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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1902件

プロフィール| 書評

No.722 6点 衣更月家の一族
深木章子
(2017/03/16 21:42登録)
最初、短編集かと思いました。あれ?でもプロローグから始まっているから、そんなわけないかって具合で最初から躓いた感じでした。
それぞれの事件がそれなりに面白い、特に「楠原家の殺人」の発端となる宝くじの三億円が当選してしまうというくだりが、偶然過ぎるとはいえ、いかにも作り物めいていて逆にこれもアリかと思ってしまいました。作者の遊び心というか、意外な盲点を突かれたような気分ですね。
ただ、探偵の榊原が真相を暴いていくわけですが、どうにもすっきりしないです。そうだったのかっというような、思わず膝を打つみたいな衝撃がないんですよ。よく練られたプロットとトリックだとは思いますが、唸るほどではなかったと言いますか、そんなに上手くいくのかねえ、というのが正直なところです。
ですが、三件の殺人事件の関連性が全く無関係に見えるあたりの作者の手腕は認めざるを得ないでしょうね。


No.721 6点 迫りくる自分
似鳥鶏
(2017/03/10 22:11登録)
タイトルからくるファンタジー感はこの作品とは無縁でした。また、ホラーでもありませんので念のため。
迫りくるのは自分ではなく、○○です。たまたま主人公の本田が自分と同じ顔の男と知り合ったばかりに、とんでもない災厄を経験することになるお話です。とにかく逃げて逃げて逃げまくる、それだけの小説ですので、ややこしい人間関係とか同じ顔の男の背後関係などは完全に端折ってあります。それだけにストレートに面白さが伝わってくるのは確かですね。
少ない登場人物の中でも、私が興味を惹かれたのは佐伯という男で、いわゆるギャップ萌えというやつでしょうか。こんな境遇なのにこんな人なの?という、いい意味での裏切りがいい感じです。
結末も味のある締めくくりで、少なくとも悲劇的ではなく、救いも余韻もあるまあハッピーエンドと言えると思います。ちょっぴり意外性というか、反転もありますし、その意味でも後味は悪くありません。
尚、あとがきも面白いですよ。これだけでも立ち読みしてみるといいんじゃないですかね。


No.720 7点 鳴風荘事件
綾辻行人
(2017/03/07 22:04登録)
再読です。
あとがきに前作のまっとうな続編とあります。本作は前作のような外連味こそありませんが、大変生真面目に描かれているのがよく分かります。あまりの丹念な仕事ぶりにややもすると冗長に感じられるかもしれませんが、決して無駄な描写が目立つというわけではなく、きっちりと伏線が紛れ込ませてあるわけです。
理詰めで真犯人を絞り込んでいく過程は、この作品の真骨頂と言えるでしょう。そこには綾辻の愚直なまでの本格へのこだわりが感じられます。トリックに関しては全然大したことないんですが、それまでも一つの推理するための道具立てとして使い捨てされており、意地とか執念のようなものすら感じます。
個人的には前作のほうが好みですが、こうしたまともなパズラーも悪くありません。真犯人へのアプローチ(結局消去法ですが)も納得、動機にも納得。注意深く読めば必ず犯人が指摘できるように作り上げられた、本格推理の結晶と思います。


No.719 6点 探偵映画
我孫子武丸
(2017/03/03 22:18登録)
再読です。
まあちょっと地味ですね。しかし、映像上での叙述トリックを文章で著すという功妙なテクニックを駆使しているところが新しいとは言えると思います。
監督を失って完成まであとわずかながら締め切りが迫る状況で、助監督三人をはじめスタッフがクランクアップに向けて悪戦苦闘する様が読みどころの中心となっています。また、すべてのキャストが我こそが犯人であると主張し、犯人探しではなく、犯人たる資格探しをするシーンなどは、明らかに推理合戦ですね。ある有名な海外作品を意識していると解説の新保博久は書いていますが、そこまで大げさではありません。
なぜ監督は撮影終盤まで来た段階で失踪したのか、なぜ主人公立原に対して美奈子は突然冷たい態度をとるようになったのか、これらの謎をはらみつつ進行していく物語は、一種の青春群像劇とも呼べるような、爽やかな印象を残す異色作だと思います。


