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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1157件

プロフィール| 書評

No.1137 8点 出版禁止 死刑囚の歌
長江俊和
(2024/02/03 07:41登録)
 二人の幼児が殺害される事件(柏市・姉弟誘拐殺人事件)が発生。犯行を自供した男の死刑が確定する。当該事件の22年後、幼児の両親が殺害される事件(向島・一家殺傷事件)が発生。死刑は既に執行されており、男の犯行はあり得ない。両事件の裏には何があるのか…。
 複数のルポルタージュや雑誌記事を読み進める形で、徐々に真相が明らかになっていきます。先が気になってグイグイ読まされました。不穏な空気が序盤から漂っているので、それなりに注意深く読んできたつもりだったのですが、ラストには驚かされました。「どういうこと?」と首をひねった私は、きっとすごく幸せな読者なのであろうと、暫くして自分を励ましたりもしました。(よく考えれば、気づけるのでしょうが…)和歌の解釈は、もはや解説サイト任せなダメな私ではありますが、こういった点も含めて、純粋に面白かったですねぇ。


No.1136 6点 汚れた手をそこで拭かない
芦沢央
(2024/01/27 17:33登録)
 短編集。濃淡はあるけど、人の心の絶妙な悲哀を感じて、ホラーとは違った「怖さ」を感じることができます。でも、好き嫌いはあるでしょうねぇ。爽快な気分になれるものでもないですし。
①ただ、運が悪かっただけ:過去の自分に悩む夫。末期癌の妻が解き明かす真実は。嫌な奴も登場するけど、読後感は悪くないかも。
②埋め合わせ:社会問題と言ってもいい、学校のプールの水問題。教師に賠償請求するのは社会的に正しいのかねぇ…。で、この作品の主人公が悲しいほどにダメ。それに輪をかけて…
③忘却:アパートの隣人が熱中症で孤独死した。原因は…。温かさと怖さと。
④お蔵入り:色んな人が色々とダメ。嫌な気分になれます。
⑤ミモザ:元カレもダメだけど、料理研究家の主人公もねぇ…。これも嫌な気分になれます。


No.1135 7点 アリアドネの声
井上真偽
(2024/01/25 21:47登録)
 大地震で壊滅的な被害を受けた地下構造体(地下都市)に取り残されてしまった方を、ドローンを駆使して救助する物語。しかも要救助者は、「見えない、聞こえない、話せない」という複数のハンディキャップを抱えていた…。
 サスペンスとしての救出シーンも悪くないのですが、そのラストには素直に驚き、そして感動しました。色々な意味で「誘導」が巧みです。
 能登半島の報道に接しながらの読書だったこともあり、個人的には様々考えさせられもしました。
 ちなみに、設定的に「方舟」と近しいところがあるように見えるかもですが、方向性は全然違っています。どちらの作品も好きですね。


No.1134 6点 一千万人誘拐計画
西村京太郎
(2024/01/22 20:41登録)
 5編からなる短編集。主人公のキャラも内容も画一的ではないので、ワクワクしながら読み進められると思います。初期の西村短編の奥深さを感じることができるのではないでしょうか。長編に活かされたと思われる短編もあって興味深かったです。
 「受験地獄」は、他の短編集で既読。皮肉な結果が印象に残ります。
 「第二の標的」、「一千万人誘拐計画」では、平刑事時代の十津川さんが捜査に当たります。イケイケで結構やんちゃです。表題作は、頭脳戦というよりも心理戦?
 「白い殉教者」、「天国に近い死体」では、徳大寺京介が探偵役。ハウをメインに、本格度は高いです(いずれも多少無理のあるトリックではありますが)。


No.1133 7点 私雨邸の殺人に関する各人の視点
渡辺優
(2024/01/20 23:37登録)
 クローズドサークルでの密室殺人。複数の視点での物語の進行。確たる探偵役はおらず、各々が推理を開陳して…という、正統派フーダニット作品。目新しさという観点では弱いし、動機も弱いと思うのだけれども、ロジカルな本格作品というのは、やっぱりいいものですな。締め方も良いですねぇ。
 昨年末の各種ミステリランキングで、もう少し評価が高くても良かったのでは?…などと思いましたね。目立ちはしないけど、佳作とは言えると思います。


No.1132 6点 アミュレット・ホテル
方丈貴恵
(2024/01/17 21:47登録)
 犯罪者御用達のホテル「アミュレット・ホテル(別館)」を舞台にした短編集。
 銃火器や毒物、偽造パスポートに至るまで、電話一本で部屋にお届けしてくれるという、犯罪者にとっては夢のようなホテル。一方で、利用者には「ホテルに損害を与えない」「ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない」という、厳格なルールが課されています。仮にホテルで事件が起きた場合、警察の捜査は一切入れさせないのですが、代わりに登場するのが「ホテル探偵」で、事件の一切の「処理」を任されています。
 こうした設定は、ちょっとユーモラスな感じもあって、個人的には嫌いではないです。各短編に工夫が施されていて、ロジックも効いています。楽しめると思います。
 しかし何だろう。ちょっと入り込みにくい短編もありました。作り込みすぎているというか…。もしかして我儘な読者なのかな?


