home

ミステリの祭典

login
太陽黒点

作家 山田風太郎
出版日1963年01月
平均点7.12点
書評数17人

No.17 8点 ◇・・
(2023/01/13 20:18登録)
ネタバレあります




全体のうち、ラスト数ページを除くほとんどの部分は、複数の男女の恋愛関係のもつれを描いた青春小説でしかない。ところが事件らしい事件がやっと発生したと思いきや、最後になって事件の背景に潜んでいた黒幕が姿を現し、それまでの部分で描かれた男女の行動が、彼によって操られた結果であったことが明らかになる。
それはそれで極めて意外な結末だが、真犯人の仕掛けた罠は単なる操作ではない。この作品の秀逸さは、操りに見立てを組み合わせることで、操作のテーマの本質をあぶり出した点にこそ存在するのだ。

No.16 7点 じきる
(2022/04/06 16:26登録)
真相の明かし方等に難点はありますが、読後に色んな意味で強烈な余韻を残しました。

No.15 6点
(2022/03/16 18:00登録)
伏線はあるものの、それだけでは到底、犯人や真相には辿りつかず、謎解きミステリーという印象はまったくありません。そもそも後半にいたるまで事件らしい事件がありませんしね。
だから、最後の章の独白のような語りは、謎解き小説の真相解明というよりは、とってつけたような別物語のような感さえします。

結局のところ、物語の流れと、「死刑執行・〇カ月前」という章タイトルから想像できる結末とで楽しむサスペンス小説といってもいいでしょう。まあ、サスペンス的には十分に楽しめました。

以下ネタバレですが。

斎藤警部さんもご指摘されているように、途中までの中心人物が捨て駒だったというのは面白いところです。でもどうせなら、最後の最後まで中心人物風に描いてほしかったかな、という気がします。
なぜ中心から外れたのかな、と疑問を抱いて何度もページを行き来しながら謎解きに挑むのが、本当の謎解きミステリーの読み手なのかもしれませんが、疑問に感じただけで終わっちゃいました。

No.14 7点 名探偵ジャパン
(2019/04/14 17:35登録)
凄いものを読んだ、という満足感に満たされました。
序盤(というか、ラスト直前まで)の展開は「何だこれ?」と思いながら読んでいましたが、各章冒頭に提示される「死刑執行・○か月前」という踊り文句を見るたびに「ああ、これはミステリで間違いないんだ」と気を取り直し、「信じてるぞ山風」と思いながら読み続けました(笑)。
とはいえ、その「ラスト」に至るまでの話も、決してつまらないというわけではなく、筆力にぐいぐい引かれて読んでしまった、というのが正直なところです。

確かに、計画の成功性、動機、被害者の選定など、ミステリとして万人を納得させられるものではないかもしれませんが、「あの時代」を生きた作家にしか書けない圧倒的な力を持った作品であるということは疑いないでしょう。

No.13 8点 斎藤警部
(2017/09/27 23:40登録)
意外と通俗。読み易さが面白さにしがみついた。
しかし、最終章は。。。

最終章に至るまでミステリらしくない、との意見が多いのが意外です。海外某作を思わせる各章表題の「死刑○○日前」。これこそ(某作を知る知らぬに関らず)「こりゃミステリだな」と察する大きなヒントとして風太郎氏が敢えて記載したものではなかろうか。 それに、何気に伏線も豊富ですよ(ってそりゃイニシエーションなんとかも同じか)。。。。ここからちょっとネタバレですが。。。。。。。。。。。。普通だったらチョイ役で構わないような某人物の存在感が途中から増し増しになる流れだって、オカシイじゃあァりませんか。。

さてその最終章での真相吐露ですが。。微妙に期待を裏切ったナ。。。。またしばらくネタバレです。。。。。。。。。。。。。。。。一見どうしたって主人公に見える人物が、実は犯人(黒幕)の捨てゴマの一つに過ぎなかった、、ってのはよろしんだけど、小説自体の中心からいきなりポーンと外周部に飛ばされちゃってるってのは、バランス欠いてるような。。あの人を殲滅のターゲットにした理由もなんだか曖昧で、ミステリの旨味無しで被害者が可哀相なだけ。。そのへんの落とし前はっきり付けた上で更なる大きな意外性で攻めて欲しかったナ! まぁ、滅多なことは言えないわけですが。。

とは言え、そこで大きく減点されてなお8点(8.3くらい)付けちゃいます。とにかく「結末にどんな暗黒が待ち受けているんだろう」とワクワクしながらぐいぐい読めてしまうのヨ。だいたい小説そのものが面白いし。

あと、ご指摘の方もやはり多い廣済堂文庫の裏表紙ネタバレ粗筋はちょっと非常識ですね。せっかく良い叢書なのに残念です。 ところで(これ言うとネタバレか?)表表紙の青年はいったい誰。。。

