メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1375 | 8点 | ジェノサイド 高野和明 |
(2021/11/17 22:40登録) 急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。 『BOOK』データベースより。 ハリウッド映画のスペクタクル超大作を観終えた様な達成感があります。単行本で590頁が税込み1770円はお買い得?ですね。まあ今なら古書店で税込み220円で買えると思いますが。それにしても、これは正に一冊で二冊分の内容が詰め込まれてると言って良いでしょう。それでいて、構成プロット共にほぼ完璧で、例えば敵兵の細かいエピソードに至るまで過不足なく描写されており、アメリカ政府のネメシス作戦を遂行する4人の傭兵チームと、二つのPCを基に新薬開発を託された研人の二つの支流が、やがて一つの大きな本流を作り出していく様は見事の一言に尽きます。 本作を読む前、アフリカを舞台にした傭兵たちの冒険譚だと何となく想像していましたが、それは大きな間違いでした。勿論その要素も有ります。しかし、日本、アメリカのホワイトハウス、アフリカのコンゴ共和国と世界を舞台に、それぞれの地で活躍する登場人物たちが何とも人間臭く、又生き生きと描かれており私の想像を大きく上回る壮大な人間ドラマに仕上がっていました。 『このミス』1位も十分頷ける充実の内容でお届けする、大スケールの冒険小説。理屈抜きに楽しめるエンターテインメントであり、ミステリやサスペンス要素もスパイス程度には効いていると思いますね。 |
No.1374 | 7点 | 獣たちの墓 ローレンス・ブロック |
(2021/11/11 23:11登録) 麻薬ディーラーとして成功した、キーナンの魅力的な若妻フランシーンが、ブルックリンの街角で白昼堂々と何者かに誘拐された。間もなく脅迫電話をかけてきた姿なき誘拐犯。その要求に応じ、キーナンは巨額の身代金を支払う。しかし犯人が指定した車のトランクのなかにあったのは、変わり果てた妻の無惨な死体だった―。犯人への復讐を誓うキーナンは、事件の手がかりを探るため元刑事のスカダーに調査を依頼するが…現代最高峰の私立探偵シリーズ代表作。 『BOOK』データベースより。 私が初めてハードボイルドを読んだのは、記憶が許す限りでは『新宿鮫』だったと思います。評判が良かったようなので挑戦してみましたが、残念ながら私には響きませんでした。今ではこんなですが当時は本格一筋と言っても良かった私ですので、それ以来ハードボイルドに積極的に触れようとは思いませんでした。 ところで、先日海外の作品ももっと読まねばと心を新たにし、本サイトに登録されている全ての海外作家をチェックし高評価を得ている作品を出来る限り読む事を決意した次第です。勿論入手できそうな範囲で、ですが。本作もその一冊でした。余談ですが、海外ではもう本格ミステリはネタ切れと判断されたのか、禁忌の風潮でもあるのか、本当に登録が少ないなと感じました。 さて本作、主人公を始め脇を固めるキャラ達が個性的でなかなか面白いと思いました。特にハッキングの場面は良いです。ただあまり哀愁が漂っていない点が気にはなりました。しかし、そもそもハードボイルドの定義がイマイチ分かっていないので、私の意見は参考にはなりませんが。 冒頭の誘拐事件から惹き込まれますが、要点のみをコンパクトに纏められており、無駄のない文章に好感が持てました。陰惨な事件でありながら、グロさはほとんど感じさせません。そこは想像力で補うしかありませんね。他にも残酷な事件に関与している可能性があり、犯人に憎しみを抱くほどラストでスッキリできるのではないかと思います。日本ではこうはならないかも知れません、それ程ショッキングな幕切れでした。 |
No.1373 | 6点 | 魔法少女育成計画 restart (後) 遠藤浅蜊 |