No.1131 7点 変な絵
雨穴
(2024/01/10 21:57登録)
 すみません。売れていることは当然に把握していたのですが、「自分好みの作品ではないのだろうなぁ…」と勝手に思い込み、これまで手にしてきませんでした。思い込みって良くないね。損するね。反省しています。
 全体を俯瞰すると、しっかりと練られた構造。何となく予測しやすそうなのだけれど、作者の術中に嵌るところもあって、個人的には十分に満足できる内容でしたね。作中のブログを実際に閲覧できるのも一興。一方、複数の局面で「絵」を噛ませた必然性が高いとは言い難く、特段「絵」縛りに拘らずとも、内容自体で勝負できたような気もします。勿論、効果もあると思うのだけれど。
 前作「変な家」も読んでみようかな。


No.1130 6点 福家警部補の挨拶
大倉崇裕
(2024/01/08 15:46登録)
 倒叙形式の短編集。刑事コロンボファンを公言する作者だけあって、コロンボ愛に溢れています。マイベスト短編は、科警研OBとの対決「オッカムの剃刀」でしたが、解決シーンはコロンボの名作「逆転の構図」を思い出しましたね。
 犯人は、私設図書館長、科警研OBの大学講師、女優、酒造会社社長といった一筋縄ではいかなそうな人物で、福家警部補との知的対決が楽しめます。どの短編も、最後のシーンは古畑任三郎のテーマ曲が耳に響きそうな感じ。倒叙形式はあまり好まないのだけれど、このシリーズは好きになりそう。


No.1129 7点 焰と雪 京都探偵物語
伊吹亜門
(2024/01/06 12:26登録)
 大正時代の京都を舞台とした連作短編集。警察を辞めて私立探偵となった鯉城武史と、伯爵の落とし子である露木可留良が事件の真相に迫ります。
 第一話「うわん」は、結構あっさりとした結末で多少肩透かし。でも読み続けるべし。第二話「火中の蓮華」、第三話「西陣の暗い夜」で人間の情念を示しつつ、読みどころは第四話の「いとしい人へ」。その流れでの最終話「青空の行方」もハードボイルドタッチで好印象。
 一般的なバディものとは一味違った味わいでした。6.5点を切り上げてこの採点。


No.1128 8点 十戒
夕木春央
(2023/12/30 09:24登録)
 衝撃度という点だけで見れば昨年の「方舟」に及ばないものの、この作品も相当に良質な本格作品。犯人とコミュニケーションがとれる「孤島モノ」の設定が秀逸だし、足跡のロジックも好印象。ラストも、最初は〝違和感〟レベルであったけれど、気づけばなるほど、なるほど。これも印象深い。


No.1127 8点 可燃物
米澤穂信
(2023/12/23 09:51登録)
 作者の力量を再確認いたしました。どの短編も無駄のない流れですが、決して無機質ではなく、グイグイ読ませます。その中での転換が実にお見事。
 マイベストは思わず唸った「命の恩」。次点はタイトルも秀逸「本物か」。凶器は何か「崖の下」も良作で、いずれも盲点を突く転換がポイント。その後に「ねむけ」「可燃物」と続く印象。
 良質な警察小説短編集と言えるのではないかな。


No.1126 7点 臨場
横山秀夫
(2023/12/17 22:54登録)
 作者の短編集の中でも上位に位置付けたくなる、高水準の短編集。
 検視官を主人公として、事件の意外な結末を見抜くという基本線は勿論のこと、それに事件の関係者の心情もキッチリと噛ませつつ反転させていく構成力には感服いたします。ちょっと無理筋な点もなくはないけれども、とにかく読ませます。さすがは短編の名手。


No.1125 7点 女が死んでいる
貫井徳郎
(2023/12/12 23:07登録)
 文庫版の解説でも触れられていたのですが、実は貫井さんの短編集って少ないのですよねぇ。実際、私は「被害者は誰?」しか読んだことがないし。短編も巧い作家なのに勿体ない…ということで、現時点での最新短編集(実は四半世紀前の短編も多く収録されているのだけれどね)を手にした次第。
 作者らしい反転系が中心なのですが、短編自体のバラエティは豊かで、次の短編はどうなんだろう…と期待しながら読むことができます。「殺意のかたち」や「憎悪」、「母性という名の狂気」あたりで作者の技巧を堪能しつつも、個人的には「レッツゴー」の軽み&深みも好み。この短編、好きだな。
 ちなみに、「殺人は難しい」の答えは、多くの方が気づくのではないかな。


