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ミステリの祭典

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張込み
新潮文庫・松本清張 傑作短編集〔五〕/他社版もあり

作家 松本清張
出版日1959年01月
平均点6.77点
書評数13人

No.13 6点 みりん
(2024/03/20 13:12登録)
【直接的なネタバレはないが、未読の方は読まない方が良い】

張込み 5点
犯人の男の方ではなく、張込みを通して浮かび上がってくる女の内面が主題。こういうのをあまり読んだことがないので新鮮。
 
顔 7点
面白い。とにかく読ませる。「片方がうまくいくと、もう片方の悪事が露呈するかもしれない」みたいなジレンマ、規模は違えど、誰しも一度は経験ありますよね(たぶん)。

声 4点
珍しくトリック的中。

地方紙を買う女 7点
地方紙を買っただけなのに・・・
イイなあこれ 最後の手紙もgood

鬼畜 6点
非常に匂わせる…とにかく匂わせつつ、何も明かされないまま終わる。 他の方の書評によると映画では"その後"も描かれているらしい。気になる。

一年半待て 8点
女性の悲劇的な半生からどんでん返し2捻りまでが無駄なく凝縮されたお話。これぞ短編のお手本とも呼べる一作。

投影 4点
1番トリックらしいトリックが出てくる。題材にあまり興味を持てなかったので…

カルネアデスの舟板 7点
あまりにも身勝手すぎる男。「カルネアデスの舟板」になぞらえる資格はないだろうと突っ込みたくなるほど、殺人の合理性が一切ない。でも不条理の絡み合いらしいので仕方がない。

No.12 5点 ボナンザ
(2021/09/18 21:11登録)
一年半待てとカルネアデスの板はタイトルと中身のギャップで拍子抜けに思えてしまうのが残念。

No.11 5点 ことは
(2021/08/28 20:47登録)
やはり、社会派は好みでないことを再確認した。
本書は当サイトで点が高かったので、若い頃とは少し好みが変わったかもと思い手にとってみた。たしかに若い頃より楽しめる部分もできていた。若い頃なら「つまらん」と切り捨てていたと思うが、今回はそれなりに楽しめたしね。特に文章は簡潔でスッキリしていて、実に読みやすい。今でも読まれる理由はわかった気がする。それでも好みではないかな。
個々の作品に触れてみよう。
「張込み」。刑事の捜査のスケッチ。刑事が張り込む女の人物像が浮かび上がる。うまいなぁと思うが、ミステリ的興趣ではないかな。
「顔」。これは緊張感が全編にあり、面白かった。私としては、本編のベスト。
「声」。前半、事件に巻き込まれる女性の部分はサスペンスがある。後半、事件の捜査パートも迫真性があり、面白い。しかし真相がわかってくると、どうもいただけない。真相だけが作り物めいているんだよな。それまでの迫真性とマッチしないで、浮いている感じ。
「地方紙を買う女」。これも、前半の事件をかぎつける部分のサスペンスは秀逸。でも「声」同様、後半が作り物めいてくる。やはり全体のバランスは大事なんだなぁと思う。
「鬼畜」。犯罪が起きるまでを追ったドラマ。ジャンルとしてのミステリに入れるかどうかは、ボーダーラインですね。「罪と罰」がボーダーラインかな、と同じ感覚でボーダーライン。
「一年半待て」。定形的作品で、可もなし、不可もなし。
「投影」。犯行手段の手の込みようが作り物めいている。タイトルの意図も読み取れなかった。主人公の造形は陰影があってよい。
「カルネアデスの舟板」。考古学教授の「犯罪に至る心理」を追ったドラマ。「鬼畜」と同様、ミステリのボーダーライン。

No.10 7点 蟷螂の斧
(2020/08/15 14:00登録)
唇の厚い男が二編に登場しています(笑)。⑦⑧について、背景・テーマは社会派的ではありますが、短篇のため深く掘り下げられてはいなかったですね。

①張込み 7点 刑事のやさしさと女の性 
②顔 7点 人間の記憶なんて・・・皮肉 
③声 7点 当日、雨が降っていたとは・・・アリバイ崩し 
④地方紙を買う女 6点 社会派の原点か? 犯罪に至る動機 
⑤鬼畜 6点 TVドラマの方が泣けるようです 心理描写 
⑥一年半待て 8点 女性評論家としては「それは推論でしょ」と言いたくはなる(笑)これぞ短篇の切れ味 どんでん返し 
⑦投影 6点 事故死には、やはりこれだけ手数をかけなければならないだろう 物理的トリック 
⑧カルネアデスの舟板 6点 法的な緊急避難ではなかった点が残念。男心と秋の空 