(2021/11/07 22:54登録) ひたすらに激化していく、囚われの魔法少女たちによる生き残りゲーム。残酷かつ一方的なルールの下で、少女たちは迷い、戦い、一人また一人と命を落としていく。警戒すべきは姿の見えぬ「マスター」か、それとも背後の仲間たちか。強力無比な魔法が互いに向けられる時、また一人新たな犠牲者が生まれる―。話題のマジカルサスペンスバトル、第二幕の完結編。 『BOOK』データベースより。 前編のゲームの目的は魔王を討伐する、後編はプレイヤーを全滅させる、変わってるじゃん。そう、もう既に何人もの魔法少女が死んでいます、その上でマスターは更なる犠牲者を望んでいるのです。この変更は突如下され(いつもそうなのですが)、物語は急展開を迎え読者は脳内で軌道修正を余儀なくされます。ミステリで言うところのフーダニットに切り替わり、誰が誰を殺したのかに主題が置かれる事になります。 後半のエキサイティングな展開は、それまでとは打って変わって緊迫感と激しいバトルを生み出し、まさに読み応え十分で遂に本領を発揮したなと感じました。それぞれの魔法少女が持つ特殊能力のぶつかり合いはなかなかよく考えられており、必ずしも武闘派が勝つとは限らない、一寸先は闇の世界を繰り広げシリーズ最大の見せ場を作り出します。 最後に生き残るのは誰か、魔王の身代わりは誰なのか、最後の最後まで目が離せません。 |
No.1372 | 5点 | 魔法少女育成計画 restart (前) 遠藤浅蜊 |
(2021/11/05 23:02登録) 「魔法の国」から力を与えられ、日々人助けに勤しむ魔法少女たち。そんな彼女たちに、見知らぬ差出人から『魔法少女育成計画』という名前のゲームへの招待状が届いた。死のリスクを孕んだ、理不尽なゲームに囚われた十六人の魔法少女は、黒幕の意図に翻弄されながらも、自分が生き残るために策を巡らせ始める…。話題のマジカルサスペンスバトル『魔法少女育成計画』に続編が登場。 『BOOK』データベースより。 魔法少女たちがRPG内で善行を行い、ポイントを貯めて様々なアイテムをゲットしていき、更にリアルでは相応の報酬が通帳に振り込まれるという基本設定は前作と変わっていません。しかし、今回は困っている人の助力をしたりといった普通の人助けを行う描写は全くありません。その代わり舞台を変えながら骸骨、竜などを倒していくシーンが多目に描かれています。一方で、ゲームを離れた実生活の模様も多少は挿入されています。そして、ラストにはなんと!なんと!なんと! これ以上は書けません・・・。 前作よりも評点が落ちているのは、どうも散文的で纏まりに欠け、どこに重点を置いているのかがいま一つ伝わってこなかったのが原因かもしれません。不可抗力で魔法少女が死んでいったり、殺人事件が起こって探偵役の少女が何となく動いてみたり(捜査や推理はしない)もします。その裏でゲームのマスターサイドにも言及されて、しかし何が本当の狙いなのかは開陳されず、何となくモヤモヤした気分が払拭しきれません。 後編でどう進展するのか期待と不安が錯綜する感じで、現在挑んでいる最中です。 |
No.1371 | 6点 | 異説 忠臣蔵 荒川法勝 |
(2021/11/02 23:06登録) 吉良上野介は生きていた。華やかな“仇討ち”の裏に隠されたからくり―。事件の謎の部分に鋭く切り込み、大がかりな陰謀を暴き出していく、その後の忠臣蔵。大胆な仮説をもとに、波瀾万丈のストーリーが展開する気鋭渾身の時代活劇巨編。 『BOOK』データベースより。 吉良上野介が生きていたら、という大胆な仮説の下に語られる忠臣蔵のその後の物語。しかし、その仮説がとんでもないとも言いきれない理由があり、必ずしも全否定できないと思わせる歴史の裏事情が垣間見えます。 一般的に忠臣蔵とは前半松の廊下に於ける浅野内匠頭の刃傷沙汰がメインで、中盤様々なエピソードが描かれ、クライマックスの討ち入りから四十七士の切腹で幕を閉じる形がほとんどです。本作は切腹から始まります。よって、赤穂浪士の活躍を期待していると裏切られます。 主役は赤穂藩の資金を持って夜逃げした卑怯者と言われている家老大野九郎兵衛で、実は大石内蔵助が吉良を討ち逃した際の予備軍の司令官として待機していたという設定になっています。後半に登場するやむに止まれぬ訳があって脱落したとされる高田郡兵衛も、大石の直々の命を受けて討ち入り後の重要な任務を任されたと本書ではなっています。