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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.995 6点 ミステリなふたり
太田忠司
(2019/09/05 22:41登録)
密室、猟奇殺人、ダイイングメッセージ、アリバイトリック、吹雪の山荘、雪上に残され途中で途切れた足跡、意外な犯人などなど、本格のガジェットをこれでもかと詰め込んだ連作短編集。さらに最終話ではこれは!と思うような仕掛けが施されています。
それぞれが程よく余計な猥雑物を排して、スマートに纏め上げており、シンプルイズベストを地で行くような好編が並びます。妻で警部補の景子が家に事件を持ち帰り、それを夫でイラストレーターの新太郎が謎を解くという図式はほぼ固定されており、探偵役はもっぱら夫のほうです。一方景子は現場で部下に対して大変手厳しい態度で接して、氷の女、鉄女などと陰で呼ばれています。その態度がどうしても好感が持てないんですよね。はっきり言ってこのような女性が上司だと萎縮してしまい、いくら警察がタテ社会と言え、反感を買い多くの敵を作る結果にしかなりません。それでいて、自分が何か手柄を立てる様な活躍をするでもなく、只々夫頼りというのがちょっと許せません。
仕事中と夫婦の時間のギャップがあり過ぎで、それがまた良いんじゃないと思えるような奇特な人間だったら7点以上だったかもしれませんが、残念ながら私はそこまで寛容な人ではありませんのでこの点数で。

でも、謎は魅力的なものばかりで素晴らしいと思います。トリックにそれ程の意外性はなく、手品のネタを明かされた時のような残念な感じは残りますけど。


No.994 5点 汎虚学研究会
竹本健治
(2019/09/02 22:16登録)
聖ミレイユ学園で相次ぐ惨劇―ウォーレン神父は校庭で落雷に遭い焼死し、ベルイマン神父は密室と化した温室で、自然発火としか思えない焼死体で発見された。理解不能な怪事件に挑むのは「汎虚学研究会」の部員たち。だが部長だけは度々見る「狂った赤い馬」の悪夢に悩まされ、推理どころではなく…。少し浮世離れした少年少女たちが解き明かす凶々しき真相とは?
『BOOK』データベースより。

ミステリーランド叢書の一冊、『闇の中の赤い馬』に4短編をプラスした新書版、汎虚学研究会のメンバーが活躍する連作中短編集。
まあ出来としては可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。『闇の中の赤い馬』は密室物で正直バカミスの部類に入るのではないかと思います。大掛かりなトリックにはかなり無理があり、動機としても弱いと言わざるを得ません。しかし、話の端々に蘊蓄や衒学趣味が見られ、いかにも竹本らしい印象は受けます。今ではもう懐かしさすら覚えるような、不思議な感覚に陥ったりして。久しぶりの竹本作品でしたので、やや厳し目に点数は付けました。

短編はそれぞれカラーが違いますが、幻想味やホラー、何が言いたいのかちょっと分からないようなオチのない作品やら色々です。中でも進化論に関する理論は私自身疑問に思っていたことであり、その意味でやや腑に落ちたところもありました。そこは興味深く読めましたが、全体としてまあまあとしか言いようがありません。


No.993 6点 奇病探偵 眠れない夜
牧野修
(2019/08/31 22:57登録)
気弱な青年の森田彼岸が潜り込んだJCDC―日本疾病管理予防研究所は、感染症については国内NO.1の研究所。だが所長の伊丹桜をはじめ、田崎美女らトップの研究者は、美人だがエキセントリックな言動で彼岸を圧倒する。しかも彼女たちは、さまざまな社会悪の原因となる特殊な“奇病”を追い、排除する奇病探偵でもあった!蔓延する自殺衝動、とある地域で急増するゴミ屋敷、とつぜん凶暴化する人々…。次々に研究所に持ち込まれる難事件を、田崎たちは周囲や彼岸に多大な被害を及ぼす、過激な手法で解決してゆく。だがその活躍を目にするうち、彼岸には疑問が生じる。どうして彼女たちはここまで手際よく対処できるのか。なぜ自分のような素人がこの研究所に受け入れられたのか―?やがて彼の危惧は最悪の形で具現化して…!?鬼才が描く傑作バイオニックサスペンスホラー!
『BOOK』データベースより。