No.718 4点 猿島館の殺人~モンキー・パズル~
折原一
(2017/03/01 22:05登録)
再読です。
最近面白そうな新刊がないなあと思いながら、何気なく本棚から引っ張り出してしまった一冊です。しかし、読み返す価値はなかったと言うしかありませんでした。
内容は全く忘れていたので、初読と変わらないにもかかわらず、あまりにも面白くなかった、折原一、こんな作家だったのか?残念です。
一応体裁は本格ミステリ、或いはユーモアミステリの形を取っていますが、正直バカミス以下の取るに足らない作品にしか、私には感じられません。連続殺人事件には違いありませんが、まあ何と言いますか、つぎはぎだらけでストーリーの流れというものが全く見受けられませんし。
「どくしゃへの挑戦」や古の海外ミステリなどのガジェットは、お遊び程度にしか思えず、また大して重要なポイントになっているわけでもありません。黒星警部は動物園から脱走したチンパンジーが犯人だと、本気で信じている様子だし、当然のごとく解決を担うのは一人しかいないことになります。その辺りの完全予定調和感もやや辟易してしまいます。


【ネタバレ】


やはり連続殺人事件というのは、単独犯に限りますね。4人もの死者を出しながら、いずれも違う人物による、殺意のない事故のようなものという真相は脱力ものですね。


No.717 7点 たけまる文庫 謎の巻
我孫子武丸
(2017/02/26 22:03登録)
みなさん、かなり点数高いですね。まあしかし、確かに高水準の短編が揃った感はあります。本格ミステリからSFっぽいもの、ホラーなど、我孫子武丸の力量を測るのには最適の短編集と言えそうです。
個人的に気になるのは、やはり速水三兄妹が久しぶりに読めた『裏庭の死体』。裏庭に埋められた、寝袋に収まり頭に玄関マットが乗った死体の謎を、兄妹が例のごとく掛け合いながら解決に導いていくという、お馴染みのパターンを踏襲した作品です。寝袋はともかく、玄関マットの発想はなかなか面白いです。
『夜のヒッチハイカー』『青い鳥を探せ』も佳作だと思います。
『夜のヒッチハイカー』はどこか既視感があるものの、一捻り加えてあるところが憎いですね。ヒッチハイクする側、される側両者の思惑が絡み合って生まれるサスペンスは、印象深いものがあります。
『青い鳥を探せ』は自分の出社から帰宅までを一週間に亘って調査してほしいという奇妙な依頼を受ける探偵の物語。途中から何となく先が読めてしまいますが、かなりの異色作ではあると思います。しかし、この依頼自体の必然性があまり感じられないのがやや残念です。そんな回りくどいことをする必要があったのだろうかという、ふとした疑問がわだかまります。私の読み込みが浅いんでしょうかね。


No.716 5点 複雑系ミステリを読む
評論・エッセイ
(2017/02/24 22:08登録)
冒頭で著者の野崎六助氏は複雑系ミステリをこう断定しています。
複雑に見えるほど単純
複雑に見えるけど単純
まるで禅問答のようですが。つまり複雑=単純ということのようです。全編を通しても頭の弱い私には理解しきれませんでしたが、とにかくそういう事のようです。
そして何を基準に選んだのか判然としませんが、複雑系として次のようなミステリを挙げて解説を加えています。
『占星術殺人事件』『すべてがFになる』『レベル7』『殺人鬼』『生者と死者』『哲学者の密室』『消失!』『密閉教室』『姑獲鳥の夏』『僕の殺人』『思いがけないアンコール』『人格転移の殺人』『リング』『暗色コメディ』『匣の中の失楽』などです。
どれも本質を衝いているようにも思えますが、なにしろ迂遠な言い回しや比喩的表現が多く、完全に納得できるというには程遠い結果になりました。
しかし、意外にも『占星術殺人事件』を褒め称えていたり、『姑獲鳥の夏』に関して京極堂、関口、榎木津、木場四兄弟説を唱えたり、『匣の中の失楽』と『殺人鬼』の相似性を指摘するなど、面白い論点もいくつかありました。
最終的には村上春樹の『アンダーグラウンド』を引き合いに出しながら、オウム真理教事件、M君事件、酒鬼薔薇聖斗事件などを熱く語っています、暴走しています。それと共にエヴァも・・・。
結局何が言いたいのか、迷子になりそうな私は、これらの事件はミステリに影響を受けたのではないという結論に達しました。
何だかんだで、複雑系だったのは本書の著者である野崎氏の頭の中だったようです。