果たして大野は吉良の首級を挙げることができるのか? そしてもう一つのストーリーは完全なフィクションで、吉良が生きていることを知り、その動向を探る諜者がある人妻と合流し、その旅先で互いに惹かれ合う経緯を情緒的に描いたもの。この二つの大きな流れがやがて少しずつ干渉し合いながら進行していく形式を取っています。 作中、色々起こり過ぎて何を書いて良いものか分かりません。無論決闘シーンなどもありますが、それ程の迫力や生々しさはありません。ただ所々私の琴線に触れる描写が幾つかありました。全般的に凪のようなスタイルで描かれ、紆余曲折はあるもののダイナミックさには欠け、今一つ波に乗り切れない面は否定できません。登場人物で好感が持てたのは夫の行方を追う人妻の路乃で、これがまた可愛く健気で何とも言えない魅力を持っています。他にはあまり活躍はしていませんが脇役で光っていたのが寺坂吉右衛門ですかね。 |
No.1370 | 7点 | 孤島の来訪者 方丈貴恵 |
(2021/10/29 22:28登録) 謀殺された幼馴染の復讐を誓い、ターゲットに近づくためテレビ番組制作会社のADとなった竜泉佑樹は、標的の三名とともに無人島でのロケに参加していた。島の名は幽世島―秘祭伝承が残る曰くつきの場所だ。撮影の一方で復讐計画を進めようとした佑樹だったが、あろうことか、自ら手を下す前にターゲットの一人が殺されてしまう。一体何者の仕業なのか?しかも、犯行には人ではない何かが絡み、その何かは残る撮影メンバーに紛れ込んでしまった!?疑心暗鬼の中、またしても佑樹のターゲットが殺され…。第二十九回鮎川哲也賞受賞作『時空旅行者の砂時計』で話題を攫った著者が贈る“竜泉家の一族”シリーズ第二弾、予測不能な本格ミステリ長編。 『BOOK』データベースより。 昨今流行の特殊設定の孤島ミステリ。それにしても相当思い切ったと言うか荒唐無稽でSF色が強いですが、それでも本格には違いないです。読者への挑戦状も挟まれていますし。様々な制約を設けていて、それが犯人を特定する重要な手掛かりになっており、そこに於ける破綻は見られません。読者は論理的に犯人を指摘する事が可能です。ですが、何か惜しいんですよね、文章にキレがないせいかイマイチ盛り上がらない訳です。 意外性もあるにはあります、ただ話が入り組んでいてややこしいのが難点でしょうか。それに主人公で探偵役の竜泉を始め登場人物の誰ひとりとして個性的に描かれておらず、あまり人間味が感じられません。書きようによっては更なる傑作となったのは疑いようがなく、残念な気がします。 ケチばかり付けているようですが、エピローグは良い味出していましたし、佳作だとは思いますよ。 |
No.1369 | 6点 | トリックー劇場版ー 蒔田光治 |
(2021/10/26 23:12登録) 売れない奇術師・山田奈緒子の元に、糸節村から神を演じてほしいという依頼がきた。「三百年に一度、大きな災いが訪れる」という言い伝えに怯える村人の不安を取り除くためだ。だが、村には既に神を名乗るものたちがいた。自著の取材に来ていた日本科学技術大学教授・上田次郎も巻き込まれ、次々と不可思議な現象が起こる。彼らは本物の神なのか?それとも全てトリックなのか!?堤幸彦ドラマの真骨頂、仲間由紀恵&阿部寛主演の大ヒット映画ノベライズ。 『BOOK』データベースより。 自身の脚本をノベライズしているだけに、コンパクトに纏まりながらも確りとツボを押さえて好感が持てます。本書を読んでいて、昔TVで放映していたのを観ていたのを結構細かい所まで覚えているものだなと自分でも感心しました。それだけ映画のインパクトが強かったのだと思います。特に奈緒子と上田の掛け合いがとても楽しめました。頭の中では二人の会話が仲間由紀恵と阿部寛の声に変換されて、まさにトリック・ワールドに没入することが出来ました。 トリックと言うよりマジックに近く、その種明かしをしているだけみたいな感じもありますが、暗号やダイイングメッセージの件などは面白く読めました。テンポ良く話が進みストーリー自体もなかなか良く出来ており、映画を観ていなくても十分その雰囲気は伝わると思いますし、短くても読み応えがないとは言えません。コミカルな面も意外にスケールの大きさもあり、最後まで飽きさせません。 |