六編から成る連作短編集。
勿論架空のものですが、奇病の裏に潜む特殊な病原菌の謎を追う、大袈裟に言えばバイオハザード的な物語です。内容が濃く異常なわりには文体はとてもライトで、表紙の印象でかなり損をしている感じがします。日本疾病管理予防研究所の所長や所員たちは非常事態にも決して狼狽えることなく毅然としており、しかもそれぞれのキャラも良い感じで立っていて、その意味ではライトノベルに近いと思います。また、タイトルは探偵と謳っていますが、ミステリ的要素は内包していますけれど、正統派の本格物とは別物と思って頂いた方が賢明かと。

最終話で例によってそれまでの事件を振り返り、意外な真相が浮かび上がると言うより、やっぱりそうだったのねみたいな纏め方をして、綺麗にハッピーエンド(?)に持って行っています。この作者は結構変幻自在な作風を見せる作家で、これはこれで十分面白かったと思いますね。世間的認知度は非常に低いですが、この人の実力は侮れないですよ。


No.992 4点 空を見上げる古い歌を口ずさむ
小路幸也
(2019/08/28 22:47登録)
「みんなの顔が“のっぺらぼう”に見えるっていうの。誰が誰なのかもわからなくなったって…」兄さんに、会わなきゃ。二十年前に、兄が言ったんだ。姿を消す前に。「いつかお前の周りで、誰かが“のっぺらぼう”を見るようになったら呼んでほしい」と。第29回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

竜頭蛇尾とはこの事。フランス料理のコースを注文したら、豪華な前菜の後にメインディッシュとしてお茶漬けが出てきたようなものと言っても良いでしょう。
のっぺらぼうから始まって、奇妙な事件の数々をどう着地させるのか、期待に胸を膨らませていましたが、結局何も分からずに終わってしまうという、ミステリとしてはあり得ない展開に唖然としました。そうです、これはミステリではなく云わば伝奇小説のようなものなのです。それを知っていたら読まずに済んだのにと、今更ながら後悔しています。
突き詰めれば、作者が解説を怠り、これはこういう事なんだと断定してしまえば、読者はそれに従うしか方法はない訳で、それで納得がいくわけがないです。
はっきり言ってメフィスト賞には相応しくない作品だと思います。まあ話としては面白くないこともないですが、あまりにスッキリしない結末にガックリ肩を落としてしまう自分は悪い読者なのでしょうかね。

書き忘れていましたが、クワガタのあの突起物は角ではなく、大アゴですから。そんな誰でも知っているようなことも知らないとは、作家さんも編集者さんも知識量が少なすぎるんじゃないですか。所詮メフィスト賞も玉石混交なんですね。


No.991 5点 キャラねっと 愛$探偵の事件簿
清涼院流水
(2019/08/25 22:43登録)
全世界で大人気のオンライン学園R.P.G.「キャラねっと」。学園生活をバーチャルに体験できるその仮想世界は、カワイイ妹のために俺がつくったもうひとつの現実。すべてはカワイイ妹のため。だが、あの小僧が現れてから俺の世界、そして妹への愛が壊れ始めた…「密室連続殺人」から始まった「キャラねっと」での不可解な3つの大事件に「探偵アイドル」が挑む。流水大説新境地!読者を巻き込むデジタル世代本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。

Amazonでのあまりの評価の高さに驚きました。少数意見とは言え、R.P.G.世代のゲーマーには持って来いの作品かも知れませんが、ゲームに関心のない私にはそこまでとは思いませんでした。ただ、流水大説の無駄な壮大さが消えて、かなり読みやすくなっていることは確かです。キャラも馴染みやすく、肩の力を抜いて読めますが、一方で事件発生までとそこから解決までが若干退屈で冗長な感は否めません。