No.715 5点 狐の密室
高木彬光
(2017/02/23 21:42登録)
高木彬光の持ちキャラ二人の探偵が、宗教絡みの雪密室の謎に挑戦する晩年の作品です。法医学者神津恭介と私立探偵大前田英策の二大探偵が共演するわけですが、これは筆力の衰えが見え始めた高木氏のファンに対するせめてものサービスと私には感じられます。
ストーリー、密室トリック、プロットなど見るべきものはほとんどなく、まさに平凡を絵に描いたような作品に出来上がってしまって、残念な限りです。また、二人の探偵は対決するわけではなく、あくまで共演ですので、その意味でもあまり萌える要素はありませんね。燃えているのは大前田のみで、神津は相変わらず冷静そのもの。それぞれの個性が相殺し合っての最初で最後の共演は、淋しいものになりました。
甘目の採点で5点でしょうか。


No.714 7点 ABC殺人事件
アガサ・クリスティー
(2017/02/22 22:25登録)
これは一種のミッシングリンクものですね、しかも当時はニュータイプだったのではないでしょうか。Aから始まる土地でAから始まる名前の人間が殺される。次はB、そしてC。一体犯人の目的は何なのか?読んだ当時、私はまだ中学生だったので作者の目論見は全く見当もつかず、まんまと騙されました。騙されたというより、翻弄されたとでも言いましょうか。正直なるほどなと感心しました、唸りました。
クリスティーという人は、トリックそのものもよりも、そのアイディアの斬新さが抜きんでており、先駆者として女王の名をほしいままにしていますね。本作にもそれは言えることで、単純な構造の中に劇場型の連続殺人事件を取り入れて、真犯人の意図をうまく隠ぺいすることに成功しています。
現在では類似する作品を書けば「ああ、例のあれね」ってことになるのでしょうが、このタイプを究極まで完成形に近づけたのは、やはりクリスティーが最初だったと思います。その意味でも私は本作を評価します。予備知識なしに読め、まだ擦れていなかった頃に本書に出会えて私は幸せでした。


No.713 7点 十二人の死にたい子どもたち
冲方丁
(2017/02/21 22:17登録)
本書を読むにあたって私が最も危惧していたのは、十二人もの登場人物をしっかり把握できるのか、誰が誰だか分からなくなるのではないか、ということでしたが、それは杞憂に終わりました。それぞれの少年少女が違った個性を持っており、異なる役割を果たしているので、混乱したり混同したりすることはないと思います。
またミステリとしてはどうなのか、ごく普通の文芸作品に近いのではないかとも懸念していましたが、意外にも本格ミステリとしての骨格がしっかりしており、安心して読むことができました。
十二人の少年少女たちの自殺願望の理由は様々ですが、いたって単純なものもあり、ややもすれば短絡的とも思えるため、説得力がなかったりします。しかし、若さゆえの直線的な純真さをもって真剣に死にたいと望んでいるのは理解できないでもないのです。
彼らは実行するか、議論するのかで内心は常に揺れ動いているはずなのですが、その辺りの人情の機微が描かれることはありません。なので、ややドライな印象を受けてしまいますが、そこに重点を置いてはいないようですね。


【ネタバレ】


結末は予定調和的であり、意外性はありません。
おそらくは誰もが予想するものではありますが、結論が出た後の少年少女の肩の力が抜けた姿がなんともほほえましく、これで良かったのだと安堵できることで、読後感が格段に良くなっていると思います。