No.1368 | 5点 | 女彫刻家 ミネット・ウォルターズ |
(2021/10/25 23:10登録) 注意!ネタバレをしています。 女の名はオリーヴ・マーティン、現在、無期懲役の刑に服している。母親と妹を切り刻みそれを再び人間の形に並べて、台所の床に血みどろの抽象画を描いた女―だが、本当に彼女がやったのか。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 好きか嫌いかと聞かれたら私はこの作品が嫌いです。一応5点付けましたが、その中でも最下層だと考えて頂きたい。 第一に導入部の猟奇殺人事件の報道は良いでしょう。バラバラ死体大いに結構、望むところです。しかし、その理由が曖昧で、結局精神異常?で済まされてしまっているのはどうにも承服出来かねます。本格を名乗るのであれば、本作の肝でもあるなぜ死体を切断したのかに論理的な解答は必要だと思います。第二に結末がスッキリしないのもいけませんね。犯人が誰でも良かったみたいにも解釈出来ますし、動機もほぼ書かれていない、そこの処ははっきりして欲しかったです。第三に余計な描写やエピソードが多いこと。文庫で470頁はあまりに長すぎでしょう、内容的には300頁位が妥当な線です。Amazonのレビューで「終わりに近づけば近づくほどつまらない」という意見がありますが、同感ですね。 アメリカの賞を受賞していますが、甘いですよ。これだから欧米のミステリは日本に比べて本格度が低いんだよなと思ってしまいます。個人の意見です。しかも『このミス』1位だと?日本の評論家のみなさんもどうかしているとしか思えません。あくまで個人の感想ですが。 |
No.1367 | 7点 | コンビニ人間 村田沙耶香 |
(2021/10/21 23:14登録) 「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 驚愕、どんでん返し、ワクワクドキドキ等を読書の際にお求めの方には決してお薦めしません。取り敢えず純文学というか文芸作品ですからね。しかし、ホラー寄りの一面も覗かせており、考えようによっては恐ろしいとも言えます。どの企業の面接にも落ち、唯一採用されたのがコンビニの店員で、同じ店でアルバイトする事18年、36歳の恵子。通常の感覚とはかけ離れた感性の持ち主で、アスペルガー症候群気味。彼女の一人称で物語は進行します。まあミステリでは結構ありがちな設定ですね。妹の教えに従い、何とか周囲と溶け込んで仕事を熟す恵子ではありますが、時々心の中でなぜ他人はこんな事を考えているのだろうか、みたいな疑問を当たり前の様に持ちます。つまり自己と他者との乖離がどうしても理解できないのです。しかし、それを押し隠しむしろ店員で優秀な人材として周囲から認められています。 作品としてはまず起承転結が確り描かれているのが印象的です。起承までは主人公に共感できないし、さして面白さも感じませんでした。それが転の部分、つまり新入り店員の白羽が入って来てからおっ?て感じで変化が生まれます。 この二人の共生関係が不思議な空間を生み出し、ある転機が訪れます。果たして恵子はどんな選択をするのか・・・それは読んでのお楽しみという事で。 世の中には色んな人がいます、生きていくのが苦痛な人も、食べるのにやっとな生活をしている人も、男女関係で悩む人も一度読んでみて。自分の中で何かが変わるかも知れませんよ。 |
No.1366 | 6点 | 小説 素敵な選TAXI バカリズム |
