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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.919 5点 迷宮
清水義範
(2013/09/15 21:27登録)
1999年発表。作者はミステリー作家という感じではないが、多数の著作を持つ、知る人ぞ知る人物。
本作は前から気になってた作品だったのだが・・・今回縁あって手に取ることに。

~24歳のOLがアパートで殺された。猟奇的犯行に世間は震え上がる。この殺人をめぐる犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書・・・。ひとりの記憶喪失の男が「治療」としてこれらさまざまな文書を読まされていく。果たして彼は記憶を取り戻せるのだろうか。そして事件の真相は? 視点の違う“言葉の迷路”によって、謎は深まり闇が濃くなり・・・名人級の技巧を駆使して大命題に挑むスリリングな異色ミステリー~

正直よく分からなかった・・・
そんな感覚が残った。
紹介文のとおり、冒頭からひとりの記憶喪失の男性が、「治療師」と呼ばれる男からつぎつぎと文書を読まされる展開が続いていく。
中盤~終盤と進むほど、徐々に犯罪の全体像は分かってくる。男や治療師の正体も当初よりちらつかされてはいるのだが、これは「ミスリード」だろう、という思いで読み進めていくことに。
で、当然ラストには事件全体の構図が判明するのだが、これが何ともモヤモヤしている。

結局作者は何がしたかったのか?
これがはっきりしないのがモヤモヤの主因かな。
普通に考えれば、叙述系のトリックが仕掛けられていて、ラストにはひっくり返される・・・というのをついつい予想していたのだが、それほどそんな感じでもなかったしなぁ・・・
まさにタイトルどおり、作品全体が徐々に「迷宮」に入り込んでいくような感覚、それこそが作者の書きたかったテーマなのかもしれない。

文庫版解説では二度読みを勧めているが、ちょっとキツイかなと思った。
期待が大きかっただけに尚更ギャップを感じた次第。
(眠い時間帯に読んだのがいけなかったのかも。ついつい読みながらウトウトしてしまったような気が・・・)


No.918 6点 消えた女
マイクル・Z・リューイン
(2013/09/08 13:58登録)
1981年発表。私立探偵アルバート・サムソンシリーズ五番目の長編作品。
チャンドラー風でもありロス・マク風でもある米ハードボイルド小説の系譜を次ぐシリーズ。

~二か月前に失踪した友人を探して欲しい・・・エリザベスと名乗る女の依頼で、わたしはその友人プリシラが住んでいた町へ赴いた。やがて彼女は青年実業家と駆け落ちしたらしいことが分かり、調査は打ち切られた。だが、数か月後、実業家の他殺死体が森で発見され、警察は一緒にいたはずのプリシラの死体を探し始める。わたしがエリザベスに連絡しようとすると、彼女もまた姿を消していた・・・。私立探偵サムソン・シリーズの代表作~

ストーリーとしては「典型的なハードボイルド小説」。
っていう感じかな。
舞台はアメリカ東部のインデイアナポリスとナッシュビル。
ハードボイルドというと、LAやサンフランシスコなど西海岸の乾いた風土が似合うという気がしていたので、東部の田舎町という舞台設定自体がちょっとそぐわないような気がする。
それはともかく、粗筋としてはこういう手の小説としては典型的とも言え、主人公の私立探偵サムソンはひとりの女性の行方を追うことにきりきり舞いさせられる。

中盤までは混沌としていた事件の背景が、終盤を迎えるあたりで急展開。終局に向けてがぜん加速していく・・・というのもほぼお約束だろう。
謎の女性の正体自体は特段捻りはないのだが、殺人事件の真犯人にはちょっとびっくり。
まさかこんな奴が犯人だなんて思わなかった・・・という人物だ。
登場人物たちの愛憎渦巻く関係が動機につながっており、この辺の落とし方・見せ方はさすがにうまさを感じる。

文庫版巻末で解説者の瀬戸川氏がチャンドラーやロス・マクとの比較を論じているが、両者のいいとこどりをしていて、「旨さ」こそ感じるものの、やはり両巨頭のスケール感や何とも言えない作品世界と比べるとイマイチという評価になるかな。
でも、決して駄作ではなく、水準以上の作品。
(作者を代表するもうひとつのシリーズ主人公・パウター警部も登場。いい味出してる。)


No.917 7点 奇術探偵 曾我佳城全集 戯の巻
泡坂妻夫
(2013/09/08 13:56登録)
先般書評した「秘の巻」に続き、今回は「曾我佳城全集」の後編に当たる本作について。
「秘の巻」でも触れたが、文庫版をこよなく愛する読者としては、せっかくの二分冊だし分量も多いので、分けて書評してみたい。
前半8編は「小説現代」誌、後半3編は「メフィスト」誌に掲載されたもの。