No.1124 5点 モップの精は旅に出る
近藤史恵
(2023/12/07 22:27登録)
 シリーズ第5弾、そしてシリーズ最終巻。前作は長編だったのだけれど、今回は短編集に戻っています。
 ミステリとして特段目立つ部分はない(むしろ犯人は分かりやすい)のですが、キリコと大介の夫婦関係も好ましく、読み心地が良いです。ミステリ的な側面は別としても、安心して読める、結構好きなシリーズだっただけに、これ以上読めないのは残念。


No.1123 8点 密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック
鴨崎暖炉
(2023/12/05 20:18登録)
 前作も良かったのだけれど、続編はそれに輪をかけて楽しかったですねぇ。軽快でコミカルな語り口もフィットしてましたね。
 今回の密室では特に「十字架の塔の密室」の振り切れ具合が印象的。こういうの、嫌いになれない。というか、本当は大好き。また、密室推しの流れの中での最終盤のネタも嫌いじゃない。結構驚いちゃったりして。
 ちなみに、他の豪快系ネタも含めて「いやいや、犯行時に誰かしら気づいちゃうだろ、普通!」等々の考えは、楽しい読書の妨げになるので早々に捨て去りました。そういった考えこそ楽しいのだ、という説もあるのですが。


No.1122 7点 青き犠牲
連城三紀彦
(2023/11/28 19:10登録)
 ボリューム的にはコンパクトだけれど、中身は濃縮しています。ギリシャ悲劇に絡めながら二転三転させていく展開がお見事。伏線も含めて、そこかしこに「連城らしさ」が表れています。数ある連城作品の中では目立った位置づけではないのかもしれませんが、個人的には評価したい作品。


No.1121 5点 モップの精と二匹のアルマジロ
近藤史恵
(2023/11/25 14:38登録)
 シリーズ第4弾で初の長編。
 キリコはある女性から夫の行動を探ってほしいとの依頼を受ける。その夫は、キリコの夫・大介と同じオフィスビルで働いていたが、大介の目の前で車に撥ねられ、直近3年間の記憶を喪失してしまう…。
 謎の一部は中盤で何となく予想がつくのですが、それは別として次々に読み進めたくなった作品。読みやすいし、キリコと大介の関係も微笑ましい。人の心の脆弱性に触れるのは、整体師探偵シリーズに通じるものがあります。一方で、もうワンパンチ欲しかったような気も。ちなみに、アルマジロ自体は登場しませんので、動物好きの方はご注意を(そういった観点で手に取る人はいないか…)。


No.1120 6点 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1
高木彬光
(2023/11/18 22:42登録)
 よく言えば、昭和の薫り溢れる短編集。雰囲気が堪らないですね。一方で、言い方を変えると「古い」ということにも…。
 個人的には「妖婦の宿」がベスト。犯人当て短編として誉れ高いことも頷けます。次点が「影なき女」の階層性か。「白雪姫」も嫌いではないけれど、他の短編は…といった印象。
①白雪姫:「雪密室」だけに着目するとアレだけど、トリッキーな短編ではある。
②月世界の女:人間消失モノ。雰囲気は嫌いじゃないけど真相は見えやすい。
③鏡の部屋:これも人間消失モノ。鏡の部屋だからねぇ…ってタイトルどおりか。
④黄金の刃:密室というよりアリバイ系?正直、ちょっと評価できない。
⑤影なき女:トリック自体は別として、なるほどよく考えられている。
⑥妖婦の宿:「犯人当て」の名作。


No.1119 6点 素敵な圧迫
呉勝浩
(2023/11/12 17:52登録)
 ノンシリーズの短編集。ミステリとしての評価が難しい短編もありますし、全体としてもミステリの味付けが強いとは言えませんが、何だろう、ひっそりと心に残りそうな短編もございました。個人的には、⑤と表題作の①、さらに当時の閉塞感を上質に伝えていた⑥を評価。
①素敵な圧迫:隙間に体を滑り込ませることによる圧迫を愛する女性の物語。
②ミリオンダラー・レイン:3億円事件がモチーフ。当時の時代背景もポイント。
③論リー・チャップリン:10万円渡さないとコンビニ強盗すると息子から脅迫される親。論破って何だろう。
④パノラマ・マシン:所謂パラレルワールドに行き来できる機械を拾った二人組。あちらの世界ではどんな悪事も可能だが…。
⑤ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について:無敗の天才ボクサーを語る。
⑥Vに捧げる行進:新型コロナウイルスが猛威を振るう中で…。


No.1118 6点 クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫
(2023/11/07 20:28登録)
 現世で惨殺された6人が、ほぼ記憶をなくした状態で天国に返り咲く。自分は間違いなく誰かに殺された。自分は誰で誰に殺されたのか?「全員もう死んでる系ミステリー」との触れ込み。
 軽快な語り口の中で、あまり深く考えずにスイスイと読み進めてしまいましたが、読後に振り返ってみると、構成はしっかりと考えられていると思います。
 一方で、個人的に乗り切れなかった部分があったのも事実。特殊設定の必然性があまり感じられず、ご都合主義的に見えたからかな。勿論、楽しく読ませていただいたのですが。

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