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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1515 7点 レフトハンド
中井拓志
(2022/11/06 23:00登録)
製薬会社テルンジャパンの埼玉県研究所・三号棟で、ウィルス漏洩事件が発生した。漏れだしたのは通称レフトハンド・ウィルス、LHVと呼ばれる全く未知のウィルスで致死率は100%。しかし、なぜ三号棟がこのウィルスを扱っていたのかなど、確かなことはなにひとつわからない。漏洩事故の直後、主任を務めていた研究者・影山智博が三号棟を乗っ取った。彼は研究活動の続行を要請、受け入れられなければウィルスを外へ垂れ流すと脅かす…。第4回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

くどくて長い。正直何度もイライラして挫折しそうになりました。ネットを見ると似たような感想の人も多々見られました。それでも意地で読み切り、結果最後まで読んで良かったと、今では強く思っています。タイトルや設定等から想像されるB級ホラー臭はギリギリ回避出来ている感じですね。
本筋では何と言っても、何故未知のウィルスで人間がこんな悲惨な目に遭っいくのか、そしてこのウィルスは何処から来たものなのかが問われるところだと思います。その辺りは中盤に著されています。厚生省(現在の厚生労働省)から派遣された一応主人公の学術調査員である津川と四角い顔の男(せめて名前と役職くらいは明記して欲しかった)との論戦がそれに当たります。

津川はいきなりカンブリアの復活とか言って、屁理屈で捩じ伏せようとします。イマイチ納得は出来ないものの、仮説としては面白いです。人類の新たな進化とでも言うかのように。
物語は遅々として進みませんが、後半に怒涛のような展開が待っています。ここから急に面白くなり、話も進展していきます。そしてラストに待ち受けているのは・・・?でした。ネタバレはないかと検索してみましたが、結局深い意味は無いようで、私の読み落としでもなかったみたいです。


No.1514 6点 姉川の四人 信長の逆切れ
鈴木輝一郎
(2022/11/02 22:56登録)
あの屈辱の金ケ崎の敗戦から三ヶ月。復讐に燃える信長は、盟友・家康をこきつかい二倍近い大軍で浅井長政領内奥深くに攻め込む。楽勝かと思いきや、とことん弱い織田勢は…大誤算にキレる信長、一撃で粉砕、弱すぎる秀吉、どこにいる?光秀、またも巻き込まれた家康。のちの天下人・四人の悪戦苦闘をコミカルに描く痛快歴史小説。
『BOOK』データベースより。

信長、秀吉、光秀に振り回される家康と云った構図で姉川の合戦が描かれる歴史小説。兎に角この主役四人の個性がぶつかり合って、様々な軋轢や友情を生み出す辺りが読んでいて飽きが来ず、面白いのです。
中盤の見どころの一つは、信長と家臣の稲葉一鉄との舌戦でしょうね。口下手だけど凄い迫力の信長と一歩も引かない一鉄の対決は、凄まじい緊迫感を醸し出し、戦国時代ならではの命の遣り取りが垣間見えます。

終盤で宿敵浅井長政と朝倉孫三郎の連合軍対信長、家康連合軍の姉川の合戦は熾烈を極め、戦に圧倒的に強い浅井長政に苦戦を強いられながら、果たしてどんな戦略で挑んでいくのかが主眼となっています。
そして勝利を収めた信長が武勲を挙げた一介の足軽達を一堂に集め、一人一人の手を握り「次も頼む」と一言伝えていくシーンには思わず涙が流れてしまいました。
作者の鈴木輝一郎はあまり知られていませんが、日本推理作家協会賞を受賞した事もある人です。ただその後、早々に時代小説にシフトチェンジしていったのである意味残念かも、ですね。


No.1513 6点 救国ゲーム
結城真一郎
(2022/10/30 22:38登録)
人質は国民八〇〇〇万人。日本崩壊のカウントダウンが迫るなか、全ての鍵を握るのは、“無傷"の首なし死体。
日本推理作家協会賞受賞後初作品は、堂々たる本格ミステリ長編。