①「ミダス王の奇跡」=初っ端から実にオリジナリティに溢れる一編。「雪密室」といえば、手に垢がつきまくったようなプロットだが、こんな奇っ怪なトリックは初めて・・・。こんな姿で登場する佳城にも驚かされる。
②「天井のトランプ」=なぜか天井にトランプのカードが一枚貼られている。決して人の手の届かないところに・・・。こんな風変わりな「流行」を追ううちに事件に巻き込まれる男。そしてなぜか今回も登場する佳城・・・。まさに神出鬼没。
③「石になった人形」=本編のテーマは腹話術。腹話術といえば「人形」が思い浮かぶが・・・本編はココに重大な秘密が隠されている。
④「白いハンカチーフ」=なんだか大昔の歌謡曲を思い起こさせるタイトルだが・・・。本作はテレビのワイドショーに出演した佳城が、番組で採り上げられた事件の解決をその場でやってしまうという設定。まぁサプライズ感はある。
⑤「浮気な鍵」=これは「密室」を扱った一編なのだが、作者らしい風変わりな密室。そして、登場人物たちの妙な「性癖」も作者らしいのかも・・・
⑥「シンブルの味」=本編の舞台は日本を飛び出し、アメリカはシアトル。トリックそのものはありきたりのものなのだが、作者らしいひと捻りが効いている。
⑦「とらんぷの歌」=奇術師がお客さんの無作為に引いたトランプを当てるというマジック。これはありきたりのマジックだが、すべてのトランプの数字を上から順番に当てるというマジック・・・これにはこういうタネがあった。
⑧「だるまさんがころした」=「ダルマ」という名を持つ奇術師に纏わる一編。正直、オチはよく分からず。
⑨「百魔術」=「百物語」といえば、百の怪談を行う集まりのことだが、「百魔術」とは文字どおり百の奇術(魔術)を行う集まり・・・というわけで、その場で殺人事件が発生してしまう。
⑩「おしゃべり鏡」=「鏡」といえば、マジックには欠かせない小道具だが・・・
⑪「魔術城落成」=佳城が10年以上の歳月をかけ建築してきた「魔術城」。ついにその城が完成する日が近づく。親しい仲間うちを招いての内覧会の最中、殺人事件が発生してしまう・・・。そしてラストは「曾我佳城全集」のオーラスに相応しいもの。余韻残るよなぁー

以上11編。
「秘の巻」もそうだが、奇術とミステリーってここまで相似形なんだと認識させてくれる。
全編に何らかの奇術ネタが埋め込まれていて、もうこれは名人芸という域だろう。

ただ、後半に行くほど徐々にクオリティが落ちてきている感はある。そこがちょっと残念。
(①がベストかな。②⑤あたりも良い。⑪は別格。)


No.916 7点 隠蔽捜査
今野敏
(2013/09/08 13:53登録)
「果断」「疑心」などへと続く警察庁キャリア・竜崎を主人公とするシリーズ一作目。
「知る人ぞ知る」的な作者がブレイクするきっかけとなった作品であり、吉川英治文学新人賞受賞作。

~竜崎伸也は警察官僚(キャリア)である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は『変人』という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているに過ぎない、と・・・。組織を揺るがす連続殺人事件に竜崎は真正面から対決していく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作~

確かに竜崎のキャラクターは強烈だ。
他の方も書評しているとおり、最初はあまりにも強いエリート意識に辟易するのだが、次第に一本筋のとおった彼の考え方に惹かれるようになる。
他の警察小説でも頻繁に書かれているとおり、警察という組織は、「組織を守るためにはどんな汚いことでもする」というイメージがあるが、そういったしがらみに切り込んでいく彼の言動はとにかく痛快なのだ。
そして、家族との関係の行方も見逃せない(特に妻の態度・・・)。

今回、竜崎とともに主要キャストとして描かれるのが同じキャリアでありながら、竜崎とは全く別のキャラとして登場する伊丹。
竜崎と伊丹の関係は磁石の両極のように反発しながらも、次第に同調していく・・・
やはりこの辺り、登場人物の造形や設定はさすがとしか言いようがない。
警察小説といえば、横山秀夫や大沢在昌、佐々木譲など達者な書き手が揃っているが、やはり作者の名前もそこに加えなくてはならない・・・改めてそう感じさせられた。

まぁ純粋な「謎解き」という要素は相当薄いが、そもそも本シリーズにそういうことを期待してはいけないのだろう。
個人的には、シリーズ二作目の「果断」を先に読んでしまったのが悔やまれる。
(やはりシリーズものはできる限り順番通り読むのがベターだと再認識した)
ラストも実に爽快。


No.915 5点 骨の城
アーロン・エルキンズ
(2013/08/31 22:46登録)
2008年発表。スケルトン探偵シリーズの13作目が本作。
今回、舞台として選ばれたのはイギリス南部の小島セント・メアリーズ島。原題は“Unnatural Selection”だが、邦題は事件の舞台となったある「古城」から取られている。

~環境会議の会場となった古城近くで発見された人骨。調査に乗り出した人類学者ギデオン・オリヴァーは、骨の特徴があぐらをかく職種の人間のもので何者かに殺されたのだと推定する。やがて、数年前同じ場所で開かれた環境会議で参加者たちが諍いをしていた事実と、会期終了後参加者のひとりが熊に食われて死んでいたことが明らかに。さらに今回の参加者が城から転落死を遂げ・・・。一片の骨から不吉な事件の解明に挑むスケルトン探偵!~

とにかく「骨」、「骨」、「骨」・・・だ。
(当たり前といえばそうなのだが)
終盤に差し掛かるまでは、小島の海岸で発見された骨をめぐって、ギデオンが鑑定を進める様子がひたすら描かれる。
もしかして、最後まで殺人事件や不可思議な事件は起きないのか?という危惧を抱き始めたところで、会議の参加者のひとりが不審な転落死を遂げるという事件らしい事件が発生して、やっとミステリーっぽくなってくる。
・・・という展開で、全体的になにか「ぬるい」感覚が拭えなかった。

骨の鑑定については毎度のことながら薀蓄満載で、読みながら思わず「へぇー」と唸らされるのだが、本筋の方は特段目につくところはなし。
真犯人についても、何となく取ってつけたようで、ミステリー的に一番怪しい人物がやっぱり犯人だったというオチ。
動機も正直かなり弱いのではないかと思う。

ってことで、シリーズ他作品と比べてもそれほど高い評価はできないなぁ。
ただ、現地の捜査官として登場するクラッパー部長刑事(元警部)とロブ刑事の造形と師弟愛は心に残った。
(特殊能力犬の活躍も見事!)