No.712 5点 殺人鬼
綾辻行人
(2017/02/20 21:50登録)
いわゆるスプラッターで、腕や首が飛び、内臓が抉り出されたりします。まあかなりグロイので、注意が必要です。心臓の弱い人にはお薦めしません。それでも『2』よりはましですね。
綾辻氏はこういうのを書くのは相当体力、気力が必要で、友成さんなどはよくこんなのばかり書いてるなあ、みたいな事をおっしゃっていました。しかしさすがにただのスプラッターで終わらないのが作者の強みで、ある大きな仕掛けが施されています。私などは勿論これに騙されたわけですが、ミステリでは騙されるのは本望なので、なにも問題ありません。ただただ読後唖然としたというのが正直なところではあります。
私的には本作は綾辻氏の黒歴史のひとつ、もっと言えば「汚点」に近いと思っています。続編が描かれたわけですからそれなりに売れたのでしょうが、それは作者のネームバリューによるものではないですかね。『2』はさらなる汚点ですよ。
でも、柄にもない作品を物にしたという意味では、ある種特異点とも言えるかもしれません。ただ、こういうのが好きな人には堪えられないのではないでしょうか。


No.711 5点 猿の惑星
ピエール・ブール
(2017/02/19 22:06登録)
1963年に刊行された、フランス人作家によるSF。のちにハリウッドで映画化されたが、こちらの方が遥かに有名になってしまった作品ですね。最初のシリーズは5作目まであったでしょうか。元々映像向きだったのか、原作の方は映画に比べると若干淡白な感じがします。勿論、風刺的な意味合いもあったのでしょうし、当時としては斬新な発想が評価されたのではないかと思います。
ケープ・ケネディから打ち上げられた宇宙船が、1年半後オリオン星座に属するある惑星に着陸する。地球時間では2000年後になる計算である。そこはゴリラ、オランウータン、チンパンジーが支配する世界であり、人間は奴隷扱いされていた・・・。
といったストーリーですが、衝撃のラストはあまりにも有名です。映画の方ですがね。


【ネタバレ】


映画では「その惑星」は実は地球であり、ラストシーンで砂浜に埋もれた自由の女神像が唐突に現れます。
原作は、猿の惑星を無事脱出し地球へ帰還したところ、地球も猿に支配されていたというラストです。
衝撃度としては映画の方に軍配が上がる気もしますが、原作もなかなか味がありミステリ的趣向と言えると思います。


No.710 7点 火車
宮部みゆき
(2017/02/18 21:47登録)
世間的には宮部氏の代表作の一つに挙げられる作品として有名。社会派のお手本のような傑作ですね。ただ、個人的にはやや面白みに欠けるのかなという印象を受けます。優等生的な作風だけどどこか説教臭いのが鼻につきます。まあその辺りも高評価の一因と言えると思いますけどね。
カードローンや自己破産などがかなり詳しく書かれており、勉強になります。そうした社会問題を取り上げているものの、ストーリー・テリングをおろそかにしてはいません。ワクワク感とか高揚感とは無縁なのが残念ではありますが。
借金問題に苦しみ、人生を転げ落ちていく様を、蛇の脱皮になぞらえた文章がとても印象に残ります。なぜ蛇は命がけで脱皮するのかと問われての回答が以下の文章。
「一生懸命、何度も何度も脱皮していくうちに、いつか足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね」。
蛇だって足があったほうが幸せだと思っているそうです。切ないですね。


No.709 7点 踊る手なが猿
島田荘司
(2017/02/17 22:10登録)
再読です。
吉敷刑事シリーズ?が2篇。ノンシリーズが2篇の短編集。
『踊る手なが猿』はケーキ屋に飾られた手なが猿の人形の赤いリボンが、たまに位置を変えられているのはなぜかという日常の謎を扱った作品ですが、それほど複雑な事件ではありません。しかし、東京という土地柄を踏まえた謎解きはなかなか面白いです。
『Y字路』は玉の輿に乗れそうな状況の女の部屋に、忽然と現れた男の死体の謎というありがちな設定です。普通の感覚なら当然即警察に連絡するだろうという歯がゆさを感じるものの、女の切羽詰まった境遇には同情を禁じ得ないです。
『赤と白の殺意』幻想味を多分に含んだ、封印していた過去の出来事とは何かを探るサスペンス。やや小ぶりな感は否めませんが。
『暗闇団子』島田流恋愛小説。しかも純愛小説ですよ。江戸時代にタイムスリップしたような、妙な感覚に陥ります。それだけの筆力で読ませる島荘、さすがです。
全体的に小ぢんまりした作品を集めたような感じはしますが、随所に「らしさ」が出た佳作が揃っていると思います。特に『暗闇団子』はとても純情な二人の恋物語で好感が持てますね。


