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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:1230件

プロフィール| 書評

No.530 7点 夜よ鼠たちのために
連城三紀彦
(2015/06/27 19:05登録)
 高水準の短編集。「戻り川心中」とは違うタイプが並んでいるのが嬉しい(?)ですね。良作ぞろいでベストは選びにくいですが、印象に残るといえば表題作ですかね(現実味はともかくとして…)。後半の8と9は一段落ちる印象かな。
1 二つの顔:心理系かもと思わせておきつつの、美しく翻す反転が見事。
2 過去からの声:個人的に、誘拐モノといえば連城&岡嶋。流石の出来栄え。
4 奇妙な依頼:ハードボイルド調。でも真髄はラストに明かされるホワイ。
5 夜よ鼠たちのために:とある1行で眩暈が。二度読み必至の良作。現実的には不可能と思う部分もありますが、それを上回るダブルの仕掛け。
6 二重生活:これも眩暈レベルの良作ですが、5と似たタイプだけに、ちょっと割を食っているような気が。
7 代役:これも頭がクラクラする展開。ここまでやるか!と驚きました。
8 ベイ・シティに死す:ハードボイルド調。捻りは弱め。
9 ひらかれた闇:この短編集の中では異色。あまり好きなタイプではない。


No.529 5点 準急ながら
鮎川哲也
(2015/06/07 20:47登録)
 個人的には、アリバイものは決して嫌いな訳ではなく、むしろ好きな部類なのですが、トリック自体が相当に地味でして、拍子抜けする方もいらっしゃるでしょう。
 一方で、謎めいた複数のエピソードが折り重なる序盤の展開や、「足で稼ぐ」刑事の姿、鬼貫警部の自問自答型推理などなど、何とも言えない懐かしさを感じる方も、これまた多いと思います。
 良くも悪くも“昭和”の香り溢れる作品ですねぇ。


No.528 6点 冬のオペラ
北村薫
(2015/05/31 22:12登録)
 短編2本と中編(表題作)1本で構成。短編は正直肩透かし気味ですが、うち1本は、完全に表題作の伏線(導入?)って感じで、まぁしょうがないのかな。
 表題作は、冬の京都の情景とマッチした、端麗な本格モノで好印象。主人公の女性を含めた、作者の筆致も心地よいです。探偵の描き方にも、作者の意思が明確に表れていて興味深かったですね。


No.527 6点 マスカレード・イブ
東野圭吾
(2015/05/17 22:43登録)
 マスカレード・ホテルで出会う前の、山岸尚美と新田浩介それぞれの物語。ニアミスはあるものの、二人が直接接することはありません。個人的には、山岸尚美の人物設定に好感を抱きましたね。
 ガツンとした衝撃を受けるような展開でないだけに印象が薄くなる可能性もあるのですが、人間性を織り込み、ストレスなく読み進められる作品を次々に繰り出せる東野氏の筆達者ぶりは、やっぱりスゴイと思いますね。


No.526 5点 冷たい太陽
鯨統一郎
(2015/05/05 17:47登録)
 トリッキーな誘拐物と言えるのかな。読中は、これまで作者に抱いてきた印象と違っていて、失礼ながら、へぇこういうのも書けるんだ…と感心しつつ、読後には、まぁ確かにこの作者らしいのか…っていうのが率直な感想です。
 とある1本の仕掛け頼った作品であり、無理筋な面や、とってつけたようなミスディレクションなど、気になる点が多々あるのも事実ですが、着眼点を含めた総合的な印象は悪くないです。ドラマ台本のような淡々とした進行については好き嫌いが分かれそうですが。
 ちなみに、kanamoriさんと同様、私も読後に乾くるみ氏の名前が思い浮かびましたねぇ。


No.525 5点 浪花少年探偵団2
東野圭吾
(2015/05/03 21:14登録)
 しのぶセンセシリーズの続編。安心して(?)軽快に読み進められますし、大阪出身の作者らしい、テンポの良い会話も心地よいです。本格度は決して高いとは言えないですが、まぁ、不満はなかったですね。
 このシリーズは2冊で打ち止めとなりましたが、その理由について、作者は「作者自身が、この世界に留まっていられなくなったから」と語っております。その後の縦横無尽の活躍を知った後にそのコメントを読めば、なるほどと納得せざるを得ないのですが、こういうタッチの作品を再び読んでみたいな…と思うのは、私だけでしょうか?