“奇跡"の限界集落で発見された惨殺体。その背後には、狂気のテロリストによる壮絶な陰謀が隠されていた。
否応なく迫られる命の選別、そして国民の分断――。
最悪の結末を阻止すべく、集落の住人・陽菜子は“死神"の異名を持つエリート官僚・雨宮とともに、日本の存亡を賭けた不可能犯罪の謎に挑む。
Amazon内容紹介より。

思った以上に本格度が高かった作品。ある意味社会派の側面もあるものの、そちら方面は薄い印象です。もっと日本中がパニックに襲われたりする描写が有っても良かった気もしますが、飽くまで本格ミステリですので。
序盤から中盤にかけて、謎めいた事件に翻弄され、かなり面白く読ませてもらいました。シチュエーション的には私好みでしたし。しかし、そこから話をあまり膨らませる事が出来ず、やや冗長に感じました。やはり謎が多いとは言え一つの案件でこれだけの長編を引っ張るのは無理があったのではないでしょうか。

そしていよいよ謎解きの段階で、探偵役の雨宮の推理に一々過剰反応して感心する関係者一同には、ちょっと辟易してしまいました。これでは作者の自画自賛になってしまってますよ。肝心のトリックは驚くほどでもなく、どちらかと言えば小粒な印象でした。
更に言えば動機が飛躍し過ぎだろうと感じました。


No.1512 6点 あれは子どものための歌
明神しじま
(2022/10/27 22:50登録)
料理人のキドウは異国の地で、8年前に飢饉に苦しむ祖国を揺るがした、ある事件で出会った因縁の相手・カルマと再会する。彼らが口にするのは、事件解決の際に奇策を弄した、行商人・フェイとの思い出話。しかし、新たな疑問がキドウの中に生まれる。「あのとき祖国で、本当は何が起こっていたのか?」。真実を知ろうとするキドウに、カルマは奇妙な寓話を語り出す。「不思議なナイフで自らの”影”を切り離した男の物語」だ。物語の幕が下りるとき、8年前の事件の驚愕の真実が浮かび上がる、第7回ミステリーズ!新人賞佳作「商人(あきんど)の空誓文(からせいもん)」。どんな賭けにも負けない少女の運命を描く「あれは子どものための歌」や、あらゆる傷を跡形なく消し去る医者の秘密を暴く「対岸の火事」ほか、全5編。魔女との契約で、不思議な力を得た彼らをめぐって起こる殺人や陰謀に、人間が推理の力で立ち向かう! 自在な語り口で本格ミステリの謎解きを描く、連作集。
Amazon内容紹介より。

『ミステリーズ!』に掲載された三作はオチが良いですね。特に表題作は素晴らしく個人的にベスト。しかし、全体的に言える事ですが、文章とプロットに難ありです。難解な文体でもないのに何故か頭にすんなりと入って来ないし、誰と誰が会話しているのか分り難かったり、情景が浮かんで来なかったりが頻繁に起こりました。単に私との相性が悪かったに過ぎないのであれば良いのですが。

書下ろしの二作は何だか全く印象に残りませんでした。特に最終話は締まりのない結末に終わり、余韻も何もあったものではありません。
この様な掲載物と書下ろしの合体は、大抵が書下ろしの方がワンランク落ちると云うのが個人的に思うところで、本書もその例に漏れない感が残りました。素材が良かっただけに色々残念な作品だと思います。


No.1511 7点 その殺人、本格ミステリに仕立てます。
片岡翔
(2022/10/24 22:42登録)
音更風゛は、ミステリ作家の一家にメイドとして就職した。だが一族は不仲で、殺人計画さえ持ち上がる始末。これを止めるべく、風゛は計画を請け負った男・豺と「フェイク殺人計画」を練るのだが、なんと予想外の人物が殺されてしまい……。

死者を出さない“殺人計画" VS. 孤島のクローズドサークル
胸躍るノンストップ・本格ミステリ!
Amazon内容紹介より。

先月この『ひとでちゃんに殺される』の書評で予告した通り、片岡翔の二作目です。どうせならミステリが良いと思い本作に決定。

コーディネーターによるマーダーミステリ(仮想現実)の、飽くまでゲームと云う新しいタイプのミステリ小説かと思わせて、結果定型の枠に嵌ったミステリに収まっています。言ってしまえば孤島ものですね。
最初の事件が呆気なく解決してしまい、一体これからどう物語を作り直すのかと思っていたら、お見事タイトル通り本格ミステリに仕立てております。

