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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.872 7点 奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻
泡坂妻夫
(2013/05/10 23:32登録)
1980年の初出以降、20年にも渡って「小説現代」誌に随時発表されたのが「奇術探偵曾我佳城シリーズ」。
それをまとめたのが「奇術探偵曾我佳城全集」。
本サイトでは「全集」としてアップされているが、文庫版を愛読する読者としては、講談社文庫として分冊された「秘の巻」「戯の巻」の順に書評していきたいのでご容赦願います(分量も多いので、分けた方がいいように思えるし・・・)。

①「空中朝顔」=シリーズ初編は、まるで一枚の絵画を想像させるような芸術的作品。空中で咲いた朝顔を見つめる曾我佳城の姿というだけでシリーズファンには堪らないのではないか。 ミステリー的には?だが・・・
②「花火と銃声」=これは実にミステリーっぽい趣向溢れる作品。特に「銃痕」の取り扱いは「さすが」と思わせるし、伏線の張り方はやはり職人芸だろう。
③「消える銃弾」=舞台上の人間に向かって撃った銃弾が見事に消える(!)・・・はずが、消えずに発生した殺人事件の謎。ミステリーとしての仕掛け自体はやや拍子抜けだけど。
④「バースデイロープ」=ロープを使ったマジックは高等技術が必要(by曾我佳城)とのことだが・・・。結び目にこんなに種類があるのは初めて知った!
⑤「ジグザグ」=テレビではよく見るマジック・・・三つに分かれた箱に人が入り、胴体部分を横にズラす奴(伝わってるかな?)。もちろんタネも仕掛けもあるマジックなのだが、本当に胴体部分だけが抜かれた死体が発見されるのが本編の事件。でもこの程度の動機でここまでやるかなぁという疑問は残る。
⑥「カップと玉」=「カップの玉」のマジックに絡め、徹底的に暗号に拘った作品。暗号そのものはポーやホームズの時代からある古いタイプのものだが、こういう手の作品は個人的に大好き。
⑦「ビルチューブ」=事件の真の構図をうまく隠したまま、ラストに伏線を全て回収して収束という実に短編らしい好編。作中に出てくる紙幣の焼失と出現のマジックは不思議だ。
⑧「七羽の銀鳩」=マジックで使うはずの銀鳩が別の鳩にそっくり入れ替わる・・・という風変わりな謎を扱う本編。事件の舞台をよく読めば、作者の狙いはすぐに読めるかも。
⑨「剣の舞」=プロットとしては④と同趣向。別視点として書かれている登場人物がどのように事件の本筋に関わってくるか・・・ということなのだが。ミステリー的にはあまり成功してないように思える。
⑩「虚像実像」=映像技術を使った大掛かりなマジックを演じる男がショーの途中に舞台で殺害される・・・。マジックのカラクリそのものが面白い。
⑪「真珠婦人」=昔、こんなタイトルの昼メロがはやりましたなぁ・・・(原作は大作家ですが)。作中の「パン時計」のタネってどうなってるのか?

以上11編。
さすがの一言。奇術とミステリーの融合なんて、国内では作者の右に出る者はいないでしょう。
本作は主人公・曾我佳城の魅力も相まって、実に楽しい読書ができる。
ミステリーとしての観点からでは、各作品にレベル差はあるのだが、紙上で奇術を味わうだけでもよしとしよう。
下巻である「戯の巻」へつづく・・・
(好みは②や⑦辺りかな。暗号ものの⑥も好きだ)


No.871 5点 三角館の恐怖
江戸川乱歩
(2013/05/10 23:31登録)
ロジャー・スカーレットの「エンジェル家の殺人」を乱歩が翻案したことで有名な作品。
明智小五郎を彷彿させる名探偵・篠警部とワトスン役・森川弁護士のコンビが事件に挑む。

~一月下旬の寒い午後、森川弁護士が雪道を急ぐ。目指すは三角館と呼ばれる河畔の西洋館。右に兄の健作、左に弟の康造、正方形の敷地を建物ごと対角線で二分し双生児の兄弟が住まう。長生きした方に全財産を譲るという先代の遺言に端を発し、日がな相手を蹴落とさんと骨肉相食む四十年余。命旦夕に迫る健作は、弁護士立会いの下どちらが先立っても遺族が平等に相続する契約を結ぼうと図るが、康造は即答を避ける。その夜、康造が射殺されるという望外の事態が起こる!~

さすがに面白い。
本作は「犯人当て」として、一般読者から真犯人の名前を動機付きで送ってもらうという趣向のもとで出版されており、読者への挑戦や幕間での作者からのヒント提供など、本格ミステリーとしての面白さを追求した作品と言えるだろう。
何より「舞台設定」が光る。
建物の真ん中にあるエレベーターで二分された奇妙な「館」、いがみ合いながらも愛憎渦巻く二つの家族、謎の帽子男・・・もう本格好きには応えられないガジェットが満載(!)
エレベーターを使ったトリックや意外性のあるフーダニットもきれいに嵌っていて、水準以上の出来ではないか。

ただなぁ・・・
本作の致命的な欠陥は、これが完全なコピー作品ということに尽きる。
「エンジェル家の殺人」も既読だが(書評NO.599)、ミステリーとしてのプロット、トリックその他についてはほぼそのまま借用と言っていい。創元文庫版巻末解説で、小森健太郎氏が「原作を分かりやすく、面白くしている・・・」とフォローしていて、それはまあそのとおりだけど、ここまでいくと「翻案」というレベルではなく、「翻訳」といっても差し支えないように感じてしまう。

まぁ、旧作品を下敷きした作品というのはよくあることだし、今更、翻案の善し悪しを語っても仕方がないと思うが、さすがに高評価するのちょっと憚かれる気がするので・・・この程度の評点に落ち着く。
(面白いのは確かですよ、とフォローしておく)