No.524 6点 神様の裏の顔
藤崎翔
(2015/05/02 09:46登録)
 第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
 既視感はありますが、構成自体は確実。軽妙な語り口にユーモアも交えて、楽しく読ませていただきました。作者は元お笑い芸人だそうで、次作にも大いに期待したいと思います。
 ちなみに、この作品と大賞を争ったのが、白井智之氏の「人間の顔は食べづらい」。両作品を読み比べてみますと、「明るくひょうきんな優等生」VS「頭はいいけど何を考えているのか分からない生徒」という感じ。選考会での評価も分かれたようですが、個人的には、「神様の裏の顔」の総合力を素直に認めつつも、「人間の顔は食べづらい」のチャレンジ精神に一票。選考委員の中では有栖川有栖氏、道尾秀介氏の選評に近いですね。恩田陸氏、黒川博行氏の選評にはちょっと同意しがたい面もあって、なるほど、こういう観点でも好みの作者さんかどうかってことが分かるのだねぇ…などと改めて感じ入った次第です。


No.523 6点 顔 FACE
横山秀夫
(2015/04/09 22:48登録)
 警察モノに違いないのですが、「婦警」が主人公という点で、横山作品の中でもドロッと感が少ないというか、優しさが勝ったタッチとなっています。しかし、中身は婦警やその周りの人物の心理を見事に描いており、捻りも効いています。さすがです。個人的ベストは、最終話の「心の銃口」かな。


No.522 6点 相互確証破壊
石持浅海
(2015/03/22 21:33登録)
 「BOOK」データベースの紹介文から引用してみます。「前戯からはじまる伏線、絶頂でひらめく名推理。エロスとロジックが火花を散らす六編。」
 これは?と思わせますよね。確かに、これまでにない新たな機軸を提示したと言えますし、この点は評価いたします。これまでの石持氏の作風からは、一見意外な感じも受けましたが、実はフィットしているような気もします。個人的ベストは、ある意味で日常の謎(?)系統の「男の子みたいに」か。
 一方、多投している性描写がちょっとしつこい感じもしますし、ミステリとしてすべて巧く融合しているかと問われれば、微妙な作品もあります。この作者にありがちな面ではあるのですが、心情的に動機が理解しがたい短編も。評価は結構分かれるかもしれませんね。


No.521 6点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
早坂吝
(2015/03/15 00:03登録)
 個人的には、デビュー作の衝撃が残っている中での「上木らいち」との再会。正直、嬉しいですねぇ。イロモノに紛れ込ませながら、本格度は高く、超絶バカミス短編も楽しい。探偵像を含めて絶妙なポジションを獲得しましたねぇ。
 さてさて、次回作はどう攻めるのか、このポジションを手放すのか、引き続き注目しています。


No.520 6点 怪しい店
有栖川有栖
(2015/03/07 18:03登録)
 火村シリーズの短編集で、すべて何がしかの「店」をテーマにしています。「宿」をモチーフにした同趣旨の短編集「暗い宿」の姉妹編ですね。
 相変わらず、火村と有栖川の掛け合いが楽しい。ベストは、ちょっと無理筋な面がありつつも、「画になる」シーンが多々登場して印象的だった「潮騒理髪店」か。


No.519 5点 鷺と雪
北村薫
(2015/02/28 23:23登録)
 戦争の足跡が聞こえる昭和初期の、良家の令嬢の視点で描かれる「ベッキーさんシリーズ」の完結編。
 ミステリの側面よりも、このシリーズ発案のきっかけになったという、実際にあったエピソードを活かしたラストの場面が趣深いです。確かに、あり得た話なのでしょうね。このシリーズ全体が、このラストに集約されていると言ってもいいんじゃないかな。


No.518 6点 アイネクライネナハトムジーク
伊坂幸太郎
(2015/02/19 23:50登録)
 作者自身があとがきで「僕の書く話にしては珍しく、泥棒や強盗、殺し屋や超能力、恐ろしい犯人、特徴的な人物や奇妙な設定、そういったものがほとんど出てこない本になりました」と、述べております。
 確かにそのとおりで、恋愛に絡んだ連作短編集なのですが、伊坂サンらしい手法もそこかしこに散りばめられています。「伊坂的恋愛連作短編集」といったところでしょうか。
 いつもの「繋がる感」は決して嫌いではないのですが、ちょっと最終話に押し込めすぎた印象もあるかなぁ…。とはいえ、軽快で洒脱な会話は好印象だったし、種々の場面で爽快感も得られたので、全体としては楽しめたと言えます。


No.517 7点 玻璃の天
北村薫
(2015/02/15 10:50登録)
 上流階級の令嬢「わたし」と女性運転手「別宮」によるベッキーさんシリーズ第2巻。
 舞台は昭和8~9年頃の東京。上流階級の日常は変わらなく見えるものの、国家的には不穏な空気も…という状況で、その時代背景、さらに「わたし」に語らせている国家感について、非常に興味深く読みました。
 第1話「幻の橋」がベスト。ベッキーさんが運転する車の中での「やり取り」と、その際に登場する漢書の一節は記憶に残りそうです。さらに、最終話(表題作)を読んだ上で気付く真意に敬意を表して、加点します。


No.516 6点 ヴァン・ショーをあなたに
近藤史恵
(2015/02/09 22:17登録)
 文庫化して売れ行きも好調だった短編集「タルト・タタンの夢」の続編。
 前作よりも、ミステリとしての味付けは増していると思います。(とは言っても決して濃い味付けではないのですが…)また、前作の舞台が、下町の小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」内に特化していたのに対して、今回は三舟シェフの修行地・フランスでのエピソードも加えるなど、幅を持たせています。前作でここぞという場面で登場した「ヴァン・ショー(ホットワイン)」のレシピ会得秘話も、ファンとしては興味深い。
 前作同様に読み心地が良いですし、肩の荷を降ろして読書を楽しみたい気分のときにはよろしいのではないでしょうか。