三作の中編で構成されていますが、いずれも『スニーカー』に連載されたものなので、説明が重複する点が多く、通して読んだ場合結構な水増し感を覚えます。又、ノベルスで570ページという長尺の割には内容はかなり薄いように思います。どちらかと言えば、不可能性の高い事件の不可思議性や緻密な推理よりも、キャラクター小説、或いは青春小説としての意味合いのほうが高いので、本格志向の読者には不向きでしょう。


No.990 6点 カモフラージュ
松井玲奈
(2019/08/19 22:21登録)
油断していると、次々予想を裏切るメニューが出てくるような短編集。
――島本理生(作家)
明太子スパゲティをこのうえなくおいしそうに書ける人。信頼せざるを得ないのである。
――森見登美彦(作家)

あなたは、本当の自分を他人に見せられますか――。
恋愛からホラーまで、松井玲奈が覗く“人間模様”。鮮烈なデビュー短編集。

アイドルグループSKE48の元メンバー、W松井の片割れで女優の松井玲奈(ゲキカラ)の作家デビュー作。
滑らかな文章で描かれる短編はホラー、不倫、潔癖症、過食などをテーマにしながら、「食」が共通のキーワードとして取り上げられています。本作品集は彼女の小説家としての素養が垣間見られ、十分お金を取れるだけのものを有していると思います。ただ、個人的には低刺激なのとオチがないのが不満点ではあります。そりゃプロ並みのエッジを効かせた過激な内容を期待するのは無理というものでしょうけど。しかし、例えば『ジャム』の、主人公の少年の父親が三人に増える不思議な現象などの奇想はなかなか素人では思い付かないものでしょう。他の作品は何となく先が読めたり、あまり紆余曲折が無かったりしますが、丁寧な描写で静かに時間が流れるうちに読み終わってしまうような、そんなひと時を過ごせます。それで十分じゃないですかね。


No.989 5点 鏡姉妹の飛ぶ教室
佐藤友哉
(2019/08/17 22:33登録)
誰もが三百六十五日分の一日で終わる予定でいた六月六日。鏡家の三女、鏡佐奈は突然の大地震に遭遇する。液状化した大地に呑み込まれていく校舎を彩る闇の色は、生き残った生徒たちの心を狂気一色に染め上げてゆく―。衝撃の問題作、『クリスマス・テロル』から三年の沈黙を破り、佐藤友哉が満を持して放つ戦慄の「鏡家サーガ」例外編。あの九〇年代以降の「失われた」青春のすべてがここにある。
『BOOK』データベースより。

始めにキャラありきで、それをベースにストーリーや構成に嵌めこんでいった感じの小説。ですので、各キャラは十分立っていますが、例外編と云うだけあってサーガでもなく単なる番外編ですね。
復活した佐藤友哉はもうミステリを書く事を放棄してしまったのでしょうか。その後の執筆活動を鑑みると、やはりその感は否めないと思いますね。純文学の世界へと飛び立ったと言っても良いでしょう。これまでもミステリ作家としてデビューしながら、段階的にファンタジー、ホラー、純文学などのエンタメに移行していった作家は幾人も見てきましたが、彼もその一人なのです。

作品としてはパニック小説に近い、青春小説の群像劇ですかね。取り敢えず地震で地盤沈下した教室で生き残った鏡姉妹を含む生徒たちの、生死を賭けた戦い模様をそれぞれの立場から描いており、泥臭い男女の駆け引きや心理描写が読みどころでしょう。しかし、どの辺りで盛り上がったら良いのかイマイチ分からない、掴みどころのない作品でした。もう少し何とかならならなかったものかと私なんかは思ってしまいますが、いずれにせよ中途半端でキレのない印象を受けました。


