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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.02点 書評数:1776件

プロフィール| 書評

No.1736 7点 涜神館殺人事件
手代木正太郎
(2024/01/31 21:48登録)
“妖精の淑女”と渾名されるイカサマ霊媒師・グリフィスが招かれたのは、帝国屈指の幽霊屋敷・涜神館。
悪魔崇拝の牙城であったその館には、帝国が誇る本物の霊能力者が集っていた。
交霊会で得た霊の証言から館の謎の解明を試みる彼らを、何者かの魔手が続々と屠り去ってしまう……。
この館で一体何が起こっていたのか?
この事件は論理で解けるものなのか?
殺人と超常現象と伝承とが絡み合う先に、館に眠る忌まわしき真実が浮上するーーーー!!
Amazon内容紹介より。

前半はとにかくオカルトで押しまくります。死体が出てきても殺人が起こっても、ひたすらオカルト。それがインチキとか何らかの仕掛けではなく、本当の超常現象だから我々読者はそれを飲み込むしかありません。その辺を完全に理解してから読めば、結構楽しめます。それに加えてエログロ要素もかなりあるので、先行きが心配になる程です。でも本格なので安心して下さい。

それにしてもこのタイトル、神をも恐れぬ罰当たりなやつじゃないですか。しかし、それに見合った内容ではあります。過激と言えば過激です。まあミステリとしては地道に伏線を回収してロジックで推理を進める様なタイプではありません。反則気味な部分もありますし。それでも真相は一応理に適ったものであり、それなりに納得できます。やや動機が弱いと言うか、在りがちなものななので、その辺は減点材料。
普通のミステリに飽きた方にお薦め。かなり毛色の変わった怪作かと思います。


No.1735 5点 死体は散歩する
クレイグ・ライス
(2024/01/28 22:02登録)
「ジェイク、あたし脅迫されてるの」そう言って、ラジオのスター歌手ネルは姿を消した。彼女の元恋人を訪ねてみると、出くわしたのは何と相手の射殺体。おまけに、追い討ちをかけるように当の死体が失踪し、ジェイクの困惑は頂点へ…。1930年代のラジオ界を舞台にお馴染みマローン、ジェイク、ヘレンが活躍するユーモア・ミステリ、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

コンディション不良のせいか、これまで多くの国内産の手の込んだミステリを読んで来たせいか、本作にはほぼ心が動きませんでした。人並由真さんには申し訳ないですが、とても高評価を下す気にはなれません。一年後には中身をすっぱり忘れている自信がありますね。
第一に謎めいた事件がなく、惹かれる部分がありません。長々と読まされて、推理や議論されるでもなく、最後の最後に僅かなページ数で明かされる真相に意外性が全くありませんし、非常に貧弱に思えました。

探偵のマローンは魅力に乏しく、大した活躍をしていません。ただ何故死体が移動したのか位しかピックアップされず、ミステリとしての骨格が弱々しいです。それを登場人物の関係性で補おうとしている様ですが、そっち方面には興味がないので、私としてはそこを評価する訳にはいきませんし。点数としては5点の最下層に相当すると思っています。
まあ正直どこが面白いのかよく分からないというか、楽しみ方を誰か教えて欲しいと感じた次第です。


No.1734 6点 殺してしまえば判らない
射逆裕二
(2024/01/23 22:33登録)
首藤彪三十四歳、現在無職。妻の彩理は、東伊豆の自宅の書斎出入口で血まみれとなって死んでいた。確たる物証もないまま、妻は自殺として処理される。彪は失意のあまり東伊豆を離れるが、彩理の死の真相を究明するために再びそこで暮らす決意をする。だが、引っ越してきた直後、周囲で発生する陰惨な事件やトラブルに巻き込まれてしまう。その渦中で知り合いとなってしまった奇妙な女装マニアの中年男・狐久保朝志。外見に似合わず頭脳明晰、観察力抜群な彼の活躍で、彪の周囲で起こる事件は次々と解決していき、さらには妻の死の真相まで知ることとなるのだが…。予測不能な展開と軽妙な文体、そしてアクの強い探偵の鮮やかすぎる推理で、読者を超絶&挑発の迷宮へと誘う本格ミステリ。斯界を震撼させる女装探偵・狐久保朝志初登場。横溝正史ミステリ大賞作家が放つ超絶&挑発しまくりの本格迷宮推理。
『BOOK』データベースより。