No.515 7点 人間の顔は食べづらい
白井智之
(2015/02/07 21:49登録)
 ヒトクローンを工場で生産し,食用とすることが合法化された日本が舞台。しかも食べられるのは,自分の遺伝子から作られたクローンのみ。工場からは首を切断したうえで出荷される…何ともスゴイ設定です。グロい表現も少なくありませんし,現実感とか,モラル感に突っ込みたくなるとの意見もございましょう。
 一方で,ミステリとしての質は相当に高いです。探偵役が不明な中での推理の応酬,終盤の反転,ロジックの冴え,伏線の配置…素晴らしい。横溝正史ミステリ大賞の最終候補に残り,有栖川有栖氏と道尾秀介氏が絶賛したとの評も素直に頷けます。
 あの点については設定上当然に考慮すべきだった…と読後に悔いた訳ですが,それ以上に,そこをグロさを含めた全体構成に溶け込ませた手腕に感心いたしました。(ちなみに,個人的には登場させた意義,というか強調的に描いた意義が良く分からない登場人物がいるのですが,何か深い意図があるのでしょうか。単に驚かせたかっただけ?…って疑問がなければ,さらに加点したくなるところ。)
 今後の活躍に期待したくなる作家であることは間違いありません。作者は千葉県出身の東北大学法学部卒とのことで,伊坂幸太郎サンの後輩に当たります。早く次回作を読んでみたいですね。


No.514 5点 探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて
東川篤哉
(2015/02/01 17:57登録)
 東川さん,またまた新キャラを持ってきました。今回の探偵役は,ロリータ服を着こなす,10歳の美少女・有紗(アリサ)。コンビを組むのが,「なんでも屋」を開業する,31歳独身の橘良太。
 この設定,人によって好き嫌いはあるでしょうが,個人的にはなかなか使い勝手が良いような気がします。人気子役を配したドラマ化を狙っているのか?(でも,事件が溝ノ口を中心とした南武線沿線限定ってのがネックか?)
 で,内容としては,正直,これまでの別キャラ短編集に比して小粒。「単に探偵役が変わっただけ?」といった印象もありますが,キャラ自体は悪くないし,有紗の両親も含めてもっと設定を活かせるような気がするので,今後に期待しましょう。


No.513 6点 奇談蒐集家
太田忠司
(2015/01/29 23:28登録)
 「求む奇談!自分が体験した不可思議な話を話してくれた方に高額報酬進呈。ただし審査あり」という新聞広告に導かれ,老若男女が,指定されたバーで「奇談蒐集家」&性別不詳の美形助手に奇談を話す…というスタイルの連作短編集。
 最終話までは典型的な安楽椅子探偵モノ。正直,真相(の一部)が判りやすい短編も多いのですが,「水色の魔人」のラスト5行や「金眼銀眼邪眼」の伏線など,個人的に好きなタイプの仕掛けもあって,悪い印象はありません。
 また,最終話「すべては奇談のために」における,連作短編ならではの纏め方も好きなタイプ。楽しめました。


No.512 6点 タルト・タタンの夢
近藤史恵
(2015/01/25 22:59登録)
 下町の商店街にある,小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」を舞台にした短編集。
 正直,安楽椅子モノのミステリとしては弱いです。と言いますのも,なぜこの答えと推理したのか,他にも可能性があるだろうに…っていうケースが多すぎます。しかし探偵役のシェフってば百発百中でズバズバ的中(笑)!
 とは言え,うまそうな料理の情景,これにビストロのスタッフの雰囲気も相まって,読み心地はなかなか良いです。ここぞという場面で登場する,三舟シェフ秘伝の「ヴァン・ショー(ホットワイン)」を飲んでみたい。
 ちなみに,ベストは「割り切れないチョコレート」。レストラン名同様,「パ・マル」(悪くない)な短編集でしたね。


No.511 9点 戻り川心中
連城三紀彦
(2015/01/24 09:29登録)
 この短編集は,謎ときというよりも,個人的には「反転小説」というタームも思いつくのですが,しかしながら,その反転に「やーい,騙された」というような軽さは一切なく(そういう軽さも決して嫌いではないのですが…),読後に唸らざるを得ない短編揃いです。
 ベストはやはり表題作「戻り川心中」。そして,ともに遊郭街を舞台にした前半の2作品「藤の香」「桔梗の宿」の構成や作品世界も見事。「桐の柩」のホワイ,「白蓮の寺」の反転も良いですが,他の3作に比べると一段落ちる印象かな。
 理論では必ずしも割り切れない何かが,人としてそれぞれあるわけで,だからこそ哀しさも生まれるし,ソコも含めて,人生の意義があると思うのです。反転や伏線と言った技巧もさることながら,この点を流麗な筆致で綴られていることが何よりも素晴らしい。私などは,物語に完全に身を委ねながら,何とも言えない満足感で読み終えることができました。
 パズラーとしての傑作短編集はいくつか思い浮かびますが,もっと広い視点でミステリーを捉えた場合,年代を超えて確実に上位に位置する伝説的な短編集と言えましょう。

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