主役の一人で探偵役でもある風゛(ぶう)がなかなか個性的で好みの別れるところかもしれませんが、結構いい味を出しています。たまにボケたり鋭く指摘したりと、探偵を夢見る少女としては合格点でしょう。
途中、私の頭が悪いせいで事件と証言が錯綜しやや煩雑になってしまったのは残念でした。これは普通の読者であれば問題ないと思いますが。
クリスティよりは綾辻行人に影響を受けている感じがしましたね。作中に出てくる小説名や舞台となる館などにそれが見られます。真犯人に関しては・・・。
尚、最終章で感動したのとエピローグでの後味の良さを加味してプラス1点としました。


No.1510 5点 可制御の殺人
松城明
(2022/10/22 22:43登録)
女子大学院生が自宅の浴室で死亡しているのが発見された。
警察は自殺と判断したが、
その裏には人間も機械と同じように適切な入力(情報)を与えれば、思い通りの出力(行動)をすると主張する謎の人物・鬼界が関わっていた・・・・・・。

小説推理新人賞で選考委員から
その才能を高く評価された著者によるデビュー連作短編。
Amazon内容紹介より。

工学を軸とした理系連作ミステリ。短編集と言うより長編と捉えたほうがしっくりきます。最初の小説推理新人賞で最終選考まで残った表題作は、捻りも効いていて好感触でした。一応これはこれで完結している様にも見えますが、そこに登場する性別不明の謎の人物鬼界が後の話にも絡んできます。しかし、第一話以外は何となく煮え切らない印象が強く、結末を迎える前に終わってしまう様なものばかりで、とても不安定な気持ちにさせられます。

異色であり、ある意味新機軸とも言えると思いますが、色んな意味で説明不足な感が否めず、どんどん訳が分からなくなってしまいました。表題作レベルの作品が並んでいれば7点付けたいところですが、どうにも消化不良で私には合いませんでした。工作機械、つまりロボットが頻繁に出てきたり、人間の言動を制御するとか、SFっぽい話にも付いて行けませんでしたね。
こう言ってしまっては身も蓋もないですが、この人は表題作でアイディアが尽きたのではないかとも感じ、果たしてプロとしてやっていけるのか不安が残る出来でした。


No.1509 9点 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件
白井智之
(2022/10/20 22:52登録)
病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。
調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。
奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか?
Amazon内容紹介より。

どういう心境の変化か、グロを封印した白井智之は正に超人の如き偉業を達成したのでありました。グロから解放された作者はまるで水を得た魚の如く、伸びやかにこの傑作を物しました。全てのミステリファン必読の書と言っても良いでしょう。2022年の本格ミステリは本作無くしては語れません。本年のランキングレースは『方舟』と『名探偵のいけにえ』で1位2位を争ってくれたら嬉しいなと思います。

衝撃度に於いては『方舟』に及びませんが、トリック及びロジックでは圧倒的に凌駕していると思います。又、そんな些細な事も伏線だったのかと、あれもこれも伏線だったのかと、100ページを超える怒涛の解決編を読んで、改めて感心させられました。
内容については敢えて触れませんが、一つだけ気になったのは、信者達がいくら洗脳されているとは言え、そこまで思考回路が捻じ曲げられてしまうものだろうかと疑問に思った事です。まあでも、そんな些末な瑕疵を論うのはこの傑作を前にして失礼に当たるでしょう。
色々述べましたが、畢竟個人の感想であり、批判的な意見もあって当然だと思います。それでも私の信念は揺るぎませんけどね。


No.1508 6点 龍神池の殺人
篠田秀幸
(2022/10/17 22:41登録)
精神科医にして名探偵・弥生原公彦宛てに「宮崎勤事件」についての謎を指摘する資料が届く。送り主は長野戸隠村の由緒ある精神病院の御曹子である龍神周二。その仮説を検証すべく龍神家を訪れた一行の眼前で奇々怪々な連続殺人劇が開幕する!人智を遙かに超えた不可能犯罪「龍神家連続殺人事件」は一族に対する龍の呪いなのか?弥生原公彦が難事件に挑む、本格ミステリーの書き下ろし長篇。好評シリーズ第八弾。
『BOOK』データベースより。