No.870 6点 死が二人をわかつまで
ジョン・ディクスン・カー
(2013/05/03 17:57登録)
1944年発表。
ラジオドラマのシナリオとして書かれた短編「ヴァンパイアの塔」を原型として、長編に焼き直したのが本作。

~雷鳴とともに、劇作家ディックは幸せの絶頂から不幸のどん底へと叩き落とされた。婚約したての美女レスリーと訪れたバザーの会場で、婚約者の正体を教えようといった占い師が銃弾に倒れたのだ。撃ったのはレスリー。ディックは彼女が三人の男を殺した毒殺魔だと知らされる。婚約者への愛と疑惑に揺れるなか、密室での不可解な毒殺事件が新たに発生。名探偵フェル博士が真相究明に乗り出す。カー中期の代表的傑作~

本作の印象を一言で表すなら、ズバリ「龍頭蛇尾」ということになる。
とにかく冒頭から序盤での謎の提示は魅力的だ。
婚約者の女性が実は毒殺魔(何とワクワクする響きだろう!)だと知らされた当夜、実際に毒殺事件が発生するのだ、しかもお約束の「堅牢な密室」で・・・
この辺りまでは、「いかにもカー」らしいケレン味に溢れた展開で、読者の心を惹きつけずにはおかない。

ただし、そこからがいけないのだ。
フェル博士が登場するやいなや、「毒殺魔」の正体が明かされ、何だかミステリーとしての勢いが失速してしまう。
真犯人自体はまずまず意外性もあり悪くはないけれど、動機や事件の背景など、いわばミステリーとしての補強部分が実にあっさりで納得性が薄い・・・この辺がどうしても「薄っぺらい」印象を残してしまう原因になっているのだろう。

密室トリックは古き良き時代を感じさせる・・・っていう感じ。
正直、説明文のみでは今ひとつピンとこないトリックなのだが、今回の密室は“How done it”よりも“Why done it”に重点が置かれているのがミソ。毒殺魔に関する何気ない条件(エピソード?)のせいで、真犯人が密室を構成せざるを得なくなる、という設定がさすがにウマイ。銃弾の使い方もさすがに老練さを感じさせるプロット。

ということで、ちょっと惜しいなぁという水準になってしまった感がある本作。
他の代表作と比べれば一枚も二枚も落ちるという評価は止むを得ないかな。
(若竹七海氏の「文庫版あとがき」もなかなか面白くて楽しめた)


No.869 6点 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1
高木彬光
(2013/05/03 17:53登録)
「宝石」や「新青年」誌に掲載された「神津恭介」登場作品をまとめた短編集。
テーマはズバリ「密室」ということで、ミステリーファンの心をくすぐる作品なのは間違いない(だろう)。

①「白雪姫」=いわゆる「雪密室」に双生児というミステリーに付き物のガジェットを絡めた作品。何よりスゴいのが密室トリック。ここまで「密室トリックらしいトリック」に触れたのはもしかすると初めてかもしれない・・・
②「月世界の女」=あるホテルのロビー、衆人環視の環境でひとりの美女が煙のように消えてしまう・・・というのが本編の謎。登場人物などの設定を考えれば、自ずとトリックは見えてしまうのが難。ワトスン役の松下研三が右往左往するさまがなかなか愛おしい。
③「鏡の部屋」=これも密室からの人間消失がテーマ。鏡が登場する時点で、トリックの方向性は分かってしまうのではないか? いわゆる奇術師のトリックだな。
④「黄金の刃」=“四次元の男”を名乗る男が登場。要は密室とアリバイトリックの合体技に挑んだ作品なのだが、それほど出来のいい作品とは思えなかった。
⑤「影なき女」=なかなか趣向を凝らした作品。連続殺人事件のなかで、“影なき女”が共通して登場するのだが、この使い方に旨さが出ている。神津恭介は途中から登場し、快刀乱麻の如く事件を解決。
⑥「妖婦の宿」=「犯人当て」を主眼として書かれた作品。ある登場人物を視点人物として配したことで、ある大トリックをうまい具合に隠すことに成功している・・・って今時ならよくあるプロットではあるのだが。

以上6編。
密室括りとはいっても、典型的な「密室殺人」を扱っているのは①くらいで、あとは人間消失など広義の密室というべき作品が並んでいる。
まぁ、今現在から見れば古臭いという感覚になるのは否めないが、それでも流石に大作家だけのことはあって、バリエーションにとんだ密室トリックを味わうことができる。
そういう意味では、なかなかお得感のある作品集。
(個人的ベストは⑤か①。あとは横並びかな)


No.868 6点 七十五羽の烏
都筑道夫
(2013/05/03 17:51登録)
1972年発表発表。「黄色い部屋はなぜ改装されたか」にて主張したロジック中心のミステリー観に基づき、実験的に創作したのが本作。
サイキック・ディテクティブ(?)物部太郎と助手・片岡直次郎のコンビで贈る長編シリーズの第一作目。
今回は光文社の都筑道夫コレクションシリーズで読了。なお、本書には「なめくじ長屋シリーズ」や「退職刑事シリーズ」、「キリオン・スレイシリーズ」の代表作まで収録というおまけ付き。

~平将門の娘・瀧夜叉姫(たきやしゃひめ)の祟りで伯父が殺されます・・・まったく働く気のない心霊探偵・物部太郎のもとへ依頼人が来た。実際、殺人事件が発生し、何の因果か難事件に巻き込まれてしまう。立ち塞がるいくつもの謎。名コンビ・片岡直次郎を助手に、太郎はその真相を推理する~

「前評判」というか名前だけは以前から何度も目にしていた本作。
さぞやロジカルでこれぞミステリー(!)とでも言いたくなる作品なのだろうと予想していたが・・・
何だか「無味乾燥」だなぁーという読後感になってしまった。