No.914 5点 Rのつく月には気をつけよう
石持浅海
(2013/08/31 22:45登録)
湯浅夏美と長江高明、熊井渚の三人は、大学時代からの飲み仲間。毎回うまい酒にうまい肴は当たり前。そこに誰かが連れてくるゲストは、定番の飲み会にアクセントをつける格好のネタ元。今晩も、気持ちよく酔いが回り口が軽くなった頃、盛り上がるのは何といっても恋愛話で・・・

①「Rのつく月には気をつけよう」=登場する料理は生ガキとシングルモルトウィスキー。カキといえば「食当たり」ネタが定番ですが、本編もそう。ただし、この食あたりには秘密があった・・・
②「夢のかけら 麺のかけら」=食材はなんと「チキンラーメン」。酒の肴にチキンラーメンをそのまま食べるとうまいということなのだが・・・そんなこと知ってるわ!って人が多そう。
③「火傷をしないように」=今回はチーズフォンデュと白ワインがテーマ。ホワイトデーになぜか「固くなったパン」を贈られた女性が悩みを三人に打ち明けるのだが・・・普通こんな回りくどいことするか?
④「のんびりと時間をかけて」=本編は豚の角煮と泡盛がテーマ食材。日本~アメリカの超遠距離恋愛に悩む恋人どうしになぜか豚の角煮の謎が立ち塞がる・・・って何だかなぁ。
⑤「身体によくてもほどほどに」=今回はぎんなんと日本酒のコンビ。これはうまいよなぁ・・・絶対! 長江が解き明かす謎そのものはもはやどうでもいい。
⑥「悪魔のキス」=パンケーキとブランデーが本編の酒と肴。今回、初めて夏美が婚約者である冬木を飲み会に連れてくるという設定。このコンビネーションというのはちょっと想像できないけど・・・
⑦「煙は美人の方へ」=最後はスモークサーモンとシャンパーニュのコンビ。本編では、いつものようにゲストが持ち込む悩みのほかに、本作全体に仕掛けられた趣向が明らかにされる・・・まぁバレバレだけど。

以上7編。
飲み会にゲストが謎を持ち込む、という趣向は、ずばりアシモフの「黒後家蜘蛛の会シリーズ」がモチーフになってるんだろうなぁ。
「謎(或いは悩み)」そのものは実に何てことないというか、恋人や友人どうしでそんなに分かりにくい伝え方するか?? っていう感が拭えない。
本作はそんなことより、酒と肴の絶妙なコンビネーションをヨダレをダラダラ流しながら読むというのが正しい楽しみ方だ。

ということで、酒の飲めない方は本作を楽しめないのではないだろうか、と危惧する。
(①から⑦までほぼ同水準。軽~い気持ちで読める)


No.913 6点 名探偵に乾杯
西村京太郎
(2013/08/31 22:43登録)
「名探偵なんか怖くない」「名探偵が多すぎる」「名探偵も楽じゃない」に続く、名探偵パロディシリーズ第四弾にして、シリーズ最終作。
1983年発表ということで、かなり昔に一度読んでいたのだが、今回再読。
まさか本作が「新装版」として甦ろうとは思わなかったなぁ・・・

~ポワロが死に、その追悼会が明智小五郎の所有する伊豆沖の孤島の別荘で開かれた。招かれたのはエラリー・クイーン、メグレ警部ら世界的名探偵たち。そこへポワロ二世と自ら名乗る若者が現れる。彼は本物の息子であることを証明すべく、孤島で発生した殺人事件の謎に挑むのだが・・・。「名探偵シリーズ」の掉尾を飾る傑作~

何とも不思議な雰囲気を持つ作品。
久々に読んで、そんな感想になった。
本筋は紹介文のとおり、ポワロの追悼会に参加した13名の男女が次々と殺されていくという、まさに「そして誰もいなくなった」をパロったようなプロット。
それどころか、三つの「密室殺人」や不明な動機まで絡み合い、本格ミステリー好きには応えられない展開になる筈なのだが・・・
残念ながら、そうはなっていない。

まず密室は・・・これは「推理クイズ」レベルだな。
(まぁこれは作者も本気で考えてないんだろうけど・・・まさか綾○を意識したわけではないよね?)
「動機」については・・・こじつけかな。
そもそも、本シリーズに対してはこういうまともなプロットやトリックを期待してはだめなんだろう。

そんなことより、本作を読んでると、作者がいかにポワロ(クリスティ)を敬愛しているのかがよく分かる。
本筋の事件が解決をみたあと、何とポワロ最後の作品となった「カーテン」の結末に異説を唱えていて、そこが一番のサプライズかもしれない。
まっ、広い心で読むことをお勧めします。


No.912 5点 まどろみ消去
森博嗣
(2013/08/25 14:02登録)
1997年に発表された作者初の短編集が本作。
全11編から成る作品集のうち、2編だけがS&Mシリーズの流れを汲むものになっている。