本シリーズを読んだのは随分昔の話で、『人形村の殺人』ただ一作。それでも何故か弥生原公彦という探偵が妙に印象に残っているのは、どういう訳なんでしょうか。内容はほぼ忘れましたが、悪く言えば紛い物の様だったという事しか・・・。
で本作ですが、冒頭龍神池の伝説に始まり、宮崎勤事件の概要、横溝正史の某作品を丸パクリしたエピソードと実に濃い幕開けで圧倒されました。これから一体何が始まるのかワクワク感が堪りません。

本題に入ってから事件が起こるまでやや長いですが、その後はテンポよく失踪などの事件が続きます。しかも不可能趣向に溢れ、そこまで風呂敷を広げてしょうもないトリックだったら嫌だなとの思いを強くしました。結果的には可もなく不可もなくで、小振りな印象でした。二度の読者への挑戦状が挟まれていて、私の推測はそこそこ良い所まで行っていたんですが、やはりプロの作家には敵いませんね。
しかし、色々と瑕疵が見られ、それがマイナス点となりました。例えば殺人予告は何の意味があったのか、わざわざ密室を作ったりしたのも徒労としか思えませんし。最も謎に包まれた桃子殺害もトリックの為のトリックみたいに感じました。
尚、宮崎勤事件は飽くまで発端でありながら、その鋭い考察(参考文献によるものかも知れませんが)、は一読に値するものだと思います。


No.1507 5点 アルファルファ作戦
筒井康隆
(2022/10/13 22:52登録)
若者がみな移住してしまった地球に異星人の襲撃が。最後に残った老人たちはいかにして侵略者に立ち向かったのか!?老人問題への温かい心情を示した表題作はじめ、「人口九千九百億」「懲戒の部屋」「色眼鏡の狂詩曲」など、著者の諷刺魂が見事に発揮されたSF九篇―“永遠の前衛”筒井康隆の原点にして不朽の初期傑作集。
『BOOK』データベースより。

無茶苦茶な話が多い割りにインパクトに欠けると云うか、すぐに忘れてしまいそうな短編が多かった気がします。それぞれ最後にオチが付いてくるんですが、ツボを突いてくるものもあれば、首を捻るようなもの、何となく納得してしまうもの等色々です。主にSFです、中にはジャンル不明なのもあったりします。ほとんどドタバタ劇で、何とも言えない独自の世界を構築しているのは間違いないと思います。

個人的にベストはシンプルながらストレートな、人間の根源的な欲望を描いた『一万二千粒の錠剤』ですね。オチも良いです。『懲戒の部屋』は現実にありそうな話で、ちょっと怖いです。如何にも不条理でやり切れません。『近所迷惑』『人口九千九百億』はまあまあ。


No.1506 6点 147ヘルツの警鐘
川瀬七緒
(2022/10/12 22:37登録)
火殺人が疑われるアパート全焼事件で、異様な事実が判明する。炭化した焼死体の腹腔に、大量の蝿の幼虫が蠢いていたのだ。混乱に陥った警視庁は、日本で初めて「法医昆虫学」の導入を決断する。捜査に起用されたのは、赤堀涼子という女性学者である。「虫の声」を聴く彼女は、いったい何を見抜くのか!?
『BOOK』データベースより。

乱歩賞受賞作『よろずのことに気をつけよ』で痛い目に遭ってから、この作者は今まで避けていました。それをこの期に及んで読んだのは、随分前に購入していたのを思い出したからでした。その時の心情を推し量る事は難しいですが、多分Amazonでの評価が高かったに過ぎないのでしょう。
で、読んでみると多少のグロい描写を除けば、非常にリーダビリティに優れた読み易い作品でした。更に主役の二人の個性が際立っており、昆虫学と事件の真相とに密接な関係性が見られ、その意味でも評価できると思いました。又、先に述べたグロ描写に関して言えば、私にとっては丁度良いアクセントとなっていたように思います。