No.12 6点 メルカトル
(2017/03/23 22:07登録)
かなりの高評価ですが、私はnukkamさんに近い感想を抱きました。最後に真相が明かされるまでは、全く青春小説そのものではないでしょうか。謎解き要素が一向に感じられません。何をどう仕掛けられているのか、それすらも隠ぺいされているため、ミステリとしての体裁が微塵もありません。
やっと終盤も終盤、あと残り何ページかというところでおもむろに事件の全貌が明らかになります。ここに至ってようやく「そうだったのか」と唖然としながら納得する感じですね。しかもその動機はいったい何なのでしょう。いや、気持ちはわかりますが、結局誰でもよかったのか、とならないですかねえ。確かに、「天下泰平、家庭の幸福、それだけじゃつまらない」このセリフが許せないのは、○○を経験した人間にしか理解できないものかも知れません。しかし、それではまるで逆恨みのようなものではありませんか。
観念的な動機・・・つまりはこれも『虚無への供物』に繋がっているのでしょうか。
傑作とは思いません、ですがミステリ分布図があるとすれば、間違いなく特異点に属する奇妙な作品とはいえるかもしれません。

No.11 8点 tider-tiger
(2017/03/09 21:38登録)
異論は大いにあると思いますが、中井英夫の『虚無への供物』に近いところにいる作品ではないかと、そんな風に思っています。
ミステリとして、いや、小説としてもちょっとどうかと思う部分はあります。
作者本人は失敗作だと言っていたそうですが、それでも大いに心動かされるものありました。衝撃といった方がいいかもしれません。

※注意
私が所持しているのは、「廣済堂文庫 山田風太郎傑作大全24」です。
ネタバレにもいろいろな手口ありますが、本版は裏表紙という意表をついたものでした。「はじめの一歩」風にいえば見えないパンチというやつですな。しかも、もろバレに近い。気をつけて下さい。ちなみに解説もネタバレしてますが、こちらは予告あります。手遅れでしたが。 
どうでもいいけど、本サイトに「書評者のハンドルネームでネタバレ」というのがあります。某有名古典です。個人的にはこういうイタズラは大好きだし、思わず吹き出してしまったのですが、未読の方はお気を付け下さいませ。

※以下、なるべくネタバレしないように書くつもりですが、なにかに気付いてしまう方もいるかもしれません。


物語の面白さ、そして、緻密さや人物描写、会話など楽しめました。
ただ、先進性は認めるものの、ハウダニットに関しては正直なところさほど感心しませんでした。かなり無理があります。成功したのが奇跡といえるくらい。
ハウよりもむしろ自分はホワイが興味深かったのです。丁寧に構築され、さらにその筆力でねじふせられました。非常に観念的で現実的ではない動機ですが、小説としてはありだと思います。
犠牲者の選択について、これも多くは書けないけれど、間違ってはいないと思いました。むしろ、あれで良かったのではないかと。
壮大かつくそ無駄な見立て。それは自分(読者)を刺すものであって、作中の被害者は誰だっていいんです。
資料を書き写すのではなくて、作者自身の口から吐き出された言葉、しゃべり過ぎだし小説としては不格好だと思います。でも、そこが胸を打つのです。

No.10 7点 青い車
(2017/03/08 18:48登録)
 下手なことを書くと大きくネタバレしそうなのであまり多くは語りません。ただ、「そう来たか!」と唸ること請け合いのテクニカルな作品であることだけは自信を持って言えます。しかし、本格マニア受けしそうな『明治断頭台』よりあまり大作感がないこれがランキング上位に来たのは意外でした。

No.9 7点 take5
(2016/10/08 19:07登録)
国も背景も違えど、『ビッグボウの殺人』以来の低枚数高評価でした。
最後の独白が真相のあらましだけを語っているのではない所で+1点です。
敗戦について学ぶ教科書の一冊と言って良いのではないでしょうか。

No.8 7点 abc1
(2016/06/04 10:49登録)
操りの構図に多少無理があるような気はしますが、面白かったです。
動機もなるほどと思いました。
ただ読者からすると、一番応援したい(しかも何の罪もない)二人が死んでしまうので、
ちょっと後味が悪い。
「罰せられるべき」なのはこの二人じゃないだろうと思ってしまう。

No.7 6点 いいちこ
(2015/12/29 12:56登録)
犯行計画の成立性をはじめ、本格ミステリとしての色彩は淡泊だが、序盤に大胆な伏線を仕込みつつ、一風変わった恋愛小説のようなプロットで、読者を煙に巻く手際は鮮やか。
古典的ミステリとは一線を画す仕上がりは、その時代性を考えれば、著者の高い先見性を窺わせる

No.6 7点 E-BANKER
(2013/07/25 23:12登録)
1963年発表。「忍法帖シリーズ」で著名な作者が著したミステリー。
東西ミステリー等のランキングでも高評価を誇る作品でもある。

~昭和30年代の東京。才気に満ちた美貌の苦学生・鏑木明は、アルバイト先の屋敷で社長令嬢の多賀恵美子と出会い、偶然にも特権階級への足掛かりを手にする。献身的だが平凡な恋人・容子を捨て、明は金持ち連中への復讐を企て始める。それが全ての悲劇の序章だとは知らず・・・。“誰カガ罰セラレネバナラヌ”・・・静かに育まれた狂気が花開くとき、未曾有の結末が訪れる。戦争を経験した作者だからこそ書けた奇跡のミステリー長編~

