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ミステリの祭典

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スメル男

作家 原田宗典
出版日1989年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 メルカトル
(2023/02/28 22:59登録)
岡山から上京して東京の大学に通うぼく・武井武留は、母親を亡くした喪失感のためか、無嗅覚症になっていた。東大で作物の研究をしている親友・六川が、ぼくのために「臭い」の研究もしてくれるが研究所で事故死する。悲嘆にくれていると六川の恋人だったというマリノレイコが現れ、六川からぼく宛の荷物だと言ってシャーレを持ってきてくれる。マリノレイコによるとチーズの匂いがするというシャーベット状の中身に触ったときからぼくの身に異変が起こり始める。最初は犬が騒ぎ出し、次にはぼくの臭いを嗅いだ人がみんな嘔吐。住んでいるマンションに警察が調べに来たり、ついには東京都内を巻き込む異臭騒ぎにまでなってしまう。解決の糸口が見つからないまま、こんどは謎の組織に狙われることになり、なぜか味方になってくれた天才少年たちやマリノレイコといっしょの逃亡劇に!
Amazon内容紹介より。

SF、ファンタジーの要素を含みつつ、最初は些細な出来事から次第に大事に発展していく様は正にパニック小説ではないでしょうか。そしてその原因が主人公本人にあるという珍しい設定となっています。匂いを感じられないというのも結構難儀な物のようですが、事態はそれどころではなくなって、人前に出る事も叶わぬ程の臭さに苦悶します。しかも重要人物と思われた六川が早々に舞台から退場し、これからどうなるのかとやきもきさせられました。

全体的に抑揚に富み、ジェットコースター的な緩急が素晴らしくよく描かれていると思います。武井の一人称で描かれるため、彼の心理は手に取るように分かりますし、他の主要登場人物の個性も際立っており読み飽きるという事がありません。特にIQ200超えと400超えの天才少年が突如現れてから更に面白くなります。子供なのにまるで老成した大人の様な二人の振る舞いにちょっと感動してしまいました。

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