①「虚空の黙祷者」=これはいきなりエグいシュートボールを放られたような感覚。田舎ののんびりとした光景のなかに、二人の悪意というか心の闇が最後に明らかにされる。
②「純白の女」=一応、ラストにサプライズが用意されてはいるのだが、正直肩透かしのように思えたのは私だけだろうか。ミステリーというよりはファンタジックな作品。
③「彼女の迷宮」=いわゆる「作中作」とでもいうべきガジェットが盛り込まれた作品。作中作で採り上げられた「謎」はかなり魅力的なのだが(何しろ、死体から髪や足が生えるんだから・・・)、これ自体は本筋ではなく、置いてけぼりにさせられる・・・
④「真夜中の悲鳴」=これはサスペンス的な味わいの作品なのだが、そういう意味での盛り上がりには欠ける。まぁ小洒落たラストが用意されてはいるのだが・・・
⑤「やさしい恋人へ僕から」=これは「叙述トリック」なのだろうか?? 
⑥「ミステリイ対戦の前夜」=ここにきて初めて萌絵が登場。いつもの研究室ではなく、ミステリ研の一員としてなのだが、これも真相自体は腰砕け気味。
⑦「誰もいなくなった」=本作で唯一、犀川&萌絵が登場するのが本編。踊る30人のインデイアンが忽然と消失する・・・と書くと、いつもの森ミステリーらしいトリックを期待してしまうのだが・・・これって、遠目でも分かるんじゃないかなぁ(?)
⑧「何をするためにきたのか」=これって、森先生自身がモデルなのだろうか?
⑨「悩める刑事」=さすがにラストのオチは予想がついてしまった。まぁ、合わない仕事ほどキツイものはないよね。
⑩「心の法則」=このタイトルの意味って? ちょっとよく分からなかった。
⑪「キシマ先生の静かな生活」=これも作者らしい価値観を感じる作品。文系の人間はこうはなれない。

以上、全11編。
他の方も書いているとおり、「実験的」とでも言いたくなる作品集。
作品を通して、作者の考え方や価値観、物の見方・捉え方のようなものが見え隠れしていて、作者のファンにとっては「いかにも」という思いを感じられる作品だろう。
トリックやロジックの効いた作品はないが、ラストの反転やツイスト感はさすがという感じ。

でもまぁ長編よりもこっちがいいとは決して思わないけどね。
(飛び抜けていい作品はなし。好みとしては①と⑦になる。)


No.911 6点 見えないグリーン
ジョン・スラデック
(2013/08/25 14:01登録)
本業はSF作家である作者が著したミステリーがコレ。
1977年に発表され、本格ファンの絶賛を浴びた長編作品。

~ミステリー好きの集まり「素人探偵会」が35年ぶりに再会を期した途端、メンバーのひとりである老人が不審な死を遂げた。現場はトイレという密室・・・。名探偵・フィンの推理をあざ笑うかのように、姿なき殺人鬼がメンバーたちを次々と襲う。あらゆるジャンルとタブーを超越したSFミステリー界随一の奇才が密室不可能犯罪に真っ向勝負! 本格ファンを唸らせる奇想天外なトリックは?~

本格ミステリーとしてファンの心をくすぐる道具立ては揃った!
そんな感じの作品。
被害者も加害者もある特定の集団のなかにいて、被害者が増えるごとに容疑者の範囲も狭まっていく。
要はCCモノの面白さを備えてるということかな。

密室やアリバイトリックも出されているけど、どちらかというとそれよりも真犯人絞込みのロジックの方にキレを感じる。
意味深なタイトルが最終的に効いてくるところも好ましい。
この辺りは、巻末解説で鮎川哲也&法月綸太郎の両氏も述べているとおり、いわゆる「新本格」に似たテイストと言えそう。
(意外な真犯人、意外な動機も含めてそういう雰囲気あり)

難を言えば全体的にちょっと分かりにくいところか(訳文のせいかもしれないが・・・)。
登場人物についての書き込みも不足気味なので、スムーズに読めるというよりは、引っ掛かり引っ掛かりながら・・・という感じになった。

まぁ本格好きなら、一度は読んでおいて損はない作品といえそう。
でも個人的にはそれほど高評価すべきとは感じなかった。
(鮎川氏が本作と「ホッグ連続殺人事件」を激賞しているけど、どっちも個人的には今ひとつって感想なんだよなぁ・・・)


No.910 6点 追悼者
折原一
(2013/08/25 13:58登録)
文藝春秋社で折原といえば・・・かれこれ10年以上続けて新作が発表され続けている「○○者」シリーズ。
というわけで、今回は現実に起きた「東電OL殺人事件」をモチーフとした、その名も「追悼者」。
主人公が”売れないノンフィクション・ライター”という設定は拘りなのでしょうか?

~東京・浅草の古びたアパートで絞殺された女性が発見された。昼間は大手旅行代理店の有能な美人OL、夜は場末で男を誘う女・・・。被害者の二重生活に世間は注目した。しかし、ルポライター・笹尾時彦は彼女の生い立ちを調べるうち、周辺で奇妙な事件が頻発していたことに気付く。「騙りの魔術師」が贈る究極のミステリー~

世間的な評価は他のシリーズ作品と比べて高いようなのだが・・・
処女作品以来、数多く作者の作品に接している身としては、「並み」という評価になるなぁ。
とにかく既視感アリアリなのだ。

インタビュー記事や手紙などをプロットの軸に据え、主人公のノンフィクションライターが事件関係者の過去や周囲をほじくっていく、という展開は、これはもう「○○者シリーズ」の定番。
そして、次第に主人公の周囲に怪しい事件が頻発するようになり、謎の人物が次々に登場してくる。混沌とした中盤を経て、「これどうなってるの?」と思ってるうちに、終盤~ラストで鮮やかにひっくり返される・・・
これもいつもの流れだ。
本作では、OLを殺した真犯人探しのほかに、彼女自身の正体までもが謎の中心にあり、読者は最後まで作者の罠に引きずり回されることになる。

こう書くと、何だか褒めてるような、すごく面白いようにも思える。
でもなぁ、全体的な(叙述)トリックの出来栄えは「やや小粒」って感じではないか。
ある登場人物に仕掛けられた「○○」なども、面白いとは思うが、これってどこかに伏線が撒かれていたのか?
何となく風呂敷を大きく広げた割には、回収したモノは少なかったように思える。
中盤の冗長さもやや気になった(これも本シリーズの特徴ではあるが)。

