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ミステリの祭典

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絶叫委員会
穂村弘

作家 評論・エッセイ
出版日2010年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 メルカトル
(2023/01/19 22:36登録)
町には、偶然生まれては消えてゆく無数の詩が溢れている。突然目に入ってきた「インフルエンザ防御スーツ」という巨大な看板、電車の中で耳にした「夏にフィーバーは暑いよね」というカップルの会話。ぼんやりしていると見過ごされてしまう言葉たち…。不合理でナンセンスで真剣だからこそ可笑しい、天使的な言葉の数々。
『BOOK』データベースより。

タイトルから想像される様な物々しさはありません。普通のエッセイです、いや違うな、巷に溢れる言葉達にフォーカスしそれらを考察したエッセイです。もしも誰かにこの本は面白いかと問われれば、躊躇なく面白いと答えるでしょう。数ページに一度は笑える楽しい読み物です。それだけで歌人らしい言葉遣いでサラッと読ませ、そのくせ何とも奥が深いです。それぞれの物語がまるで小宇宙のようにその世界観を繰り広げ、読者を引っ張り込んでいきます。

以下、太字で表記された言葉を印象深いものからピックアップしていきましょう。
「妊娠してなかったら何でも買ってやる」切実な男心。よくある話だけど、この言い回しはどうなの?
「Nが生き返るなら、俺、指4本切ってもいいよ」自殺した友を想う男の心情。しかし、何故4本なのか・・・それは本書を読んでみて。
「彼女が泣くと永遠を感じます」嗚呼、分かる気がする。平和な日常が一瞬にして変貌する瞬間。
「マツダのち○○はまるっこいです」小学生の汚れ無き一言。著者曰く大きいでも小さいでもなく、まるいでもなくまるっこいところが良いんだそう。
「どうして手に玉をもってるの」スポーツに興味のない女性が、ボクシングを観乍ら放った一言。確かに知らない人から見るとそうなのかも。
「放し飼い卵」スーパーの張り紙。言いたいことは解るが、卵が跳ねたりして楽しそうな様子を想像するようだ。

他に、例えば梅干しの種の毛やバナナを剥いた時にひも状のものがあるけれど、それは何と云う名称なのだろう、みたいなイマジネーションを掻き立てる様な本当に些細で何気ない事柄を見付けては、エッセイにしてしまう著者の観察力や洞察力に感心させられました。

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