取り敢えず、人間が描けていません。主要な三人も登場頻度の割にはやはり描けていません。もう少し個性を感じさせてくれないと、感情移入出来ませんね。その他の人物に至っては、誰がどんな役割を担っているのかさっぱり伝わってきません。読んでも読んでもそれが私には判りませんでした。
本筋以外の全く関係ない事件を持ち込んでみても、それはそれで完結している訳で、おまけ程度にしか感じられません。

では何故6点付けているのか。ケチばかり付けましたが、真相が明かされる最終盤に至って、これが又見違えた様に凄みを見せ付け、衝撃を読者に与えます。ここを最大限に評価してこの点数に。意外というか奇想というか、思ってもみなかったカタルシスを齎してくれました。そしてダラダラ読んでいたせいもあって、思いの外そこここに伏線が張られていたのにも驚かされました。


No.1733 7点 好きです、死んでください
中村あき
(2024/01/21 22:04登録)
無人島のコテージに滞在する男女の恋模様を放送する、恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」の撮影が始まった。
俳優、小説家、グラビアアイドルなど、様々な業種から集められた出演者は交流を深めていくが、撮影期間中に出演者である人気女優・松浦花火が死体となって見つかった。
事件現場の部屋は密室状態で、本土と隔絶された島にいたのは出演者とスタッフをあわせて八人のみ。一体誰がどうやって殺したのか?
そして彼女の死は、新たな惨劇を生み出して――。
Amazon内容紹介より。

おそらく多くのミステリファンは、このタイトルと恋愛リアリティーショーと云う若い男女の絡みとの思い込みにより、敬遠されていると思います。が、想像以上に本格派で、読んで損はないと言いたいです。
確かに最初に仕掛けられた事件にはいささか脱力させられました。え~?やっぱりこんなものかと正直がっかりしました。それでもその推理合戦はなかなか読ませるもので、バカに出来ません。

そして本筋では密室殺人や○○死体が本作を彩り、一筋縄では行かない事件の様相を呈します。思ったよりも複雑で意外性もあり、そして数多くの伏線が散りばめられています。決して捨て置いて良い作品ではなく、世間的にももっと読まれるべきものだと思います。作者の実力は確かで、今後の活躍を期待したいですね。全体的にバランスよく過不足のない秀作だと思います。


No.1732 5点 霊界予告殺人
山村正夫
(2024/01/19 22:20登録)
交通事故で臨死体験した探偵作家が、日常生活に戻ると次々に不可思議な体験をする。まばたきをしない人々、唇も動かさないのに聞えてくる話声。そして死んだはずの恋人が姿を現わす。霊界に踏み込んだ男は、コナン・ドイルを名ざした予告殺人に遭遇、クリスティ、乱歩、正史らと霊界殺人の謎解きに挑む。
『BOOK』データベースより。

序盤、主人公の探偵作家が不可解な世界に足を踏み込んでしまっているのを自覚出来ずに、戸惑っている姿を読む限りは、これから起こる事に期待が膨らみます。しかしそれも、事態が明らかになって来るにつれて平常心を取り戻して、通常のミステリと対する姿勢に変わりました。つまりは、まあまあ面白いのですが、それ程テンションが上がらない状態ですね。

