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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:1230件

プロフィール| 書評

No.750 7点 最後の命
中村文則
(2018/05/22 23:32登録)
 少年時代の、ある事件を共有する幼馴染から、7年ぶりに突然の連絡があった。「お前に会っておきたい」。その後、“私”の自室で馴染みのデリヘル嬢の死体が発見される。当初疑われる“私”。しかし、部屋の指紋から幼馴染が最有力容疑者となり…という流れ。作者として初めて映像化された作品でもあります。
 「ミステリー的要素の色濃い文学」なのか「文学的要素の色濃いミステリー」なのか、その境界線上にあるような作品なのでしょう。でも、自分としては、これは実は精巧に意図された「藪の中」的作品なのではないかと思っています。
 読み返してみますと、なかなか細やかな伏線が配置されています。で、とある人物が辿り着いた一定の推論も示されます。ここで、その裏まで推論(妄想?)したくなる私は、少数派なのか否か。深読みし過ぎなのかなぁ?
 勿論、文学としても読ませる内容ですし、時にはこういう読書もいいよなぁ…と思わせてくれた作品でした。


No.749 6点 小説X あなたをずっと、さがしてた
蘇部健一
(2018/05/19 21:46登録)
 中編「あなたをずっと、さがしてた」(表題作)と短編「四谷三丁目の幽霊」で構成。
 表題作は「衝撃の恋愛ミステリー」という触れ込み。”衝撃”のレベル感も含め、敢えて多くは語らないけれども、まぁ、小奇麗に(?)まとめていると思います。
 ・・・というような一般的な感想は聞きたくないという声がこのサイト閲覧者から聞こえてきそうな気がします(空耳ですか?) では、率直な感想を。「どうしちゃったんだよ、蘇部センセ!『六とん』系をもっと読ませてくれよ。事情もあるんだろうし、時にはソッチ系に行ってもいいけど、また戻ってきておくれよ。俺、本当は脱力系が好きなんだよ!」
 そういう視点では、短編の「四谷三丁目の幽霊」の方が、多少なりとも(私の思う)作者らしさが表れているような気がします。それと、全般にわたる拙い文章にも、作者らしさを感じざるを得ず、何故かほっとします。
 まぁ、短時間で読めてしまうし、隠れ蘇部ファンは読んでみてもいいかも。


No.748 6点 人間動物園
連城三紀彦
(2018/05/17 23:41登録)
 事件の経過は、なかなかスリリングで楽しめました。違和感というか、疑問がどんどん広がっていく流れの中で、終盤まで持っていかれます。構図の転換(正確に言えば、1つ目の転換)も、さすがは連城と感心。
 一方で、2つ目の転換というか、端的には犯人の動機ということになるのでしょうが、ちょっと理解しがたい面がありました。エピローグはちょっと読み疲れを感じたりも。


No.747 6点 象と耳鳴り
恩田陸
(2018/05/12 21:20登録)
 2000年版の「本格ミステリ・ベスト10」で第5位を獲得した短編集。恩田作品の中でも、ミステリ度が高い作品なのであろうということで、手にした次第です。
 しかし、ロジックというよりも、感性で読むべき作品も多かったかなぁ …という印象。スッと引き込ませてくれるリーダビリティの高さもあって、好短編集であることは間違いないと思うのですが。


No.746 4点 太宰治の辞書
北村薫
(2018/05/06 21:55登録)
 「円紫さんと私」シリーズの最新作。前作の「朝霧」から17年を経た「私」は、引き続き「みさき書房」に勤め続けており、「連れ合い」との間に中学生の息子がいる境遇。オンタイムで接していた方々にとっては、これだけで、郷愁?を感じるのではないでしょうか。
 しかし、ここは、この作品単体での冷静な評価を。正直、「私」の姿を借りた、作者の文学論評(とまでは言わなくても文学的エッセー)の場と感じずにはいられません。確かに、個人的には、知的好奇心をくすぐられたし、太宰の「女生徒」も読み返したりしたのですが、自分勝手な一言を申し上げるとすれば「自分が望むこのシリーズとは、そういう類のものではなかった」ということになります。文学的な素養なく、生れて、すみません。


No.745 5点 珈琲店タレーランの事件簿4
岡崎琢磨
(2018/04/29 22:43登録)
 シリーズ初の短編集(だと思う)。
 悪くない短編もあるのですが、全体としては、青臭さもあって、積極的なコメントは差し控えたい。切り上げてこの点数というのが率直な印象かな。


No.744 5点 少年たちのおだやかな日々
多島斗志之
(2018/04/22 23:22登録)
 各短編の主人公は中学生男子で統一されており、タイトルとは裏腹にというか、いや、ある意味でタイトルどおりと言うべきなのか、決しておだやかではない少年たちが描かれています。
 その描き方や、反転を含めた構成は巧いと思います。ただし、結末は爽やかとは程遠いものばかりで(単に後味悪いだけの短編も…)、まぁ何というか、癒されたい気分の時にはおススメできませんね。