これは久々に「唸らされた」作品。
「死刑執行一年前」という思わせぶりな章題から始まり、読み進めるほどにカウントダウンされていく。
そして、「死刑執行当日」の章とともに、今まで隠されていた驚くべき奸計・真相が読者の前に示されるのだ。
なるほど・・・こういうことかぁ・・・。
だからこそ本作がこんなに高評価なんだなぁーと納得。

あまり書くと思いっきりネタバレになりそうで難しいが、
ビスマルクの外交術がまさかミステリーのプロットに応用されようとは、本人もまさか予想もしなかっただろう。
(まさに「プロバビリティーの犯罪」の極致)
そして本作を彩るもうひとつの鍵が、この強烈な動機だ。
これは読者にはなにも伏線が与えられてなかったし、後出しといえばそうなのだろうが、時代性を勘案しても、戦争を全く知らない世代にとって、これは胸に深々と突き刺さるようだった。

本作については、正直最近まで存在すら全く知らない作品だった。
東西ミステリーへのランキングは伊達ではない、そう感じさせられた次第。
他のミステリー作品も機会があれば是非手を伸ばしてみたい、そんな気持ちにさせられた良作。

No.5 7点 測量ボ-イ
(2013/03/24 13:05登録)
氏の作品を読むのは「十三角関係」に続き2作目。
この作品もなかなかのものですが、動機が後だしっぽく、
前時代的なのが難点。まあ後者は時代背景的にいた仕方
なしですが。
減点ポイントはあるものの、水準以上の評価はできる
作品です。

(余談)
この作品は、例の東西ミステリ-で初めて知って読んで
みました。隠れた名作、古えの名作を手軽に知れるのが
よいですね。東西ミステリ-万歳!

No.4 8点 蟷螂の斧
(2012/03/25 11:30登録)
ミステリーとして読むなら、ネタばれがあるので裏表紙および解説を先に読んではならない小説です。逆考えればメッセージ小説になるのでしょうか。「誰カガ罰セラレネバナラヌ」・・・「天下泰平、家庭の幸福それがあるだけで無上の幸福ではないか。他人に比べ少しくらい不幸だったとしても、ぜいたく至極な不幸だ。がまんのならないほど、ぜいたくな不幸だ。」戦争経験者の言葉なので、身に沁みました。

No.3 10点 こう
(2012/02/12 22:33登録)
 5年以上積読になっていたんですが今年に入って読了しました。つくづく前情報なしで読めて良かったです。青春恋愛ストーリーが延々と語られどこで事件が起こるんだろうと思っていたら「死刑執行当日」のたたみかける展開は予想外でした。「ビスマルク」戦略の持つ意味は予想もしませんでした。
 読者には全く推理不能でありただ説明を受け納得するしかない内容ではありますが、こういう発想、ストーリーが50年前に描かれていたことに感動します。
 正直殺人動機や被害者には納得行きかねるところもありますがそれでも素晴らしかったです。例え絵空事でも非現実的でもこの作品を読めて大満足です。ただ読者によって評価は分かれそうな作品ではありますね。
 尚私は山田風太郎ミステリー傑作選「戦艦陸奥」で読んだんですがこの作品のみで評価したかったんでこちらに移しました。
 これから読む方は前情報なしで読んでほしい一冊ですね。

No.2 4点 nukkam
(2010/10/04 18:57登録)
(ネタバレなしです) 山田風太郎自身が1963年発表の本書を「推理小説」と位置づけていることは尊重します。ただそれでも私にとっては「推理小説」としての面白みがあまり感じられませんでした。確かに序盤に大胆な伏線が張ってあったことには驚かされます。しかし解くべき謎が全く提示されないまま終盤まで引っ張るプロットでは謎解きのカタルシスを得られません(ほとんど普通小説にしか感じられません)。問題なしで最後に答えだけを示されたような変な読後感が残りました。

No.1 8点 kanamori
(2010/07/09 00:26登録)
現代(と言っても昭和40年前後)を時代背景にしたミステリとしては山田風太郎の最後期の作品です。
章題が、第1章「死刑執行1年前」から始まってカウントダウンしていきますが、語られていく内容は章題とは無関係と思われるような、清貧な勤労大学生の男女の”青春の蹉跌”といったような物語。
その文芸小説の様相が、最終章で一挙に崩れさる仕掛けは山風お得意の構図な訳ですが、なかなか衝撃的でした。まさか序盤に語られる日露戦争のビスマルク宰相の陰謀が、真相に直結するとは思いませんでした。
「真犯人」の動機が特異で現在ではピンとこないかもしれませんが、著者のエッセイなどを読んでいれば納得できるものです。
なお、廣済堂文庫の帯と裏表紙の紹介文は完全なネタバレをしているので注意が必要です。

17レコード表示中です 書評