霊界のミステリ作家が実在の人物ばかりなので、気を遣い過ぎたのか、あまり個性が感じられません。魅力に乏しいのです。折角の素材の良さが活かされていない様に思えます。そして、霊界のシステムが複雑で真相に至ってもなんとなく腑に落ちない点がありました。
もう少し見せ方というか、描き様があったのではないかと思います。其処に作者の限界を見た気がして、淋しい気持ちになったりしました。うーん、山村正夫、惜しいなあ。


No.1731 5点 憑物語
西尾維新
(2024/01/16 22:50登録)
“頼むからひと思いに―人思いにやってくれ”少しずつ、だがしかし確実に「これまで目を瞑ってきたこと」を清算させられていく阿良々木暦。大学受験も差し迫った2月、ついに彼の身に起こった“見過ごすことのできない”変化とは…。「物語」は終わりへ向けて、憑かれたように走りはじめる―これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春に、別れの言葉はつきものだ。
『BOOK』データベースより。

はっきり言ってこれはロリ好きの為の小説と断言しても間違いではないと思います。まず最初の70ページが暦の妹、月火とのいちゃつきのみで進行し、妄想全開のラノベ風。まあ元々本シリーズはラノベ寄りだから許されますけど。あと、ストーリー性がほとんどありません。場面変換は三回くらいしかないので、凄く単調に感じます。流石に日常の何でもない事を面白おかしく書く西尾維新をもってしても、余りにも変節が無さ過ぎじゃないでしょうか。ラストのオチはちょっと良かったですけど。

まるで何かの付け足しの如き作品で、ついでに書いてみました感満載です。予定では本シリーズ最終盤の筈だったのに、その後も延々続いているのは、読者の要望なのか著者の気まぐれなのか分かりませんが、いずれにせよ書きたかったんでしょうね、続きを。確かに臥煙伊豆湖や忍野メメのその後なんかは気になるところですけどね。その辺りまだまだ語り尽していないところが多々ありそうですし。


No.1730 8点 爆弾
呉勝浩
(2024/01/14 22:24登録)
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
Amazon内容紹介より。

これは又目を瞠る程骨太の力作ですね。
何だか知らないけど、物凄い迫力です。息をも付かせぬとはこう云う事を言うんでしょう。まず何と言ってもスズキのキャラが濃すぎです。どう表現して良いのか分かりませんが、とぼけている様で妙に気が回る、故意に記憶喪失を装い手練れの刑事達を翻弄しまくる異様な雰囲気を持った謎の自称49歳の男。この人物の語りだけでも全く飽きが来ません。1ミリも無駄のない描写で圧巻の400ページ超えもダレることなく読み切れます。

対する警察側も負けてはいません。恫喝等にはまるで屈しないスズキは、自分の言い分を聞き入れる刑事達には対等に接します。刑事は入れ代わり立ち代わり尋問、というよりはスズキの出す遠回しなヒントを基に爆弾が仕掛けられた場所を必死に模索していきます。等々力、清宮、類家、伊勢、鶴久、紅一点の紗良、それぞれの内面がよく描き分けられています。中でも類家対スズキの頭脳戦は読み応え十分です、まあ本作に関しては最初から最後まで全てが読みどころと言えると思いますけど。
これだけ読ませる警察小説は滅多にお目に掛かれないと思います。傑作間違いなし。


No.1729 5点 治療島
セバスチャン・フィツェック
(2024/01/10 21:44登録)
目撃者も、手がかりも、そして死体もない。著名な精神科医ヴィクトルの愛娘ヨゼフィーネ(ヨーズィ)が、目の前から姿を消した。死に物狂いで捜索するヴィクトル、しかし娘の行方はようとして知れなかった。4年後、小さな島の別荘に引きこもっていた彼のもとへ、アンナと名乗る謎の女性が訪ねてくる。自らを統合失調症だと言い、治療を求めて妄想を語り始めるアンナ。それは、娘によく似た少女が、親の前から姿を隠す物語だった。話の誘惑に抗し難く、吹き荒れる嵐の中で奇妙な“治療”を開始するヴィクトル、すると失踪の思いもよらぬ真実が…2006年ドイツで発売なるや、たちまち大ベストセラーとなった、スピード感あふれるネオ・サイコスリラー登場。
『BOOK』データベースより。