倉知淳の「星降り山荘」の影響もあり、各章前の「注意書き」が有名になったが、それ自体にミス・ディレクション的趣向のあった「星降り」と比べ、本作ではそれほどの効果はないように思える。
そして、本作の眼目であるはずのロジックなのだが・・・
中盤で「容疑者一覧表」を付して、動機やアリバイなどをひとりずつ検討→消していく、というやり方はまぁいいのだが、真相が解明された後も、何かモヤモヤした感覚が残ってしまったのはなぜだろう?
多分、ロジック一辺倒となってしまったばかりに、動機の不自然さやトリックのショボさにどうしても目がいってしまうからなのだろうねぇ。
(特に密室を持ち出しながら、この解法ではなぁ・・・)

これまで作者の作品を読んでるときも、どうも相性が悪いように思えていたけど、本作でますますそう感じた。
時代性もあるし、玄人ウケするのかもしれないけど、個人的にはそれほど魅力を感じない。
(登場人物に魅力を感じないというのも、「相性が悪い」原因なのだろう。本作の物部もそう、退職刑事やキリオン・スレイもそう・・・)


No.867 5点 ルパン対ホームズ
モーリス・ルブラン
(2013/04/27 22:19登録)
「世紀の大怪盗アルセーヌ・ルパンと史上最高の名探偵シャーロック・ホームズの対決」と聞くと、やっぱり興奮する(?)わけですが・・・
今回も新潮文庫版を読了。堀口大學の翻訳はやはり格調高いなぁ(読みにくいとも言えるが・・・)
本作は中編的分量の①と短編②の二作品で構成。

①「金髪婦人」=ある古道具屋に並んでいるなんの変哲もない古机。この古机をめぐる盗難事件からスタートする本作。途中、殺人事件までも挟み、事件のあちこちに登場するのがタイトルにある「金髪婦人」。やっぱり、ルパンの冒険譚には彼と美女との恋愛が絡んでくるのがフランス人たる作者らしいのだろう。ホームズはガニマールまで従えてルパンと対峙するが、どう見てもルパンに押されてる感じ。まぁ最後は一応「痛み分け」という形で決着は付くのだが・・・。
②「ユダヤのランプ」=①の解決後、一定の期間経過後に発生したのが、「ユダヤランプ」をめぐる盗難事件。ホームズがパリへ向かう前から、ルパンの影につきまとわれることになる。脅迫状のからくりに気付いたホームズが真相に肉薄するのだが、ラストにはドンデン返しが待ち受けている。そして、今回も結果は痛み分けということに・・・。子供に教えられるホームズの姿がある意味微笑ましい。

以上2編。
他の方の書評にもあるとおり、ホームズについてはコナン・ドイルからの抗議を受け、原文ではHerlock Sholmesとなっている。ただし本作では、その正体が明白なのでシャーロック・ホームズとしますという旨が冒頭に堂々と書かれてある。
(なぜかワトスンはウィルソンのまま表記されている。どうせならワトスンと書いちゃえばいいような気が・・・)
対決というのは、いわば「ファンサービス」というようなものではあるけど、エポック・メイキングであることには違いない。

でも、ミステリーまたはスリラー・サスペンスとしての出来そのものは誉められるレベルとは言い難い。
視点人物が等分に分けられたせいか、どうも煮え切らないプロット&ストーリーという読み応えなのだ。
はっきり言えば「中途半端」の一言だけど、まぁ本作はそんなことで評価云々というべき作品ではないのだろう。
ミステリーとしての歴史的価値を若干プラスして評価。
(シャーロキアンには我慢ならない表記が多いと思うのでご注意を!)


No.866 5点 刺のある樹
仁木悦子
(2013/04/27 22:17登録)
1961年発表。「猫は知っていた」「林の中の家」に続く長編三作目が本作。
本作も雄太郎&悦子の仁木兄妹シリーズ。

~ミステリーマニアの仁木雄太郎、悦子兄妹の下宿に、ひとりの紳士が相談に訪れた。このところ不可解な出来事に次々と見舞われ、命を狙われているのではないかと怯えているらしい。二人が調査に乗り出した矢先、紳士の妻が何者かに絞殺されるという事件が起き・・・。息もつかせぬ展開、二転三転する推理合戦の行方は?~

作者らしい「雰囲気のいい」作品。
陰残な殺人事件と狡猾な真犯人など、普通ならドロドロした話になるに違いないプロットなのだが、作者の手にかかるとなぜだかほんのりした雰囲気が醸し出されるから不思議。
それもこれも、仁木兄妹のキャラクターが効いているのだろう。
その辺は、巻末の「作者あとがき」でも窺い知ることができる。
(本作はポプラ社のピュアフル文庫にて読了)

ただ、ミステリーとしてのプロットそのものは単純かなぁ。
最初からどうみても怪しい奴がいるし、伏線も“ある人物”をかなりあからさまに指し示しているとしか思えない。
これは「意外な真犯人」でも用意されているのか、と思っていたが、そういうわけでもなく解決・・・といった具合。
アリバイトリックに(当時としては)やや斬新な趣向が取り入れられているところが救いか。
ラストの捻りは後味が悪くなるだけのように思えるし・・・

ということで、トータルでは水準級という評価が適当かな。
時代性から見れば、大いに評価していいのかもしれないが、「猫は知っていた」などと比べるとやっぱり落ちる。


No.865 6点 黄昏のベルリン
連城三紀彦
(2013/04/27 22:15登録)
1988年発表。作者としては珍しいというか唯一のスパイ小説。
まだ「ベルリンの壁」がドイツを東西に分断している時代の背景がストーリーの鍵になる。