同シリーズ作品でいえば、個人的には「冤罪者」「逃亡者」あたりの方が上とみた。
でも、さすがにまとまっていて、水準以上の面白さはあると思う。
(残るは「潜伏者」か・・・)


No.909 7点 心ひき裂かれて
リチャード・ニーリィ
(2013/08/16 15:20登録)
1976年発表。作者10作目の長編作品。原題“Madness of the Heart”
作者の中では、最も著名かつ出来のいい作品という世間的評価であるが、さて(?)・・・

~精神病院を退院したばかりの妻がレイプされた! 夫のハリーは犯人逮捕に執念を燃やすショー警部補に協力する。そんなハリーを嘲笑し、陥れようとするかのように、その身辺で続発するレイプ事件。心病める者の犯行なのか? だが、ハリーもかつて恋人との間に妻には決して知られてはならない秘密をつくろうとしていた・・・。二転三転する展開と濃密な心理描写。サイコ・スリラーの元祖・ニーリィの最高傑作~

このラストはさすがに衝撃的だ。
今回、角川文庫版で読み進めていたのだが、終盤までは、まだるっこしいというか何ともジリジリした展開が続いて嫌気がさしてきたところが、事件全体の構図がいよいよ明らかになる400ページ目以降は、がぜんスピードアップ&ヒートアップ。
ショー警部補VS主人公・ハリーの心理戦ともいえる問答を経て、いよいよ炸裂するラストの大技がにくいくらい決まっている。
これくらいメガトン級の衝撃度が来れば、中盤までの冗長さは吹き飛んでしまった、っていう感じ。
(伏線はちょっと微妙だが・・・)

でも、惜しむらくはやっぱり中盤のグロリアとのくだりだろうなぁ・・・
ハリーの“心の歪み”までの道筋、経緯を辿るという意味では必要なのかもしれないけど、それにしても長すぎ。
終盤の捻りが強烈なだけに、ここの冗長さで損をしている気がした。

まぁでも、これが恐らくニーリイの特徴なのだろう。
登場人物たちの何とも言えない距離感や微妙に歪みのある性格、会話など後のサイコサスペンスに与えた影響は大きいんだろうと推察する。
他の作品も読みたくなってきた。
(本作の映像化って難しいだろうなぁ・・・。アレをバレさせずに映像化するわけだから・・・)


No.908 6点 夜行観覧車
湊かなえ
(2013/08/16 15:18登録)
今や、次々とヒット作を飛ばす売れっ子となった作者の作品。
TBS系でドラマ化もされたのが本作。

~父親が被害者で、母親が加害者・・・。市内随一の高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺された子供たちはどのように生きていくのか。その家族と、向かいに住む家族の視点から事件の動機と真相が明らかになる・・・~

相変わらず「湊イズム」というか、作者独特の味を感じる作品。
とにかく、全員一筋縄ではいかない登場人物ばかりが描かれている。
一見まともなようで、「ひばりが丘」という高級住宅地に住むことに固執する母親、その母親にとにかく反目する娘、その二人の修羅場をみて、とにかく無関心を決め込む父親。
そればかりではない、隣人のいざこざに積極的に関与するおせっかいなオバサン・・・etc
まぁ、こういうどこかねじ曲がった人物を書かせると、とにかくウマイ。
(この辺りがウケル理由なんだろう)

序盤から加害者がはっきりしており、一見「動機探し」が本筋に思えるが、結局それについては明確にされないままラストを迎えてしまう。じゃあ「真犯人探し」が本筋なのかというと、それも脇道扱い。
本作の趣旨は、やっぱり「人の心の危うさ」ということになるのではないか。
他から見ると、幸せになる環境が十分に整っているのに、それが決してそうはならない。
エゴ、妬み、自分本位など、「人の心」そのものがミステリアスな存在だもんなぁ・・・

そういうことで、油ののった作者の技を堪能できるレベルにはなっていると思う。
ラストはちょっとモヤモヤが残ってしまうのが玉に瑕だけど。
(結局「観覧車」って、何をシンボライズしているのだろう?)


No.907 5点 パラダイス・ロスト
柳広司
(2013/08/16 15:15登録)
「ジョーカー・ゲーム」シリーズも重ねること第三弾。
今回も結城中佐率いるD機関のスパイたちが世界を股にかけ暗躍する。

①「誤算」=舞台はパリ。ナチスドイツにより首都パリが陥落し、一部の市民がレジスタンスとして抵抗している・・・そんな時代背景。記憶喪失となってしまったD機関のシマノ(?)がレジスタンスの男女三名に囚われるが、彼らの隠れ家にドイツ兵が現れたとき・・・。それ程のサプライズ感はなし。
②「失楽園」=舞台はシンガポール・ラッフルズホテル(モームの小説で有名なホテルだな)。戦火の欧州と違い、ある種の平和ボケ状態となってしまったこの街にもD機関のスパイが現れる。ある殺人事件を軸にストーリーは展開されるが、真相は闇の中へ・・・
③「追跡」=日本に駐在している英国資本の新聞記者。彼はD機関の噂を聞きつけ、結城中佐の正体に迫ろうとする。その過程で、ある人物に辿り着くのだが、ここで官検の手が・・・。そして、結城中佐の正体は結局(?)
④「暗号名ケルベロス」=これは前編と後編に分かれた中編作品。舞台は、サンフランシスコ~横浜を結ぶ客船の船中。謎の英国人が毒殺されるのだが、真犯人は意外な人物(っていうかこんなの分からん!)。

以上4編。
シリーズの三作目ともなると、だいたい予定調和っていう感じが強くなる。
特に本作では、結城中佐は実際の出番はほとんどなく、英国を中心とした敵対国が彼の幻影に怯えて・・・というプロット。
ただ、前二作に比べると、プロットのキレが今ひとつ(ふたつ)落ちる。
シリーズ随一のボリュームとなった④も、逆に言えば中盤がやや冗長に思えた。