(2021/10/20 23:08登録) バカリズムが連続ドラマとしては初めて脚本を執筆した「素敵な選TAXI」(関西テレビ・フジテレビ系)。市川森一脚本賞奨励賞を受賞するなど高い評価を受け話題となった脚本を自らが小説化!張りめぐらされた伏線や軽妙な会話などが映像とは一味違った面白さで蘇る。 『BOOK』データベースより。 ドラマは観ていませんが、何だか面白そうだったので購入。主役の過去に戻れるタクシー運転手の枝分は竹野内豊が演じていました。ところが読んでみると何となく三枚目っぽかったので、バカリズムの方がイメージ的にマッチしている気がしました。どれも平均して面白く、誰しも何作かは好みの作品があるのではないかと思います。そして、会話文が大半を占めているので、サクサク読めて笑えるシーンも散見されます。 個人的に良かったのは、若い男女の駆け落ちと犬の失踪を扱った『今と昔の選択肢』。バスの中で偶然宝くじを拾った、会社を追われそうな男の顛末を描いた『金と欲の選択肢』。八十になる祖父の死に目に間に合わなかった女性とその祖母三人の人生模様を描いた『夫と妻の選択肢』ですね。 他にもバラエティに富んだ短編が並び楽しめました。それにしても作中のドラマ『犯罪刑事』は一体何だったのだろう。何か全編を通じてキーポイントとなるものを握っているのかと思いきや、或いは最後でサプライズを起こすのかと思っていましたが・・・。 |
No.1365 | 6点 | バイロケーション 法条遥 |
(2021/10/18 22:58登録) 注意!ネタバレはしていませんが、物語の肝となる部分に触れています。 画家を志す忍は、ある日スーパーで偽札の使用を疑われる。10分前に「自分」が同じ番号のお札を使い、買物をしたというのだ。混乱する忍は、現れた警察官・加納に連行されてしまう。だが、連れられた場所には「自分」と同じ容姿・同じ行動をとる奇怪な存在に苦悩する人々が集っていた。彼らはその存在を「バイロケーション」と呼んでいた…。ドッペルゲンガーとは異なる新たな二重存在を提示した、新感覚ホラーワールド。第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 内容や評価などを忘れていた為か、ほぼ予備知識なしで読みました。よって導入部でいきなりクライマックスの様相を呈し、偽札事件の時点で頭の中が?で一杯になりました。うーむ、何だか知らないけどこれは面白い!となりましたね。その後は比較的落ち着いた展開で、次第に話が纏まり始め何となく先行きが予感できるような気がしてきます。そしてその予感を大きく上回る様な驚きはありません。 が、様々な事件が起きる中、終盤で第二のクライマックスと呼べる様な驚愕が待っていました。これは最早ホラーと言うよりミステリではないかと思いました。あれもこれも伏線だったのかと。思わず最初のページに戻って読み直しました、ええ二度見しましたとも。 若干ややこしい部分があり、もう少しスッキリした形で纏められていれば、もっと評価は上がったと思います。 |
No.1364 | 7点 | くるぐる使い 大槻ケンヂ |
(2021/10/15 23:00登録) 異星人にさらわれたと少女は主張する「キラキラと輝くもの」、超能力少女の哀しい恋物語を描き、第25回星雲賞を受賞した「くるぐる使い」、少女に憑いた悪霊とオール・ジャンル・エクソシストが闘う「憑かれたな」、ひとり自分の世界に閉じこもった少年が、毎日、鉛筆の先を尖らせてくらす「春陽綺談」、いじめられっ子が一世一代の人生の大逆転を図る「のの子の復讐ジグジグ」―青春の残酷と、非日常の彼方に見える現代のリアルを描く5短篇を収録する。 『BOOK』データベースより。 なぜか初出がSF雑誌というホラー短編集。どう考えてもホラーでしょう、一歩譲ってファンタジーか。Amazonで絶賛されているのも納得の出来です。どれも面白くお薦めですが、特に表題作は残酷で切なく名作と言っても過言ではないと思います。本作に関しては私はこの人の文章が好きです、殊に人物のちょっとした仕草や細かいディテールの描き方は、下手なプロより上手いですよ。 『憑かれたな』について少しだけ書くと、これは完全な『エクソシスト』のパロディというか、パクリです。壮大なネタバレをしていますので、『エクソシスト』未読或いは未見の方は要注意。それでも一応オリジナリティも持った作品ですので、評価は高いです。 どの短編もオチが確りしており、決して後味は良くないですが、読後にどこか腑に落ちるというか、そう云った何かが心に残るのはそれぞれのクオリティが高い故だと思います。 巻末に糸井重里との対談が収録されていて、大槻教授や織田無道とか出てきて懐かしいなと思ったら、単行本の初版が1994年11月30日でした。結構昔に書かれた作品だったんですね。しかしこの対談も徒然なるままの取り止めのない内容ですが、楽しかったですね。 |