~画家・青木優二は謎のドイツ人女性・エルザから、第二次世界大戦中、ナチスの強制収容所でユダヤ人の父親と日本人の母親の間に生まれた子供が自分だと知らされる。平穏な生活から一変、謀略渦巻くヨーロッパへ旅立つ青木・・・。幻の傑作ミステリーがいま甦る!~

これは連城らしいというのか、「らしからぬ」というのか・・・微妙。
紹介文のとおりで、本作はナチス・ドイツに端を発し、ヒトラーとその愛人で非情&冷徹な女性・マルト・リピーを中心とした謀略小説。
冒頭のブラジルでの場面から、アメリカ、日本、パリ、そしてベルリンと物語の舞台が次々と移り変わり、グローバル&壮大なスケールを感じることのできる作品ではある。
そして、終盤に判明する歴史的&驚愕の事実!
まぁ展開から考えれば、これは予想の範囲内と言えなくはないが、スパイ謀略小説ならではの面白さは味わえるだろう。

ただねぇ・・・やっぱり個人的に読みたい「連城作品」とはかなりズレてる作品ではある。
「これって収拾がつくのか?」という序盤での大風呂敷と、それを回収すべくロジックとファンタジーの間のスレスレの部分で成り立っているようなトリック&プロット。
そして粘りつくような、後味を引くような筆致・・・
これこそが連城なんだがなぁ・・・

もちろん、世評どおり、これはこれで十分面白い。だけど、高い評価はしにくいよなぁ・・・というのが正直な感想。
この手の作品が好きな方にはストライク間違いなしだろうが・・・。
(本作のヒロイン・エルザはかなり魅力的)


No.864 8点 銀座幽霊
大阪圭吉
(2013/04/20 20:24登録)
東京創元社の復刊フェアで出版された二冊の作品集が「とむらい機関車」と「銀座幽霊」。
「とむらい機関車」は既読&書評済のため今回は「銀座幽霊」を読了。

①「三狂人」=とある精神病院に入院している三人の患者。ある日、精神科医が殺害される事件が発生し、三人の患者が病院から消える・・・。作者お得意の○れ○○りトリックが見事に決まっている。これは好き。
②「銀座幽霊」=何となく乱歩の「D坂の殺人事件」を思い起こさせる作品。殺人現場から容疑者の姿が消えてしまうという謎なのだが、これもうまさを感じる作品。タイトルを絡めたオチも効いている。
③「寒の夜晴れ」=いわゆる「雪密室」が本編のテーマ。雪に残された足跡は当然読者をミスリードさせるダミーなのだが、非常に切ないオチが後を引く。
④「燈台鬼」=これは・・・結構強引なプロット。特に、現場に残された“ドロドロしたもの”の正体がまさかアレとは・・・。
⑤「動かぬ鯨群」=舞台は北海道は根室沖。行方不明になった捕鯨船の謎がメインなのだが、トリックとしては小粒というか、想定内。
⑥「花束の虫」=ある劇作家の殺人事件を描く作品なのだが、事件現場に残された物証や特徴のある足跡が解決の鍵となる。そういう意味で、ホームズものっぽい作品。なお、本作より登場するのが大月弁護士で、以降の作品では探偵役として活躍する。
⑦「闖入者」=これはミステリーとして“筋のいい”作品だろう。殺害された画家の残した富士山の絵が“事件の鍵”になるのだが、非常に絵になるトリックが光る。
⑧「白妖」=これも広義の密室を扱った作品で、入口と出口を完全に押さえられた有料道路から一台の自動車が消えてしまうという謎。書き方が整理されてないのがやや残念。謎の提示は魅力的なのだが・・・
⑨「大百貨注文者」=頼んでもいないのに、次から次へと注文したという品物が届けられる・・・というのが本編の謎。真相は大月弁護士により割とあっさり解決させられてしまうのだが、プロットは面白いし、オチもなかなか洒落てる。
⑩「人間燈台」=ある嵐の夜、灯台守の若き男性が忽然と消えてしまうのだが・・・オチは途中で読める。
⑪「幽霊妻」=この真相は何? これって、いわゆる“バカミス”なのだろうか・・・?

以上11編。
「とむらい機関車」の書評でも触れたが、実にロジカルかつ端正な「本格ミステリー」というのが、本作に対しても当てはまる。
作品の多くは、読者をミスリードさせラストには騙し絵のようにひっくり返してみせるというタイプで、その切れ味もなかなかに鋭い。
巻末解説によると、大阪圭吉という作家は、同時期に活躍した乱歩をはじめ批評家のウケはどうもよくなかったようだが、個人的にはストライクな作家。

本作の収録作については、レベルにややバラツキはあるが、それでも十分評価に値すると思うので、一度手に取られることをお勧めします。
(個人的ベストは①かな。あとは②と⑥⑦当たり。⑨も面白い)


No.863 6点 事件当夜は雨
ヒラリー・ウォー
(2013/04/20 20:22登録)
アメリカ版警察小説の大家といえば、このヒラリー・ウォーということになるだろう。
本作はフェローズ署長シリーズの三作目。主役であるフェローズ署長とウィルクス部長刑事の丁々発止のやり取りが楽しい。

~土砂降りの雨の夜。果樹園の主人を訪れたその男は「おまえには50ドルの貸しがある」と言い放つや、いきなり銃を発砲した・・・コネティカット州の小さな町・ストックフォードで起きた奇怪な事件。霧の中を手探りするように、フェローズ署長は手掛かりを求める。その言葉の意味は? 犯人は? 警察の捜査活動を緻密に描きつつ、本格推理の醍醐味を満喫させる巨匠ウォーの代表作~