面白いシリーズだけに評価は厳しくなるけれど、相変わらず作品の雰囲気自体はいいし、大人が楽しめるスパイ小説として続編を期待したい。
(ベストはやはり③かな。②もマズマズ。)


No.906 7点 ブラック・アイス
マイクル・コナリー
(2013/07/25 23:13登録)
L.Aハリウッド署の凄腕刑事ハリー・ボッシュの魅力を堪能できるのが本シリーズ。
シリーズ初編「ナイト・ホークス」に続くシリーズ第二弾。

~モーテルで発見された麻薬課刑事ムーアの死体。殺人課のハリー・ボッシュはなぜか捜査から外され、内務監査課が出動した。状況は汚職警官の自殺。しかし検屍の結果、自殺は偽装であることが判明。興味を持ったボッシュは密かに事件の裏を探る。新しい麻薬ブラック・アイスをめぐる麻薬組織の対立の構図を知ったボッシュは、鍵を握る麻薬王ソリージョと対決すべくメキシコへ・・・。ハリウッド署のはくれ刑事ボッシュの執念の捜査があばく事件の意外な真相とは!~

前作よりも面白さが増した。
素直にそう思えたし、さすがに人気シリーズという感想。
何といっても、出てくる登場人物のすべてが魅力的だ。同僚の刑事や警察上層部は実に嫌らしく、ボッシュへの協力者たちは魅力的に、そして女性はなぜかボッシュとメイク・ラブに陥る・・・

本作は、新型麻薬をめぐる殺人事件が謎の中心だが、死体に残された“ミバエ(蠅)”から、アメリカと国境を接するメキシコの街に徐々に焦点が当たっていく。
ハリウッドですらはぐれ者のボッシュが、見知らぬメキシコの地でさらに孤独な闘いを強いられることに・・・
そして、終盤には本シリーズらしいドンデン返しが待ち受けているのだ。
このドンデン返しは、ミエミエのようで、うまくミスリードが成されているため、本格志向の読者にとっても満足できるのではないか。
とにかく、ストーリー展開のうまさは「さすが」のひとこと。

トータルでみて、突き抜けるほどの面白さや疾走感はないが、十分に評価できる作品。
シリーズは続くが、やはり続編も読んでしまうんだろうなぁ・・・
(孤高の男ハリー・ボッシュに幸あれ!)


No.905 7点 太陽黒点
山田風太郎
(2013/07/25 23:12登録)
1963年発表。「忍法帖シリーズ」で著名な作者が著したミステリー。
東西ミステリー等のランキングでも高評価を誇る作品でもある。

~昭和30年代の東京。才気に満ちた美貌の苦学生・鏑木明は、アルバイト先の屋敷で社長令嬢の多賀恵美子と出会い、偶然にも特権階級への足掛かりを手にする。献身的だが平凡な恋人・容子を捨て、明は金持ち連中への復讐を企て始める。それが全ての悲劇の序章だとは知らず・・・。“誰カガ罰セラレネバナラヌ”・・・静かに育まれた狂気が花開くとき、未曾有の結末が訪れる。戦争を経験した作者だからこそ書けた奇跡のミステリー長編~

これは久々に「唸らされた」作品。
「死刑執行一年前」という思わせぶりな章題から始まり、読み進めるほどにカウントダウンされていく。
そして、「死刑執行当日」の章とともに、今まで隠されていた驚くべき奸計・真相が読者の前に示されるのだ。
なるほど・・・こういうことかぁ・・・。
だからこそ本作がこんなに高評価なんだなぁーと納得。

あまり書くと思いっきりネタバレになりそうで難しいが、
ビスマルクの外交術がまさかミステリーのプロットに応用されようとは、本人もまさか予想もしなかっただろう。
(まさに「プロバビリティーの犯罪」の極致)
そして本作を彩るもうひとつの鍵が、この強烈な動機だ。
これは読者にはなにも伏線が与えられてなかったし、後出しといえばそうなのだろうが、時代性を勘案しても、戦争を全く知らない世代にとって、これは胸に深々と突き刺さるようだった。

本作については、正直最近まで存在すら全く知らない作品だった。
東西ミステリーへのランキングは伊達ではない、そう感じさせられた次第。
他のミステリー作品も機会があれば是非手を伸ばしてみたい、そんな気持ちにさせられた良作。


No.904 5点 バイバイ、ブラックバード
伊坂幸太郎
(2013/07/25 23:11登録)
星野一彦の最後の願いは何者かに<あのバス>で連れて行かれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」・・・これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美・・・
伊坂といえば実に伊坂らしい、とも言える連作短編集。

①「Bye Bye Black BirdⅠ」=最初に別れる女性の名は廣瀬あかり。そして、なぜか別れるために一彦が挑戦するハメになったのがラーメンの大食い(○○分で完食すればタダ、って趣向ね)! なぜ??
②「Bye Bye Black BirdⅡ」=二番目に別れる女性の名は霜月りさ子、子持ちのバツイチ。何といっても、本編で笑うべきポイントは不知火刑事だろう。なにせ白新高校出身!ってドカベン世代じゃないと分からんだろ!
③「Bye Bye Black BirdⅢ」=三番目に別れる女性の名は如月ユミ。こいつが一番ケッタイな女かも。なぜか、夜中にロープをかついで忍び込む部屋を探す、女・・・。付けた異名が「ひとりキャッツアイ」ってこれも古いな。
④「Bye Bye Black BirdⅣ」=四番目に別れる女性の名は神田那美子、何でも計算してしまう女。乳がんの疑いの濃い彼女に代わり、検査結果を病院へ聞きに・・・という展開だが、なかなか笑える。
⑤「Bye Bye Black BirdⅤ」=最後に別れる女性の名は有須睦子、美しき大女優。この女性は今までの四人とは「格」が違う、っていう感じ。彼女が大事にしていた子供時代の思い出。その思い出が一彦に重なるとき・・・結構グッときた。
⑥「Bye Bye Black BirdⅥ」=そして、ついに<あのバス>に乗るために、バス停へ向かう一彦と繭美。だが、途中でなんだかんだと邪魔が入り、ついにバスへ乗り込む一彦。だが、ラストに思わぬことが・・・起こったのかどうか?