No.708 8点 ゴッドファーザー
マリオ・プーヅォ
(2017/02/16 22:22登録)
文庫本上下巻で約900ページの大作です。
フランシス・フォード・コッポラ監督の名作映画として有名ですが、原作も負けないくらいの名作だと思います。ただ、こちらは性描写や暴力描写が散見されるため、娯楽作品として認知されがちですが、一大叙事詩としても十分な価値を見出すことができます。
映画との一番の相違点は『PARTⅡ』で描かれた、のちにマフィアのドンとなるヴィトー・コルレオーネ(幼少期はアンドリーニ)や相棒のクレメンツァやテッシオの若き日が描かれていることでしょう。
多彩な人物が登場する本作ですが、個人的に気に入っているのはファミリーのコンシリエーリ(顧問弁護士)であるトム・ヘイゲンですかね。彼はドイツ系アイルランド人でイタリア人ではありません。少年時代にヴィトーに拾われて養子になった人物です。己のかかわる家業を十分認識したうえで、冷静な判断と常識的な行いのできる人間で、三男マイケルが家業にいかなる形にせよ参加することに反対したり、長男ソニーの暴走を諫めたりと、家族全員に気を配る優しい性格でもあります。そして、この小説の語り手に最も近いのが彼だと私は思います。
この長い物語をここで要約することはできませんが、映画『ゴッドファーザー』が好きな人は本作を読んでみる価値は十分あると思います。原作を読めば、改めて映画が観たくなるでしょう。


【ネタバレ】


ドン・ヴィトー・コルレオーネの後継者、三男のマイケルは最後に大虐殺を実行しますが、これはヴィトーが生前計画を練ったもので、彼は死ぬまで「操られる人間ではなく、操る側の人間になる」という信条を貫いた、信念の人だったんですね。


No.707 7点 絶対正義
秋吉理香子
(2017/02/15 22:13登録)
これぞイヤミスです。キング・オブ・イヤミスですね。イライラします、凄く腹立ちます。その意味では作者の狙いは見事に的を射ていると思います。しかし、読み手によってはあまりの嫌悪感に、読後不快な思いをするかもしれません。つまりは、作者の罠に見事に嵌っているということになりますが。
女子四人が仲良く過ごす高校生活。転校生高規範子がそのグループに仲間入りするが、彼女は正義の味方であり、間違ったことは些細なことでも絶対許さない信念の持ち主であった。四人の女子は卒業後それぞれ範子に救われるが、その強すぎる正義感のせいで、逆に絶体絶命のピンチに追い込まれることになる。そして迎える終局はいったい・・・。
範子は正義の味方というより、法律の味方とかルールの味方と言ったほうが正しいのかもしれません。清濁合わせ飲むような社会的常識を持たない彼女は、会社の同僚がJリーグの勝敗で500円を賭けているのを目撃し、即110番通報しようとしたり、制限速度をわずかにオーバーする運転手を厳しく注意するなど、誰も容赦しません。
まあ、ある種のモンスターなのでしょう。何事も度が過ぎると嫌われますよ、命さえ危険にさらすことになりますよ、ということをひしひしと感じます。
今やイヤミスの女王といっても過言でない秋吉氏、相変わらずの安定感を見せてくれます。エピローグも彼女らしい、いい味出していると思いますね。


No.706 6点 鳥―デュ・モーリア傑作集
ダフネ・デュ・モーリア
(2017/02/13 21:46登録)
何と言いますか、大変評価が難しい作品ですね。バラエティに富んだ短編集ですが、それぞれ違った味わいがあって面白いし、翻訳物なのに読ませるんですよ。ただ、新本格などの作風に慣れた私はやや物足りなさを覚えます。単純なストーリーなもの然り、気の利いた捻りがなく拍子抜けするもの然り。『鳥』はヒッチコックの映画で有名ですが、映画よりずいぶんあっさりしていますし。鳥の執拗な攻撃はよく描かれているとしてもですね。
おそらく本作品集はそういった観点から評価するべきではなく、例えば行間を読むとか、それぞれの作品世界に浸ればよろしいとか、そういったタイプの珍しい短編集なのではないかと思います。
誰もが認める白眉であろう『モンテ・ヴェリタ』などは、その一風変わった物語に引きずり込まれ、まるで自分が主人公になったような錯覚さえ覚えます。その臨場感溢れる描写力は凄まじく、そうそうお目にかかれない珍品と言えそうです。