まずまずの面白さ・・・という感じかな。
巻頭で瀬戸川猛資氏が、作者のミステリーの魅力を「発端の面白さ」と表現しているが、本作にもそれが当て嵌る。
大雨が降る夜、怪しい風体の男が、突然銃を発砲するという謎めいた導入部。
やがて容疑者は近隣の住人に絞られるが、それでも十指に余ったまま、容易に絞り込めない。
フェローズらは一人ひとり粘り強く捜査を進める・・・いわゆる警察小説っぽい展開。

中盤~終盤まではまだるっこしいのだが、終盤に差し掛かったところで急転直下で真犯人が判明する。
ただし、本作はそこで終わりではない。
「誰が真犯人なのか」というところ以外に、工夫というか作者のアイデアが投入されている点が良さだろう。
そこが楽しめるかどうかで、本作への評価は変わってくるものと思われる。

個人的には評価に迷うが、インパクトとしてはやや弱いかなというのが正直な感想。
ということで、この辺りの評点に落ち着く。
(こういう格好の美女を目の前にしたら・・・浮き足だつわなぁ、普通の男なら・・・)


No.862 4点 準急ながら
鮎川哲也
(2013/04/20 20:20登録)
お馴染み「鬼貫警部シリーズ」の長編。
といえば、言うまでもなく鉄道・時刻表を絡めたアリバイトリックがテーマの作品。

~果たして、奇怪な殺人事件を解く鍵はどこにあるのか? 雪深き北海道・月寒で瀕死の怪我人を助けた海里昭子。その美談が十数年後、新聞に採り上げられた。一方、愛知県・犬山で経営不振にあった土産物屋店主が何者かに刺殺される事件が発生。だが驚いたことに、被害者の鈴木武造は、出身地・青森で健在だとの情報が入った。一見無関係な事件がダイナミックに絡み合う。そして鬼貫警部を悩ませるのは鉄壁のアリバイ!~

作者の「アリバイ崩し」としては「中の下」というレベル。
時刻表を駆使したアリバイトリックというのは、もはや現代の鉄道ダイヤでは不可能な“過去の遺物”になっていて、それだけノスタルジックで、守るべき「文化遺産」という感じ(あくまで個人的にだが・・・)なのだが・・・
本作のメイントリックはフィルムカメラの特性を駆使した「写真トリック」なのが好みからは外れている。
作品終盤、鬼貫警部が写真トリックでトライ&エラーを繰り返すプロットはまずまずなのだが、これってカメラの知識がないと読者にはお手上げではないか。

一見無関係と思われる二つの事件が結びつく・・・というプロットは面白そうなのだが、丹那刑事らの捜査で偶然に判明するというご都合主義が目立つのがちょっといただけない。
この辺は「黒いトランク」などの佳作とは、プロットの練り込み具合が違う。
人物造形もサラっと流していて、全体的に推理クイズレベルというのが偽らざるところかもしれない。

まぁ分量としては手頃なので、さっと読むにはいいかもしれないが、敢えて手に取るほどの作品ではないかな。
評価もやや辛め。
(「ながら」は当時、東京~大垣間を走っていた準急列車。当然、長良川の「ながら」・・・)


No.861 3点 消える上海レディ
島田荘司
(2013/04/14 21:29登録)
1987年発表。比較的初期の長編。
「消える水晶特急」に続く、女性ファッション雑誌の編集者・蓬田夜片子と島丘弓芙子コンビのシリーズ第二弾。

~業界一の化粧品メーカーが打ち出した来年のテーマは、“戦前で時間の止まったような街、上海”。キャンペーンガールもつば広の帽子に中国服(チャイナドレス)、当時そのままの“上海レディ”だ。取材で神戸~上海を結ぶ「鑑真号」に乗ることになった女性記者弓芙子。だが、出航前から前から彼女の命を執拗に付け狙う謎の女性が現れる。そして、ついに密室と化した船内で血の凶行が・・・~

これはヒドイ。
あきらかに「やっつけ感」のある作品。
(これだけ書いて終わりたい・・・)
前作(「消える水晶特急」)も水準以下の作品だったが、吉敷刑事も登場し、列車が消えるという不可能テイストが多少なりともあったのだが、本作はとにかくなにもない。
「船上ミステリー」というのは、割と目にするが、船上=密室というプロットはあまりにも安直だろう。

今回の主役は弓芙子の方なのだが(前作は夜片子)、こいつの書き方もヒドイ。
“上海レディ”にとにかく振り回され、きりきり舞いさせられる役どころなのだが、作中はずっとヒステリックに書かれていて、読んでてツラくなる。
ラストのオチもなぁ・・・、結局二人○役トリック(ネタばれだが、もういいだろっ)なのだが、ミエミエだし。

とにかく誉めるところのない作品。特に作者のファンであれば、スルーする方が賢明でしょう。
シリーズも結局これで打ち止めとなったが、まぁそうだろうな。


No.860 5点 小鬼の市
ヘレン・マクロイ
(2013/04/14 21:26登録)
精神科医ベイジル・ウィリングを探偵役とするシリーズとしては六作目に当たる長編。
東京創元社による作者未訳作品の上梓ということで、期待して読み始めたのだが・・・

~カリブ海の島国サンタ・テレサに流れ着いた不敵な男性フィリップ・スタークは、アメリカの報道機関オクシデンタル通信社の支局長ハロランの死に乗じてまんまとその後釜に座った。着任早々、本社の命を受けてハロランの死をめぐる不審な状況を調べ始めたスタークは、死者が残した手掛かり=本者宛の電文や謎の言葉“コブリン・マーケット”=を追い掛けるうち、更なる死体と遭遇する。第二次大戦下の中米を舞台に、ウリサール警部とウィリング博士が共演する異色の大作~

正直なとこ、個人的な好みからは外れている。
マクロイでウィリング博士シリーズといえば、「家蝿とカナリア」にしろ「暗い鏡のなかに」にしろ、よく言えば重厚、悪く言えばジメジメした雰囲気、且つ端正&緻密な本格ミステリーというイメージだった。
本作は明らかに「本格ミステリー」ではなく、謎解き要素の多いスリラーとでも言うのが正しい。