本シリーズのファンも結構多いようで、確かにそれも納得できる内容でしたね。個人的に気になるのは刑事岩楯と昆虫学者の赤堀の今後です。本作であからさまに匂わせたその関係は果たして発展するのかどうなのか、これは誰しも興味を惹かれるところだと思います。
一つ苦言を呈するならば、盛り上がりそうで今一つ盛り上がらない終盤のクライマックスシーンなど、もう少し書き様があったのではないかと云う事です。まあしかし、ミステリ読みならずとも受けそうな作品であるとは思います。


No.1505 7点 戦国自衛隊
半村良
(2022/10/08 22:58登録)
日本海側で大演習を展開していた自衛隊を、突如“時震”が襲った。突風が渦を巻きあげた瞬間、彼らの姿は跡形もなく消えてしまったのだ。伊庭三尉を中心とする一団は、いつの間にか群雄が割拠する戦国時代にタイムスリップし、そこでのちに○○○○となる武将とめぐり逢う。“歴史”は、哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの最新兵器を携えた彼らに、何をさせるつもりなのか。日本SF界に衝撃を与えた傑作が新装版で登場。
『BOOK』データベースより。

皆さんご存じの通り、自衛隊が戦国時代にタイムスリップするという奇想天外な物語。陸上自衛隊の三尉伊庭を含めた三十人の隊員達は突然の事で動揺を隠せない。しかしいち早く立ち直った伊庭三尉はのちに誰もが知る超有名な武将長尾景虎と邂逅します。やがて二人は話し合ううちにお互い認め合い、時と共に友情に発展していきます。
景虎の哨戒艇や戦車、ヘリコプターを初めて見た時の、子供の様に目を輝かせ驚きを隠そうともしない純真さに心打たれました。そして二人は否が応でも共闘せざるを得ない状況に陥り、戦闘に突入します。

前半の数々の戦闘シーンには、これ程血沸き肉躍る体験は滅多にあるものではないと感銘を受けました。戦国の世に自衛隊の兵器が躍動するのですから、面白くない訳がありません。
後半は景虎の配下の戦の模様を淡々と描いているので、折角の興奮が醒めてしまい、勿体ないなと感じました。
ラストは過去に起こった事件の辻褄を合わせるのにかなり無理があった様に思いました。驚いて良いのか、感心して良いのか、それともそんな馬鹿なと詰るべきなのか、何とも言えない結末でしたね。


No.1504 7点 龍神池の小さな死体
梶龍雄
(2022/10/07 22:33登録)
「お前の弟は殺されたのだよ」死期迫る母の告白を
受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学
教授・仲城智一は千葉の寒村・山蔵を訪ねる。村一
番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い
槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。龍神の呪いか? 座
敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?
怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミ
ステリ降臨。
Amazon内容紹介より。

事前に予想していたような、呪いとか村の因習等の匂いは余りしませんでした。最終章まではやや冗長で、途中からは事の発端となった弟の死はどうなったんだと思い始めたくらい、そっちのけで地味に殺人が進行していきます。
やはりそれなりの年代を感じさせる雰囲気は持っています。文体自体は古臭さを感じさせませんけどね。

結局最終章で全てうっちゃられた感じがしました。解決編の前半の推理にはなるほどと感心しましたが、その後の展開には十分な意外性があり、一瞬唖然となりました。確かによく読めばそこここに伏線が張られていたことに気付いたでしょう。私の場合は余り読書に集中できなかったこともあり、そうだったのか、という驚きがあまりなかったのが悔やまれます。
まあ、隠れた名作との噂はもっともだとは思いました。ちょっと物足りなかった気もしますが。


No.1503 8点 外天楼
石黒正数
(2022/10/04 23:01登録)
外天楼と呼ばれる建物にまつわるヘンな人々。エロ本を探す少年がいて、宇宙刑事がいて、ロボットがいて、殺人事件が起こって……? 謎を秘めた姉弟を追い、刑事・桜場冴子は自分勝手な捜査を開始する。“迷”推理が解き明かすのは、外天楼に隠された驚愕の真実……!? 奇妙にねじれて、愉快に切ない――石黒正数が描く不思議系ミステリ!!
Amazon内容紹介より。