No.988 5点 クリスマス・テロル invisible×inventor
佐藤友哉
(2019/08/14 22:45登録)
そこで出会った青年から冬子はある男の「監視」を依頼される。密室状態の岬の小屋に完璧にひきこもり、ノートパソコンに向かって黙々と作業をつづける男。その男の「監視」をひたすら続ける冬子。双眼鏡越しの「見る」×「見られる」関係が逆転するとき、一瞬で世界は崩壊する!「書く」ことの孤独と不安を描ききった問題作中の問題作。
『BOOK』データベースより。

これが例の密室本の一冊だったとは読み終えるまで知りませんでした。知っていたら読まなかったと云うとそうでもないですが。
物語自体は面白かったですよ、なかなかの書きっぷりも良いですしね。一体どう収拾を付けるのか不思議なほどの謎は非常に魅力的で、これが合理的に解決されたらさぞ傑作になったのにと思います。そう、トリックがあまりにもショボいんですよ。しかも丸パクリではねえ、納得できません。


【ネタバレ】


終章が問題になったノベルス版、リアルタイムでこれを読んだ方はさぞかし驚かれたことと思います。しかし、その後に出た文庫版を読了した我々はその後の佐藤友哉という作家を知っていますので、何も感慨を抱くことはできません。己の置かれている立場をネタに「テロル」を仕掛けたのは成功に終わったようですが、それが作家のあるべき姿だったとはとても言えないですね。まあ、そういう本の売り方もあるという、禁断の手法。それで復活したから良いじゃないかとも言えますが、姑息ですね。
でも、自ら書いた解説は面白かったです正直。
評価が割れているのも納得の出来でした。


No.987 6点 栞と紙魚子の生首事件
諸星大二郎
(2019/08/11 22:26登録)
一応ジャンルとしてはホラーです。絵は何と言うかへたうまな感じで、本気で書けばプロの漫画家だから無論上手いんでしょうが、故意に適当に描いているような印象を受けます。ただ、主役の女子高生二人組にしても変に美化せず、どこにでも居そうな雰囲気を出している辺りはセンスでしょうかね。しかも、二人のスタイルの微妙な違いや制服姿の自然な感じというか、腰が異様にくびれていたりせず、むしろダボッとした野暮ったさがリアリティを与えています。

ストーリーは総じて脱力系で、本当は怖い話なんだろうけど何故か笑えるみたいな感じです。例えば『生首事件』、たまたまゴミ捨て場で見つけた生首を興味本位で家に持ち帰った栞は古書店の娘である紙魚子の持ってきた『生首の正しい飼い方』なる本を参考に、水槽で生首を飼うという無茶苦茶な展開で、大したオチもありません。しかし、こんな誰も考えないような事ばかり書き続ける作者の、まさにコロンブスの卵的な発想には目を見張るものがあります。絵自体の迫力もまあそれなりで、楽しめるのは間違いないと思います。兎に角栞と紙魚子ののほほんとしたボケぶりを堪能出来、再読に耐え得るところが良いんじゃないでしょうか。


No.986 7点 夜よ鼠たちのために
連城三紀彦
(2019/08/10 22:31登録)
脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。『このミステリーがすごい!2014年版』の「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位に輝いた、幻の名作がついに復刊!
『BOOK』データベースより。

読めば読むほど味の出る逸品揃いの短編集。
雰囲気はやはり連城だけれど、思ったよりずっと本格寄りの作品が多く、いずれ甲乙付けがたい魅力を持ったものばかりです。表題作を始め、ほぼ全篇反転が味わえます。しかも相当じっくりと推敲されたと思われ、なかなか先が読めません。今現在こうした男女間の隠微な関係性を浮き彫りにした作風と本格ミステリを合体させたような作品を描く作家が見当たらなくなってしまったのは、残念な限りです。しかし、違った形で同じようなテーマに挑戦している人は多分多いと思います。されど、その違いは歴然としており、恋慕或いは慕情、男女のもつれるような機微を書かせたら連城の右に出る者はいないのではないでしょうか。少なくともミステリ界に於いては。