No.1363 | 7点 | 開かせていただき光栄です 皆川博子 |
(2021/10/13 23:11登録) 18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。戸惑うダニエルと弟子たちに治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年の辿った恐るべき運命が…解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む、本格ミステリ大賞受賞作。前日譚を描いた短篇を併録。 『BOOK』データベースより。 本来もっと早く読むはずだった一冊。諸事情により本日漸く読み終えました。まあ読んで良かったなと思える作品ではありました。文体はあまり好きじゃないですけれど。 しかし兎に角導入部から怒涛の展開に思わず唸らせられました。ところがその後、嬉しくない方向に進んで行き、更に早々に種明かしをしてしまって、大丈夫かと心配しました。無論それは読了時点で杞憂に終わった訳で、流石にこちらの想像の上を行く絡繰りが用意されていました。 読む前から思っていた事ですが、これは歴史ミステリではないですよねえ。本格ミステリでしょう。もっとドロドロした物語を想定していましたが、意外とユーモアも適度にあり、そこまで陰湿な雰囲気はありませんでした。18世紀のロンドンの様子はそれなりに描かれていますし、現在では通用しない犯罪の数々に舌を巻きました。主にホワイダニットとして楽しめました。 |
No.1362 | 6点 | QED 伊勢の曙光 高田崇史 |
(2021/10/10 22:52登録) 伊勢の鄙びた村から秘宝の鮑真珠を持参していた神職が、不審な墜落死を遂げる。事件解決へ協力を頼まれた桑原崇は、棚旗奈々とともに伊勢へ。しかし、二人を待ち受けていたのはシリーズ中最大の危機だった。果たして崇は、事件の真相と、日本史上最大の深秘「伊勢神宮の謎」を解けるのか?「QED」完結編! 『BOOK』データベースより。 日本史が好きだとか神話に興味があるとかで、試しに読んでみようとすると返り討ちに遭います。余程のマニアじゃない限りは。本編の大半を占める伊勢神宮に関する謎、その蘊蓄話には到底付いて行けませんでした。何度も繰り返し登場する天照大神、猿田彦命辺りは当然知っていますが、聞いたことの無い神や天皇の名前や名称が次から次へと現れ、私の理解が全く及びません。それでも何とか読み進めると、言いたい事がおぼろげながら見えてきました。 一方ミステリとしての謎はそれ程強烈とは言い難く、しかし伊勢という土地柄(勿論フィクションですが)と事件との結び付きにはなるほどと思わせます。 シリーズを通読している訳でもなく、何となく手に取ってしまったのが完結篇だったので、あら?やっちまったかなと思いましたが、まあ本作を思い出しながら他作品もボチボチ読もうかなと考えているところです。 |
No.1361 | 7点 | イリーガル・エイリアン ロバート・J・ソウヤー |
(2021/10/06 23:21登録) 人類は初めてエイリアンと遭遇した。四光年あまり彼方のアルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。片脚を切断し、胴体を切り裂き、死体の一部を持ち去るという残虐な手口だった。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン…世界が注目するなか、前代未聞の裁判が始まる。 『BOOK』データベースより。 エイリアンとのファースト・コンタクトというSFと猟奇的な殺人事件の法廷小説の両方を兼ね備えた、贅沢な一冊。エイリアンが友好的で、それ程ハードではありませんし、トーンは明るめで緊迫感がやや欠如している気もします。しかしその裁判の様子は本格的であり、色物感は全く感じません。検事補と弁護士との対決は本作の最大の見せ場でかなりの盛り上がりを見せます。 一方殺人事件に関してはフーダニットとホワイダニットが謎の中心で、一捻りしています。ただ残念なのはその動機ですかね。これに関しては想定外と云うほどではありませんでした。 トソク族の外見や各器官に関する記述にはなるほどと思いました。そこにはエイリアンと人間との共通点と相違点に対する作者の捉え方が垣間見えて、興味深く読めました。そして時折SF小説的で鋭い考察を覗かせている辺りは流石です。 優れたSFでありミステリでもあります。 |