No.743 7点 失踪HOLIDAY
乙一
(2018/04/19 22:01登録)
 短編「しあわせは子猫のかたち」と中編「失踪HOLIDAY」で構成されています。
 「しあわせは子猫のかたち」は、真相自体は容易に想像できるのですが、幽霊との共同生活がほのぼのとしているし、いわゆるイイ話で雰囲気はいいですね。
 「失踪HOLIDAY」については、芳しくない評価もあるようですが、ミステリーとしてなかなかの良作ではないのかという気がします。正直、私は反転を想像することはできず、完全に嵌められました。読後感も含めて、結構好きです。


No.742 7点 顔のない肖像画
連城三紀彦
(2018/04/15 22:24登録)
 反転の妙、そして何よりも作者の騙しの技巧が楽しめる、高水準の短編集。7つの各短編の当初の発表時期が1983年~1993年と一定の幅があるからなのか、バラエティも豊かです。
①「潰された目」:これは巧い。敢えて多くは語りますまい。
②「美しい針」:似たプロットの他作家の作品が思い浮かんでしまい、キモの部分は序盤で気付いてしまった。ちょっと損した気分。
③「路上の闇」:緊張感溢れる展開の後のオチの妙。私は全然気づかなかったですね。
④「ぼくを見つけて」:連城の十八番「誘拐モノ」。流石です。
⑤「夜のもうひとつの顔」:これも巧い。やられた。好編。
⑥「孤独な関係」:油断ならない展開から、ある意味驚きの真相。反則ギリギリの感もあるが、部長の気持ちはよく分かる。
⑦「顔のない肖像画」:言葉足らずを承知で書けば、「滅びの美学」的な連城らしさを感じる作品。個人的には疑問符の箇所がないではないが、まさに「反転」と言える舞台設定も含めて、お見事。


No.741 5点 さらば愛しき魔法使い
東川篤哉
(2018/04/11 22:13登録)
 「魔法使いマリィ」シリーズ第3弾の短編集。終わり方からして、シリーズ完結なのかしら、その割には唐突すぎるというか、あっさりしているような気もするなぁ…と思っていたら、新たに続編短編も書かれているとのことで、暫くはこのシリーズが続きそうです。
 内容としては、ワンアイディアを活かしたものばかりで、いかにも日常生活の中で思い浮かびました的なものです。軽く読みたい気分の時にはフィットすると思うのですが、評価は分かれそうですね。個人的には、第1話のポルシェネタなど、何気に好きなタイプなのですが。
 一方で、今回はラブコメ的な割合が高く、ギャグも上滑り気味な印象。この点については消極的な評価になるかな。


No.740 6点 珈琲店タレーランの事件簿3
岡崎琢磨
(2018/04/07 22:56登録)
 関西バリスタ大会中に起きた異物混入事件に、出場者の一人でもある美星が挑む。2年前の同大会でもトラブルが起きていたらしい…。
 個人的には、2年前のトラブルの真相も含めて、それなりに捻りが効いているし、ロジカルでもあると思うのですが、突っ込みたくなる点も多々ありましたねぇ。現実味もないですしねぇ。こんな悪意渦巻く大会ってのもねぇ。


No.739 6点 人形はライブハウスで推理する
我孫子武丸
(2018/04/04 23:14登録)
 人形探偵シリーズの4作目。今回は短編集です。短編ごとに、出来栄えはマチマチといった印象ですね。
 ベストは、5話目の「腹話術志願」でしょうか。本格度の高いなかなかの好短編。最終話「夏の記憶」も、インパクトという点はさておき、ちょっと切なくなる物語で好印象。
 嘉夫と睦月の関係については…まぁ、良しとしておくかってところでしょうか。続編は出ないのかなぁ…。


No.738 6点 共犯マジック
北森鴻
(2018/03/29 23:03登録)
 連作短編の名手らしい作品で、昭和史に残る数々の事件の使い方(?)も上手いです。よくもまぁ、繋げたよなぁ…と感心するのですが、それがもの凄い爆発力を生んでいるものでもないよなぁ…という気もいたしました。


No.737 6点 美女
連城三紀彦
(2018/03/26 23:14登録)
 8篇から成る短編集。個人的な感想としては、ハマった作品と、そうでもない短編の両極端に分かれましたね。ベスト3は、順不同で「夜の右側」、「夜の二乗」及び「美女」。
 「夜の右側」は、いかにも連城らしい凝縮型の捻り。「夜の二乗」は、本格どっぷりの上質な連城作品。ある1点に意識が及ぶか否か。「美女」は、大人こそが噛みしめるべき作品で、これまた連城らしい。個人的には、ミステリー云々は措きつつ、最も記憶に残るかも。
 解説で一押しの「喜劇女優」については、その趣向は認めつつも、結末が想像しやすいし、何よりも途中から面倒くささが先立ってしまって、前述の3作品には及ばない印象。単純に私の読み方が浅いだけのような気もするのですが。