No.985 4点 少年たちの密室
古処誠二
(2019/08/06 22:34登録)
東海地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭を打たれて死亡する。事故か、それとも殺人か?殺人なら、全く光のない状況で一撃で殺すことがなぜ可能だったのか?周到にくみ上げられた本格推理ならではの熱き感動が読者を打つ傑作。
『BOOK』データベースより。

評価が高かったので読んでみましたが、私の感性には合いませんでした。高評価の方を否定するつもりは勿論ありませんが、どこが面白いんだろうなあとは思います。まず、回りくどい文章が気になりました、もっとストレートに書けよって。持って回ったような表現が多すぎて、情景が浮かんでこなかったり、頭の中をスルーしてしまうような感覚を覚えました。元々救いのない内容なので、読後どんよりと暗い気持ちになります。そこには一片の感慨もありませんでした。おそらく私が圧倒的なマイノリティーなのだろうとは思いますが、傑作とはどうしても思えません。

地震後の地上の惨状も描かれていませんし、ひたすら閉塞感に襲われて気持ちのいい読書体験をすることができませんでした。「心震える本格推理の傑作」らしいですが、好きになれませんねえ。結局悪事を働いた人間に明るい未来はないと言いたかったのかどうなのか、私には判断できません。


No.984 6点 Killer X
クイーン兄弟
(2019/08/02 22:45登録)
大雪に閉ざされた山荘に招かれた6人の男女。同窓会と思いやって来た彼らを待っていたのは、変わり果てた恩師の姿だった。下半身の自由を失い、大きな傷を負った顔は、不気味な仮面に覆われていたのだ。頻発する“突き落とし魔”事件との関係は―。外界から隔絶された世界で、謎の殺人鬼が牙を剥く!実力派作家2人がタッグを組んだ、超絶的本格ミステリ。
『BOOK』データベースより。

なかなか事件が起こらず、じりじりした気分を強いられます。緊迫感が最後まで持続できていない印象はありますが、何か仕掛けがあると感じたり不自然な描写が見られるので、ミステリとしては最後にドカンと落とし穴に落ちたりするんだろうなとは予想出来ます。まあ、文章が一人称でしかも日記形式で書かれている為、余計にそう感じるのでしょう。
終盤漸く事件が怒涛の様に起こり、すぐに解決編に雪崩れ込みますが、その騙しのテクニックには驚きを禁じ得ません。アンフェアギリギリの細かな伏線が張り巡らされて、なるほどと納得させられます。ただ、一ヵ所ある人物の言動に明らかな矛盾があったのが若干の瑕疵かもしれません。

全体としては正統派の本格ミステリ(吹雪の山荘の典型的なパターン)でありながらも、another sideを取り入れるなどの工夫も凝らされています。ただ、事件が起きるまでがやや単調で、個人的には少々退屈さを覚えましたし、最後スッキリとした纏まりに欠ける気がしたので減点しました。


No.983 6点 念力密室!
西澤保彦
(2019/07/29 22:36登録)
売れない作家・保科匡緒のマンションで起こった密室殺人。そこに登場する“チョーモンイン(見習)”神麻嗣子。美貌の能解警部…。「神麻嗣子の超能力事件簿」の最初の事件である表題作をはじめ、“密室”をテーマにした6作品を収録!奇想天外の連続に驚き続けること確実な、シリーズ初の連作短編集。
『BOOK』データベースより。

連作短編集ですが、ほとんどの舞台がマンションで、鍵が掛かっていたとかいないとか、チェーンが掛かっていたとかいないとか、死体が移動していたとかいないとか同じようなシチュエーションで、もう少し目先を変えて欲しかったというのが本音です。密室は全てサイキックで片付けられ、トリックは最初から否定されていますので、もっぱらホワイダニットに特化していると言えるでしょう。
それよりも、保科、神麻、能解の三人の微妙な三角関係のほうに興味を惹かれます。シリーズ第三作、これを最初に読んで良かったのか悪かったのか定かではありませんが、第一話で主役三人の最初の出会いが描かれているので時系列的には正解の様な気もします、これが怪我の功名なら良いのですが。