精神病患者でありながら精神科医と統合失調症患者で謎の女の対決。様々な謎を孕んだストーリーは悪くないですが、もう少し書き様があったのではないかという気がしてなりません。外堀を埋めて少しずつ真実に近づく速度が遅すぎてじれったいったらありゃしない、です。もう少し核心に迫る様な描写があっても良かったんじゃないでしょうかね。遅々として進まない展開にイライラします。

ドイツではこれが大ベストセラーになったと言うんだから、底が知れてますね。日本だったら新人作家である事を考慮しても、それほど話題になった筈がありません。こなれた作家ならもっと上手く料理出来たかも知れませんが、この何とも言えず地に足が付かない据わりの悪さが、本作では裏目に出ていると思います。


No.1728 6点 乳房のない死体
山村美紗
(2024/01/07 22:23登録)
胸をえぐりとられた人妻の水死体!乳房に隠された秘密とは何か?被害者は31歳の人妻だった…。犯罪の陰にひそむ情事を官能的なタッチで描く表題作。単行本未収録オリジナル。
Amazon内容紹介より。

表題作は狩矢警部が登場する、本格ミステリと言って良いと思います。他の六作は官能小説まがいの結構濃厚な描写が特徴的な、サスペンスや倒叙物ですね。どれも男女の愛憎蠢く錯綜し、歪んだ愛の形をテーマとしています。犯人は全て女性で、終始犯人目線で描かれています。仕掛けがすぐに判るのもあれば、ああそうだったのかと驚かされるものもありますが、読んでいて飽きることの無い水準は満たしていると思います。

しかし、似たようなトーンの作品が続く為、読み終わってもどれがどれだったか判然としない様な感覚を覚えました。お得意のトリックはなりを潜め、専ら叙述で読ませる短編が多く、殺人方法も地味ではあります。まあ佳作揃いではないでしょうか。


No.1727 5点 やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体
清水義範
(2024/01/05 22:14登録)
分別・無分別の複雑なゴミ分類に踏みきった名古屋の街は、ゴミの話題でもちきり。分類方法をめぐって侃侃諤々の大騒動が繰り返されていた。仲良しおばあちゃん六人組「やっとかめ探偵団」にとっても、ゴミ問題は重大な関心事。ある日、ゴミ袋に入れられて市内各地のゴミ集積場に捨てられた死体が見つかった!バラバラにされた死体を巡り、探偵団の推理が冴える。
『BOOK』データベースより。

第一部は大部分がごみ処理問題にページが割かれており、短いし内容が薄いのでミステリとしてはいささか物足りなさを感じます。何故死体をバラバラにしたのかには重きを置かれず、フーダニットやホワイダニットがどうこうの問題でもなく、ルミノール反応とアリバイが主題です。容疑者は一人で、アリバイをどう崩すのか、何処からもルミノール反応が出ないのは何故なのか、その二点に焦点は絞られます。

それにしてもゴリゴリの名古屋弁には閉口します。私はある程度慣れていますが、他の地方の方には耳慣れない訛りが続々。しかも会話文が多いので気になる方はストレスが溜まるかも知れません。
まあしかし、元気な婆ちゃんたちがユーモラスに話し合うのは、なかなか面白味があります。探偵役のまつ野婆ちゃんはそれなりに鋭さを持っており、巷では名探偵の名で通っています。事件を解決までに漕ぎ着ける過程は?な面もありますが、最後にはそういう事だったのかと納得させられます。全体的に可もなく不可もなくって感じでした。


No.1726 6点 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件
倉知淳
(2024/01/04 22:25登録)
戦争末期、帝國陸軍の研究所で、若い兵士が頭から血を流して倒れていた。屍体の周りの床には、なぜか豆腐の欠片が散らばっていた。どう見てもこの兵士は豆腐の角に頭をぶつけて死んだようにしか見えないないのだが……前代未聞の密室殺人の真相は!? ユーモア&本格満載、おなじみ猫丸先輩シリーズ作品も収録のぜいたくなミステリ・バラエティ!
Amazon内容紹介より。

