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ミステリの祭典

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レタス・フライ

作家 森博嗣
出版日2006年01月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 7点 Tetchy
(2022/09/07 00:05登録)
森氏の第5短編集。森氏の短編は長編に比べて抒情的な作品が多く、また作中で解かれない謎が隠されている。はてさて今回はどうだろうか。

5冊目となる本書は上に書いたように既に4つのシリーズを経ており、従って収録された短編もそれらのシリーズキャラが登場するものが増え、それぞれのシリーズのボーナストラック的な内容となっており、ファンには嬉しい贈り物となるだろう。
従って本書では10作品中シリーズ物の短編が2つ入っており、従来入っていたS&Mシリーズ物はなく、VシリーズとGシリーズ物になっている。但しGシリーズは犀川と萌絵が再登場しているシリーズなのでどちらかと云えばS&MシリーズはGシリーズに移行したと考えるのが妥当だろう。
そして最後の「ライ麦畑で増幅して」はネタバレサイトでこれが後のXシリーズに出てくるキャラクタ2人だというのが判明した。またもこの短編集は別のシリーズへの橋渡し的役割を果たしていたわけだ。

本書のベストを挙げると「コシジ君のこと」と「刀津野診療所の怪」になる。
前者は実にシンプルで泣かせに来ているのは判っていても、こういう話に私は弱い。コシジ君をかつての自分の同じようなクラスメイトに重ねてしまうからだ。そして彼が夢の中でも冴えない風貌で冴えない仕事を一生懸命している姿が主人公に自分のことを訴えかけているように思えた。
後者はもうこれまでのシリーズが見事なまでに結びつく、特にまだVシリーズとS&Mシリーズの関係性を知らなかった頃に読んだ短編「ぶるぶる人形にうってつけの夜」が伏線となっていたことが判明するこのカタルシスが堪らなかった。森博嗣氏はシリーズ読者を裏切らない!いや寧ろ幸せにしてくれる!そう感じた短編だ。

あと珍しく犀川の駄洒落が聞いていた。
「ふうん」「何ですか、ふうんって」「漢字変換する前」は実に見事!爆笑してしまったし、佐々木睦子の「カナダの首都みたいな顔をしている」「トロントしている」も誤ってはいるが実に面白い!

とまあ、さすがに短編集も5集目になると1集目のようなそれぞれの短編に込められた濃度の高さは低くなったが、逆にここまで来るとシリーズ読者、いや森作品読者にとってのサプライズと思いがけないプレゼント、即ち読んできた者だけが判るご褒美をシリーズの短編で感じるようになった。

しかし毎回思うが以前書かれた作品の伏線が数年後に活かされ、そしてそれらが矛盾やパラドックスなく繰り広げられる物語世界の広さと深さを思い知らされる。

森作品は1作1作のミステリの深度は浅いが、作品を重ねるごとに著作全体に仕掛けられた謎やリンクが立ち上り、むしろそちらの深みこそが醍醐味だろう。森作品は1作1作がコラージュの1片1片に過ぎなく、それらが集まって壮大な絵が描かれるのだ。

読めば読むほど天才性が際立つ作家だ。

No.3 6点 まさむね
(2018/07/17 23:31登録)
 文庫版で読了。10の短編・掌編で構成されています。うち、収録作品の中では長めの2短編の感想を。
 「ラジオの似合う夜」は、それ単体でも読めるのですが、Vシリーズを読まれてからの方が「ああ、あの方ですね」という付加価値があって、より楽しめると思います。
 「刀之津診療所の怪」も同様に、それ単体でも読めます。で、登場人物からして、こっちはGシリーズを読んでからなのでしょうね…と思わせておきながら、実はVシリーズとの関係が重要だったりするパターン。いや、正確にはVシリーズというよりも、これまで発表されてきた短編集の中の1編が重要なのかも。でもコレって、個人的には終盤1ページで「ん?何だっけ。記憶にあるような、ないような…」と気になり、最終的には他の方のブログで判明できたもの。確かに判明した後は「!」となりましたが、普通はソコまでは把握していないのではないかなぁ。真に楽しめるのは、コアな森ファン限定のような気がします。
 他の短編&掌編は、如何にも作者らしい作品で、人によって好き嫌いが大きく分かれると思いますが、個人的には積極的な評価は控えたいかな。ちなみに、最終話の「ライ麦畑で増幅して」は、私が未読の作品(Xシリーズ?)と関連がありそうなのだけれども、現時点ではよく分からなかったですね。

No.2 3点 虫暮部
(2017/07/31 10:28登録)
 殆ど内容が無いような話を文章の個性だけでどこまで引っ張れるか実験した、が概ね失敗した、という感じ。辛うじて「砂の街」は面白いが、この本に収録してしまうと、基本的に同類である他の短編に埋もれて、その良さが際立たない気がする。

No.1 6点 ムラ
(2011/10/29 16:36登録)
刀之津診療所の怪だけのためにある短編集。
これまでもシリーズ(あと短編)全部読んだからこそのサンプライズがあった。
他の短編は正直な話よくわからなかった。

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