私はほぼ漫画は読みません。更に絵心のない私ですが、シンプルなのにこの作者は本当に絵が上手いと思います。そして本格ミステリとSFの絶妙な結合、正に傑作の名に恥じぬ一巻読み切りの作品と言って良いでしょう。コミックですからね、笑わせるツボを押さえながらも、真面目に本格ミステリに取り組む姿勢は見事の一言です。特にダイイングメッセージの幾通りもの解釈には驚きを禁じ得ませんでした。

一話一話が独立した話でも、最後には全てを収束させます。そしてそのその通底に隠れた真実が悲劇を呼びます。話が進むごとにシリアスになっていき本領を発揮します。
何故もっと早く読まなかったのか、自分にがっかりです。しかし、これ程の名作がコミックで読めるとは、本当に私は幸せです。何度も読み返せる作品ですね。


No.1502 6点 同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬
(2022/10/03 22:36登録)
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
Amazon内容紹介より。

凄く良く出来た力作だと思います。が、余りに出来すぎていて、何と言うか優等生的な作品になっており、戦争の生々しさや臨場感がいま一つ伝わってこなかったと云うのが私の感想です。期待度が高かっただけに、嫌な予感がしないでも無かったのです。購入したのは今年の3月頃だったと思います。私が買ったのは2月15日の印刷で、その時点で既に14版ですから凄い勢いで重版されていた訳です。本屋大賞受賞だけではない実力を見せつけられました。それを今まで読まなかった理由は、何となく自分に合わないのではないかとの不安からでしょうか。購入しておいてそれはないだろうと自分でも思いますが。

Amazonでの評価は高く、私は7点にしようかと迷いもしましたが、自分に嘘を吐くわけにはいかないのでやはり6点としました。何がいけなかったとは言い難いものがありますが、主人公に感情移入できない、戦争はそんなに生温いものではない、全体的にやや期待外れだった、戦闘シーンに迫力が足りないなどが挙げられます。
ただ、人間は良く描かれていますし、ストーリー性もあり、心に刺さるシーンもありました。まあ誰が読んでも良作だと思うでしょうし、それなりに内容は充実しています。ですから、これから読もうと思っている方は、私の書評は無視してどうぞ読んで下さい。きっと私が感性の欠けたダメ読者なだけなのであって、多くの人が共感できる作品ではないかと思いますよ。


No.1501 9点 方舟
夕木春央
(2022/09/30 22:55登録)
【警告】 これから本書を読む予定の方は、出来ればスルーして下さい。勿論ネタバレはしませんが、なるべく予備知識なしで読むべき作品だと思いますので。
編集します。雪の日さんのご書評を拝読して確かにそうだと思いましたので一つだけ注意喚起しますが、読む前に帯の惹句を見てはいけません。かなりの確率でネタバレになっている可能性があります。


9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。
Amazon内容紹介より。

これはヤバいやつですよ、無論良い意味でです。
誰もが読む前に予想するよりも遥かにロジックに特化した作品だと思います。有無を言わさぬ迫力ある論理展開には圧倒される事必至。解決編ではフーダニット+ホワイダニットで、グイグイ探偵が推理を披露していきます。でも・・・。

地下施設である方舟と呼ばれる建築物が物語全体の、伏線や手掛かりの装置として存分に機能しています。ある意味主役とも言えるでしょう。ですから敢えてタイトルを『方舟の殺人』にしなかったのは、そういった事柄を鑑みての事ではないかと邪推したりしています。
現在Amazonではプレミア価格で販売されていますので、入手し難い状況にありますが、いずれそれも解消すると思いますので、そうなったら是非とも読んで頂きたい傑作と信じます。


No.1500 7点 花束は毒
織守きょうや
(2022/09/28 22:44登録)
「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。
彼には、脅迫者を追及できない理由があった。
そんな真壁を助けたい木瀬は、探偵に調査を依頼する。
探偵・北見理花と木瀬の出会いは中学時代。
彼女は探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった。