No.9 7点
(2020/04/20 14:08登録)
清張の短編には、犯罪ものや、主人公の転落を描いたものが多く、本短編集では『顔』や『鬼畜』、『カルネアデスの舟板』などはそれに当たる。
ただ本短編集には、『張込み』や『声』のように刑事が活躍するものもあれば、社会派の『投影』も含まれている。
前者(犯罪ものなど)のほうが清張らしさがあって面白さも格別だが、立て続けに読むと辟易としてくるから、本短編集はちょうどいい塩梅である。

個人的には、前者では『カルネアデス』、後者では『声』が好みだ。とはいえ他が悪いわけではない。『張込み』、『投影』もかなりいい。
その他『地方紙を買う女』、『一年半待て』(これらも捨てがたい)を含み、全8編。

長編では社会派ミステリーが目立つが、長編でも上記傾向は変わらない。
刑事ものの『点と線』は2回読んでも好きにはなれなかったが、短編では『声』や『張込み』などの刑事ものが好みなのは我ながら意外な感じがする。
『点と線』は、社会派であり本格物でもあるので、本来好みのはず。もう一度読めば好きになるのかもしれない。

No.8 7点 まさむね
(2020/01/04 22:27登録)
 久方ぶりの清張短編。「令和」初の年末年始だからこそ読んでみようと、新潮文庫版を手にした次第です。
 淡々とした筆致での反転、やっぱりイイですねぇ。次々とページをめくらされました。そして、個人的にはラストの締め方が大好きなのです。スパッと閉じられた後に漂う余韻の深さ、これは最近の若手作家では難しいところでしょう。どの短編も楽しめましたね。今年は清張作品を積極的に読み返してみようかな。

No.7 7点 take5
(2019/12/15 23:57登録)
新潮社で読む方が多いようですが、
私は光文社です。
収録作品が違いますが、いずれも人間の欲望や浅ましさがよく描かれています。
考古学や戦国時代の歴史に造形が深い作者ですが、
今の時代に十分通用する話です。

No.6 6点 いいちこ
(2017/10/13 11:01登録)
抑制の利いた筆致でありながら、登場人物の内面を抉り出すような心理描写、高いリーダビリティは相変わらずで、筆力の高さを感じさせる。
ただ、ミステリとしては、プロットや登場人物の行動が合理性を欠き、小さな偶然から事態を反転させるプロットのパターン化が目に付くところ。
8編のいずれもが水準以上に達しているアベレージの高さはさすがだが、突出した作品はなく、「黒い画集」とは確実に差がある印象

No.5 6点 ALFA
(2017/03/08 18:11登録)
数十年ぶりに再読。
粒ぞろいの8編からなる短編集。
そのうち4編は、たくらみが小さな偶然から一気に破綻するという清張お得意のパターン。初めて読むと新鮮だが、再読すると印象が薄くなってしまう。
逆に「張込み」や「投影」のようなミステリ味の人情噺のほうが再読に耐える。
フェイバリットは最後の反転が鮮やかな「一年半待て」。
ミステリ、サスペンス、心理小説と一冊で多彩な清張ワールドが楽しめるから未読の人にはお勧めです。

No.4 6点 パメル
(2016/06/23 01:14登録)
八編からなる短編集
社会や人間の暗部をえぐる社会派小説で全体的に重苦しい雰囲気が漂っている
派手なトリックや謎解きの楽しみは無いが犯罪に走る人間の心理と動機が
丁寧に描かれている
「黒い画集」に比べると小粒な印象

No.3 10点 斎藤警部
(2015/07/03 07:23登録)
世界に誇るこの傑作短篇集だけは10点超を付けたいんですけどね、流石にそれは無理なので10.499点、四捨五入でぎりぎり10点とします。
普通の厚みの本だけど、中に入っている8つの短篇たちがどれもこれも、普通だったら長篇小説に盛り込むような質量の内容を清張氏の怖るべき情念で圧縮された上で備えているため(良い意味で濃淡はある)、一度中身を知ってしまうとあたかもストーリーとサスペンスと悪意と謎と人生でパンッパンに膨らんだこの本が今にも破裂してしまいそうな錯覚を覚えます。

張込み/顔/声/地方紙を買う女/鬼畜/一年半待て/投影/カルネアデスの舟板
(新潮文庫)

ミステリともサスペンスとも言い難い(ややハードボイルド文芸タッチか?)表題作「張込み」からおもむろに幕を開ける。この静かにジワジワくる、読者を引っ張って離さない力と、人情の絡んだ哀切な(そしてやはり静かな)エンディング。。 いきなり一遍の長篇小説を読了した様な酩酊感ないし覚醒感のうちに、比較的軽めの、しかしスピード感と恐怖のエネルギーに圧倒される「顔」と「声」。北島三郎師匠とはまた一味違う「漢字一文字シリーズ」サスペンスは快調だ! 本格ミステリ色の強い二つの犯罪女子物語「地方紙を買う女」「一年半待て」に挟まれるは、無惨極まりない「鬼畜」! 中身の濃密過ぎる地獄絵巻は言うまでも無いが、一番最後に突如話の流れがトップギアに、最高の速度を一瞬出して急に話が切れる! この、余韻と言うにはあまりに巨大で重過ぎる”その後”を、暗示どころか確実に読者それぞれの頭の中に一瞬で刻ませる終わらせ方、最高にシビれました。。(映画では”その後”も残酷に描いています)
最後の二作「投影」「カルネアデスの舟板」がまた白眉中の白眉、最高に爆発しています。 嗚呼、クラクラするぜ。。

