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ミステリの祭典

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λに歯がない
Gシリーズ

作家 森博嗣
出版日2006年09月
平均点4.14点
書評数7人

No.7 7点 Tetchy
(2025/01/26 23:31登録)
これまで煮え切らない真相にもやもやしていた読後感をこのシリーズでは抱いていたが、今回初めてミステリとしての謎解きがストンと腑に落ち、カタルシスを感じることが出来た。

建設会社の研究所内で密室状況の中、4人の射殺死体が発見される。その身元はいずれも研究所の人間ではなく、いずれも50代以上の年配者でしかも全員歯が抜かれ、ポケットには「λに歯がない」と謎めいたメッセージが書かれたカードが入っていた。
本書の事件は上のたった4行で纏められるシンプルな物。
今回はこの被害者全員の歯が抜かれていた奇妙な状況と「λに歯がない」という奇妙な言葉にも明快な答えが―物語ではそれも一応は想像の範疇に過ぎないとされてはいるが―示される。しかもそれらは思わずハッとさせられる本格ミステリが持つ独特のカタルシスを伴って提供される。

その事件の真相に気付くまでに西之園萌絵と犀川は事件について語るうちに死について語るがこれがまた興味深い内容だった。それは次のような内容だ。

例えばもっと生きたいと願って治療を続ける人ともう生きたくないと自殺を選ぶ人の理由のレベルは同じで、なぜなら自然の摂理に逆らおうとする行為をどちらも選択しているからだ。しかしそれでも死はその時点で終わりであるのに対し、生きようと抗うのは継続するという意味で上位である。
そして人間誰しも生きたいと願っているわけではなく、死を選ぶ者もいれば人を殺したいと思う人もいる。そして生きている人は自殺を保留している人だとも。人はいつでも死を選ぶことが出来るからだ。長生きは選択肢ではあるが必ずしも叶うわけではない。

そしてここから犀川は真賀田四季は我々凡人のように死を選ぶ自由という発想から永遠の生を選ぶという発想、つまり死んだ人間をもう一度生かすという発想をするだろうという考えに至る。

これはまさに百年シリーズへの兆しではないか。ここからあのミツルへ繋がっていくのか。しかしそれはまだ当分先の話のことだ。

そしてこのGシリーズでは先に述べた真賀田四季の影が常に事件の裏側に見え隠れしているが、本書では逆に今回の事件が四季が関わったものではないと各務亜樹良と思しき女性が登場し、赤柳と話す。そしてその際、なぜ警察が真賀田四季を捕らえることが出来ないのかについて彼女はこちらは分散型で事件を防ぐ側は集中型だからだと説く。

つまり1つのチームとして動いている警察はそれぞれのチームがやるべきことを把握して独立して動いている真賀田四季側が複層的に起こす事件の対処に叶うはずがないと。
しかしこれはやはり真賀田四季という圧倒的なカリスマがいるからこそ成り立つのだろう。
自由度をそれぞれのチームに持たせながらも決してベクトルを逸脱することなく、また妙な野心を持って下剋上を成し遂げようとすら思えないほどの圧倒的な天才性を放つ彼女だからこその分散型組織ではないか。

被害者全員の歯が抜かれていたのはこの田村香への復讐ゆえだ。そして謎めいたメッセージ「λに歯がない」のλ(ラムダ)は田村の逆さ読みだった―これは萌絵の憶測だが、正解だろう―。

そして今回最も不可解な謎だったのがセキュリティシステムで出入りを管理されていた研究棟に入った方法なのだが、これも実に鮮やかに解き明かされる。

事件のあった建物は免振構造になっており、30cmぐらい建物が移動するのだが、この構造を利用して油圧ジャッキで建物を動かして隣接した建物との隙間を広げ、窓から侵入したのだった。
いやあ、これはもう建築を専門にしているからこその密室事件であり、自分も同類だからこそこの真相には感服した。
いやはやこの一連の謎解きには建築に携わっている人には実に堪らない真相だった。正直これまでのシリーズで一番面白いと感じた。

ただやっぱり謎は謎として残して物語は閉じられる。
例えば今回は一連のギリシャ文字が付随していた事件に見せかけた、研究所々長による偽装工作が施された事件だったが、それを一連の事件とは関係ないことを公表するために赤柳が公安から駆り出されたり、海外に逃げていた保呂草が隠密裏に日本に戻って逢った葛西という人物についても謎のままだ。やはりこれらはシリーズ読者が理解できるようになるにはシリーズ最終作を待たないといけないということか。

しかし真賀田四季の息の掛かっていない事件が一番腑に落ちたというのは何とも皮肉だ。それは私のような凡人には天才の意図が容易には判らないということなのか。

それならそれでも構わない。これくらいのミステリが私には性に合っているようだから。

No.6 5点 虫暮部
(2018/09/03 11:24登録)
 何を以て復讐の成就と見做すか、は当事者の胸先三寸と言う側面があるわけで、犯人に奇矯な行動を取らせがちな森博嗣作品とは親和性が高いと言える。って勿論皮肉だよ。
 第2章の“そんな駄洒落を言うために、普通四人も殺さないでしょう?”という台詞は大胆な伏線!途中で出て来たコンクリートミキサ云々は結局ダミー?

No.5 3点 まさむね
(2018/08/04 21:56登録)
 密室の研究所内で、四人の銃殺死体が発見された。殺された四人とも、死後に歯を抜かれていた…。
 謎自体は興味深いのです。でも、解決編は尻すぼみで、もの凄くがっかり。あまり語りたくないほどに残念。うーん、ちょっと評価できないなぁ。

No.4 3点 yoneppi
(2012/06/23 13:10登録)
密室トリックや動機に手を抜きすぎじゃね。もう保呂草とか気になって読んでるだけ。

No.3 2点 ムラ
(2011/08/31 23:37登録)
悪くは無いんだけど、50Pくらいの短編向けな作品の気がする。
歯が無い理由も平坦なオチに収まっている。

No.2 5点 VOLKS
(2007/12/24 12:29登録)
Gシリーズ毎度のことだが、海月よりも先にその場にいなかったS氏が謎を解いてしまうのが許せないw
また、作品の仕上がりに他のシリーズとの関わりが強すぎるのも個人的にはどうかと思う。

No.1 4点 野間
(2007/08/01 17:46登録)
犀川先生と西之園萌絵の会話が楽しかったです。
物足りない感じがあります。
四人が歯を抜かれて殺されていると云う魅力的な設定ですが、現実で出来るトリックに拘り過ぎたのか読後の驚きが余りありませんでした。

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