ーーあの時、彼女がもたらした「解決」は今も僕の心に棘を残している。
大人になった今度こそ、僕は違う結果を出せるだろうか……。

背筋が寒くなる真相に、ラストに残る深い問いかけに、読者からの悲鳴と称賛続出の傑作ミステリー。
Amazon内容紹介より。

滑り出しは新たな名探偵の誕生を思わせ、凄く好印象でした。ところが本番が始まり、大まかな被害状況が明らかになったのち、探偵はほぼ聞き取り調査に終始しこれと云ったサプライズもなく、淡々と抑揚なしにストーリーが進行するのは、正直ちょっと退屈でした。それでも最後には何か有る筈だと、読み進めました。いえ、決して苦痛だったわけではありません。そもそも平易な文体で読み易いですから。
推理しない名探偵、これは如何なものかと思いますね。まあ、おそらく最初にアイディアありきでその他は後付けに近いものでしょうから、それもやむを得ないかも知れませんが。

それにしても、真相は私の想像を遥かに超えるものでした。素直に参りましたと言うしかありません。ここが10点で、序盤が7点、中盤が5点で総合点は7に収めました。中盤にもう少し面白味があれば8点だったかも知れません。


No.1499 6点 ぐろぐろ
松沢呉一
(2022/09/25 22:42登録)
非常識とは。下品とは。そもそも不快って何?タブーって、いったい―。闘うエロライターは考えた。公序良俗を声高に叫び、権力を振りかざして他人の自由を奪う。そして、いざとなると「常識」で頬被りして無責任を決めこむ。そんな「偽善者」たちに贈る、ウゲーッとなること確実な、ぐろぐろエッセー集。世間にはびこる矛盾を嗤い、おバカな鉄槌を下す。
『BOOK』データベースより。

コラムニスト松沢呉一が描くエログロエッセイの決定版。ユーモアを交えていかにも楽しそうに書かれています。無論中身はハードですよ。エッセイとは言っても作り話も含まれている為、一応ジャンルはその他にしました。


【注意】 以下の文章には直截的なグロ描写が含まれています。グロが苦手な方は読まないで下さい。


タイトル通り、その内容は○○コ、●●ル、×××ロ、SMなどがほとんどです(本書では一切伏字はありません)。一例を挙げると、著者自身が夜明けの街を仲間と共に徘徊し、ゲロを発見すると臭いを嗅ぎ、具に観察し、それの性別年齢生活様式食生活などを推察したり。これを読んだ時、私は先日TVで観た『AKB最近聞いた?』で現役人気メンバーの岡田奈々が公演の最後に頭を下げた時疲れすぎて、鼻からゲロが出たと発言して笑いを取っていた事を思い出し、和んでいました。やっぱりアイドルは何を言っても可愛いし、許されるんだなあなんて。
四人の男が尻の穴をどこまで拡張させられるかを競い合う『●●ル選手権』。著者が尿道炎になり、医者にも行かず飲尿療法で病気を治した『尿道炎とともに生きる』。○○コ好きのある取材した人が言うには、緩んだモノよりも固くて太い一本物の方が好きだと持論を開示する『×××犬』。これにはなるほどそうかもなあと思ったりして。その他、痰とゲロと○○コのプールに入るならどれかと問う『ウンゲロ譚』等々。ゴキブリや女王様も登場します。

人間は誰しも違った性癖を持っているもので、ノーマルとアブノーマルの境界線は非常に曖昧なものだという持論を私は持っています。勿論グロに対してどう考えているのかなど、人それぞれで当たり前、何が正しいとか間違っているとかは一概に言えるものではないというのが、寛大な心を持った私の思考回路であります。
よって、文庫あとがきで著者は「これを読んで吐きそうになってくれる人がいれば幸い」とか書いていますが、あまり私を舐めないで頂きたい。これしきの事で私がビビって吐き気を催すなどある筈もないでしょう。


No.1498 6点 瑠璃色の一室
明利英司
(2022/09/23 22:37登録)
住宅街の中にある寂れた公園サンパーク。そこで浮浪者が殺された。元恋人への復讐を目論む鈴木真里、冷静な観察眼を持つ刑事竹内秋人、精神科病棟で友の帰りを待つ桃井沙奈。サンパークをのぞむ瑠璃色の古いアパートの一室を舞台に、それぞれの現在と過去がつながり、事件は思わぬ展開へ。
『BOOK』データベースより。