マイベストは『乳児の告発』。全体的に予定調和的な物語が多い中、これだけは意表を突かれました。ミステリらしい仕掛けが見事に決まっています。
本作品集はSFでもなければファンタジーでもなく、十分本格ミステリの範疇だと思いますが、密室という言葉に反応する方には残念ながらお勧めできません。それでも西澤らしい作品であるのは間違いないです。キャラの良さと性格描写だけでも読む価値ありでしょうかね。


No.982 8点 九十九十九
舞城王太郎
(2019/07/26 22:17登録)
あまりの美しさに、素顔を見せるだけで相手を失神させてしまう僕は加藤家の養子となり、九十九十九(ツクモジュウク)と名づけられた。九十九十九は日本探偵倶楽部(JDC)に所属する探偵神でもある。聖書、創世記、ヨハネの黙示録の見立て連続殺人事件に探偵神の僕は挑む。清涼院流水作品の人気キャラクターが舞城ワールドで大活躍!

名探偵九十九十九が難事件を次々と華麗に解決するという、私の期待を大きく裏切ってくれました。しかし、その期待以上の小説でもありました。正直、一から十まで全てを理解できたとはとても思えませんが、決して難解なのではなく混沌としているのです。
清涼院流水を始め実名の作家の名前が登場したり、主人公が過去へ未来へ行き来したり、メタな展開には眩暈がする程です。しかも、一人称で書かれた文章は誰あろう九十九十九本人の手によるもの。禁忌として決して触れてはならない探偵神の内面を抉るように描かれており、さらには同時に三人の九十九十九が現れるという荒唐無稽ぶりを見せる。しかし、必ずしも破綻することのない世界を構築している手腕には脱帽せざるを得ません。これが舞城王太郎の底力なのでしょうか。
最早JDCも探偵も超越した独自のワールド、しかしそれらがなければ成立しない世界。何だかんだ書いても、おそらく私の駄文では一ミリも雰囲気すら味わえないであろう暗黒に屹立する異形(偉業)。読まなきゃ判りません。

それにしても文庫版の装丁・・・。


No.981 6点 偽物語
西尾維新
(2019/07/21 22:00登録)
“ファイヤーシスターズ”の実戦担当、阿良々木火憐。暦の妹である彼女が対峙する、「化物」ならぬ「偽物」とは!?台湾の気鋭イラストレーターVOFANとのコンビも絶好調!「化物語」の後日談が今始まる―西尾維新ここにあり!これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春は、ほんものになるための戦いだ。
『BOOK』データベースより。

上巻、手際よくエピソードを交えながら主要キャラを紹介していくのは、一種の読者サービスとも言えるでしょうが、シリーズ一作目から読みたくなってしまうような造りはあざとさも感じます。ただ、これによりいきなり本作から読み始めても大丈夫なように描かれているのは確かなようです。
上巻は阿良々木暦の上の妹の物語でありますが、読みどころは最終盤の激し過ぎる兄妹喧嘩で、その後の敵との対決はあっけなく終わってしまい、やや物足りなさを覚えますね。

下巻は下の妹の物語。本質的にはこちらが今回の根幹を成しているのだと思います。個人的にも下巻が好み、というか本シリーズが怪異を主眼としたものならば、誰もがこちらを推すのではないでしょうか。結末は確かに心動かされるものがありました。兄妹の絆、どんな形であれそれは美しく素晴らしいものだという思いに駆られます。
しかし、相変わらず言葉遊びが過ぎて、たまにちょっと寒かったりする会話の応酬が苦手な方は避けるべきかもしれません。ラノベと割り切ってしまえばそれはそれでいいのでしょうけれど。


No.980 4点 無貌伝 ~双児の子ら~
望月守宮
(2019/07/15 22:25登録)
人と“ヒトデナシ”と呼ばれる怪異が共存していた世界―。名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、失意の日々を送っていた。しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける!そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!!狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹―。次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!“ヒトデナシ”に翻弄される望たちが目にした真実とは。第40回メフィスト賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