No.2 8点
(2014/09/14 12:34登録)
表題作は25ページほどのものですが、野村芳太郎監督は張込み刑事を1人から2人に増やし、その刑事の1人の家族生活の回想を付け加えたぐらいで、これを2時間近くもある映画に仕立てています。それでも映画が間延びした感じになっていないのは、監督の腕でもあると同時に、原作がそれだけの内容を凝縮しているということでもあるでしょう。強盗殺人犯人よりも、犯人の愛人であった現在は平凡な主婦を、刑事の視点から描いた作品で、サスペンスはありますが、ミステリ度は希薄です。
他の作品もそれぞれおもしろいのですが、特に印象に残ったのは次の3編。『顔』は二重のどんでん返しが用意されています。犯罪者は余計な事をしなければよかったのに… 『鬼畜』は犯罪小説としてすさまじいものがあります。リアリズムでここまで描かれると、主役夫婦に嫌悪感を通り越した感情を持ってしまいます。『投影』はまさに社会派謎解きミステリ。

No.1 8点 E-BANKER
(2013/06/21 21:28登録)
888番目の書評に続き松本清張である。
ただし、今回は短編集。新潮社が編んだ清張最初期の“推理小説”作品集が本作。

①「張込み」=これが清張の推理小説の「出発点」となる作品とのこと。殺人事件を起こした犯人の元恋人に張込むことになる一刑事の姿をリアリスティックに描いたのが本編。ミステリー的ガジェットは何もないのだが、何ともいえない味わいがある。
②「顔」=これも何とも言えない秀作。過去に犯した殺人、そして被害者と一緒にいるところを見られた一人の男の行方を常に気にしていた主人公。その主人公が映画俳優として成功の道を歩もうとした刹那、自分の「顔」が知られてしまう危険に主人公はどうする?
③「声」=「顔」の次は「声」だ。ある企業の電話交換手(こんな職業があったんだよねぇ)をしていた主人公。過去、とある事件の際、偶然に聞いた「声」を再び聞いたとき事件が起こる・・・。ひとりの刑事が粘り強くアリバイ崩しに挑むプロットは、まさに「点と線」に通じる。これも秀作。
④「地方紙を買う女」=東京在住の女性がわざわざ地方新聞を定期購読する理由は? 不審を抱いた作家が単独捜査を進めるうち、女性の奸計が明らかになる・・・。
⑤「鬼畜」=これはまさにタイトルどおり。「鬼畜」以外の何者でもない二人の人間と、彼らが「鬼畜」となるまでの過程を描いた作品。戦前戦後の貧しい日本の姿がここにある、ということなのだが、それ以上に人間の醜さをここまで描ききる作者の熱意に圧倒される。
⑥「一年半待て」=これはやっぱり「最後の一行」に尽きる。ひとつの殺人事件に一定の解決を示したあと、読者に対して見事な肘鉄を食らわせる! このドンデン返しはまさにミステリーそのもの。
⑦「投影」=これは「社会派」というフレーズを感じさせる作品。一地方都市を舞台に、市政の裏に暗躍するフィクサーと官吏の癒着、そしてそれに挑む主人公たちという構図。殺人事件についてはトリックらしきものが解き明かされるが、これはまぁ“おまけ”だな。
⑧「カルネアデスの舟板」=これも「人間のズルさ、醜さ」がえぐるように書かれた作品。自分の成功だけのために、あらゆる奸計を操る男。そして、そのために自身が不幸になる皮肉・・・。人間って勝手だよねぇ・・・。

以上8編。
いやぁー、短編もさすがだねぇ。一編ごと噛み締めるように読んでしまった。
先にも触れたが、別にミステリー的な仕掛けやプロットに溢れているわけではない。目を見張るトリックがあるわけではない。
そこにあるのは、ひたすら「リアリズム」の世界なのだ。
嫉妬や愛憎、エゴや妙なプライド・優越感などなど、とにかく人間の本懐というか「醜さ」が目の前にさらけ出される。
そして、昭和20年代から30年代という時代背景も、この作品世界に実に深みを与えているのだ。

今更なんだけど、作家としての清張のすごさに圧倒される・・・それが偽らざる感想。
(②③が白眉かな。⑥や⑧も胸にグッとくる。他もまずまず。)

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