No.1360 | 6点 | 張り込み姫 垣根涼介 |
(2021/10/03 22:58登録) 「一生の仕事なんて、ありえないんじゃないんですか?」変わり続ける時代の中で、リストラ面接官の村上真介が新たにターゲットとするのは―英会話スクール講師、旅行代理店の営業マン、自動車の整備士、そして老舗出版社のゴシップ誌記者。ぎりぎりの心で働く人たちの本音と向き合ううちに、初めて真介自身の気持ちにも変化が訪れ…仕事の意味を再構築する、大人気お仕事小説シリーズ第3弾。 『BOOK』データベースより。 正にプロの仕事ですね。そつがないです。適度な感動と人間ドラマ、キャラの親しみやすさなどは流石の一言です。表題作よりも個人的に『みんなの力』や『やどかりの人生』の方が面白かったですね。仕事に対する被面接者のスタンスや様々な業種の在りようを通して、社会問題にも触れたりして勉強にもなります。 何と言っても本シリーズは面接官の村上と被面接者との対決が見どころなのですが、それよりもそれぞれの人生を背負って己の進路をどう選択していくのかという、社会の片隅で生きている被面接者のリストラに対する真摯な姿勢が生々しく描かれて好感が持てました。 又、全編ちょっとしたサプライズがあり、物語にスパイスを加えていてその意味でも期待を裏切りません。ワンパターンになりがちな素材を上手く料理して、読者を飽きさせないサービス精神に溢れた良作ではないかと思います。とにかく読ませますが、どうしても予定調和に終わってしまう点はやむを得ないでしょう。 |
No.1359 | 7点 | 第八の探偵 アレックス・パヴェージ |
(2021/09/30 23:31登録) 独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが…… フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体──七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ Amazon内容紹介より。 突出した傑作ではなくてもかなりの力作であることは間違いないと思います。解説の千街晶之が書いているように、日本の新本格を想起される方もおられるはず。新本格ファンには持って来いの一冊かも知れません。シンプルなのに凝った構成が光る作品です。作中作という響きに思わず反応してしまう私などは、かなり楽しめました。 ジュリアが七つの短編の矛盾をついて行くにつれ、グラントの秘密が薄皮を剥ぐ様に暴かれて最後には遂に驚愕の事実に辿り着くという物語。 作中作は出来不出来があり、ちょっとどうかなと思うものも含まれていますが、それぞれ何とも後味の悪い余韻を残したり反転があったり、良い意味で唸らされます。海外の作品でこれだけ本格らしい本格物は久しぶりに読んだ気がします。 |
No.1358 | 7点 | 男爵最後の事件 太田忠司 |
(2021/09/26 23:25登録) 〈この中の誰かが私を殺す——〉天才的推理で知られる“男爵”こと桐原は主催の晩餐会でそう宣告した。招かれた客は作家探偵霞田志郎をはじめとする六人の男女。彼らには男爵を殺す「動機」があった。翌日、招待客の一人が毒物で急死。他殺なのか?冷徹な頭脳が何かを企んでいるのか? やがて、数日前に霞田に持ち込まれた不審な火災と桐原を繋ぐ線が浮上した時、悪魔のごとき計画が明らかに……。事件と探偵がいかに関わるべきか、対立し続けた男爵と霞田。二人の対決に、驚愕の結末が! Amazon内容紹介より。 太田作品はそこそこ面白く安心して読める反面、突き抜けたものが無いのがいつものパターン。