以上6編。
「ゆうびん小説」という変わった趣向で発表された本作。
どういうことかというと、連作の一編が書かれるごとに50名の方に、あえて郵便で送って読んでもらう、っていう趣向だったのだ。
まぁそれは置いといて・・・
作品自体については、正直「どうかなぁ・・・」という感想。
もちろん、他の作家には書けない、いかにも伊坂らしい味わいはあるのだが、ちょっと「キツイ」感覚にはなった。
ラストも余韻はかなり残るが、逆に言えば残尿感がある、ということなのだ。
(好きな人には堪らないかもしれないが・・・)


No.903 5点 ジェリコ街の女
コリン・デクスター
(2013/07/17 22:28登録)
1981年発表。モース主任警部を探偵役とする作者の第五長編。
前作に続き、英国推理協会のシルヴァー・ダガー賞を受賞した作品でもある。

~モース警部がジェリコ街に住む女性・アンに出会ったのは、あるパーティーの席上だった。すっかり意気投合した二人は再会を約束するが、数か月後、彼女は自宅で首吊り自殺を遂げた。果たして本当に自殺なのか? モースにはどうしても納得がいかなかった。やがてアンの自宅の近所で殺人事件が起こるにおよび、モースの頭脳はめまぐるしく動き始めた・・・~

う~ん。微妙だなぁー
何となく書評しにくい作品、というのが正直な感想。
他の方も書いているとおり、いわゆるモース警部シリーズの良さはあまり感じられなかった。
モースが好き勝手に仮説を立てては壊し、立てては壊し・・・という展開にはならないのだ。
これがないということが、作者のファンにとっては恐らく物足りなく映るのだろう。

確かに、終盤に入るまでは事件の構図がまるで分からず、割に淡々と捜査過程が描かれる。
いよいよ最終章(第四部)に入ってから、思いもよらぬ推理がモースの口から開陳され、「おぉ、こういう仕掛けだったのかぁ!」と唸っていると、実はこれが捨て筋と判明してガックリさせられるのだ。
でも、最終的な真相がコレなら、捨て筋の方がよっぽど魅力的な解法に見えたんだけどなぁー
(まさか、ギリシャ神話が絡んでくるとは思わなかったし・・・)
一応、本筋でもサプライズが用意されてはいるのだが、あまり納得できなかった、ということもある。

ということで、あまり高い評価はしにくい。
これまでデクスターも数作読んできたが、まだ“本当に面白い”という作品には出会えてない。
まぁでも、出す作品出す作品が、何らかの賞を受賞している大作家なのだから、未読のものにまだ面白いのがあるんだろう(と思いたい)。
(モース警部のキャラ自体は好きだしなぁ)


No.902 6点 水魑の如き沈むもの
三津田信三
(2013/07/17 22:27登録)
ホラーとミステリーを融合させた人気シリーズ・刀城言耶シリーズの第五長編。
三年連続のノミネートのすえ、(やっと)受賞の日の目を見た「第十回本格ミステリ大賞」受賞作。

~奈良県の山奥、波美(はみ)地方の“水魑様”を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われることになった。儀式の当日、この地を訪れていた刀城言耶の目の前で起こる不可思議な犯罪。今、神男(かみおとこ)連続殺人の幕が切って落とされた。ホラーとミステリーの見事な融合で、シリーズ集大成と言える本作!~

いやぁー長かったなぁ。さすがにシリーズ最“長”編だけはある。
ただ、どうしてもこれまでのシリーズ作品との比較では、満足感で今一歩(二歩)という印象が強く残った。
そう感じた方も多いのではないか?(そうでもない?)

刀城言耶の事件解明の章では、本シリーズらしい犯人絞込みのロジックは健在だし(特に本作は「犯人足り得る七つの条件」が読者に示されるなど、本格好きには堪らないサービス・・・)、その後もドンデン返しに次ぐドンデン返しで、怒涛のように迎えるラスト、そして、その驚愕のラストを支える前半の精緻な設定の数々・・・
こういう点では、確かに相変わらず高いクオリティだなと思う。
ホラーテイスト云々というのは、最初から殆ど気にしていないのだが、本作の「水魑様」に関しては、その半端ない作り込みに敬意を評したくなった。
(村の起こりや左霧母娘の設定なども含めて、下調べの苦労が偲ばれる)

でもなぁ・・・今回はそれにも増してモヤモヤ感が残ってしまったという印象なのだ。その理由を列挙するなら、
①真犯人の動機・・・特に「連続」しておこす必要性。神器との絡みなのかもしれないが、説明不足に見える
②一つ目蔵の秘密・・・結局、“○”という一言で片付けられたが、時代性を勘案してもかなり荒唐無稽に見える
③フーダニット・・・クローズドサークルものの宿命かもしれないが、かなり唐突感あり(潜水服について偶然○いていた、などはやはりご都合主義だろう)
なによりも、(これは言葉では表しにくいのだが)、今回はホラーテイストの設定と、ミステリーがそれほど有機的に結びついていない、ということに尽きるのだと思う。