平均的に面白い短編が続きます。それほど驚くようなトリックはないものの、ユーモアを交えたお手軽にサラッと読める物が多いです。例えば表題作や『薬味と甘味の殺人現場』はかなり風変わりな殺害方法と猟奇的とも言えない、訳の分からない装飾が施されており、謎めいた印象を植え付けます。しかし、真相はシンプルでやや物足りなさを覚えます。因みに私は表題作のダミーの推理は想定していた通りでしたので、おっ?と思いましたが、やはりそんな筈はありませんでした。

最後に猫丸先輩が登場します。ねこめろんくんが可愛い。やはり猫丸先輩が出ると和みますね、癒されます。風貌に似合わず頼もしい存在で話しぶりも楽しいし、久しぶりに短編集でも出したらどうですかね。
で本作品集、ファンは必読でしょうが、それ程思い入れのない読者にとっては読んでも読まなくてもいいんじゃないか程度。タイトルに惹かれて読むと拍子抜けするかも知れません。


No.1725 8点 地雷グリコ
青崎有吾
(2024/01/01 22:28登録)
射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。
Amazon内容紹介より。

誰もが一度はやったことのあるであろう「じゃんけんグリコ」(地域によって呼び名が異なるらしい)。じゃんけんをしてグーで勝てばグリコと言って三歩進み、チョキで勝ったらチヨコレイトで六歩進む、あの遊び。これを応用して、階段の途中に三ヶ所地雷を仕掛ける事が出来るというルールで勝負するのが表題作。これがトップに配されています。

他にも坊主めくりと神経衰弱をミックスした『坊主衰弱』等のゲームを、主人公で滅法勝負ごとに強い射守矢真兎が強敵を相手に飄々と勝負していく連作短編集。そして最後に最強の敵であり、昔仲間だった因縁の相手との変則ポーカーの大勝負に挑みます。
いずれもルールの盲点を突いて、意外過ぎる妙手を打ち続ける真兎。相手の心理を読み尽し、その裏をかいてどんな場面でも冷静な判断を怠らないこの主人公には、正直憧れすら抱いてしまう魅力があります。サブキャラもそれぞれ個性的で読んで良かったとつくづく実感出来る作品です。特に驚いたのは『だるまさんがかぞえた』で見せた反則スレスレの大技で、誰も予想だにしない結末を演じて見せます。これだけでも必読と言えるでしょうね。
ミステリ作家ならではの奇想が読者を魅了します。優れたギャンブル小説であり、素晴らしい頭脳戦と心理戦を堪能できること請け合いです。


No.1724 6点 エコール・ド・パリ殺人事件
深水黎一郎
(2023/12/29 22:39登録)
エコール・ド・パリ―第二次大戦前のパリで、悲劇的な生涯を送った画家たち。彼らの絵に心を奪われ続けた有名画商が、密室で殺された。死の謎を解く鍵は、被害者の遺した美術書の中に潜んでいる!?芸術とミステリを融合させ知的興奮を呼び起こす、メフィスト賞受賞作家の芸術ミステリシリーズ第一作。
『BOOK』データベースより。

私だけかも知れませんが、『金田一少年の事件簿』を想起させられました。ちょっと期待外れでしたね。完璧な密室殺人だと思っていたのに、そう来たのかという変化球だったので。もっとストレートだったら評点も上がったでしょう。
途中のガセ推理もあまり誉められたものではありませんね。穴が多すぎます。まあ刑事の考える事はその程度で良いのかも知れませんけれど。