紹介文のとおり、戦時管制下の島国という設定であり、最終的に解き明かされる事件の背景や動機にもそれが色濃く反映されている。
もちろん殺人事件に対するフーダニットもあるが、どちらかというと、舞台設定や背景を絡めた死者が残したメッセージの謎解きの方が本筋。でも言葉に関しては、日本人としてはちょっとピンとこない・・・。
タイトルにもなっている“コブリン・マーケット”がキーワードとして登場するのだが、こちらも何かピンボケなんだよなぁ・・・

大ラスに判明するのが本作に仕掛けられた一番の“大技”(!)が作者の面目躍如というところ。
なるほど・・・何となくそうじゃないかなと思ってたけど、やっぱりなぁ・・・
(そうじゃないと紹介文がおかしいことになるけど、さすがにそこはウマイ)

ということで、私のようにマクロイらしい端正な本格を期待すると裏切られることになるが、異色のスリラーとして読むのであればマズマズ楽しめるのかもしれない。
評価はちょっと辛めかな。
(本当に日本の柔術で簡単に首の骨は折れるのだろうか?)


No.859 5点 線の波紋
長岡弘樹
(2013/04/14 21:24登録)
日本推理作家協会賞短編部門を制した「傍聞き」がスマッシュヒットした作者。
本作は連作短編というべきか、連作短編仕立ての長編というべきか・・・

①「談合」=ひとり娘が誘拐された役所勤務の中年女性が主人公。夫までもが心労で倒れる中、公共工事発注の仕事に忙殺されるが、そんなときある工事入札に絡んで談合の噂が入る・・・。そして、ラストにはついに娘が・・・。
②「追悼」=先輩社員と共謀して会社の金を横領している若手社員が主人公。親友の財務担当者が横領に気付いた矢先、その親友が何者かに殺害されてしまう。その親友は①の誘拐事件を独自に調査していたというのだが・・・
③「波紋」=①の誘拐事件を追う女刑事・渡亜矢子が主人公。先輩刑事とともに、退職した伝説的な刑事に助言を請いに彼の職場に向かう。その職場で亜矢子が知り合った母と息子が事件の渦中に・・・
④「再現」=①の誘拐事件と②の殺人事件がつながり、逮捕された真犯人。本編は真犯人視点で物語が展開されるが・・・ここでサプライスが待ち受けていた。

以上4部構成。
ちょっと「狙いすぎ」かな、という読後感。
連作形式は個人的に好きだし、こういう手のプロットは嵌まると面白いとは思う。
けど、本作は形式への拘りが強すぎて、ミステリーとしての本筋がやや薄っぺらいのだ。
誘拐にしろ、殺人にしろ、それ自体には謎は用意されてないので、読者としてはただ読み進めていくしかない。
“真の”真犯人のキャラクターもどうかなぁ・・・
(こんな奴を好きになる女性の気持ちは全く分からん!)

ということで、それほど評価はしない。
「もう少しプロットを練り込めば」っていう気はするので惜しい作品ではあるかも。
(いろんな作家の作風が混じってて、ちょっとオリジナリティに欠けるように思えるのも気になる・・・)


No.858 8点 ナイトホークス
マイクル・コナリー
(2013/04/11 23:01登録)
1992年発表。ハリウッド署ハリー・ボッシュ刑事を主人公とするシリーズ第一作。
凄腕だが一匹狼を好む“孤高のヒーロー”は、やはりハードボイルドによく似合う。

~ブラック・エコー。地下に張り巡らされるトンネルの暗闇のなか、湿った空虚さのなかにこだまする自分の息を兵士たちはこう呼んだ・・・。パイプのなかで死体は発見された。かつての戦友メドーズ。未だヴェトナム戦争の悪夢に悩まされ、眠れる夜を過ごす刑事ボッシュにとっては、20年前の悪夢が蘇る。事故死の処理に割り切れなさを感じ、捜査を強行したボッシュ。だが、意外にもFBIが介入。メドーズは未解決の銀行強盗事件の有力容疑者だった。孤独でタフな刑事の孤立無援の捜査と、哀しく意外な真相をクールに描く長編ハードボイルド~

さすがに読み応え十分。
J.ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズと並び称される人気シリーズだけのことはあるだろう。
作者のM.コナリーはジャーナリズム出身者らしく、熱い男の物語を描きながらも、クール&ドライな筆致でストーリーを進めていく。
主役であるハリー・ボッシュは、ヴェトナム戦争でのつらい記憶に悩まされ、警察組織のなかで異分子的扱いを受けながらも、刑事としての己の矜持を貫こうとする・・・まさにハードボイルド・ヒーローの典型だ。

プロットとしてはそれほどのオリジナリティはなく、まぁ「よくある手」とは言える。
ある殺人事件から端を発した謎が、ヴェトナム戦争を源流に持つ「裏側の巨悪」につながっていく。ハリウッド署、ロス市警、FBIが絡み合いながら、意外な終盤そしてドンデン返しのラストになだれ込む・・・のだ。
特に、黒幕の意外性については、正直なところ予定調和というレベルかもしれない。
ただ、この予定調和はミステリー的なサプライズ感を狙ったというよりは、ある登場人物の哀しみに深みを持たせるためのプロットなのだろう。
(「こうじゃないかと思うけど、こうあって欲しくない」と思いつつ読んでいたが、「やっぱりそうだったのか・・・」という感じ)