【ネタバレ】


まさかこのような年代物の作品に、叙述トリックが仕掛けられたものが紛れ込んでいようとは夢にも思いませんでした。


No.705 6点 209号室には知らない子供がいる
櫛木理宇
(2017/02/09 22:14登録)
舞台はマンション『サンクレール』で、209号室に住むらしい葵という男の子に関わったばかりに次第に箍が外れて、坂を転げるように堕ちていく女の姿を描いたホラー連作短編集。
葵の不思議な魅力に惹かれてまるで子供に還ったような夫と、葵に夢中な子供。孫がいないため葵を勝手に家に連れ帰ってしまった、若く美しいがどこか普通でない姑、チョコレート中毒が高じて常軌を逸していく女性などが日常的な恐怖とともに描かれています。
そして最終話で葵の謎が明らかになりますが、これがまた粘着質で背筋が凍るような恐怖感と衝撃を読者に容赦なく与えます。怖いです、マジで。それまでの4話を読む限りそれ程でもないかなーなどと思っていると、きっちりやられます。大げさに言えばこの作者のホラーはもう読みたくないとか思えるほどです。でもやっぱり読みたいという矛盾した心境になります。
連作だけにそれぞれの話が最終的に僅かでも繋がってきますが、無理やり感がなくうまく纏め上げた印象が強いですし、思ったよりも根が深く複雑です。


No.704 7点 あなたのための誘拐
知念実希人
(2017/02/07 22:11登録)
Amazonでは何故か異様に高評価の本作。ですが、私にはそれ程までとは思えませんでした。確かに力作でしょうし、テンポもいいですが、特に秀でている点も見られませんし、トリックも小振りな感は否めませんね。尚、ネタバレ気味のレビューがありますので、読む前にAmazonで下調べをするのはやめたほうが賢明だと思います。
4年前、身代金を背負った特殊班の刑事上原真悟はわずか12秒指定の場所に間に合わなかったために、誘拐された少女を殺害されるという煮え湯を飲まされていた。誘拐犯の名はゲームマスター。そして今、またしてもゲームマスターからの指名により刑事を辞めた真悟が身代金の運搬役として駆り出されることになる・・・。
第一章ではゲームマスターが出す「クイズ」により東京中を引きずり回される真悟の姿が描かれており、誘拐物特有の緊張感がよく伝わってきます。
第二章はゲームマスターの正体に迫る真悟の活躍が描かれます。
単純に誘拐を扱っただけの作品ではなく、様々な要素が物語を彩り、辿り着きそうで辿り着けない真犯人は果たして誰なのかが主題となります。小物の使い方も上手く、何気ない描写がのちのちに生きてきたりしますので、油断できません。


【ネタバレ】


ゲームマスターの正体は、ミステリを読み慣れた本サイトのみなさんには簡単に見破られると思います。しかしながら、本作の面白さはそれだけには留まらないので、一読の価値はあろうかと思います。


No.703 7点 虹を待つ彼女
逸木裕
(2017/02/03 22:18登録)
第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
渋谷スクランブル交差点を見下ろすビルの屋上で、ドローンによる劇場型自殺事件を起こした晴。晴と同棲していたという謎の人物、雨。晴の過去を探るうちに次第に彼女に惹かれていく人工知能の研究者で主人公の工藤。工藤が開発した人工知能スーパーパンダとの囲碁対決に賭ける棋士目黒。これらの人物が混然一体となって織りなすファンタジックな佳作。
SF、ミステリ、ファンタジー、ハードボイルド、恋愛小説の要素を混ぜ合わせたような作品です。しかも新人とは思えない確かな筆力と構成力。大変面白く読ませていただきました。
2020年という近未来の東京が舞台だが、現在とさほど変わりはなく違和感はありません。突き詰めれば恋愛小説なのでしょうが、ラノベを愛する読者にも受け入れられそうな作風です。この人はどの方向に向かうのか未知数ではありますが、何を書かせても難なくこなせそうな気がします。まだまだ上を目指して活躍できる人材だと思います。

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