そして真相は私の思っていたのとは違い、斜め上に。確かにそれなら色んな意味で納得が行くとは思います。しかし、「読者への挑戦状」を差し挟む程ではありません。それにエコール・ド・パリの画家達の蘊蓄は余計ではなかったのかとの疑問も起こります。興味が持てたのはレオナルドフジタのくだりくらいでした。本格ミステリよりも人間ドラマと言うか、人情物として評価したい作品。ユーモアも思いの外多分に含まれています。


No.1723 6点 バベル消滅
飛鳥部勝則
(2023/12/26 22:46登録)
島での連続殺人、各現場に残された『バベルの塔』の絵―。鮎川哲也賞受賞の著者が、独自のスタイルで構築する、目眩く豊饒の世界。本格ミステリのゴシック・リヴァイヴァル。
『BOOK』データベースより。

うーん、難しいですね。面白くない訳ではないです。しかし、どうも納得が行かない部分があるんですよね。最後の事件のアレとか、どうしてそんなにバベルの塔に拘るのかとか、業務上過失致死じゃないのか?とか。
そして、ラストの推理は成程と思わせるものの、真相自体が結局そっちかとなってしまいます。メイントリックは諸々の要素に埋没して全く気付きませんでした。再読すれば頷ける部分があったのではないかと思いますが。

前作よりも作中に挟まれる絵画の意味が感じられず、その点では残念でした。それにサプライズ感がある筈の所で驚けず、カタルシスが得られません。それにしても重要人物の一人である少女の、死に際の謎の行動が不思議です。余りにも異質で存在感が強かったのが伏線だったのか、まあそうとしか考えられませんね。私はあまり好きなタイプではないですが・・・あ、そういう問題じゃないですね。


No.1722 6点 麻雀人国記
灘麻太郎
(2023/12/24 23:03登録)
明石屋さんま、赤塚不二夫、井上陽水、ジャイアント馬場、ビートたけし、美空ひばり、丹波哲郎、黒澤明、長嶋茂雄、夏目漱石…。カモられ、ツモられ、あがられても……麻雀に魅せられた人々。各界の有名人の麻雀放浪記、伝説のエピソード集。
Amazon内容紹介より。

著者は、その昔阿佐田哲也、小島武夫、古川凱章らが麻雀新撰組として麻雀界を席巻していた頃、カミソリ灘として名を馳せたプロ雀士灘麻太郎。芸能界、スポーツ界、文壇など各界の著名人の人となりや雀風、彼らが起こした出来事や事件を簡潔に纏めたコラムを全て収録したもので、ご丁寧に注釈も入っています。
上記の他に、石橋貴明、萩原欣一、加賀まりこ、都はるみ、桂三枝、三遊亭圓楽、鶴田浩二ら多数登場。推理作家では山田風太郎、西村京太郎、綾辻行人、大沢在昌、佐野洋、アガサ・クリスティーが出て来ます。

麻雀はその人の性格や癖が顕著に出てなかなか面白いものですが、中には想像を絶するエピソードも含まれており楽しめます。又、芥川賞、直木賞を創設したのは菊池寛だったとか、日本で最初に麻雀に関する大まかなゲーム性を著したのは夏目漱石だった、映画『麻雀放浪記』のドサ健役は当初の予定では松田優作だったなど、学びも多かったです。
その道で名を成した大物たちが、意外と短命だった人が多かったのには、何だかやるせない気持ちにさせられました。それが今では日本が長寿国世界一というのも感慨深いものがありますね。


No.1721 6点 邪馬台国と黄泉の森 醍醐真司の博覧推理ファイル
長崎尚志
(2023/12/21 23:14登録)
創作中に姿を消したホラーの鬼才を捜してほしい。その依頼が全ての始まりだった。邪馬台国最大の謎に挑み、最後の“女帝”漫画家を復活させる。映画マニアの少年を救い、忌まわしき過去の事件を陽光のもとに―。傍若無人にして博覧強記、編集者醍醐真司が迫りくる難題を知識と推理で怒涛のように解決してゆく。漫画界のカリスマにしか描けない、唯一無二のミステリ。
『BOOK』データベースより。