無駄に長く、途中でダレます。冒頭望が探偵秋津の助手になるところまでは、これは期待できるかもと思いましたが、それ以降さしたる盛り上がりもなく、正直読まされている感覚を覚えました。最早苦行に近い感じでやっと最後までたどり着いた、みたいな。
無貌やヒトデナシは単なる装置に過ぎず、もっと言えば帳尻合わせに用意されたものにしか思えません。物語をミステリとして成立させるためには、どうしても欠かせないにせよ、それが雰囲気を構築している訳ではなく、ちょっとした小道具として使用されているわけです。
まあやりたい事は分かりますが、どうも私には合わなかったようです。伝奇ミステリと言えば聞こえはいいですが、事件の真相は驚くようなものではありません。独特の世界観であるのは確かだと思いますよ。しかしねえ、全体的にメリハリがなく、緊迫感も持続できていないように感じました。最後も上手く纏めようとしていますが、どうにもスッキリしないエンディングになっています。畢竟、シリーズを追いかけて最後まで読破しなければ、作者の狙いは見えてこないのかも知れません。


No.979 5点 彼は残業だったので
松尾詩朗
(2019/07/11 22:44登録)
情報処理会社に勤める中井は、残業中、魔術の本を読みふけっていたら、オフィスのオートロックがかかり、閉じ込められてしまった。時間をもてあました彼は、“憎い相手を呪い殺す”呪術を試してみることに…。日頃、憎らしく思っている同僚野村裕美子と佐藤輝明の人形を厚紙でつくり、火をつけた!二人は前日から無断欠勤していたが、はたして三日後、佐藤の部屋から男女の焼死体が発見された。二つの死体は、バラバラに切断され、あやつり人形のように木の枝で連結されていた。犯人は何のために、死体にこのような細工をしたのか。
『BOOK』データベースより。

何か色々と惜しいなという印象が強いです。文章が平板で起伏がなく、特に事件に直接関係ない描写になると途端に面白くなくなる辺り、まだまだプロの作家になり切っていない感じがしました。
上記の様な、黒焦げ死体をバラバラにして、それを枝で繋ぎ合わせるという極めて魅力的で吸引力を持った謎は、とても素晴らしいと思います。しかし、その猟奇殺人と作風がマッチしていないです。途中でトリックが解ってしまったのもかなりがっかりしました。おまけにヒントを出し過ぎでしょう。これはピンときますよ、あまりにもあからさまでしたね。


【ネタバレ】


『占星術殺人事件』を読んでいる人にはかなり早い段階で真相が読めてしまう可能性があります。読んでいなくても割と看破しやすいですかね。
ある程度期待はしていたのですが、やや肩透かしを食らった感は否めません。もっと大胆なトリックだと思っていましたが。ついでにタイトルについて触れると、内容とはあまり関係ないですので、そのつもりで読まれる方が良いと思います。しかし、もう少し売れそうなタイトルだったらもっと注目されたのではないでしょうか。


No.978 7点 松浦純菜の静かな世界
浦賀和宏
(2019/07/08 22:31登録)
大けがを負い、療養生活をおくっていた松浦純菜が2年ぶりに自宅に戻ってくると、親友の貴子が行方不明になっていた。市内では連続女子高生殺人事件が発生。被害者は身体の一部を持ち去られていた!大強運で超不幸な“奇跡の男”八木剛士と真相を追ううちに2人の心の闇が少しずつ重なり合う新ミステリ。
『BOOK』データベースより。

あるルートから入手。やっと読めました。
やはり浦賀はこうでなければいけません。シリーズ第一弾ということで、結構力が入っている感じがします。八木は相変わらずですが、純菜のキャラが掴みどころがなく、女性の心理を描くのが下手なのかと思いました。もう少し掘り下げるとか、何とかならなかったものかと。故意に不透明さを押し出しているのかもしれませんが、シリーズを通してこんな感じなので、何とも言えません。

