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ミステリの祭典

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サーカスから来た執達吏
大正ミステリー

作家 夕木春央
出版日2021年09月
平均点7.33点
書評数6人

No.6 8点 ALFA
(2024/04/10 09:42登録)
旧約聖書シリーズと交互に発表される大正シリーズの快作。

デフォルト状態の子爵家に乗り込んだ借金取りのユリ子と、担保として身柄を拘束された令嬢鞠子との冒険ミステリー。
元サーカス少女ユリ子のキャラ造形がほとんど特殊設定レベルで愉快。
立派な黒馬の名前が「かつよ」だったり、「こんにゃくが入ってます」の置き手紙(読んでのお楽しみ)など笑いのツボもたくさんあるが、本筋はちゃんとした乱歩風味のミステリー。
ただ、時効狙いの「逆監禁」はいささか強引かな。

ミステリーも、トリックがどうのロジックがどうの、という前にまずは豊かな物語として楽しめるのが肝心。
ユリ子鞠子コンビの続編を期待!!

No.5 7点 makomako
(2023/07/10 19:50登録)
方舟を読んで作者のことを知り、本作品を購入。
なかなかしっかりした本格推理小説です。
探偵役のユリ子もキャラが立っています。
ある意味とんでもないお話なのですが、本格推理小説はもともととんでもないお話なのでその点ではまあ良いでしょう。
殺人事件も宝物の消失もあり、いずれもなかなか一筋縄ではいかないのですが、最終的には鮮やかに解決となります。
その方法についてはちょっと無理があるのですが、この程度ならぎりぎりよしとしたいですね。
方舟と比べるとちょっと落ちる。期待が強かった分多少評価が落ちてしまいました。
こちらを先に読んだらもうちょっと評価が上がったかもしれない。

No.4 8点
(2023/06/05 05:52登録)
他の方もおっしゃっているように少年探偵団シリーズの雰囲気がある作品です。
時代背景も良いです。

No.3 6点 レッドキング
(2022/12/05 23:38登録)
異装文盲の元サーカス曲芸妓少女が探偵役。ヒロイン兼ワトスン役にして暗号解読役の零落貴族少女(+牝馬一頭)を相棒に、失われたお宝を求めての冒険ミステリ。見どころは、十数年前の密室お宝消失のHow・・これがまたトンデモな捻りカラクリ・・で、財宝Where?エンドに見事に収束。
※サーカス少女のエキセントリック度は・・期待した程ではなかった。

No.2 8点 虫暮部
(2022/11/17 12:12登録)
 これは堪らん。子供の頃に少年探偵団シリーズを読んだ時のワクワク感が、アップデートした上で具現化されている。更に教養小説としてもごく自然に読ませる匙加減の巧みさ。何よりもユリ子のキャラクターの勝利ではあるが、もたらされる気付きと素直に向き合う鞠子も共感度合いは高し。

 しかし、財宝消失の夜の真相で納得出来るのは半分(消失の方法)だけ。そこに至る下手人の行動、タイミングの絶妙さは、成り行きを100%知っている神のようだ。そもそも、騒いで “別荘には人がいるぞ” と知らせれば泥棒は退散するのでは?

No.1 7点 人並由真
(2021/12/05 15:22登録)
(ネタバレなし)
 明治44年10月。絹川芳徳子爵は、別荘に天文学的な価値の美術品を保管していた。それをある人物が狙うが、しかし大量の美術品は賊がその実在を確認した直後、密室状況の屋内から短時間のうちに消えていた。やがて時が流れて関東大震災を経た大正14年、借金を膨らませた貧乏子爵の樺谷忠道は、債権者である商事会社の代表、晴海兼明から返済を求められていた。「わたし」こと樺谷家の三女で18歳の鞠子は小説家になりたい夢を抱きながらも、いずれ親の借金返済のためにどこかの金持ちのもとに嫁がねばならない覚悟をしている。そんなとき、返済を求める晴海の執達吏(公式な代理の執行官)として謎の小柄な少女、ユリ子が現れた。晴海から相応に自由裁量の権限を託されたユリ子は鞠子を借金の担保として預かり、今は震災の影響でさらに行方が謎となった、あの絹川家の財宝を、ともに探すように求める。

 デビュー作『絞首商會』で、妙にミステリファンの心をくすぐった作者による、二年ぶりの長編第二作。
 プロローグにあたる冒頭で、広義の密室からの消失事件という不可解な謎を提示。
 そのあとは主人公の鞠子と、もうひとりのメインヒロインで、元はサーカスの軽業師という前身で、子供みたいな容姿、そして文盲だが知性と行動力は並外れたユリ子、この二人の動きを軸に、宝探しあり、誘拐騒ぎあり、謎の人物との出会いあり、といった冒険ものの方向でストーリーを進めていく。
 時代設定が明治~大正で、話し手が十代の、本当にちょっとだけ屈折したお嬢様ということもあり、古式な少女小説みたいな雰囲気もある(文体そのものはあくまで21世紀の作品だが)。
 特に大きな主題となるのは、秘匿された絹川家の財宝にからむ暗号の謎で、かなり練りこまれたもの。シロートには絶対に想像もつかない解法で、暗合マニアならこれは解ける人もいるのか? という感じ。相応の歯ごたえがあった。
 
 しかし作品は後半ウン分の1になって(中略)という、隠された本当の顔を表す。ジャンルミックス型のミステリともいえるが、あえてこういう構成にした作者の狙いもなんとなく感じられるような気もする(実際のところはどうなんだろうね?)。
 クロージングの余韻も含めて、結構な読み応え。
(ただし、作中のリアルを考えるなら、終盤<この状況>の維持は本当に可能かな? と思える面もあったが……。)

 期待通りに佳作以上~秀作。次作がなかなか楽しみな作家である。

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