まぁ、これは期待の高さの裏返しということだし、他作家よりも高いハードルを課されている作者もツライところだろう。
評点としては、どうしてもシリーズ他作品との比較になっちゃうよなぁ・・・
(相対評価になっちゃうのはシリーズものの宿命かな。このままいくと、本シリーズの山はやっぱり「首無」「山魔」ということに落ち着くのだろう)


No.901 7点 ぼくのミステリな日常
若竹七海
(2013/07/17 22:25登録)
1991年に発表された作者デビュー作。
ある建設会社の社内報に連載された短編という形式を借りた、企みに満ちた連作短編集(と呼ぶべきか、連作長編と呼ぶべきなのか)。

①「桜嫌い」=4月号。変な形のアパートで起こる火事がテーマなのだが、この文書だけでは建物の様子(部屋割りとか)が想像できなかった。でも、これが謎の鍵となる。
②「鬼」=5月号。両親を亡くした姉妹が主人公。妹を狙っているらしい怪しい風体の男から、妹を守ろうとする姉。しかし、姉の留守をつき、妹が襲われてしまう(?) しかし、最後は反転・・・
③「あっという間に」=6月号。町内の野球チームに持ち上がる「ブロックサイン漏れ」事件(のんびりしてんなぁ)。フランス料理に引っ掛けた暗号かと思いきや、まさか「○○え歌」が解読の鍵になるとは・・・(しかも絵付き)。
④「箱の虫」=7月号。大学のサークル仲間と出掛けた箱根旅行。「箱」とは芦ノ湖ロープウェイのことなのだが、その箱の中から男の子が消えてしまう。ただ、このオチはなぁ・・・
⑤「消滅する希望」=8月号。これは大事な「号」だな。ついに「殺し」までが登場して、ミステリーっぽい一編。謎の鍵は「朝顔」。作中にも触れられているが、実は謎の多い花なんだなぁ。
⑥「吉祥果夢」=9月号。事件の舞台は和歌山・高野山。宿坊で出会った一人の中年女性は、実は・・・という展開。これは確かに不思議な感覚の良作。
⑦「ラビット・ダンス・イン・オータム」=10月号。これも一種の暗号を扱った作品。最近読んだアシモフの「黒後家蜘蛛の会」なんかで頻繁に登場するプロット。そういえば、作者は「黒後家蜘蛛」シリーズのファンらしいし・・・
⑧「写し絵の景色」=11月号。大学時代の仲間が久し振りに集まった飲み会で、昔女傑と呼ばれていた女性が職場での失敗で暗く沈んでいた・・・。その失敗談に係る謎がテーマなのだが、オチは結構脱力系。
⑨「内気なクリスマスケーキ」=12月号。これはラストに炸裂する、いわゆる典型的な「叙述トリック」が決まっている。ただ、動機はイマイチ納得できないのだが・・・
⑩「お正月探偵」=1月号。「無意識に大量の買い物をしてしまう病」にかかってしまった友人からの依頼で、後を付けることになった主人公。この買い物にはある大きな謎が隠されていたことが判明するのだが・・・
⑪「バレンタイン・バレンタイン」=2月号。家庭教師の男性と、女生徒との電話での会話。何となく違和感を感じていたが、そういうオチか・・・
⑫「吉凶春神籤」=3月号。ラストはよい話に・・・。

以上の12編が、各号に掲載された短編。
ただし、本作の仕掛けは終章の「編集後記」にて明らかにされる。
本作がこういう仕掛けになっているという予備知識を持って読み進めていたのだが、それでもよくできてると思ったし、こういう「企み溢れる作品」は好きだ。
こういうミステリーがあっても全然いいのではないか。そんな感想。


No.900 8点 犬神家の一族
横溝正史
(2013/07/10 21:50登録)
900冊目の書評となりました。
今回は、国内ミステリーの大家・横溝正史の代表作の一つ「犬神家の一族」をチョイス。
これまで何度も映像化されている作品であり、もちろん私自身も有名な市川崑監督のヤツをはじめ様々なバージョンにて接してきた有名作なのですが、実際に書籍として読むのは今回が初。

~信州財界の一巨頭、犬神財閥の創始者・犬神佐兵衛は、相続人を驚嘆させる条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は正室を持たず、女ばかりの三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林が何者かに殺害される。だが、これは次々と起こる連続殺人事件の発端に過ぎなかった! 血の系譜を巡る悲劇、日本推理小説史上不朽の名作~

今さら言うことはありません。
ということで、書評を終わってもいいのですが・・・一応、以下感想まで。

やっぱり、これはエポックメイキングな作品なんだなぁーと思わされた。
なによりも、冒頭にある佐兵衛の遺言状公開の場面。
これはもう、ミステリー史上に残る名場面だろう。
映像を見た方なら、松・竹・梅の三姉妹とゴム仮面の佐清、金田一、緊張感みなぎる中で遺言状を読み上げる古舘弁護士・・・らの姿が目に浮かぶかもしれない。
そして、遺言状に託した、死せる巨星の猛烈な「悪意」・・・etc
この作品が後世の作品に与えた影響は、やはり計り知れないと言っていい。

今回は、この序盤を読んだだけで、本作のスゴさを体感させていただいた。
で、ミステリーとしての本筋はどうなのかって・・・?
まぁいいではないですか。
真犯人はともかく、従犯の動機はどうだろう? とか、「見立て」の意味は? とか、ご都合主義とか、相変わらず金田一の気付きが遅すぎるとか・・・
いろいろと疑問は尽きぬところですが、そこは言わぬが華という奴でしょう。

他の代表作との比較でいうなら、「獄門島」よりはこちらの方に軍配をあげたい。
(一番好きなのは、「悪魔が来りて・・・」だったりする)
評点はこんなものかな。

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