No.736 7点 遠縁の女
青山文平
(2018/03/21 23:28登録)
 3編で構成される短編集。どの短編にも、自分の中にきっちりとした「筋」を持つ主人公が登場します。(多少の語弊はあるかもしれませんが)清々しく、ちょっと羨ましくもあります。
 ベストは、最もミステリーとしての味付けのある「遠縁の女」でしょうか。最初から最後まで、隙なく固められている印象で、グイグイ読まされました。
 他の二編「機折る武家」と「沼尻新田」も、しみじみとイイです。特に「機折る武家」は、ミステリーとは言い難いし、派手な展開があるものでもないのですが、様々な点で心に沁み込んできましたね。


No.735 6点 贋作『坊ちゃん』殺人事件
柳広司
(2018/03/18 20:14登録)
 四国から東京に戻って3年後の「坊ちゃん」が、赤シャツ自殺騒動の真相を追って山嵐とともに元の赴任地を再訪する…。
 本家「坊ちゃん」の詳細は忘れてしまっていたものの、「いかにも坊ちゃんが言いそう、又はやりそう」という描き方がまずは楽しい。他の登場人物の使い方を含めて、本家への作者の愛情を強く感じましたね。
 赤シャツ自殺騒動の真相はもとより、本家「坊ちゃん」が全く違った姿で解釈されていく様が読みどころで、久しぶりに「坊ちゃん」をじっくりと読んでみたくなりましたね。


No.734 5点 人形は眠れない
我孫子武丸
(2018/03/15 21:56登録)
 文庫版のあとがきで作者自身が述べているとおり、ミステリ味はどんどん薄くなってきていて、キャラクターの方に力点が移ってきています。気軽に読む分にはいいのではないか…といった印象ですね。ちなみに、私は最終盤に明かされる「関口の母親の正体」が唯一の(?)ツボでしたね。


No.733 5点 御子柴くんの甘味と捜査
若竹七海
(2018/03/12 23:48登録)
 御子柴刑事って誰? 小林警部補の元部下って言われても、そもそも小林警部補って誰? 短編集の「プレゼント」に登場していた?ほほう、娘のセーラームーンの自転車に乗って現場に駆け付けた警部補ねぇ、確かに記憶にはあるな。でも相棒の若い刑事なんて覚えてないよねぇ…って感じ。
 その御子柴刑事、長野県警から警視庁に出向し、両者の様々な調整をさせられているという設定で、その気苦労については、立場は違えどかなり身につまされました。「調整」って、漢字で表すとたった2文字なのに、実際はもの凄く複雑だし、そもそも自分の心はまったく整うことがないのですよねぇ。頑張れ御子柴クン、っていう印象だけが残りそうな連作短編集かも。


No.732 5点 マスカレード・ナイト
東野圭吾
(2018/03/11 21:25登録)
 若い女性の殺害事件に関する密告状が警視庁に届きます。犯人は、ホテル・コルテシア東京で行われる年越しカウントダウンパーティ(通称:マスカレード・ナイト)に姿を現すという…。
 コンシェルジュの山岸尚美と刑事の新田浩介のコンビ、それを取り巻く同僚たち、怪しげな客たち等々、それぞれ興味深く、次々ページをめくらされました。流石に達者ですよねぇ。なお、後半の怒涛の展開は、なるほどと思わせる部分もあるにはあったのですが、全体の構造としては少なからず唐突感がありましたねぇ。これは気付けないよなぁ…。
 ちなみに、高級ホテルって、客の我が儘にそんなに対応してくれるものなの?何か嫌みに感じたなぁ。もちろん、単なる僻みなのだけれども。


No.731 5点 松谷警部と向島の血
平石貴樹
(2018/03/03 22:00登録)
 松谷警部シリーズ第4作にしてシリーズ完結編(らしい)。
 このシリーズはいずれもスポーツ界が舞台となっています。今回の舞台は「相撲」で、力士の連続殺人が起きる設定。とはいっても、凶器がカラオケのリモコンであったり、犯人が現役横綱だったり、相撲協会と貴●花親方の確執が…という内容ではございません。(2016年発表の作品ですしね。)
 このシリーズに共通しているのですが、内容としては捜査の過程を追い掛けるという側面が強く、合理的に読者が推理できるかは微妙なところ。(単に私がそのように読んでいただけかもしれないのですが。)また、肝の部分は、科学的に警察が気づくのではないかな…という気もしました。とはいえ、懐かしの更科ニッキが登場したのは少し嬉しかったかな。

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