しかし本作はかなりキテます。序盤は典型的な館ミステリかと思わせておいて、実はそうでもなかったみたいな感じです。シリーズを通して読んでいないので何とも言えませんが、兎に角男爵と呼ばれる桐原がなかなか魅力的な存在です。彼は元刑事であり名探偵で、言わば霞田志郎のライバル的存在のようですね。 刑事と共に探偵が行動すると云うのはまだしも、その妹まで捜査に参加するのは如何なものかと思ったりもします。まあしかし、そこは妹の千鶴目線で描かれているので致し方なしでしょうか。 驚くような凄いといったトリックとかはありません。それでもそれを補うストーリーテラーぶりを発揮し、優れたプロットで読ませ、特に最終盤に明かされる真実が読む者の心を揺さぶります。少なくとも私はこの結末と作者の底力には平伏するしかありませんでした。本格ミステリとしてとても良作だと思います。シリーズ最終作としてエピローグにもなるほどと感じ入りました。 |
No.1357 | 5点 | 天を映す早瀬 S・J・ローザン |
(2021/09/24 23:00登録) ニューヨークの私立探偵リディアと相棒のビルは、仕事で香港を訪れていた。依頼されたのは、形見の宝石を故人の孫である少年に渡すだけの簡単な仕事。初めての海外に、リディアは興奮を隠せない。だが、たどり着いた少年の家は何者かに荒らされ、少年は誘拐されていた。銃も持てず、探偵免許も通用しない異国の地で、ふたりが巻きこまれた事件の結末は?人気シリーズ第7弾。 『BOOK』データベースより。 チャーハンが食べたくなります。それにしても何故家で作るチャーハンはどう料理しても店の味が出せないんでしょう。冷凍食品も色々試しましたが、どれも本格的なものではなく。「家でも喰えます」ってCMで言ってるのもやっぱり店とは違います。という訳で、本作余計な情景描写や説明文が多すぎて、いささか間延びした感が否めません。それらの描写が私の心には響かず、印象に残っているのは先に述べた食事シーンのみでした。 さてこれは一般的な誘拐物とは違って、緊迫感が圧倒的に足りない感じがします。そして明らかになる真相には拍子抜けでした。最初はなかなか面白そうな謎が提示されていて、良い感じかと思いきや先細りしていくストーリーにはがっかりです。 一応ハードボイルドに属するらしいですが、かなりソフトですね。今回はリディアが主役の為余計そう感じるのかも知れませんが。もうこのシリーズはいいかな。でも『チャイナタウン』だけは購入済み、どうしましょう。このまま読まずにブックオフ行きですかね。 |
No.1356 | 6点 | 読んではいけない殺人事件 椙本孝思 |
(2021/09/19 23:07登録) 他人の心が読める「読心スマホ」の力を持った美島冬華は、勤務先の後輩で学生時代から仲の良い阿南十萌からストーカー被害の相談を受けた。犯人は社員の瓜野道貴課長だという。同期の沖田悠人の協力もあり、一度は解決の兆しを見た事件だが、冬華が覗いた瓜野の心の中には、決して見逃すことのできない驚愕の「記憶」が映し出されており―!?傑作サイコミステリー! 『BOOK』データベースより。 何ですかこの吸引力満点のタイトルは。禁断の書が出てくるとか、この小説自体を読んだら何かが起こるみたいなメタなやつかと思いましたが、全然違いました。いずれにしても興味を惹かれる事は間違いないですね。 事件のきっかけはストーカーに悩む主人公冬華の後輩。そこから連鎖的に殺人事件が冬華を襲い、何が起こっているのかさっぱり読めません。犯人の意図は?被害者のミッシングリンクはあるのか?など、様々な問題が読者の前に提出され、なかなか事件の全容が掴めずもどかしさで一杯になります。 本格というよりサスペンスの様相を呈していますが、中身はミステリですね。人の心が読めるという設定はありがちですが、ファンタジーに逃げず真面な推理小説にまで持って行ったのは作者の力量だと思います。 ただ終盤どうにも腑に落ちない箇所がありました。書き手の都合でそうなってしまったのか、単なるケアレスミスなのか分かりませんが、それはないんじゃないのと大いに疑問に感じました。まあそれも含めてこの点数なので、十分楽しめたとは言えるでしょう。 |