっそりと暮らしていた。ある日、警備員として派遣された海外企業のデータセンターの一室で、死体が発見される。それは出入り出来るはずのない部屋で起きた密室殺人だった。鹿島は、駆け付けた警察の中に、かつて同僚だった男の姿を発見する。そして否応なしに事件に巻き込まれていく。データセンターは彼が考えるより重要な施設であり、国家的な戦略拠点でもあった。やがて起きる第二の事件。過去に起きた災害と因縁。点と線が繋がり、浮かび上がった犯人には意外性がある。されに興味深かったのは、最新のIT技術の現場を描きながら、バーチャルな世界が描かれないことだ。気づかされるのは、サイバー空間の外にはそれを守るために物理的な機器を保守する人間たちがいるという当たり前のことだった。新人賞にふさわしく、読者に新しい視点を与えてくれる作品。

No.3 6点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2023/08/03 13:43登録)
イラクで心に深い傷を負った元傭兵の男が主人公。北海道に建設中の外資系データセンターで警備員としての職を得た彼が、そこで起きた密室殺人に挑む。
戦場およびIT分野での国際感覚と、ITも駆使して構成された密室殺人の謎が組み合わさり、そこに舞台ならではの謎解きと活劇が加わり、さらに男と恋人の関係にも筆が費やされていて盛り沢山だが、それらが一つの長編の中に破綻することなく共存している。

No.2 4点 文生
(2022/04/05 07:29登録)
元傭兵の警備員が密室殺人に挑むという、ハードボイルドと本格ミステリを組み合わせた物語は興味深く、引き込まれました。
ただ、IT企業のハイテクセキュリティに守られた堅牢な密室という割りに、トリックが単純すぎるのがものたりません。また、犯人の動機にいまひとつ説得力がなく、さらにいうなら犯人のキャラクター自体もちぐはぐな印象で、その結果、クライマックスでの対決シーンが盛り上がりに欠けたのが残念です。

No.1 7点 人並由真
(2022/04/01 15:20登録)
(ネタバレなし)
 2021年6月。北海道の大沼周辺。「私」こと、かつて警察官を経て海外で民間軍事会社(傭兵職)に従事していた現在39歳の鹿島丈(たけし)は、愛する内縁の妻、29歳の古寺可奈の紹介で警備会社「GSS」の一員として働いていた。出向する職場は、外資企業「S社」ことソラリス社の詳細不明の施設だが、勤務初日に施設内で厳重なセキュリティーシステムにも関わらず、決して生じえないはずの不可能犯罪=密室殺人が発生した。かつて警察学校で同期だった道警本部の警部・大嶽英次に過去の事情も踏まえて助勢を頼まれた鹿島は、捜査に協力するが。

 第25回「日本ミステリー文学大賞新人賞」受賞作品。
 先日読んだ、旧作『サイレント・ナイト』(高野裕美子)が同賞3回目の受賞作。そちらがなかなか面白かったので、同賞のリアルタイムの新作というのはどんなものなのか? という興味で、今年の該当の新刊(本作)を手にとってみた。

 帯で有栖川先生が、ハードボイルドに本格ミステリの要素をからめてエンターテインメントにしようとした作者の熱気、云々の物言いで賞賛。
 まさにその通りの内容で、さらに題名からも察せられるように、21世紀のネット文化のクラウドシステムを題材にした、社会派的な興味も盛り込まれる。本賞でなくても、乱歩賞でも似合いそうな感じ。
 
 巻頭の作者の言葉や巻末の経歴を読むと、著者はそれなりの年齢のよう(1962年生まれ)だが、そのせいか、こなれた文章のリーダビリティは、かなり高い。登場人物も、サブキャラに至るまでかなりくっきり描かれており、やや猥雑な内容の作劇を手際よく整理している。

 一方でいわゆる優等生的な作品にしばしありがちな、どこかで読んだような感触も無きにしも非ず。特にセキュリティー上のデータ記録から、起りえなかったはずの密室殺人の処理は、微妙かもしれない。それと犯人の設定は(中略)。
 不満を言えばいくつか出てくるが、読んでいる間はそれなりに惹きこまれたし、読後の現在も軽い余韻を覚える作品ではある。佳作~秀作というところ。主人公の鹿島をはじめ、何人かのキャラクターの造形にも好感を抱いた(ちょっと当初から、映画化、ドラマ化を狙っているような戦略を感じたりもしたが)。

 評点は0.25点くらいオマケ。
 この作者の次作が出たら、気に留めることにしょう。

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