漫画の編集者が探偵役という事もあり、何とも言い表せない雰囲気を持った連作短編集。第一話はホラー漫画家の失踪を幾つかの謎を残しながら、その行方を推理しその気にさせるのが命題。第二話は傲慢な女漫画家との対決であり、彼女を懐柔していく心憎さも醍醐は見せています。そして、諸説ある邪馬台国はどこかを独自の視点で推理し指摘する、博識ぶりを発揮します。第三話は少年安蘭との交流の中で、マニアックな映画の蘊蓄を披露。第四話では第一話の謎の部分にスポットを当て、ホラー漫画家椋(むく)の少年時代の事件を鮮やかに解決します。

という訳で、多様な分野に造詣の深い異色の探偵像をここでは築き上げています。タイトルにもある様に、一応邪馬台国の謎と11歳の少年少女が絡む事件がメインで、ややどっちつかずで中途半端な印象が無きにしも非ずです。
それでもミステリとして又エンターテインメントとして、一定の評価が出来る作品だと思います。強烈なインパクトを残すかと言われると否と答えるしかありませんが、まずまずの佳作ではないでしょうか。


No.1720 5点 僕の殺人計画
やがみ
(2023/12/18 22:22登録)
これまで何冊もの大ヒット小説を生み出してきた
編集者・立花のもとに届いた奇妙な原稿。
そこに書かれていたのは、
自身が完全犯罪の被害者として殺されるという衝撃の内容だった!

「命は惜しい。でも、続きを読まずにはいられない」
一人の人間として恐怖心を抱きながらも、
編集者としての圧倒的な好奇心が、立花を死のループへと誘う。
Amazon内容紹介より。

Amazonのレビューと高評価に騙されてはいけません。おそらく多くの人がユーチューバーやがみのファンでしょうから。流石にこのミスにも掠りもしていませんし。正直ホッとしています。本作がランキングしていたら、増々このミスを疑って掛からねばならないところでしたからね。
読みやすいのと時折うん?と思わせる箇所があったので5点としましたが、ミステリとしては3点以下です。これの新品を買うなどもっての外、図書館ででも借りて暇潰しすればそれで十分でしょう。

本格ミステリと言うより倒叙物として評価すべき作品だと思います。最後に何かサプライズがあると信じて読み進めました。しかし無論期待は裏切られ、何の捻りのないままエンディング。とてもではないけれど、ミステリ作家としてのスタートとして褒められたものではありません、ファン以外はね。
プロットの練り方も不十分だし、コロコロと変わる一人称、トリックも全然ダメ、意外性もなく、はっきり言って凡作の域を出ていないです。
蛇足ですが、痴漢のくだりはTVで観たそっくりそのままで、パクリかと思いました。


No.1719 4点 エヴァが目ざめるとき
ピーター・ディキンスン
(2023/12/17 22:33登録)
地上百数十階の都市に人々がひしめき、野生動物のほとんどが絶滅した近未来。チンパンジーを保護・研究する学者であるパパとでかけ、事故にあったとき、エヴァは十三歳の、黒く長い髪と青い目の女の子だった。だが二百日を越える昏睡からようやく目ざめたとき、エヴァが鏡のなかに見たものは…。人類衰亡の時代に、ただ一人の「新しい存在」として目ざめてゆく少女を描く、実力派作家の異色のSF。
『BOOK』データベースより。

第三部以外は平坦で退屈。第一に肝心のエヴァの事故の模様と、どのような経緯でチンパンジーにエヴァの脳を移植したのか、そしてその手術の全容が殆ど記されていないのはどういう訳でしょうか。日本の作家ならまずその辺りを入念に記述し、主人公に感情移入し易いようにするはずです。いきなり目覚めた時にはチンパンジーになっていたところから始まるのは問題ないですが、前述の様にその前の段階を説明する必要があると、個人的には思いますね。その事に付いてはAmazonのレビューを見てもどなたも触れられていないのは、禁忌だからですかね。それとも面倒だったから端折ったとか?

