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ミステリの祭典

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クラウドの城

作家 大谷睦
出版日2022年02月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2023/08/03 13:43登録)
イラクで心に深い傷を負った元傭兵の男が主人公。北海道に建設中の外資系データセンターで警備員としての職を得た彼が、そこで起きた密室殺人に挑む。
戦場およびIT分野での国際感覚と、ITも駆使して構成された密室殺人の謎が組み合わさり、そこに舞台ならではの謎解きと活劇が加わり、さらに男と恋人の関係にも筆が費やされていて盛り沢山だが、それらが一つの長編の中に破綻することなく共存している。

No.2 4点 文生
(2022/04/05 07:29登録)
元傭兵の警備員が密室殺人に挑むという、ハードボイルドと本格ミステリを組み合わせた物語は興味深く、引き込まれました。
ただ、IT企業のハイテクセキュリティに守られた堅牢な密室という割りに、トリックが単純すぎるのがものたりません。また、犯人の動機にいまひとつ説得力がなく、さらにいうなら犯人のキャラクター自体もちぐはぐな印象で、その結果、クライマックスでの対決シーンが盛り上がりに欠けたのが残念です。

No.1 7点 人並由真
(2022/04/01 15:20登録)
(ネタバレなし)
 2021年6月。北海道の大沼周辺。「私」こと、かつて警察官を経て海外で民間軍事会社(傭兵職)に従事していた現在39歳の鹿島丈(たけし)は、愛する内縁の妻、29歳の古寺可奈の紹介で警備会社「GSS」の一員として働いていた。出向する職場は、外資企業「S社」ことソラリス社の詳細不明の施設だが、勤務初日に施設内で厳重なセキュリティーシステムにも関わらず、決して生じえないはずの不可能犯罪=密室殺人が発生した。かつて警察学校で同期だった道警本部の警部・大嶽英次に過去の事情も踏まえて助勢を頼まれた鹿島は、捜査に協力するが。

 第25回「日本ミステリー文学大賞新人賞」受賞作品。
 先日読んだ、旧作『サイレント・ナイト』(高野裕美子)が同賞3回目の受賞作。そちらがなかなか面白かったので、同賞のリアルタイムの新作というのはどんなものなのか? という興味で、今年の該当の新刊(本作)を手にとってみた。

 帯で有栖川先生が、ハードボイルドに本格ミステリの要素をからめてエンターテインメントにしようとした作者の熱気、云々の物言いで賞賛。
 まさにその通りの内容で、さらに題名からも察せられるように、21世紀のネット文化のクラウドシステムを題材にした、社会派的な興味も盛り込まれる。本賞でなくても、乱歩賞でも似合いそうな感じ。
 
 巻頭の作者の言葉や巻末の経歴を読むと、著者はそれなりの年齢のよう(1962年生まれ)だが、そのせいか、こなれた文章のリーダビリティは、かなり高い。登場人物も、サブキャラに至るまでかなりくっきり描かれており、やや猥雑な内容の作劇を手際よく整理している。

 一方でいわゆる優等生的な作品にしばしありがちな、どこかで読んだような感触も無きにしも非ず。特にセキュリティー上のデータ記録から、起りえなかったはずの密室殺人の処理は、微妙かもしれない。それと犯人の設定は(中略)。
 不満を言えばいくつか出てくるが、読んでいる間はそれなりに惹きこまれたし、読後の現在も軽い余韻を覚える作品ではある。佳作~秀作というところ。主人公の鹿島をはじめ、何人かのキャラクターの造形にも好感を抱いた(ちょっと当初から、映画化、ドラマ化を狙っているような戦略を感じたりもしたが)。

 評点は0.25点くらいオマケ。
 この作者の次作が出たら、気に留めることにしょう。

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