ということで、長所短所はあるが、シリーズ一作目としては十分な出来だと思う。
ハリウッドのど真ん中を舞台にした派手な銃撃戦など、よくも悪くも一昔前のハリウッド映画を想起させる展開だし、まさに“This is アメリカン・ハードボイルド”っていう奴だろう。
(たまたま組んだパートナーが美女って展開・・・現実ではなかなかないよなぁ・・・)


No.857 7点 マドンナ・ヴェルデ
海堂尊
(2013/04/11 23:00登録)
映画化もされた「ジーン・ワルツ」が『表』の作品なら、本作は『裏』の作品という位置付け。
“クール・ウィッチ”の異名を持つ美人産婦人科医・曾根崎理恵と、その母親・山咲みどりの二人が織り成す狂想曲。

~美貌の産婦人科医・曾根崎理恵。人呼んで冷徹な魔女(クール・ウィッチ)。彼女は母に問う。「ママ、私の子供を産んでくれない?」 日本では許されぬ代理出産に悩む、母・山咲みどり。これは誰の子供か。私が産むのは子か孫か? やがて明らかになる魔女の嘘は、母娘の関係を変化させる・・・。「ジーン・ワルツ」では語られなかったもうひとつの物語。新世紀のメディカル・エンターテイメント作品~

とにかく感心させられる。
海堂氏の作家としての資質、懐の深さにはとにかく脱帽だ。
もちろん、本作はミステリーとしての要素は皆無に近いし、あまりに作品が量産されすぎてることで毛嫌いされる向きもあるだろう。
でも、「桜宮サーガ」というか、この「世界観」の広がりは尋常ではない・・・と思う。

前作「ジーン・ワルツ」は、海堂作品にややげんなりしていた気持ちを、もう一度向かわせた作品なのだが、本作は何と「ジーン・ワルツ」の片割れとも言える作品。
本作で産まれる理恵(みどり?)の子供も双子なのだが、作品自体もまさに『双子』というべきなのだろう。
「ジーン・ワルツ」でも登場した、清川医師やマリアクリニックの老医院長、そして何より、時を同じくして赤ちゃんを授かることになる妊婦たち・・・相変わらずキャラは見事なまでに立っている。

本作一番のシーンは、終盤の母娘の対決シーン。
冷徹なクール・ウィッチが、のんびり屋でちょっと鈍臭いみどりの策略に敗れる場面・・・
結果的には、これが二人の母娘と「双子」に劇的な変化をもたらすのだ。

「代理母」や「産婦人科医不足」は医療関連ではポピュラーなテーマだろうが、ここでも学会などの権威に対する作者の姿勢が伺える。
何だが、ミステリーの書評っぽくないが、とにかく個人的には面白く読ませていただいた。
続編も構想中とのことなので、期待してます。


No.856 4点 青空の卵
坂木司
(2013/04/11 22:58登録)
「ひきこもり」のプログラマーで探偵役の鳥井と、彼の親友でワトスン役の坂木司のコンビが登場するシリーズ第一弾。
性別不明の覆面作家・坂木司のデビュー作品。

①「夏の終わりの三重奏」=その後シリーズレギュラーとなる巣田が登場。男性を狙う女性ストーカー事件が頻発するなか、巣田も巻き込んで事件は複雑化する・・・。でも・・・なんか現実感がない。
②「秋の足音」=坂木が駅で見かけた全盲の美青年・塚田。彼は謎の二人の男女に後を付けられているというのだが・・・。事件の構図が明らかになった後、更に逆説的な真相が分かる。
③「冬の贈りもの」=②で登場した歌舞伎役者・安藤。安藤の熱狂的ファンから届く数々の贈り物が今回の謎。「なぜこんなものを贈ったのか?」ということなのだが、謎はやがてひと組の夫婦の微妙な関係へ発展する・・・
④「春の子供」=坂木が街角で出会った謎の少年・・・。不憫に思った坂木は、彼を鳥井の部屋へ連れて行く。彼の素性についてが今回の謎の本題なのだが、不和だった鳥井と父親との関係にも変化が訪れる。
⑤「初夏のひよこ」=ボーナストラック。

以上4編+α。
最近書店でよく平積みになっている作者の作品だから、とにかく一度手に取ってみたのが本作。
でも、どうなんだろう?
本シリーズの特徴は、やはり鳥井と坂木との「異常な関係」だろう。
とにかく男性どうしとは思えないほどの「ベタベタ振り」・・・。ちょっとっていうか、かなり気持ち悪いのは否めない。
二人以外の登場人物たちもあまりにも「いい人」すぎて、なんだか現実味がないように感じるのだが、私が変なのだろうか。
言葉は悪いが、何か「超油っぽい料理」を食べた後のような読後感・・・。

ミステリーとしてはどうかって?
まぁ、普通の「日常の謎」ミステリーってところです。
シリーズは全三作なのだが、読もうか読むまいか・・・迷うなぁ。
(ベストはやはり④かな・・・)


No.855 6点 鏡の中は日曜日
殊能将之
(2013/04/05 15:43登録)
2001年に発表された作者の第四長編。
シリーズ探偵である石動戯作の探偵譚だが、謎の名(?)探偵・水城優臣がストーリーを彩る異色&ある意味“実に作者らしい”作品。
ノベルズ刊行時に読了していたので、10何年か振りに再読。

~梵貝荘(ぼんばいそう)と呼ばれる法螺貝様の異形の館。フランス文学の異端児・マラルメを研究する館の当主・瑞門龍司郎が主催する「火曜会」の夜、奇妙な殺人事件が発生する。事件は、名探偵の活躍により解決するが、十数年を経た後、再調査の依頼が現代の名探偵・石動戯作に持ち込まれる。時間を超え交錯する謎また謎。まさに完璧な(?)本格ミステリー~