中山七里が書いている様にホワットダニットをメインに据えた珍品。全体的に地味で驚くような展開はありませんが、証言にちぐはぐな点が多々見られ、一体目の前で何が起こっているのか分からない不透明感に見舞われるます。一見単純に思えるホームレス殺人事件の裏には意外過ぎる真相が浮かび上がり、全く事件と関係なさそうな精神科病室のパートが交錯し、とんでもない繋がりを持ってくるとはちょっと予想が付きませんでした。

読んでいて飽きる様な事はありません。ですが、面白いかどうかと問われるといまひとつかなという印象ですね。ただ、非常に真面目に描かれているとは思います。そこここに伏線が張られていて、注意深く読まなければ見落としてしまいがちなので侮れません。


No.1497 7点 ひとでちゃんに殺される
片岡翔
(2022/09/21 22:42登録)
「縦島ひとで、十六歳です」悪魔に憑かれた教室を救うには、誰か一人の命を生贄に差し出すしかない。謎の転校生の正体は⁉ 読み進める手が止まらない! 戦慄の学園サスペンスホラー。
宙を舞うスキー板が、地下鉄の鉄扉が、そして墜落する信号機が、次々と呪われた生徒の首を断つ……。クラスメイトの怪死事件が相次ぐ教室に、漆黒の制服を着た謎の転校生がやって来た。圧倒的な美貌で周囲を虜にし、匂い立つような闇を纏う彼女の正体は!? 悪魔に魅入られた高校生たちが迫られる、究極の命の選択!! 「言ったでしょ? ひとでなしのひとでちゃんって」
Amazon内容紹介より。

タイトルから漂うB級ホラー臭やラノベ臭は微塵もありません。心底読んで良かったと思わせる作品でした。まず目を引くのは目次です。これを見てあれっと思うのは私だけではないでしょう。詳細は避けますが、それだけ凝った構成になっているという証左です。学園物であるのは間違いありませんが、ホラー、サスペンス、ミステリのそれぞれを良い所取りした様な作風だと感じました。

テンポ良く話は進み、若干淡白な文体と思えるのがやや物足りなさに通じますが、読み進めるための推進力と思えば苦にはなりません。むしろ先が気になって仕方ない、心憎いまでの筆力を実感します。
最大の見せ場は終盤にやって来ます。生徒達の心理戦と怒涛の展開は正に圧巻です。これに関してはAmazonで似たような表現をされているレビュワーがおられますが、それは全くの偶然です。単に同じ感想を持った人が書き込んでいただけの話で、あり得ない事とは思いません。ただ、1点付けた人の気持ちは理解できませんけど・・・。そして、ラストはホラーのくせに泣かせやがって、畜生。
一作だけ読んで結構高評価を付けた作家でも、必ずしも他の作品を読んでみたいとはなりませんが、この人の作品は読みたいと今思っています。近日中にそれが現実となるでしょう。


No.1496 6点 水魑の如き沈むもの
三津田信三
(2022/09/19 22:21登録)
奈良の山奥、波美地方の“水魑様”を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が行われる。儀式の日、この地を訪れていた刀城言耶の眼前で起こる不可能犯罪。今、神男連続殺人の幕が切って落とされた。ホラーとミステリの見事な融合。シリーズ集大成と言える第10回本格ミステリ大賞に輝く第五長編。
『BOOK』データベースより。

殺人が始まる後半よりもそこに至るまでの経緯の方が面白いと感じました。特に正一と二人の姉、そしてその母の物語は何とも言えない切なさや遣る瀬無さを強調しており、これだけでも一つの小説が出来そうです。

メインの殺人事件は湖の密室とも呼べるもので、相変わらずの怪奇色を帯び乍ら不可能犯罪として扱われています。一見複雑に思える連続殺人事件と過去の事件は、構造は比較的単純で分かり易いものです。さらに言耶が謎のポイントを一々事細かに挙げていますので、その意味でも読者に優しい作りと言えそうです。それら全ての謎が解かれている訳ではありません。まあそれは左程問題ではないと思いますが。
個人的には犯人の正体は謎解きが始まって直ぐに目星が付きました。やはりそうだよなと思っていたら・・・やられました。流石に一筋縄では行かない様で。

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