まあそれにしても、全体的に何の盛り上がりもなく、さりとてエヴァの心情に鋭く切り込む事もなく、私の感情を揺さぶる要素が全くありませんでした。おそらく私の読み込みが足りないせいもあるとは思いますが、名作と言われる所以がイマイチ理解できません。どう考えてもそんなに凄い作品だとは思いません。エンターテインメントとしても中途半端だし、学術的に見ても深掘りされていない、子供が読んで喜ぶとはとても思えませんね。


No.1718 7点 夜を歩けば1 ザクロビジョン
あやめゆう
(2023/12/16 22:53登録)
地方都市七枷市に暮らす宮村一野は、人の雰囲気を視覚化する異能を持ち、異能者トラブルを処理する事務所で働いている。ある日、ビルから人が落ちるのを目撃。事務所が調査を進めている連続飛び降り事件と関連するとされ、担当することになってしまうが…。現代異能ファンタジー堂々開幕!
『BOOK』データベースより。

まずタイトルが良いですね。夜を歩けば・・・何かが起こるって事なのかな。私自身はお酒を飲まないので、夜街中を歩く機会はあまりないのですが、それでもその空気感は好きなのです。
言ってしまえば、これラノベによくある異能もので、特段風変わりな訳ではないですが、ミステリ寄りなのが異色なのかも知れません。何しろ連続飛び降り事件ですからね。そして主人公を始めその仲間達がアルバイト探偵と云うのもちょっとばかり変わり種です。
私と感性が合っているのか、文章が上手いとかではなく、その表現力が豊かで心理描写も情景もありありと目の前に浮かんでくるのです。

派手なアクションやバトルはありません。しかし、プロットの妙や伏線の張り方、犯人を追い詰めていく緊迫感など見どころ満載です。個人的には、女子高生石本さん、石本花梨(いしもとかりん)が可愛いんですが、普通っぽいところが何とも言えず好感が持てました。本作の魅力の半分位を背負っていると言っても過言ではありますまい。


No.1717 5点 パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない
ジャン・ヴォートラン
(2023/12/12 22:50登録)
パリ効外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺される。純白のウエディングトレスの胸を真っ赤に染めた花嫁が握りしめていたのは一枚の紙切れ。そこにはこう書かれてあった。「ネエちゃん、おまえの命はもらったぜ」。シャポー刑事はその下に記された署名を見て愕然とする。ビリー・ズ・キック。それは彼が娘のために作った「おはなし」の主人公ではないか。続けてまた一人、女性が殺される。そして死体のそばにはビリー・ズ・キックの文字が…。スーパー刑事を夢見るシャポー、売春をするその妻、覗き魔の少女、精神分裂病の元教師。息のつまるような団地生活を呪う住人たちは、動機なき連続殺人に興奮するが、やがて事件は驚くべき展開を見せはじめ、衝撃的な結末へ向かって突き進んでゆく。
『BOOK』データベースより。

うーん、面白いとも詰まらないとも言えない、微妙なところ。読み終えた時点で3点にしようかと思いました。次から次へと現れる登場人物、数人を除いて没個性で誰が誰だか分からない、まるで脚本の様な淡々として抑揚のない文章、衝撃の展開でも結末でもないストーリー、フランス式のロマンノワール。全てが自分には合わないと感じました。
しかし、訳者あとがきを読んで少し考え直しました。悔しいけれど言いたい事は良く分かる、そう思えば確かにそんな気もするというね。

原文は何だか起こった事象のみを描写している様にしか思えませんが、翻訳は悪くないです。それにプラスして誰も彼もがイカレている、頭のねじが緩んでいる感じで、ロマンと言うよりダメな大人達の色んなタイプを描いており、ちょっと変わった意味での脱力系とでも形容させる点が、まあ評価出来るかなと。

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