殊能将之が「館もの」を書くとこんなふうになるんだなぁー、っていう感想。
巻末の「参考文献」として、綾辻氏の「館シリーズ」諸作が堂々と掲げられているなど、本作は「館シリーズ」プラス、氏の代表作「ハサミ男」と表現するのがしっくりくる。
大きく三章に分かれる筋立て。謎の第一章を過ぎると、ようやく本筋の殺人事件が現れる。
過去と現代のパートがそれぞれの視点人物によって交互に語られる第二章に作者の企みがタップリと詰め込まれている。
(この辺は、まさにこの頃の「新本格」という味わいで、鼻に付く人には鼻に付くんだろうなぁ・・・)

そして、タネあかしとも言うべき第三章で、超弩級の「叙述トリック」が炸裂する・・・
って、多くのミステリーファンなら「今さらこのネタ!」って思うに違いない。
なにせ、「作者といえば」という例のネタなのだから・・・
確かにこれは賛否両論になるというのはよく分かる。

でも、まぁ個人的にはそれほど悪い気はしなかった・・・
(これは、作者の作品を久し振りに読んだという理由が大きいのだろうけど)
他の方の書評を見てると、かなり極端な評価になっているようだが、ミステリーの「遊戯性」にフォーカスを当てるのなら、まずまず面白いのではないか、というのが正直な評価。
ただ、やっぱり二番煎じという指摘には首肯せざるを得ないだろうし、あまり高評価は無理かな。

ところで、先ごろ殊能氏死去のニュースをネットで見かけ、返す返すも残念な気がしてならない。
本名も死因も公表されないというのが、覆面作家として活動していた作者らしいが、著作が途絶えていたのはやっぱり健康面の問題だったということかなぁ。
合掌。


No.854 3点 夕暮れをすぎて
スティーヴン・キング
(2013/04/05 15:39登録)
“King of ホラー”の異名を持つ稀代のストーリーテラー、スティーブン・キングの作品集。
数多くの代表作がある作者だが、作者の作品に対してはまったく予備知識がないため、とりあえず短編集あたりで「小手調べ」と思い付き、某書店にて手にしたのが本作というわけなのだが・・・

①「ウィラ」=とあるアメリカの田舎町。寂れた駅や場末のキャバレーに集まる人々たち、そして主人公のカップル・・・。何だかふわふわした文章&描写だなぁと思っていたが、「やっぱりこういうオチか!」という展開に。
②「ジンジャーブレッド・ガール」=巻末解説の風間氏も書かれているが、これが本作の白眉だろう。幼い娘を亡くし、悪夢を忘れるため『走ること』に目覚めた主人公。主人公がひとりで訪れたある島で、とんでもない事件に巻き込まれる・・・。“サイコ”というほどの異様さではないが、さすがに読者をドキドキさせる手口は見事だ。
③「ハーヴィーの夢」=これは????・・・。要は夢の話ということ。
④「パーキングエリア」=????パートⅡ。で、結局どういうこと?
⑤「エアロバイク」=要するに太った男がエアロバイクに跨りながら、徐々に減量や健康体に目覚めていく・・・という話なのか? 例え話が多いので分かりにくい。
⑥「彼らが残したもの」=やはりアメリカ人にとっては「9.11」というのは特別な意味があるということなのだろう。
⑦「卒業の午後」=ショート・ショートというべき分量。

以上7編。
本作は、文藝春秋社が作品集「Just after Sunset」(全13編)を二分冊にした前半部分。
最初に書いたとおり、本作が「初キング」だったわけだが、正直、選択を誤ったようです。
②以外は読んでもピンとこない作品ばかりというのが偽らざる感想。
作者に対する世間的な評価を勘案すれば、私の理解力が不足しているということなのかもしれないが、でもねぇ・・・個人的な嗜好とは大きく離れてしまっているのだから仕方がない。

やっぱり、有名作&長編からスタートしておけばよかったなぁ・・・。


No.853 6点 神のロジック 人間のマジック
西澤保彦
(2013/04/05 15:36登録)
2003年発表、作者32作目の作品(とのこと)。
作者得意の「特殊設定」下で起こる事件に加え、大掛かりな叙述トリックまでもが炸裂する・・・

~「ここはどこ?」「何のために?」 世界中から集められ、謎の『学校』で奇妙な犯人当てクイズを課される『ぼくら』・・・。やがてひとりの新入生が『学校』に潜む“邪悪なモノ”を目覚めさせたとき、共同体を悲劇が襲う・・・。驚愕の結末と周到な伏線とに、読後、感嘆の吐息を漏らさない者はいないだろう傑作ミステリー~

これは・・・作者の「狙い」がバッチリ嵌った作品。
はっきり言って、後半までは何やら訳の分からない特殊設定に付き合わされ、事件らしい事件も起こらず、「いったい何が狙いなのか?」という疑問を抱きながら読み進めていた。
潮目が変わったのは、紹介文のとおり、新入生の登場。それ以降、短い間に連続殺人事件やら放火がつぎつぎと発生し、怒涛の如く終盤に突入する。

そしてⅨ章の中途当たりで炸裂するのが、本作全体に仕掛けられた大掛かりな叙述トリック。
なるほど・・・これがやりたかったのか! って感じ。
でも、これって・・・他の方の書評でも触れられているとおり、当然○野氏の代表作「○○○・・・」との「被り」が気になる。
後者の発表の方が若干早かったし、世評では劣っている感は拭えないが、個人的には本作も負けず劣らずではないかと思う。
こういう特殊設定はもともと作者の十八番だし、他作家がやるならともかく、伏線の張り方も「らしさ」があって良い。
(ただ、いくらコントロールされているとはいえ、本人がソレを理解しないという設定はちょっと違和感はあるが)
敢えていうなら、こういう「動機」がどうかということになるのだが、まぁ特殊設定ですから・・・

ということで、個人的には評価したい作品。
作者にはこういうひねくれた設定やプロットがやっぱり似合うね。

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