しかし、青春ミステリのような雰囲気を醸していますが、骨格はコテコテの本格物ですよ。二作目は良いとして、それ以降もこの路線で行って欲しかったですねえ。途中からミステリを放り投げて、明後日の方向に向いてしまって、それが悔やまれてなりません。
これまで私自身モヤモヤしていた純菜の秘密に関して明らかにされていたので、その点は溜飲が下がる思いでした。ただ細かいところで瑕疵が目立ちますし、終盤謎解きが早足過ぎて勿体なかった気がします。動機も弱いというか説明不足ではないかと思います。その辺りを差し引いてもこの点数、なかなかの作品ではないでしょうか。


No.977 6点 “文学少女”と死にたがりの道化(ピエロ)
野村美月
(2019/07/05 22:26登録)
「どうかあたしの恋を叶えてください!」何故か文芸部に持ち込まれた依頼。それは、単なる恋文の代筆のはずだったが…。物語を食べちゃうくらい深く愛している“文学少女”天野遠子と、平穏と平凡を愛する、今はただの男子高校生、井上心葉。ふたりの前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった―。野村美月が贈る新味、口溶け軽めでちょっぴりビターな、ミステリアス学園コメディ、開幕。
『BOOK』データベースより。

謎が謎を呼ぶミステリ的側面と、適度な萌え要素のラノベ的側面が丁度良い具合に融合した逸品。勿論キャラは立っていますのでご安心を。「文学少女」と言うだけあって、今回は太宰治愛が止まらない作品になっています。『人間失格』がモチーフです。想像ですが、本シリーズでは一人ずつ内外の作家や作品に関する思い入れが語られているものと思われます。
作風は全く違いますが、プロットや構造は京極作品に類似するところが見られます。凝ったトリックなど存在しませんが、その見せ方によっては十分ミステリとして成立するのだという事を証明したような内容です。ただ、遠子の推理(想像)は何を根拠にしているのか判然とせず、伏線を回収して論理を組み立てるような本格ミステリ志向の方には不向きだと思います。真相に意外性はなく、驚くような結末を期待すると裏切られます。

最終的には、人間はどんなに異端でも、当たり前だけど人と違っても死んではならないという一点に集約されるのでしょう。そこに救いを求めるのは、読者として当然であり、「こんな私でも生きていてよい」、自ら命を絶つのは絶対駄目なんだ、たとえ太宰がそうだったとしても・・・それが結論なのかなと、思います。


No.976 7点 強欲な羊
美輪和音
(2019/07/03 22:58登録)
美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが―。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは?圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。
『BOOK』データベースより。

ダークでホラーな連作短編集。いずれもミステリ的趣向が施されて、どんでん返しが炸裂します。特に表題作は、これぞ暗黒小説と言いたくなるような、残酷なのにそれを淡々と表現する作者の空恐ろしさを感じます。まあこれをリアルに描いたら、只のグロになってしまいますが、そこを上手にテクニックでカバーしシュールさすら覚えるような作品に昇華させていますね。異世界に読者を導いてくれます。

『ストックホルムの羊』などは終盤でそれまでの話は一体何だったのだろうと思うような反転と言うか、でんぐり返しを見事に決めています。
最終話では各短編の登場人物が現れます。この手法は有りがちですが、冒頭、三人の女性が公衆トイレの個室で片足を手錠で繋がれているという、大変魅力的な設定となっており、私好みの展開であります。その後はちょっと違うなと感じましたが、いずれにせよどの短編も単体でも十分楽しめる作品集に仕上がっていると思います。ただ、やや無理やり感がないわけではなく、連作にする必然性があったようには思えませんでした。
Amazonでの評価は低いです(読者メーターは割と好意的)が、個人的には非常に面白く読ませてもらいました。イヤミスとの説もありますが、何とも言えませんね。ジャンルを超えた異色の問題作ってところじゃないでしょうか。

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